メアは困惑していた。
『(なんだろう…このひと…)』
困惑するのも無理はない。
何せメアの視線の先に居たのは…
「もう…死ぬかと思ったわ…」
オカマであった。
メア、初のオカマとの遭遇である。
海底火山により船が蒸気で包まれた際にこのオカマは、ルフィとウソップの手によって釣りの餌にされていたカルーに掴まったのだそうだ。
そしてカルーから手を離してしまい、溺れていたところを助けたのだ。
「やーホントにスワンスワン。見ず知らずの海賊さんに命を助けてもらうなんて、この御恩一生忘れません!後、温かいスープを一杯頂けるかしら?」
「「「「「無ェよ!!」」」」」
「こっちが腹減ってんだ!!」
ちなみに食料は数分前ルフィ、ウソップ、チョッパー、カルーの所為で底を尽いている状況である。
「あら!!アナタかわゆいわね!!後そこのおチビちゃんも!!好みよ~食べちゃいた~い♥チュッ♥」
『!?(ブルブルッ)』
「うっ…変な人…」
オカマの投げキッスにより、メアとビビの背筋には寒気が走る。
余談だが、メアは投げキッスとは背筋が凍るものと覚えた。
「オメー泳げねェんだな。」
「そうなのよ。アチシは悪魔の実を食べたのよ。」
「へーどんな実なんだ?」
「そうね、じゃあアチシの迎えの船が来るまでなんだスィー、余興代わりに見せてあげるわ!」
「これがアチシの能力よーーーん!!」
そう言うとオカマはルフィを思いっきり弾き飛ばした。
「「「「「『!?!?』」」」」」
「何を…!?」
ゾロが慌てて刀を抜く。
「待って待ってよゥ!!余興だっていったじゃないのよゥ!!」
「なっ…!?」
しかしその次の瞬間にはそのオカマの姿に圧倒されてしまった。だが、それも無理はない。
「ジョーダンじゃないわよゥ!!」
「あ!?俺だァ!?」
なぜならばルフィと瓜二つの顔になっていたからだ。
『わぁー……』
これにはメアも目を疑った。そっくりとか、似ているとかそういうレベルの話ではないのだ。全く同じ顔が二つ。これが悪魔の実の力によるものなのだろう。
「ビビったビビったビビった!?アーッハッハッハ!!」
オカマが自分の左手で顔を触れば、ルフィの顔からあの濃い化粧をした顔へと元に戻る。
これがマネマネの実の能力だとオカマは話す。
「声も…!!」
「体格まで同じだったぜ…!!」
「す、すっげェー!!」
オカマはビビとメア以外の残りの面々に右手で触れていく。サンジがここにいないのは食料を食い荒らした船長がまだ何か食べたいと騒いだ為に、食料庫を片っ端から調べてくれているからだ。
「まァ最も殴る必要は無いんだけどねェ~。」
殴ったのは本当に余興らしい。
「ハァイ見てて!」
次の瞬間にはオカマの顔はウソップに変わる。
「この右手で!」
次はゾロの顔だ。
「顔にさえ触れれば!」
お次はチョッパー。
「この通り誰の真似でも」
最後はナミ。
「出来るって訳よ!…体もね!」
「「「うおおおおぉ!!」」」
「やめろォ!!」
ナミの体を見せたオカマは当然殴られた。
「残念だけどアチシの能力はこれ以上見せる訳には…」
「オメーすっげェー!!もっとやれーー!!」
「うおおおお!!!!」
これ以上は能力を使うのを渋るオカマだが、もっと能力を見たいルフィたちに煽られてその気になったようだ。
「あーんもうしょーがないわねェん!!じゃあ見せちゃおーかしらん!!」
「ノリノリじゃない…」
ゾロとナミは少し離れた所にいる。ルフィたちほどの興味は無いらしい。
オカマの能力はメモリー機能付きだそうで、見たことの無い人物の顔へ次々と変わっていく。
その中でビビの顔色が変わったのをメアだけが見ていた。
『びび?』
どうしたのと続けようとした言葉は、ビビが余りにも深刻そうな顔をしたので、声にはならなかった。
「くっだらねェ…」
ゾロとナミはつまらなそうにそのオカマのショーを見ている。
「ドゥだった?アチシの隠しゲイ!普段は決して人には見せないのよゥ!!」
ビビは先程からずっと顔色が悪い。何かおかしな所があったかとオカマの能力を思い出すが、メアには思い当たることは何も無い。しかしビビのこの様子からして、何も無い訳が無いのだ。メアは頭をグリグリとして必死に思い出そうとする。
そんなメアとビビのことは露知らず、ルフィ、ウソップ、チョッパーはすっかりオカマと仲良くなったようだった。一緒に肩を組んでよく分からない歌を歌い、盛り上がっている。
そこへオカマの迎えの船が来たようだ。
「もう、お別れの時間…残念ね…」
「「「ええええェェェェェ!?!?」」」
「行かないでくれよォ…」
ウソップが涙目で懇願する。
「悲しむんじゃないわよゥ!!旅に別れは付き物…でもこれだけは忘れないで。友情ってやつは付き合った時間とは関係ナッシング!!」
「また会おうぜーーー!!!!」
「さぁ行くのよお前たち!!」
「「ハッ!!Mr.2ボン・クレー様!!」」
「Mr.2!?!?」
ここにいる全員に衝撃が走る。
「ビビ!!オメー知らなかったのか!?」
「えぇ…私、Mr.2とMr.1のペアにはあったことが無いの…能力も知らないし…噂には聞いていたのに…」
そういうとビビは崩れ落ちる。
『びび、だいじょうぶ?』
慌ててメアが駆け寄る。
「大丈夫よ……Mr.2は大柄のバレリーナで、オネェ口調で、白鳥のコートを愛用して、背中には盆暮れと…」
「「「気付けよ」」」
堪らずルフィたちがツッコミを入れる。
これにはメアも少し呆れ顔だ。意外とビビは天然なのだろうか。
「どうしたんだ?ビビ?」
しかしMr.2と気付かなかったにしてはビビの顔色の悪さは少し不可解なところがある。
「さっき、あいつが見せた過去のメモリーの中に…メモリーの中に…父の顔があったわ…アラバスタ国王、ネフェルタリ・コブラの顔が…」
『びびのおとーさんのかおが!?』
「テメェが例えば王に成り済ませるとしたら、そうとう良からぬこともできるよな…」
「そりゃあ厄介なヤツを取り逃しちまったな…」
「アイツ敵だったのか!?」
王に成りすまして行う犯罪。メアは自分にはきっと想像も出来ないような悪い事をしようとしていることだけは分かった。
「確かに敵に回したら厄介な相手よ。アイツがこれから私たちを敵と認識しちゃったら、さっきのメモリーでこの中の誰かに化けられたりしたら…私たち仲間を信用出来なくなる。」
「そーかァ?」
今のナミの説明をルフィは全く分かっていないようだ。
「あのねェルフィ…」
「まァ待てよ。確かにコイツの意見には根拠は無ェが、アイツにビビる必要は無ェって点では正しい。今アイツに会えたことをラッキーだと考えるべきだ。対策が打てるだろ?」
『たしかに!』
アラバスタに着いてから不意打ちであんな能力に出会っては勝ち目は無かったかもしれないが、今対策を考えられればそれは逆に心強い。
「でもどうやって?」
「それは…」
その時船を凄まじい揺れが襲った。
「ニャア”ア”ア”ア”ア”ア”」
「何か出たーーーー!!!!」
「海猫!!」
『うみねこ?』
「「海獣だーーー!!」」
海猫は動物図鑑で鳥だったと思うけどと、メアは思い出す。しかし目の前のアレは巨大な猫のようだ。
「四日ぶりの飯だァーー!!!!」
「飯だァーー!!!!」
ルフィとゾロのその気迫に海猫も怯えたのか何だか顔色が悪い。
「うおっ引きやがった!!」
「バックバック!!」
「出来るかァ!!」
そこへ食料庫にいたサンジが駆け着ける。
「おっ!?逃がすんじゃねェぞ!!確実に仕留めろ!!どう料理してくれようか!!この化け猫が!!」
「ダメッ!!」
そんな均衡状態に終止符を打ったのは意外にもビビであった。三人の頭をモップで殴りつける。その隙に海猫は海底へ逃げてしまった。
「ビビ!!こんにゃろ何すんだ!!」
「な、何でビビちゃん……?」
三人は訳が分からないといった様子だ。
「食べちゃダメなの!!アラバスタで海猫は神聖な生き物だから。」
「早く言え!」
「海には色々いるんだな…」
「へへっあんなものにビビるとはお前もまだまだだな。よォし俺がカームベルトで勇敢に海王類と戦った時の話をしよう…」
「海王類と!?」
「食いモンが逃げた…」
『るふぃ、てすりたべないでね?』
ルフィは名残惜しそうに船の手すりをガジガジと噛んでいる。
「だけど安心して。もう少しでお腹一杯食べられるから…」
「本当かァ!?今度は何猫が出るんだァ!?」
ルフィの中で猫というのはあくまでも食料の一つに過ぎないらしい。
チョッパーも最初は非常食扱いだったもんなぁとメアは考えた。恐らく船長の辞書には愛玩動物という言葉は無いのだろう。
「ビビ、風と気候が安定してきたみたい。」
「えぇ、アラバスタの気候海域に入ったの。海猫が現れたのもその証拠。」
「後ろに見える“アレら”もアラバスタに近い証拠だろ。」
ゾロの発言通りに後ろにはバロックワークスと書かれた船が両手では数え切れないほど見えてきた。
『おふねがいっぱい!!』
「船があんなに!!いつの間に!!」
「おい、あれ全部バロックワークスのマーク入ってんじゃねェか!!」
「社員たちが集まり始めているんだわ…恐らくビリオンズ、オフィサーエージェントの部下たちよ…」
「敵は200人は堅いって訳だ。」
「それもバロックワークス社精鋭200人…ウィスキーピークの賞金稼ぎとは訳が違う…」
「い、今の内に砲撃するかァ!?」
そう言ってウソップが砲台を構える。
「早くやっちまおうぜ!!」
「行ってぶっ飛ばした方が早ェよ!!」
そうウソップを止めたルフィだったが、飯を食うのが先だと言い始める。
「気にすんな、ありゃ雑魚だ。」
「そうさ、本物の標的を見失っちまったら終わりだぜ?こっちは九人しか居ねェんだ。」
珍しく意見の合ったゾロとサンジによってその場は収められた。
そして一味はMr.2への打開策の為に腕に包帯を巻くことにした。勿論それだけではMr.2がその情報を聞き入れた時に真似をされてしまう。しかしその包帯の下に更に印があったなら…簡単には真似をされないだろう。
「とにかくしっかり締めとけ。今回の相手は謎が多すぎる。」
「なるほど!」
「これを確認すれば仲間を疑わずに済むわね!」
「そんなに似ちまうのか?その…マネマネの実に変身されちまうと。」
『すごかったよ!!えーと…すいかふたつ?』
メアはサンジに包帯を巻いてもらっている。
「いや、それを言うなら瓜二つだろ!!でも確かに似てるなんて問題じゃねェ!!同じなんだ!!惜しいな~見るべきだったぜ!俺たちなんか一緒に踊った程だ!」
「俺は男のバレリーナには興味無ェ。」
「クワァ…」
ふとメアがカルーの方に視線を向けるとカルーは包帯でグルグル巻きになってしまっていた。
『かるー!?どうしてこんなになっちゃったの!?』
慌てて解いてあげようとするも複雑に絡み合った包帯はそう簡単には解けない。
『えぇー!?ほどけないよー!?さんじーー!!』
「ハイハイ、リトルプリンセス。」
そしてサンジはいとも容易くメアの代わりにカルーの包帯を解く。
『わー!!すごーい!!』
「別にこれくらいのこと、なんてこと無いよ。」
『よかったね!かるー!!』
「クワァァァ!!」
『じゃあつぎはわたしがやってあげる!!』
メアはそう言うとカルーの左の翼にグルグルと包帯を巻く。思いの外綺麗に巻けた翼の包帯にメアは満足気な表情だ。
『さんじ!どう!?きれーにまけたよ!!』
「あぁ、上手じゃねェか。」
えへへーと膝の上に上ってきたメアの頭をサンジは撫でる。
「あんなヤツが敵の中に居ると分かると、迂闊に単独行動も取れねェからな。」
「なぁ、俺は何をすればいいんだ?」
「出来ることをやればいい!それ以上はやる必要はねェ!!勝てねェ敵からは逃げてよし!!」
「オメーそれ、自分に言ってねェか?」
『あはは!』
「クワァックワァッ!!」
「俺に出来ることか…分かった!!」
チョッパーは何か分かったようだし、ウソップの言葉は案外的を射ているのかも知れない。
「島が見えてきたぞォーーー!!!!」
「ナノハナという町に停めましょう。船を隠さなきゃ。」
「よゥし!!これから何が起こっても、左腕のこれが仲間の印だ!!」
仲間の印……私たちだけの印…その言葉の響きにメアは高揚感を抑えきれない。
「じゃあ上陸するぞォ!!飯屋へ!!後アラバスタ!」
「「「「「「『ついでかよ!』」」」」」」
『びび』
「ん?」
『なんか……いいね!こーゆーの!!』
「そうね!!」
今回の作者の思う可愛いポイントはサンジの膝の上に座るとこです。幼女が褒めてと言わんばかりの表情で膝の上に上がってきたらメロメロですよ。どうでもいいですが、何て言うか私のこの作品のサンジの立ち位置って父親と母親を足して二で割ったような感じなので、ちょいちょいお母さんっぽさがあるなぁと自分でも思っています。