TSゲーマー、Vtuberになる(旧題:逆行ゲーマー、Vtuberになる) 作:模芋
動画広告でガンガンお金を貰ってやる。
そう思えたのは最初だけだ。
「想像より、ずっとめんどい!」
収益化の条件はこの際どうでも良い。
収入を得られる規模になれば勝手に達成できると見ている。
問題は『私』の予定していた主力がゲームであることだ。
ゲームには当然作った会社がある。
配信で扱うには会社毎のガイドライン、つまり利用条件を確認する必要がある。
個人相手は対応する手間を考慮して許可範囲がまとまっていることが多い。
その場合は個別にどういう扱いなのかを確認する必要がある。
確認した結果収益化不可という例も別に珍しくはない。
うーん、やっぱり面倒だ。
実のところ普段の動画投稿でこの辺りはあまり確認していなかったりする。
その中には「止められてないからセーフ」という黒寄りのグレーなものもある。
そういうのは収益化したら止められる可能性が跳ね上がる。
こっちは当然と言えば当然だろう。
「さてどうするか」
本来の目的を考えるならば節約かアルバイトが妥当だろう。
でも何というか、勿体ない気がする。
節約にしろアルバイトにしろ労力に対する収入は高々知れている。
対して広告収入であれば最低額が保証されない代わりに上限も無い。
緊急性の無い現状だと後者の方が魅力的だ。
「やっぱり企業の力を借りるか?」
調べている最中、幾つかVtuberの募集を見つけた。
私の認識では、形式がやや特殊な企業所属の配信者である。
少なくとも私は配信をしたことがない。
あるのは精々動画投稿ぐらいだ。
そしてその動画投稿も大体ゲームをやっているだけ。
再生数はそこそこだが、自分で喋ってないから配信の練習には全くなっていない。
「……まあ、挑戦しない理由にはならないか」
企業であれば配信に必要な確認や交渉の一切を代わりにやってくれるはずだ。
だが企業で配信者の募集をしている例は少ない。
しかも募集を見つけた範囲では大体競争率が高い。
やる気を出したからと言ってそれだけでなれるようなものとも思えない。
最初は私に合いそうな、採用される余地のあるところを探してみよう。
それで駄目そうなら総当たりするつもりでいろいろ受けてみることにする。
私がゲーム動画の投稿を始めた理由は単純なものだ。
ゲームをやっていると『俺』だった頃の知識が原因で楽しめないことがある。
例えば、シナリオの重大なネタバレを知っているとか。
例えば、強敵の簡単な倒し方を知っているとか。
例えば、苦労して学ぶ要素を『俺』がやりこんでいたから難なくできるとか。
勿論やっていないゲームはあるし、やっているゲームでも面白いものは面白い。
だが『名作なのに経験があるから楽しめない』という例も幾つかあった。
やってもあまり楽しめないがやらないのも勿体ない。
そんな名作を楽しむ方法として『私』はRTAを始めた。
RTAとはリアルタイムアタックの略称である。
一般的にはゲーム開始時からゲームクリアまでの実時間を計る競技のことを指す。
実時間なので失敗してリセットした時間なども計測に含まれる。
早さを求める都合から通常プレイでは必要にならない技能を求められたりする。
分かり易いのはアクション系で、移動が早くなる要素は過剰なぐらいに使われる。
また実時間を扱う都合上、多少遅くても安定性を優先することもある。
こういう点をどの程度に調整するかもRTAを楽しむの要素の一つだ。
RTAという世界。
それは『私』にとって、通常プレイと違う技能を求められる、という点が良い。
仮に『俺』のやりこんだゲームであっても上達や研究を楽しむことができる。
幾つかのゲームでRTAをするようになった後で『私』はその動画を投稿し始めた。
気軽なRTAの土台が完成し、動画編集も楽にできるようになったからだ。
ここで言う動画編集は、RTAの内容を解説するための機械音声の追加などを指す。
これがあるか否かだけで視聴者の反応の量が数倍から数百倍単位で変わる。
解説が無ければ例えスーパープレイの塊な世界記録であってもあまり見られない。
その違いは投稿者に与えるモチベーションの差にも大きく影響してくる。
とは言え、あくまでも楽しむ為の手段だ。
ある程度の結果は目指して頑張るがそこまででしかない。
それなりに満足のいくタイムと他のゲームに興味が出たらそっちに移る。
浅く広く型のライトゲーマーと言えるだろう。
そんなライトゲーマーな私に丁度良いところを運良く見つけることなんて――
「……これはつまり、受けろということか?」
運良く見つけることなんて、あるようだ。
「ここ無駄に長いな削ろう」を繰り返していろいろ飛びました