TSゲーマー、Vtuberになる(旧題:逆行ゲーマー、Vtuberになる) 作:模芋
大体の配信者は『この辺りの時間に配信する』というのを決めている。
配信者側の都合もあるが、視聴者側が合わせ易い、という理由もある。
例えば『配信は基本この時間から』と決めれば視聴者も合わせ易い。
それこそ熱心な人は『配信を見るから』と普段の生活から調整する。
予約録画が一般的でない時代にアニメを見ようと早起きしたのに近い。
リアルタイムの配信ならコメントで関われるから尚更だ。
つまり時間を選べば一定数の視聴者を期待できる。
逆に言うと不定期配信や合わせ辛い時間は視聴者数も安定しない。
視聴者数が安定しないというのは余程の大手以外は不利になる。
視聴者数やコメントの量は初見にとってそこそこ影響のある情報だ。
やることが同じでもこれらが多い方が盛り上がって見える。
そういうわけで、平日なら夜、休日でも昼以降から配信する人が多い。
例え他の配信者が多い時間でも、それ以上に視聴者が集まり易いからだ。
……例外も幾つかあるが、これは特殊な個人の話にしかならないので略。
【憂鬱を吹き飛ばせ】おはようございます月曜朝です【ノイト・クーテス】
朝に配信する人は限られる。
単純に『朝の時間が貴重』という人は視聴し難い。
あるいは起きるのが遅めの人もリアルタイムは視聴難しい。
ただ朝の準備時間や通勤時間などに聞く程度の人ならそこそこ集まれる。
『おはよう世界。ノイト・クーテスの時間です』
LiveWorld所属一期生、ノイト・クーテス。
彼女の月曜朝の相談配信は、出発前や通勤時間を想定したもの。
但しこれは寝坊などの要因でリアルタイムの視聴者が減る危険がある。
『現在時刻は朝6時50分。予定時刻から私が配信を始めるまで5分かかりました』
ついでに配信者側もこのような失敗が通常より起き易くなる。
この配信のメインはマロを利用した視聴者からの相談の受け答え。
相談の回答の方向性は概ねタイトル通り。
つまり『辛い月曜朝に元気になれるような話を』という感じ。
回答がパワー系だったり馬鹿話だったりで参考にならない場合もある。
ただ『元気になれるような内容を』というのは一貫している。
だから月曜が辛くて時間が噛み合う人の継続視聴率は高い、と思う。
コメント欄を見ての主観であってきちんと統計取ったわけじゃないけど。
『これを以て回答とします。それでは皆様、いってらっしゃいませ』
締め括りの言葉を終えてエンドカードに切り替わる。
今回も良い配信だった。
今日は午後に試験が一つあるだけだし対策も十分だからのんびりするか。
というか公式カンニングペーパーって何だよ。
公式に認められた時点でカンニングって表現はおかしいだろ。
『ええっと鞄、鞄っと……』
……あれ? 配信切れてない?
イヤホンを付けたまま、目を離していた端末の方を再度見る。
配信画面はエンドカードが表示されたままだ。
というか声の感じちょっと違う?
『何で今着信来るかなぁ!』
声の感じが違うというのはこの際置いても構わない。
割りと長く配信してるのに地声と違う声で続けられるのすごいなで済む。
問題は素の声に聞き覚えがあるということだ。
『えっ、今から? 車で片道何時間かかるかご存知ない?』
やっぱりそうだよなぁ。
半ば確信しながら連絡用の端末を手に取り準備。
配信上で聞こえる通話の終了に合わせてこちらからかける。
『はいもしも――』
「配信画面確認してください終わってません」
余計なことを言われる前に発言をかぶせる。
間違いなら『私の勘違いでした朝からごめんなさい』という話で済む。
『え? ……本当に?』
困惑したような声の後にキーボードを叩くような音が聞こえる。
うん、やっぱりというか、何かこれ当たりっぽいな。
『……本当だ』
そこから改めて〆の挨拶をしてアーカイブの削除を宣言。
というか動揺で普段言わなさそうなネタを交えてる。
いや、素の性格だとむしろガンガン言ってそうな方だが。
単に今している配信のキャラとは解釈違いなだけで。
『なるべく早くどう処理するか決めるからそれまで知らぬ存ぜぬでお願い』
「はい大丈夫ですよ」
配信を本当に切った後、そんなやりとりを軽くして通話が切れる。
他所の企業が絡む以上はそうなって当然だろう。
ただ一つ言わせてほしい。
公式カンニングペーパー
ある講義の配布物
必要な情報を判断できる能力を測る、という名目で採用
試験で筆記用具以外に持ち込んでいいのはこの紙だけ
試験に持ち込むこの紙に書き込んでいいのは指定の範囲だけ
当然試験範囲全部を書き写すのは難しいしこれでも駄目という人はいる
筆者が通った大学のある講義に実在しました