TSゲーマー、Vtuberになる(旧題:逆行ゲーマー、Vtuberになる) 作:模芋
「マジですか」
『マジですよ』
水曜夕方、18時を回った頃に電話がかかってきた。
時間はこちらの希望に沿った形なので特に何も言わない。
聞くとしたらこっちの方だろう。
「面接は二回あるって聞いてましたけど?」
私は、予定されていたはずの二回目の面接を受けることなく合格になった。
『確かに最初はもう一度面接する予定だったんだけどね』
最初の面接と試験の内容を元に会議でまとめ。
大体は抜けや疑問点が出てくるから二回目の面接で埋める。
そういう形式で進める予定だったらしい。
『活動歴も結構あるし、確認したい諸々もあの一回で済んじゃって』
必要な要素を持っていて確認したいことも無いから合格。
理屈は間違いではないだろうが、企業が本当にそれで良いのか。
『バーチャルの外観だけど、相談はネットでする?会社で会ってする?』
「その前に、これから作るんですか?」
『先にガワを作っても合う人を選べる程受けてくれる人が多くないから、自然とね』
理屈は分かるが、デビューが結構先になりそうだ。
私は会って相談することにした。
絵は専門じゃないし、曖昧な表現で伝えることになりそうだから会う方が楽。
それとネットを使ってのやり取りだと曖昧じゃない部分すら伝えられるか怪しい。
私は午後に受ける講義が無い日を選び行ってみることにした。
「とりあえず今ある案ですけど――」
平日の少数だが他にも人がいる会社。
再度会ってみて不安の方向が変わった。
既にラフが幾つか出来上がっていたからだ。
相談しながらって聞いたからてっきりまだ何もないのかと思っていた。
でもよく考えたらプロならそのぐらいの準備はしてておかしくない。
私が大分甘く見ていたことを今更理解した。
特に理由が無いならこの中から選ぶのか。
そう思いながら順番に見ていく。
「何で回遊魚モチーフのやつまであるんですか」
「年中RTAしているイメージが強かったのでつい」
その理屈なら普通は馬とかじゃないのか。
いや馬だと有名なところと被るから避けたいのは分かる。
分かるけどやっぱり違うと思う。
順番に見ていって、目が留まった案を横に避け終えた。
その中には一応程度のつもりで残したの案も幾らかある。
だが見直すと、やはりというか――
一目で良さそうと思ったそれが、私にしっくりと合うように感じた。
「これを元でお願いします」
モチーフのところにはガイノイドとある。
確かアンドロイドの女性型をそう呼ぶんだったか。
スマートフォンの影響でアンドロイドって表現の厄介さがすごい。
何か一部ではRTAをする機械扱いされてるから合うと思う。
「色は白とか銀とか、やや古くなった未来イメージというか」
「ええっと、調整はこんな感じでしょうか」
今、白い紙に一から描きましたよね?
そう確認したくなる早さで描いて見せてきた。
伝えたいイメージは伝わっているらしい。
「全体的に、髪や瞳孔、服まで基本は白か銀で、腕にそれっぽい端末を着けて――」
「それならついでに頭にヘッドフォンとか――」
「じゃあヘッドフォンは目立つよう黒を混ぜて、コードの先は腕の端末に――」
そんなこんなで要望をすり合わせ、イメージイラストの元になる資料が完成した。
ほとんど指示だけだった私が言うのもあれだがかなり良い感じにできたと思う。
これを清書してイメージに差が無いか確認してから本格的な制作に移るそうだ。
「ところで、もしかしてイラスト担当の方ですか?」
今日の分が終わったところで気になった点を聞いてみる。
少なくともただの趣味と言うには線に迷いが無さ過ぎる。
イラストレイターが面接官というのも変だが、兼任は有り得ない話でもない。
「確かに一部は担当しているけど、ってそういえば名刺渡し忘れてたか」
言いながら内ポケットからホルダーを、ホルダーの中から名刺を出してきた。
「改めまして、私は
確かに受け取った名刺にはそう書いてある。
ただちょっと確認したい。
「ホームページにあった代表の苗字は西月だったと記憶しているんですが」
「え?」
確認して分かったのだが、載せる情報の更新を忘れていたらしい。
私が顔を覚えるのが苦手でなければ、最初の自己紹介の流れで聞けたのに……
社長にドジっ娘属性が生えた気がしたけどそうなった理由考えたらいつも通りだった