皇帝とオニと愉快な仲間たち   作:山田の大蛇

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沢山の感想、お気に入り、高評価ありがとうございます。
再評価してくださった方も何人かいらっしゃったみたいで大変嬉しく思います。






EX.ママになった日

 自身の過去を知ったあの日からペンギン急便達の様子がおかしい──そう、シュテンは思いに耽ける。

 何故なのかは分からない。だが決して悪い意味では無いのは理解していた。

 

 特に様子がおかしかったのはテキサスとエクシアである。テキサスは何やら慈愛の目で頭を撫でてくるし、エクシアは人の目が無くなると無言で抱擁を強請(ねだ)ってくる。

 エクシアは妹分として可愛げがあったものの、テキサスの行動は実に不可解なものであった。

 

 そんな彼女達の様子をニコニコとした表情でモスティマは見ている。シュテン自身が追い求めていた関係がようやく形を成したのだから、それは彼女自身の喜びともなった。

 仮にテキサスが転んだふりをして抱き着こうとも、モスティマの存在に気が付かなかったエクシアがハグをしていても、ソラが些細な相談事でも最優先にシュテンに持ちかけようとも、クロワッサンが甘えた声でお小遣いを貰おうとしていても、モスティマの笑みは崩れることは無い。

 例え額に皺が寄ってアーツユニットを握りしめていたとしてもだ。

 

 そして珍しく姦しい女五人だけになったペンギン急便の拠点のバー。仕事終わりに打ち上げとモスティマの慰労会と言う事で、彼女達は集まっている。

 ちなみにシュテンとエンペラーは喫煙も兼ねて夜風を当たりに外へ行っていた。エンペラーは堂々と店内で吸っていたが、ソラの喉を考慮してかシュテンが無理矢理に外へと連れ出している。

 

 そんな中、ふとソラが声を上げて立ち上がった。

 

「あたし、シュテンさんのママになろうと思います!」

 

 全員の頭が真っ白になる。誰一人としてその言葉を理解できなかったのは言うまでもないだろう。

 

「えーっと……どないしたの? テキサスはんの爪でも煎じて飲みはった?」

「……クロワッサン、どういう意味だ?」

「いやいや、完全に酔っ払いの発言でしょ」

 

 困惑しつつも巫山戯(ふざけ)ているクロワッサンをテキサスは睨み付けている。そんな二人を咎めるようにエクシアは突っ込みを入れた。

 確かにエクシアの言う通り、既に二時間も経過している慰労会では多くの空になった酒瓶が転がっている。つまりはそれだけアルコールを摂取したことを示しており、個人差はあれど誰もが顔を赤く染めていた。

 その中でも特にソラは酔いに酔って泥酔しきっている。

 

「だって! シュテンさんってあんな辛い過去があるのに誰にも甘えずに生きてきたんですよ! それどころか皆から頼られてて! いつ甘える時があるのかってそう考えたら……あたしがママにならないと、って!」

「……なるほど、ソラの言う事は一理あるな。よし、私もシュテンのママになるとしよう」

「テキサスの思考が相変わらずぶっ飛んでいるようで安心したよ。……でもソラに悪影響なのはよくないと思うけどね」

 

 ネジの吹き飛んだ二人が訳の分からない事を口走る。何故かテキサスは良いことを言ったと言わんばかりに頷いており、エクシアとクロワッサンは呆れた様子で呆然としていた。

 そんな中、モスティマは馬鹿にした様子で呟くも、それを見逃すテキサスではない。

 

「ふん、シュテンに甘えん坊の赤ちゃんはお家に帰るといい」

「あぁ、そうだね。今日はシュテンの家にでも帰るとするさ」

『…………』

 

 言われっぱなしでいる訳もなく、実に攻撃的な口調でテキサスは言葉を返す。当然モスティマの返す言葉も皮肉めいたものであり、一触即発の雰囲気へと早変わりした。

 

「ほらほら、モスティマもテキサスも。喧嘩してるとシュテンが悲しむよ?」

『うぐ……』

「ほんま似た者同士やなぁ……」

 

 エクシアに宥められるようにシュテンの名前を出されれば、思わず言葉につまる二人。結局はテキサスもモスティマも根本的な行動理由は同じである。それを感じ取ったクロワッサンは呆れたように呟いた。

 

 そして喫煙から帰って来た二人が店内へと戻ってくる。くつくつと笑っているシュテンを見ると、やはりエンペラーとの仲は特別なものなのだろうと彼女達はそう思わされた。

 そんなシュテンを認識した瞬間、立ち上がっていたソラは腕を大きく広げながら彼を見据えて言葉を放つ。

 

「さぁシュテンさん! あたしがママですよ!」

「……は?」

 

 シュテンの思考が一瞬にして硬直する。発言の意図が一切理解出来ない。

 

 ──あたしがママ? 一番若手のソラが? 

 ──誰のママだ? 俺の名前を呼んでいたか?

 

 頭が混乱して正しく言葉を認識しない。

 言葉の裏を読もうとする為か、余計に理解が出来ずに頭が真っ白になっていく。

 

 シュテンは思わずエンペラーを見た。爆笑しているだけである。

 次にエクシアを見た。ニヤニヤと笑っている。

 そしてモスティマを見た。ニコニコと笑みを絶やさない。

 更にソラを見た。真顔で両手を広げて期待しているだけだ。

 次いでクロワッサンを見た。面白そうな顔をしてGOのサインで親指をソラへと向ける。

 最後にテキサスを見た。何故か嬉しそうに両手を広げて待ち構え始める。一番理解が出来なかった。

 

「……ソラ。何を考えてるか知らんが──」

 

 そう言ってシュテンが一歩踏み出した瞬間である。エンペラーが足元に転がっていた酒瓶を上手いこと蹴り転がし、シュテンの着地地点へと配置させた。

 普段ならば察知していたであろう出来事。だが取り乱していたシュテンにはそんな気を配る余裕がなく、エンペラーの思惑通りに酒瓶を踏んでしまった。

 

 バランスを崩して前のめりに倒れていくシュテン。その先にいるソラへと徐々に近づいて行く。

 一度崩れた体勢を瞬時に立て直すことは決して容易ではなかった。だが大きな身長差もあり、下手をすればソラが大怪我を負う可能性すらあると考えるとそう簡単に諦める訳にはいかない。

 持ち前の反射神経と筋力をフル活動させて、足を前に突き出し、倒れ込むのを何とか回避する。それはソラに当たる直前の事であった。

 

 ──だから、なのだろう。ソラは目の前に頭が下がって来た事に勘違いをし、優しく抱き寄せたのは。

 

「んぐ」

「あたしに甘えちゃっても良いんですよ」

 

 顔を胸元へと押し付けられ、思わず息が詰まる。そのまま愛おしそうに頭を撫でてくるソラ。顔を包む柔らかさと鼻腔を(くすぐ)る甘い匂いが否応にも意識させられた。

 そう言うのは本来自身の役割だったはずなのにどうしてこうなったのか──訳も分からない彼に聞こえてくるのは、エンペラーの喧しい笑い声だけである。

 

「……離してもらって良いか?」

「今日はあたしがママなんですから! お気になさらず!」

「……いや遠慮している訳じゃないんだが……ふむ……」

 

 周囲からの目線が突き刺さる中、ふとシュテンの言葉が止まって思いに耽ける。柔らかな胸に顔を埋めたまま固まっているのは何ともシュールな光景であったが、顔を上げた彼は再び口を開いた。

 

「なるほど、ソラ()着痩せするタイプなんだな」

「あ、分かってくれますか!? あたしスタイルには多少自信があるんですけど、体が細身なせいか服を着てるとそうは見られなくて! でもよく分かりましたね?」

「顔に当たってれば誰でも分かると思うぞ。他の奴等とは違うからな」

「もー! シュテンさんったらエッチなんだから!」

「言っておくが、押し付けてるのはソラだからな」

 

 カラカラと憚らずに笑いながら、ソラはシュテンの頭を叩いている。その姿は酔っ払いそのものであり、呆れた様子で彼は呟いていた。

 何故か自身に非があるような言われように不服そうなシュテンであったが、ふと襟首を掴まれて頭部が起き上がる。

 後ろを振り返ってみれば、そこにはニコニコとしたモスティマとエクシアが立っていた。

 

「どうかしたかな?」

「成程……」

 

 ニコニコとしたモスティマの顔を見て、次いで胸元を見る。そして再び顔を見たシュテンはエクシアへと視線を移した。

 

「そんなにソラの胸が良かった?」

「成程な……」

 

 ニコニコとしたエクシアの顔を見て、次いで胸元を見る。そして再び顔を見たシュテンは天井を見上げた。

 

 この状況はつい先日にあったものと同等だ──シュテンは自身の状況を瞬時に判断する。彼はとても頭が冴える為、同じ轍を二度踏んだりはしない。有りとあらゆる自体を想定しながら、シュテンは慎重に言葉を選んだ。

 そして二人の肩をポンと叩くと彼は口を開く。

 

「ピーターズ殿が熱弁していた。──小さき中にこそ無限の可能性があると。曰く好きな人に揉まれれば大きくなるらしいからな。諦めるにはまだ早い」

 

 その後、部屋の掃除が大変な事になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 未だワイワイと盛り上がる慰労会の中、シュテンは一人で箒を持って、砕け散った酒瓶を片付けていた。

 頭を左右に振れば、髪の毛の隙間からガラスの破片がパラパラと落ちてくるその光景を見て、彼はなんて理不尽な世の中のだろうと呟く。

 

 ふと盛り上がっている仲間達に視線を送れば、クロワッサンが何処からか仕入れたスナック菓子をおつまみだと提供していた。ウキウキとした様子でエクシアが手に取って口に含めば、瞬時に顔を青くしてトイレへと駆け込み出す。

 そんな様子をゲラゲラとペンギン急便達の連中は可笑しそうに見ていた。

 

 遠くから眺めていたシュテンはまるで保護者のような眼差しで見守っている。そんな光景を望んでいたと言わんばかりに嬉しそうな表情を浮かべていた。

 そんな中、クロワッサンがシュテンへと振り向く。

 

「そう言えばシュテンはんって年寄りなんやろ?」

「……お前らより多少はな」

「今お幾つなんですか?」

「百五十くらいじゃないか? お前らも知っての通り、数えられない期間も長かったからな」

「ちょっと気になったんやけど、そんだけ生きてはるなら恋人とか嫁はんとかおらへんの?」

 

 ペンギン急便の社員達がピタリと体と口の動きを止める。モスティマも興味は無いですよと言わんばかりに横を向いたままの姿ではあったものの、聞き耳を立てているのは傍から見ても分かるほどであった。

 

「いないぞ。そもそも不老の体になったせいか実験の影響か分からんが、子孫を残そうとする本能欲求が希薄だからな」

「あ? だからお前は女も抱かないインポ野郎なのか──ぐぇ」

「言葉を選べ言葉を。希薄なだけだと言ってるだろうが。……それに俺だけ生き延びるのにパートナーなんて作る気なんて起きはしない」

 

 落ちていた酒瓶をシュテンが投擲すると、エンペラーの額で木っ端微塵に砕け散り、一瞬で意識を飛ばした。

 意外にも純情なのだろう。一連の流れに少し恥じらいを見せながら、テキサスはシュテンに問い掛ける。

 

「だがそうなるとシュテンは私達が死んでも一人で生きていくのか……?」

「……確かにそうなるんですね。それって凄く悲しいことじゃ……」

「やっと気付いたのかい? 確かに酷かもしれないけど……生きるとはそういうものさ」

 

 どこか悲しそうに呟くテキサスとソラに対し、モスティマは冷静に言葉を返した。

 世界を見て来ているモスティマだからこそ、この世の非情さ、そしてシュテンの在り方をよく理解している。

 その言葉を肯定するように、彼も素直に頷いていた。

 

「そうだな。だが不老だからこそお前達と出会えたんだ。感謝こそすれ後悔する事は無い。……仮に死別する時が来てもお前達は俺の幸せそのものだ。忘れる事はないさ」

「もー、シュテン! そんな寂しい事言わないでよ!」

 

 どこか達観した様子で呟いたシュテンの背中へと、いつの間にか戻って来ていたエクシアが抱き着く。

 そんな彼女の表情は、どこかスッキリとした様子を見せていた。

 

「頼むから俺の背中で嘔吐するのは勘弁してくれよ」

「んな──それは女の子に言う台詞じゃないと思うけどなー!」

仲間(かぞく)に遠慮なんていらないと思うが」

「そー言う問題じゃないよ!」

 

 首に手を回してぶらーんとぶら下がっているエクシア。シュテンは気にすること無く掃き掃除を続けていたものの、ニコニコとしたモスティマが近づいてくる。

 

「エクシア、甘えるなら私に甘えてくれて良いんだよ」

「シュテンが良い」

「へぇ……」

「ほぉ……」

 

 まさかエクシアに口答えされるとは思わなかったモスティマと、その回答が意外だったテキサスから驚愕の声が漏れた。

 そんなエクシアも自分の発言がらしくないと分かっているのか、照れた様子でシュテンの背後から覗き込んでいる。

 

「妹分で可愛いじゃないか。たまにはモスティマよりも俺に甘えたい時もあるんだろ」

「そう言うのじゃないと思うんだが……」

 

 どこかズレているシュテンへ呆れたようにテキサスは呟く。酔っ払っているエクシアは嬉しそうに顔を擦り付けていた。

 

「そうだ! どうせなら何か思い出でも作りませんか?」

「思い出?」

「あたし達がいなくなってもシュテンさんが忘れないような、そんな思い出です」

「ほう……」

 

 ふとソラの言葉を、シュテンは思案するように顎に手を当てた。

 

「確かにそれも面白そうだな、考えておくよ。……とは言え何十年先の話になるだろうからな。焦る必要も無い」

「シュテンは良いかもしれないけどね、私達は若くて綺麗な内にやっておきたい物だよ」

「そう言うモスティマは入社した時と変わらないまま綺麗だけどな」

「あはは、嬉しいこと言ってくれるね」

 

 そこは不老としての感性の違いか、人の一生は長いと語るシュテンと、ピークは一時に過ぎないと話すモスティマ。

 とは言えそんなモスティマも長い事ペンギン急便に勤めているものの、見た目ほど年齢を重ねているように見えない──そうシュテンに言われればニコニコとした笑みを浮かべていた。

 

「何、どうせその内忘れられないような出来事でも起きると思うぞ」

「……へぇ、それは楽しみだよ」

 

 どこか意味深に呟いたシュテンに対し、皆が不思議そうな顔を浮かべる中、モスティマだけか何処か嬉しそうに答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。日を跨ぐまで騒いだペンギン急便の社員達は、二日酔いになりながらも朝早くから出勤していた。けろりとした顔をしていたのはエンペラー、シュテン、モスティマだけである。

 フラフラとしながら頭を手で抑えていたソラは、シュテン元へと顔を青くしながら近づいていた。何事かとシュテンは見ていたものの、目の前にやってきたソラは勢い良く頭を下げる。

 

「き、昨日はとても失礼な事をしてしまって申し訳ありませんでした……」

 

 深々と頭を下げたまま、ソラは沈んだ声色で謝罪をした。根が真面目な彼女だからなのだろう、申し訳の無い気持ちが溢れんばかりの表情でいる。

 

「気にして無いから安心しろ。俺のママだからな」

「凄い根に持ってるじゃないですかー!?」

「冗談だ。本当に気にしてない」

 

 少し涙目で顔を上げたソラに対し、少しばかり悪戯が過ぎたとシュテンはその頭をポンポンと撫でた。

 そんな二人の元へ、今度は顔色の悪いテキサスがふらつきながら訪れる。彼女もまた、何処か悔しそうな表情を浮かべており、昨晩の謝罪でもするのかと思わせる態度をとっていた。

 だがテキサスの言動には珍しく可笑しい部分がなかったのをシュテンは思い出す。

 

「……シュテン、悪かった」

「……何が?」

 

 そして飛び出して来る謝罪の言葉。幾ら昨日を回想しても思い当たらないシュテンは素直に疑問を問い掛けた。

 

「昨日思い出作りと言ったのに私の意見をしっかりと言ってなかったからな……」

「何かいい案でもあったのか?」

「あぁ」

 

 今にも嘔吐しそうなほど青い顔をしたテキサスであったが、何か深い考えがあるのだろう。

 彼女は静かに深呼吸をして心と吐き気を落ち着かせる。その様子を誰もが注視しながら静かに見守っていた。

 そして決意したテキサスは目を見開き、シュテンを真っ直ぐと見つめた。

 

「子供は何人欲しい?」

「……は?」

「式はいつにする? マイホームは……シュテンの家で良いか。ハネムーンはやはりシエスタが定番だろうな……」

「……お前は何を言っている?」

「……? それは私とシュテンの結婚と言う思い出作りをだな──むぐ」

「テ、テキサスさーん、ややこしくなるから大人しくしましょうかー?」

 

 後ろからソラに口を塞がれてたテキサス。

 腹が捩れるほど笑っているエンペラーの声だけが響き渡る中、テキサスの顔がどんどんと青く変化していく。

 酷い二日酔いの中、口元を強引に塞がれもしたら、誰もが吐き気を催すものだろう。

 

「う……うぷ」

「わー! わー!」

「やれやれ……」

 

 シュテンに導かれるまま、テキサスは別室へと連れて行かれるのだった。

 

 

 

 

 その後、休憩を得てお酒の抜けた社員達は任務を遂行する為にペンギン急便の拠点を後にした。

 拠点に残っていたのはエンペラーとシュテン、そしてモスティマの三人のみとなる。

 

「このメンバーでいると昔に戻った気がするよ」

 

 ペンギン急便の初期メンバーとも呼べる三人。その期間は決して長くは無かったものの、モスティマにとっては最も思い出深い時間であった。

 

「あの頃は事務所も必要最低限だったからな、気が付けば私物ばかりだが」

「コーテーは音楽と酒だけあれば良いからね。シュテンもシュテンで必要最低限だけだった。……それに今程優しくもなかったかな」

「……モスティマには感謝してるよ」

「コーテーは面白がってたけど酷かったんだよ? 家族って事には人一倍努力してたみたいだけど、一般常識と女の子の扱いは私のお陰なんだからね」

 

 シュテンの過去を考えれば仕方のないこととは言え、エンペラーの指導方針には教育のきの字も無い。となれば多少の感覚に差異があろうとも、それで正しいのだとシュテンは自身の中で結論づけていたのだ。

 さらに言うならば比較相手がエンペラーであるの言うのも彼の感覚を狂わす一因となっていたのだろう。

 

「それは良いとしてもだ。お前がされて嬉しい事をそのまま鵜呑みにしちまってるから、垂らし具合が酷くなってんだぞ」

「それは確かに私も誤算だったかな。まさかここまで女の子を甘やかすとは思わなかったよ」

「モスティマがされて喜ぶならアイツらも喜ぶ事だろ。褒めるところで褒めてなにがおかしい?」

 

 思わずエンペラーとモスティマが顔を合わせて笑う。

 シュテンは本気でそう思っているのだから普通の感性からしたら可笑しく見えるのも無理は無い。

 だがそれも本能的の愛と考えて発言したモスティマとエンペラーに対し、家族愛の一点で言葉にしたシュテンとの違いとも言えた。

 

「お前には男女の愛っつーもんがねえのか? もしかして俺の事が好きだとか言うんじゃないだろうな?」

「ほざくな。男女の愛も突き詰めれば夫婦、即ち家族愛だろう。第一お前こそ女の影を見た事がないぞ」

「過程が大事なんだよ。お前は食材が胃に入れば料理なんていらねえっつってんのと変わんねえぞ。……それと俺は俺が一番好きだからな、浮気なんて許されるはずがねえ」

 

 椅子にふんぞり返ったエンペラーに問われれば、仕事の手を休めずにシュテンが言葉を返す。互いに意見が食い違う中、ニコニコとして聞いていたモスティマが口を開く。

 

「じゃあさ、私と結婚しようよ」

「……何テキサスみたいな事を言っているんだ?」

 

 思わず訝しげな目を送るシュテンであったが、モスティマは気にすること無く会話を続ける。

 

「お互いに支え合う関係だからこそ夫婦と呼べるんだよ。つまり私とシュテンの関係さ。そして私達は仲間(かぞく)と呼べる仲。なら結婚しても問題ないと思うんだけど……どうかな?」

「……ふむ」

 

 上目遣いで覗き込んでくるモスティマの顔を、シュテンは視線を逸らさずに見つめていた。その顔は僅かながら赤くなっており、僅かに揺れる瞳からは声色からでは伝わらなかった緊張が窺える。

 他の社員が居ないからこそ、咎める者は存在しない。遠くで、きゃーと言いながら白々しく目を隠しているエンペラーが巫山戯ているくらいであった。

 

 確かにモスティマの言う通り、シュテンにとっても他の者達よりも世話になっている部分がある。それはモスティマにとっても然り。

 例えそれが屁理屈であったとしても、彼女の言い分は彼にとってあながち間違っていないと判断を下すのも当然であった。

 

「なるほどな、考えておくよ」

「ッ!? 本当!?」

「……自分で言って何驚いている?」

「まさか検討してもらえるなんて思ってなかったからね。……ふふ、楽しみに待ってるよ」

 

 安堵の表情を浮かべながら、今にもスキップをしかねないほどに機嫌を良くしたモスティマ。

 そんな彼女を仕方がない奴だとシュテンは微笑みながら見ている。

 

「あーあ、テキサスに言ってやろ。下手したらエクもブチギレだな」

「他の奴等が悲しむようなら却下だぞ」

「──コーテーッ!」

 

 結局、いつも通りのペンギン急便であった。





可愛いペンギン急便を書きたかっただけのお話。
ママのネタを書きたかっただけなので逆に文字数が少な過ぎて難産でしたね……。


完結後は適当に書いていく予定でしたが、思った以上に沢山の高評価を頂けたので喧騒の掟を真面目にプロットを組み立てて書きたいと思います。
ベースのみでほぼオリジナルの内容になるとは思いますので、間隔は空きますがお待ち頂けたらと。
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