皇帝とオニと愉快な仲間たち   作:山田の大蛇

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テキサスの過去話。
とてもシリアスです。



孤高の狼と復讐の炎

 テキサスとシラクーザの関係を知る為には、まずはクルビアとテキサス家について知る必要がある。

 

 多くのループス族の故郷がシラクーザであるのは世界共通の認識である。それは、ペンギン急便に務めるテキサス。彼女の父と母が一代で築き上げて隆盛させたテキサス家も例に漏れずにシラクーザ生まれの人間であり、マフィアの抗争にも大きく関わったりする人物であった。

 だがそんな生活に嫌気を差して東に位置する国、クルビアへと移り住んで事業を成功させたテキサス家は平穏な日々を過ごしている。

 

 元々、クルビアと言う地域の特徴上、鉱石病(オリパシー)への差別も薄く、どちらかと言えば自然の多い国である為、自給自足での生活も成り立つ。シラクーザや龍門のような栄えている反面、裏社会の蔓延る国とは正反対の、平和と呼ぶに相応しい国であった。

 

 元々、シラクーザにいた頃から多くの企業との交流を図っていたテキサス家にとって、クルビアでの生活に何一つ支障はない。例えクルビアに無くとも必要な物があれば連絡一つで届き、逆にクルビアにしかない特産品の手配が出来れば連絡一つで大金が舞い込んでくる。コミュニケーション能力を含めて商人の才を遺憾無く発揮した天才的な両親であったと言えよう。

 

 テキサスには両親の他にも少し離れた兄と歳の近い妹がいた。互いに互いを尊重し合う良き兄妹だった。

 全員が両親から受け継いだテキサス家特有の艶やかな黒髪。そして父からは剣術を学ぶのもテキサス家特有教育であった。

 その中でもテキサスは誰よりも剣技に秀でている。源石剣を使ったアーツも難なくと使いこなし、女らしい体つきになる頃には一家の中でも飛び抜けた強さを誇り、クルビアの一部地域で見ても図抜けた腕を持っていた。

 逆に兄と妹が、商人やコミュニケーションでの才を発揮していたのに劣等感を抱いていたようである。

 

 何気ない家庭で過ごし、平和な将来が約束されていたそんな日常。

 

 

 ──それは唐突に終わりを告げた。

 

 元々テキサスの両親は全員のマフィアの同意の元で組織を抜けた訳では無い。その為、有力な人材であった二人がいなくなった事で次第にマフィア同士の均衡が崩れ始め、元同僚達の多くが死に追いやられる。待つのは最早破滅のみと言ったところで、その彼等の怒りはテキサス家へと向けられた。

 組織時代のコネクションを利用して商人としての才を発揮させたのも悪手だったと言えよう。その伝手によってマフィアに居場所を突き止められたのだから。

 そしてマフィアは最後に残された多くの私財を(なげう)って大量の傭兵達を雇った。種族も厭わず腕の立つ者をとにかく掻き集めて出来た寄せ集めの集団。

 それほどまでにテキサス家に対する私怨(うら)み、更には費やした私財が端金な程に、潤沢な資金が眠っている事を知っていた。

 

 そしてテキサス家は、一夜にして滅びた。

 多勢に無勢と言える圧倒的な武力の元、BSWのボディガードも含めて鎮圧。援軍が来るよりも早く、彼等は全てを奪ってシラクーザへと撤退して行った。

 

 テキサスが生き延びたのは不幸中の幸いだと表現するに相応しいだろう。たまたま(・・・・)その日は学び舎の行事で家を空けており、不在だったのだから。

 シラクーザのマフィア自らの手で惨殺された亡骸には会う事も叶わず、テキサスが帰宅した際には既に骨組みだけとなった実家だった。

 

 頭が真っ白になり、何が起きたのか理解することが出来ない。否、考える事が脳を拒絶しているのだろう。心が壊れてしまわないようにと無意識の自衛。絶望の中でクルビアに保護され、ただ生きるだけの日々を過ごしていたテキサスは、二度と戻らない日々が毎日夢に出てきて涙を流す。

 

 幾多の夜を越え、幾多の朝を迎え、されど罪人が捕まる事は無く、無念の日々を迎える中。テキサスの元に一つの噂が聞こえてきた。それは誰の言葉だったのかすらも覚えていない。

 曰く、テキサス家の当主はシラクーザのマフィア上がりで恨みを買ったのだと。

 曰く、シラクーザのマフィア達にクルビアは屈したのだと。

 曰く、多額の裏金でマフィア達は逃れているのだと。

 

 保護された施設の中でも最早腫れ物のような扱いをされるテキサス。ループス特有の敏感な聴覚だからこそ聞こえてきてしまう噂話は、彼女の心を蝕む。

 

 ──あぁ、この世界は──どこまでも腐っている。

 

 あの時、あの瞬間、家族と共に死ねた方が幾分楽に逝けたか──そんな思いを胸に唯一残された源石剣を手に取り、刃を出現させた。

 この世界に最早未練などない──自らの首を断とうと刃を喉元に突き立てたその瞬間、彼女の手が止まる。

 脳裏に浮かび上がる優しい両親の顔が、意地が悪くも優しかった兄の顔が、後ろにどこまでも着いてきていた妹の顔が、家族の顔がその刃を動かなくさせた。

 

「……そうだ。そうだったな」

 

 殺人剣と呼ばれる程の実践的な剣術を、いつか誰かを守る為に役立てたいと言っていた父。

 ならば今、家族の無念を晴らす為にも、家族の誇りを守る為にもやらなければならない事がある。

 

 源石剣を腰に携え、静止の言葉を全て振り切ってテキサスはシラクーザに向けて駆け出す。

 全ては己が人生を賭けた家族の誇り(復讐)の為に。

 

 

 

 

 若き女が一人で異国の地を生きるのは決して容易ではない。保たれた秩序の元であれば働き口も見つかり、身の安全も確保されようが、テキサスの生きる道は日陰者の集まる地にあるのだから並大抵の事では無いだろう。

 

 一度(ひとたび)スラムに足を運べば鉱石病(オリパシー)の感染者が蔓延る無秩序の世界が広がる。男は暴力を、女は身体を武器にして今日という日を生きるのに命懸けで暮らしていた。

 そんな中、テキサスは孤高の一匹狼として、スラムの頂点に君臨していた。シラクーザに訪れて数ヶ月。人を見下していた低俗も、舐め回すような目付きで見てきた下衆も、不意打ちで襲いかかってくる野卑も、全て切り払い、死体を積み重ねてきた。

 初めて人を殺したのは、シラクーザに訪れた初日。その足でスラムに行き、マフィアの詳細を訪ねようとして連れて行かれた先で襲われた。必死の反撃の末の殺害である。

 手に残る肉を切り裂いた感触を思い出し、何度も嘔吐した。だが今となっては嘔吐する方が難しい程に、造作もなく切り捨てている。

 天賦の才能を以て殺人剣を成す。触れるもの全てを殺す程の鋭利さがそこにはあった。

 

 

 スラムに蔓延るならず者達を使い、テキサス家に関するマフィアを人海戦術で発見しようとしても、中々手掛かりが得られない事にテキサスは苛立ちを感じ始めている。いざ報告が入って行ってみても、そこにいるのは弱小のマフィア崩れが(たむろ)しているだけであり、有力な情報の一つも手に入らない。

 そろそろ別のスラム街へと拠点を移そうとする、そんな時であった。虚ろな目で黄昏ていたテキサスの前に、目の抉り抜かれた生首が生暖かい血を吹き出しながら三つ転がってくる。

 その顔はどれも見た事がある。今朝まで指示を出していた、ならず者達なのだから当然であろう。だがテキサスの感情は何一つ沸き立つ事は無い。その視線はただ捨て置かれた不要物を見つめるような冷たい視線であった。

 

「へぇ、仲間が殺されても顔色一つ変えないなんて。中々楽しめそうだね」

 

 二刀の刀と身体に大量の返り血を浴びたまま、テキサスに近づいてくるのは、狂気に満ちた笑みを隠そうともしないループス、ラップランド。

 これがテキサスとラップランドのが初めて邂逅した瞬間であった。

 

「……誰だ?」

「ボクの名前はラップランド。しがないマフィアのボディガードみたいなものさ。……さて、確認なんだけれど、ここ最近マフィア達が次から次へと消されてるみたいでね、なにか心当たりは無いかい?」

「心当たりがあるからそいつ等を殺してここに来たんだろう」

「──ハハッ! 察しが良いね!」

 

 次の瞬間、ラップランドがその場で剣を横薙ぎに一閃。届くも筈の無い距離にいたテキサスは不審がる表情を見せていたが、突如本能が告げる危険を感知し、その場にしゃがみ込んだ。

 その直後である。テキサスの背後にあったコンクリートの壁に大きな斬撃の傷跡と共に亀裂が走った。突然の出来事に唖然としたテキサスであったが、瞬時にラップランドの攻撃によるものだと判断し、反撃に移る。

 

「アハッ! 今の一撃が避けられるとは思わなかったよ! まさかボクの一撃が見えるのかい?」

「それだけ殺気を垂れ流していれば誰でも分かる。──切り尽くす」

「色々とマフィアについて探ってるみたいだね。キミが勝てたら知りたい事をなんでも教えてあげるから、手加減無しで頼むよ? ボクを退屈させないでね!」

 

 源石剣を起動し、瞬時に距離を詰めたテキサスはラップランドの首筋に剣を突き立てる。皮一枚切らせるギリギリの動きで避けたラップランドは、笑みを深めながら逆袈裟斬りで反撃。

 僅かに手元を器用に返して剣の根元で受ける──が、ラップランドの膂力はテキサスを予想を遥かに上回った。

 浮かび上がった全身はラップランドの腕力によって吹き飛ばされ、体勢を大きく崩す。

 

「しま──」

「ほら、抗ってみなよ!」

 

 ラップランドの体表に現れている源石(オリジニウム)が淡く光り、アーツが放たれた。振り抜かれた二刀から巨大な狼の頭部のような斬撃がテキサスを追従していく。急遽、テキサスは剣を地面に突き立てて体勢を立て直し、外壁を駆け登るようにして大きく回避。僅かに逸れたラップランドのアーツ──狼魂は外壁へと噛み付き、豪快な破砕音と共に外壁に大きなクレーターを作り上げた。

 

 それからテキサスが距離を詰めて一合、二合と武器を打ち合わせればラップランドの技術と膂力に打ち負けてギリギリの所で回避する──そんな流れを二度三度繰り返した所でラップランドが口を開く。

 

「その程度なのかい? ボクに傷一つ付けられないのにシラクーザのマフィアと一人殺り合おうだなんて……覚悟も努力も足りないんじゃないのかな?」

「……黙れ」

 

 戦闘技術も膂力もアーツも質もラップランドの方が優秀なのだろう。本能で戦っているような存在でありながら、全てが的確な一撃であり、小手先の技は反射的に出る技術だけで覆されてしまう。精々テキサスに勝っていたのは知恵と機動力だけであった。

 だが、全てを賭してでも殺すと決めた相手がいる。その覚悟が、決意が、ただの戦闘狂に貶されるのは我慢ならない。

 

 小さく息を吐いて再度ラップランドへと距離を詰めたテキサスは、今までと同じように首筋に向けて剣を突き出す。

 

「もうその攻撃は見飽きたよ。キミはその程度なんだね」

 

 ラップランドが優れている能力は卓越した戦闘技術だけでは無い。相手の弱点や特徴を即座に把握するその観察力も非常に長けていた。

 最早避けるまでもなく、カウンターを叩き込んで終わる。そんなあっけない結末。

 

「さようなら。もっと楽しめる相手だと思ったのに──ッ!?」

 

 テキサスの胸元へと突き刺さる予定だった刀身は、空から降ってきた剣によって軌道が逸れて脇腹を掠めるだけの一撃と変わる。

 剣を投げるようにして手放したテキサスは、突き出したラップランドの腕を掴み、決して逃がしはしない覚悟の元、空に放っておいたアーツを発動させた。

 

「これが私の覚悟だ……!」

 

 テキサスのアーツ、剣雨──降り注ぐ数多の剣が、両者の身体を切り裂く。逃げようとラップランドが動くも、テキサスに腕を掴まれて動く事は叶わない。片手に残った剣で剣雨を凌ぐも、全てを弾き返しは出来ずに全身は瞬く間に血に塗れていく。

 だがそれはテキサスも同様であった。投げた剣が僅かに弾いて致命傷は避けられるも、剣雨相手では心許ない。直ぐに全身に傷を負って血が吹き出す。

 だが良く知る己のアーツと初めて見る他人の技では、対処の方法は断然前者の方が有利であった。それは互いの傷の重度具合を見れば一目瞭然である。

 

「ハ、ハハハハハッ! 何だ! やれば出来るじゃないか!」

 

 嬉しそうに狂い笑うラップランドは、全身の傷はおろか、手足を剣が貫いており、最早まともに戦える状況では無いのは明白であった。

 それに引き換えテキサスは、空に投げた源石剣をラップランドへと突き付け、殺意に満ちた視線を送っている。全身に傷は負っているものの、致命傷になり得る直撃は全て回避していた。

 

「……終わりだ。情報を洗いざらい吐いてもらうぞ」

「ハハハッ、こんな傷じゃまともに動けそうもないしボクの負けだよ。……だけどその前にひとつだけ。今のアーツはいつの間に撃ったのかな? そんな気配は微塵も感じなかったよ」

「知らなくて当然だ。奴等からの定時連絡が無かったから、念の為に仕掛けておいただけに過ぎない」

「あぁなるほど……ボクが殺しを楽しんだのが不味かったんだね。アハハッ! 良い勉強になったよ!」

 

 ラップランドは来るよりも前に仕掛けておいた設置型の剣雨。まさかこんなに上手くいくとはテキサス自身も思ってはいなかったが、結果が全てである。

 

「で、君は何を知りたいのかな? なんでも答えてあげるよ」

「テキサス家の関わったマフィアについて、知ってる事を全て話せ」

「……なるほど、キミはあのテキサス家の関係者だったんだね。ますます気に入ったよ!」

「良いから話せ」

 

 テキサスの剣がラップランドの首筋に食い込む。流れ出る血が剣を伝って地面に滴っていくも、ラップランドの笑みが消えることは無い。

 

「とは言えボクは詳しくは知らないからね。あまり話すことは無いかな」

「そうか。だったら死──」

「──でも、ボクの雇い主はマフィアを全てを把握してると言っても過言では無い人だ。……会わせてあげる事も可能だよ」

「………」

 

 ラップランドから得られる情報は無いと即座に判断したテキサス。このような危険人物を生かしておく利点の方が少ないと考え、即座に殺そうとする。しかしラップランドにはラップランドの繋がりを持っている。それはシラクーザにおけるマフィアの情報を束ねている人物、そんなマフィアのトップに立つような人物に面会させられるのだと彼女は語る。

 

「どうする? 選ぶのはキミ自身さ」

「…………」

 

 罠かもしれない。元々テキサスの命を狙ってやって来たのだからそう考えるのは当然であろう。

 だが同時にその話が本当であるのならば、一気に核心へと近づけるのも事実であった。

 運命の分かれ道に悩む事数十秒。結論を出したテキサスは口を開く。

 

「……良いだろう。会わせろ」

「ハハッ! そう言ってくれると思ったよ!」

 

 こうしてテキサスは、ラップランドの雇い主の元へと向かうのだった。

 

 

 

 ラップランドとテキサスは互いの傷を癒す為、数日程共に廃屋の中で過ごしている。その間にお互いの自己紹介を済ませたり、似たような境遇に意気投合したりと意外にも互いに嫌悪したりはしなかった。

 鉱石病(オリパシー)にならないようにと生活環境に気を付けていたテキサスに対し、一緒の感染者になろうよと掻き乱すラップランドに本気で怒っていたのは別の話である。

 

 傷も癒えた頃、ラップランドのバイクの後ろに乗ってテキサスは雇い主の元へと駆けていた。どうやら相当離れた所に位置しているようであり、道理で幾ら調査した所で、まともなマフィアの情報が出ないのだと納得したくらいである。

 

 多くの廃墟や工場跡を抜けた更にそのスラム抜けた奥。そこがラップランドの関係するマフィア達の拠点になっていた。

 バイクを降りてラップランドに着いていくように進んでいくテキサス。周囲を見れみれば確かにスーツを着込んだ姿の男達が大勢いるのが一目で分かった。そしてそのマフィア達が、怯えた様子でラップランドを見ていた事も。

 

 ラップランドに案内された先には、スラムに似合わないモダンな豪邸がそこにはあった。普通であればならず者達の標的にされるであろう建物が、こんな奥地に堂々と建っている。

 どう考えても異質な光景に呼吸さえ忘れていたテキサス。だがラップランドは我が物顔で建物の内部へと侵入した為、背後をついて行く。

 

 屋内に入ってもその豪勢さは変わりはしない。巨大なシャンデリアに左右に並び立つ銅像や甲冑。力を誇示するように見せつける様々なインテリアからは、家主の性格の悪さが伺えた。

 

「ここだよ、テキサス。この先にボクの雇い主がいる。……あまり無礼のないように頼むよ」

「お前がそれを言うか」

 

 だが逆に考えてみれば、ラップランドですら気を使う相手なのだと言う事を指している。思わず緊張に体が強ばるも、ラップランドは気にも留めずに扉を開けた。

 

「今戻ったよ、ミズ・シチリア」

 

 中で待っていたのは、リクライニングチェアに座って揺り籠のように動いている老年の女性であった。

 ループスの女性── ミズ・シチリアは柔和な笑みを浮かべながら二人が来るのを待っていたように話しかける。

 

「ご苦労様。無事にテキサス家の娘を連れて来たようですね」

「……テキサス家の娘だって事は知っていたんだね。相変わらず食えない人だ」

 

 その会話を聞いて、テキサスは初めて自身の命が目的では無かった事を理解した。そして恐らくはこのラップランドの勝手な行動なのだろうとも。

 その可能性が考えられる程に、彼女の戦闘狂振りをここ数日で理解したのだから。

 

「それで、彼女はどうでしたか?」

「アハッ、それはもうサイコーだよ! 腕もシラクーザじゃ類を見ないほどさ。そして何より命を省みない覚悟と戦略! 一瞬でボクを虜にさせたよ!」

 

 嬉々として語るラップランドの表情を、にこやかな笑みで聞くミズ・シチリア。その姿、気配、どこをどう見ても一般人にしか見えない老年の女性が、マフィアを束ねるような立場にいるとは到底思えない。

 

「さて、テキサス家の娘さん。貴方は自分の家族を殺したマフィアの所在地を知りたいようですね」

「私の事はテキサスで良い。……全てお見通しと言う訳か」

 

 初めての対面にも関わらず、その目的を把握している事にテキサスは警戒心を高めて睨む。だがミズ・シチリアは温厚な態度を崩さず、ゆったりとした口調のまま言葉を続けた。

 

「警戒しなくて良いですよ。私は貴方の両親と親友だったのですから。彼等を許せない気持ちも分かります」

「大丈夫さ、テキサス。ボクも独り身になってからお世話になってる人なんだ。安心していい」

 

 二人から諭されるように言われると、流石のテキサスも馬鹿らしくなってその警戒を解く。

 

「……確かに私の目的はマフィアの居場所だ。……貴方はそれを知っているのか?」

「ええ、把握しています。そしてそれを貴方に伝える事も私の宿命なのでしょう」

「なら──」

「その前に一つだけ。私の話を聞いて貰えますか?」

 

 もうすぐ復讐が果たせる──そんな焦りから回答を催促するテキサスであったが、ミズ・シチリアの言葉を受けて頷く。

 

 彼女の話はテキサスが思うよりも遥かに壮大な話であった。

 このマフィアが溢れるシラクーザの裏側の世界を憂いているミズ・シチリア。多くの命が当たり前のように失われ、産まれ、そしてまた消えて行く。そんな中でありながらも、鉱石病(オリパシー)に感染するのも当然と言えるような劣悪な環境で過ごす物が多数存在していた。

 そんな命を物として扱うマフィアを統治するべくして彼女は動いていた。マフィア同士の抗争が無ければ失う命も、奪われる物資も、壊される住処も減っていく。そんな理想の裏社会を目指しているのだと。

 故に彼女はラップランドを右腕として雇い入れ、ラップランドと言う狂器(凶器)を存分に奮ってマフィア達を従えた。例えそれが恐怖によるものであろうと、確かに裏社会は秩序のあるものへと変わりつつあった。

 だがそれでもミズ・シチリアには従わない者達は多数存在する。シチリア人としての誇りを持ってマフィア稼業をしてきた者達に、突如現れた女の傘下に下るなど考えられないからだ。

 そんな彼等の多くを惨殺し、ミズ・シチリアの地位が確立されてきた頃に起きた事件。それがテキサス家の襲撃であったのだ。

 

「あと少しの所まで彼等を追い詰めたのですが、その後テキサス家を襲ったのは不運であったとしか言いようがありません。……ですが先日、ついに逃げ出した彼らの居場所を突き止めたのです」

「貴様のご高説は良い。早く教えろ」

「……確かにラップランドの言う通り、強者の気迫を感じますね」

 

 慰めのような言葉など不要。寧ろ逆撫でする言葉にしかならないミズ・シチリアの台詞にはテキサスは吐き気すら催す。

 鋭い眼差しに殺気。ラップランドが認めたその威圧感はミズ・シチリアの求めていたものだった。

 

「これは取引です。私は貴方にマフィアの居場所を教える。代わりに貴方の力を私に貸してください」

「……私の力だと?」

「えぇ。マフィアを統一し、秩序を求めるその夢。復讐を果たした後の貴方に手伝って欲しいのです」

 

 詰まるところ、ラップランドのような立ち位置を所望しているのだろう──テキサスはそう考え、即座に回答した。

 

「あぁ、問題ない」

 

 復讐を終えた後の事など今は考えても仕方がない。

 ただこの胸に燻っている想いを、無念を晴らさなければ生きた心地などしないのだから。

 

 

 

 

 

 ──結末は呆気ないものだった。

 

 血塗られた源石剣を振り払って最後のマフィアの首が宙に舞う。血溜まりの中で月夜を見上げ、煙草を吹かしながらこの日を反芻する。

 ミズ・シチリアに拠点の位置を聞いた後、数日間身体を休めてから直ぐに出発した。ラップランドとの二人だけの奇襲だったが、何一つ手こずる事は無い。

 命だけは助けてくれ──その言葉を何度聞いたかも分からない。ただ、その言葉を家族が口にしても、皆殺しにしたマフィア共に言われるのは我慢ならなかった。

 ただ我武者羅に殺し続けた。数十といたマフィアだろうと、被弾も構わずに殺戮し続けるテキサスを止める事は出来ない。その姿はラップランドさえ震え上がり、昂揚した程であった。

 

 拠点にはテキサス家にあった豪勢な貴金属は何一つ無く、全て紙幣に変えられて豪遊する為の資金になっていた。ただマフィアの頭が持っていたロケットペンダント。そこには若かりし頃の両親が写っていた。

 何故彼がそのロケットペンダントを持っていたのから分からない。だがその持ち物を持っていたと言うことは間違いなく彼が復讐の相手である事は分かった。

 

 全てを終えたテキサスとラップランドは拠点に火をつけ、外へと脱出する。全てを忘れるように燃えていく木々。天にまで届くような豪炎と黒煙が、天国にいる家族に届くように──そんな想いを馳せながらテキサスはロケットペンダントを火に投げ入れた。

 

「良いのかい?」

「……私にはもう不要な物だ」

 

 過去も未来も全てをこの日の為に捨ててきたテキサスにとって、思い出など最早不要なのだと語る。

 その流した涙は、彼女の最後の良心だったのだろう。

 

「ラップランド、今日から正式に宜しく頼む」

「──ハハッ! 良いよ! どこまでも一緒に行こうじゃないか!」

 

 こうしてテキサスはラップランドど共に、ミズ・シチリアの為に力を振るう事となる。

 多くのマフィアを殺害し、血も涙も無い殺戮兵器と化したテキサスは、シラクーザにおいてラップランドと並ぶ恐怖の象徴となる。

 

 その空虚な心は、何一つ満たされる事は無い。




続きます。

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