クラシック・クライシス   作:風緑.

5 / 9
最高の毒 5

「いやぁ……とんでもない話だったね」

「そうね……まさか、お姉様より非現実的な暮らししてる妖怪がいるなんて」

「今度てゐに会ったら少し優しくしよう……」

「……私、もしかして間違ってなかったのか? あいつは反逆の相手なのか……?」

「何にショック受けてるのさ、みんな」

 

 純粋に不思議といった表情で、小傘はそう呟いた。

 

 

 ワインから始まり、影狼から三つ全ての話を聞いたあと、茫然自失として皿洗い。今はこの幽鬼のようになった彼女らを連れて影狼の家を出たところだ。

 何を勘違いしたのか、家を出るときに彼女から皆に一つずつ薄荷飴を貰った。別に、デザートが無いことに対するデモではなかったのだが。

 

 というわけで、かりこりと噛みながら昼下がりの道を歩いている。

 

 

「普通の妖怪が私達より波乱万丈に生きてる、って分かったからかしらね。ちょっとしたカルチャーショックよ」 

「それなら、ぬえっちはどうして平然としてるの?」

「フランドールが該然としてるから」

「……?」

 

 小傘が小首を傾げる。考え込む程のことでもないだろう。そもそも、分からないなら分からないままでいい。知ることがいつも祝福に隣り合うわけじゃない。薄荷飴を噛み砕く。

 

「説明しよう! 地底でやさぐれていたぬえちゃんは、私が連れてきたフランちゃんに出会ってひとむっ」

「余計なことを言わないの」

 

 青羽を噛ませ、背中に飛びついてきたこいしを黙らせる。モゴモゴと喋りながら、私の背中で羽を外そうと苦心するこいし。……降りないのね。

 

「……やっぱり呼んだ?」

 

 日傘の下のフランドールが、呟くように言った。ちなみにその傘を持っているのは小傘で、必然的に二人の距離はとても近い。

 更に言うなら、空色の髪の小傘と紅色の服のフランドールに、茄子色の傘が影を落とす姿はとても似合っている。自分で招いた事態だが、羨ましい。

 

「呼んだわ。次はどこに行きましょうか、ってね」

「え、そんな話じゃなむ」

 

 小傘も黙らせる。羽を使うほど遠くないので、唇の前に指を一本。しかしこのジェスチャーを知らないのか、もう一度口を開いた。ので、指を追加する。

 

「らうれ!」

「……嘘にかけちゃあ、私を超えるかもしれねえなあ」

 

 ……あいつは遠すぎる。羽を出せば間にいるメディスンに当たる可能性が高い。そうでなくても、物理的にあいつを黙らすと負けた気分になるからやらないけれど。

 

「そんなに卑下することないわよ。あなたの方がよっぽど上だわ」

「そりゃありがとさん」

「ぷは。ぬえちゃんが正邪ちゃんを気遣った……!?」

「べっ。気遣いというより押し付けあいじゃないかな」

 

 そうだ。

 

「次に行くところ、か。確かに、もう四回もダイスを振ってるからね。そろそろ別の決め方が欲しいわ」

「これ以上振ったら依頼料の桁が一つ上がるしねえ」

「…………マジ?」

 

 メディスンが目を落とした手の中で、ダイス達がからからと鳴いている。四面、三面、八面、五十面。しかし、そんなにいっぱい渡した覚えはない。

 

「冗談。そんな阿漕な商売しないわ」

「お、おお驚かせないでよね! 焦ったじゃない!」

 

 十三面、六面、一面。ひょっとして、途中で買い増やしたのかもしれない。四しか出ないダイスは四面だけだが、他もそうだと思って普通のを追加してもおかしくない。にしてはバリエーションが豊富だけれど。

 

「桁云々はともかく、いい加減楽しいからに流されんなってのはあるが」

「うぐっ」

「魔理沙の家に行くなら、時間的に自由行動は次が最後だしねー。一回くらい、いいんじゃない?」

「むむ……」

「いや、魔理沙の家に直行したらいいじゃ……っと!」

 

 私の指を、今度は身をよじってかわす。もちろんそれでも傘は全く動かない。強い弱いじゃない気がしてきた。

 

「同じ手は食わないよ、ぬえっち!」

「明朝、七時に命蓮寺の裏庭に来なさい。手合わせよ」

「突然の果たし状!?」

「ふうん?」

 

 フランドールが立ち止まり、顎に手をやる。……不思議と不安がこみ上げる。何だろう。こういう時は天邪鬼を見ればいい。怒りで不安など吹き飛ぶ。

 

「……っだコラ。私の顔になんか付いてんのか」

「別に。泥がついてたほうが綺麗だと思っただけよ」

「あっ、ちょっ、お腹痛くなってきたどけて早く腕」

「あぁん? そんならお前の面にも泥擦り付けてやろうか。ちったぁ肌ツヤも良くなるだろうよ」

 

 しかも少しつつけば怒りを増幅させてくれる。正体不明の代名詞として最近目をつけている美貌、それをバカにする天邪鬼。これほど八つ当たりしても心が傷まないやつはいない。

 

「メディスン」

「ん? なあにさ、おじょー様」

「あと、足りないものはあるかしら」

「ん。ん──……人の愛する覚悟、妖怪の生きる覚悟。この二つは見たことだし……参考にするなら……」

 

 とりあえず舞台を空へ移す。弾幕がフランドールに掠れば事だ。彼女は過保護下お嬢様ではないのでメイドが殴り込んできたりなんてことはないが、私の精神が持たない。

 

「おっ、弾幕か弾幕か! いいよ、私審判やる!」

「そいつぁいいな。こいつ一人じゃ当たってないわーって難癖つけるかも知んねえからなぁ?」

「公平にね、こいし。こいつがギブアップするまで止めなくていいから」

「ぬかせよキメラ。さっと一枚で片付けてやる」

「いいでしょう。先攻は譲るわ。どっちだって変わりないからね」

 

「……本当に言ってるの?」

「何よ、できないの?」

「いや、そうでもないけど……うーん」

「出来るならやって頂戴。後悔はしたくないから」

「むむ……」

 

「食らいな! 逆符『インバージョン2045』!」

「開発中スペルね。私を練習台にするつもりかしら」

「はっ! 今のうちにほざいとけ、たとえ練習だろうと負けは負けになるからな!」

「おお……これは、ほうほう……なかなか……くぅ……たまらん……」

 

「……よし、決めた。小傘、ついてきなさい。二人を止めるわよ」

「はーい! メディはどうする?」

「勿論、止めるのに協力するわよ。依頼人を放置するような輩は懲らしめなくっちゃね!」

「いいわね。それじゃ、正邪の方をお願い。私と小傘はぬえの方。行くわよ」

「ようし!」

「うん!」

 

 

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