ダンガンロンパPRISON 〜Episode of Winner〜 作:M.T.
「…う。」
目が覚めると、見慣れた光景が映り込んできた。
古びたランプが置かれているだけの仄昏い部屋。
床に古びた薄い毛布が敷かれているだけの粗末な寝床。
そこでは、僕と同じ孤児達が何人も並んで雑魚寝している。
それが僕の日常だ。
「…寒い。」
地下にある粗末な部屋の温度は氷点下まで下がって、身体の感覚を奪っていく。
…確か、先週は一人新入りが凍死したっけ。
こんな寒い中、外に出て行きたくはない。
僕は、毛布をかぶって寝直そうとした。
バンッ
恰幅の良い中年男が、薄い木のドアを蹴って開けた。
そして、部屋に響き渡るくらいの声量で怒鳴りつけた。
「おいゴミ共!!いつまで寝てやがる!!営業の時間だ!!」
この男は、僕達を養っているカジノのオーナーだ。
ここでは、この男が絶対的なルール。逆らったら、『お引っ越し』させられる。
もちろん、まともな意味じゃない。
僕は、『お引っ越し』させられた奴等を嫌と言うほど見てきた。
でも、まだ寒さのせいで身体が動かない。
僕は、毛布を深く被り直して狸寝入りをしようとした。
「おい『S』!!」
ここの子供達は、全部で26人。
全員にアルファベットを割り振られてそれを名前がわりに呼ばれる。
ご丁寧に左肩に名前まで書かれて、僕達全員まるで商品のように扱われている。
「今日もお前にオーダーが入ってんだよ!!表出ろ!!聞こえねぇのか!!出ろっつってんだよ!!この天パ野郎!!」
自分が呼ばれているのはわかっている。
でも、もう少し寝ていたかった。
「オーナー、コイツ寝たフリしてます。」
…Aめ、余計な事を…
この金髪のスカした野郎はA。ここでは、僕と同じ最年長の10歳だ。
僕とは、いつも互いに足を引っ張り合いながらここまで来た。
「…あぁ?」
オーナーが、僕の方に近づいてくる。
そして…
「起きろ!!このボンクラがァ!!!」
ドスッ
「ッー!!」
思いっきり腹を蹴られた。
「ゲホッ、ゲホッ…!」
「んだよ、起きてんじゃねえか。何寝たフリしてんだテメェ!!テメェの脳ミソは頭と同じでチン毛でできてんのか!?それとも『お引っ越し』してェのか!?あァ!!?」
僕は、髪を引っ掴まれて寝床から引きずり出された。
Aは、その様子を笑いを堪えながら見ている。
「チッ、手こずらせやがって。」
オーナーは、僕の顔に唾を吐きかけた。
「俺に逆らった罰だ。営業終わったら俺の部屋に来い。おしおきしてやる。」
「…。」
僕は、シーツを片付けてすぐに部屋を出た。
「おいA!!J!!Q!!X!!テメェらもだ!!来い!!」
「…。」
4人が外に出た。
金髪がA、栗毛のおかっぱの女がJ、赤毛のそばかすがQ、白髪のツインテールの女がXだ。
コイツらは、僕と同じ年長組だ。
コイツらも僕と同様、『お引っ越し』させられずにここまで生き残ってきた奴等だ。
「テメェらに朗報だ。テメェら全員、お客様から指名が入った。ありがたく思え!!」
「…ハイ。」
「今日のゲームは絶対成功させろよ。もしヘマしたら『お引っ越し』させるからな!!」
「…ハイ。」
「それじゃあ全員持ち場につけ!!」
◇
僕達は、それぞれ指名した客のところに行った。
僕達孤児の仕事は、カジノのゲームの進行役だ。
…進行役といっても、仕事の内容は生易しいものではなかった。
このカジノは、裏社会の人間向けに、生きた人間を使ったゲームを売りにしている。
僕達はゲームのアシスタントでありながら駒であり、賽であり、チップでもある。
そしてそのゲームでの売り上げによって、僕達の価値が決められ、オーナーからの待遇も変わる。
より価値の高い奴は飯や寝床を与えられて、逆に価値の低い奴はろくに世話もしてもらえない。
だからみんな、互いに足を引っ張り合って自分の価値を高めようとしている。
それだけじゃない。月に一度行われる集計で一番価値が低かった奴は、オークションにかけられる。これがいわゆる『お引っ越し』だ。
ウチのカジノの子供を買う奴らはみんな、人を平気で生きたまま切り刻んだり、年端もいかないガキを非合法の人体実験に使ったり、壊れるまで『遊び相手』をさせるような変態共だ。
そんな奴等に買われたら人間としての真っ当な人生が歩めない事くらい、誰しもわかり切った事だった。
だからみんな、自分の価値を上げようと躍起になっている。
もちろん、価値が低くなくても、個人的にオーナーの気に食わない奴は強制的に『お引っ越し』させられる。
だから、僕も含めてみんな、生き残るために必死でオーナーに媚びを売っているんだ。
どうやら僕には、物事の筋道が『見える』不思議な力があるようだ。
過去の膨大な統計、世界を構成する原理原則、そこから導き出される確率、そして人の人生にレールのように敷かれた『運命』…
そういう要素が点として散らばっているのが、僕には全部線として繋がっているように見える。
だから、何をどう選択すればどうなるのか、確信は持てないけどなんとなくはわかる。
僕は、不思議なこの力を使ってゲームを成功させてきた。
初めて営業に参加してから毎日ゲームをやらされているけど、僕はその毎回のゲームで常に誰よりも価値を高めてきた。
そうやって周りの奴等を蹴落として、10年間生き延びてきた。
◇
営業が終わった後は、風呂の時間だ。
風呂って言っても、汚く濁った冷たい水を頭から浴びせられるだけで、決してリラックスするための時間ではなかった。
その後は食事の時間だ。
僕は、アルミの皿に盛られた食事を持ってテーブルについた。
雑穀の粥に、変な豆だのクズ肉だのがグチャグチャに混ざった汚い料理だ。
正直、薄くてマズい。食感も最悪だ。
でも、皿に盛られた食事が出てくるだけ、僕はまだマシな方だ。
僕は、アルミのカップに盛られた薄くてマズい野菜クズのスープを啜った。
「おいゴミクズ共!!メシの時間だ!!俺がわざわざテメェらみたいな家畜に餌をやってんだ、ありがたく思え!!」
オーナーは、自分の残飯をみんなにばらまいた。
僕達年長組以外は、ちゃんとした食事をもらえず、こうしてばら撒かれた残飯を食って生き延びている。
「おい、S。テメェは後で俺の部屋に来い。」
僕は、オーナーに呼び出された。
十中八九今朝の件だろう。
僕は、食事を済ませるとオーナーの部屋に向かった。
◇
「遅せェぞゴミクズ。俺が来いっつったら十秒で来い。わかったか。」
「…スイマセン。」
僕は、部屋に入ると早速鞭で体を打たれた。
「ッ!!」
「何ボサっとしてやがる。さっさと脱げ。」
「…。」
「テメェ、自分が何をしでかしたのかわかってるよなぁ?たっぷりと体に教え込んで、二度と俺に逆えねェようにしてやる。」
「…。」
これは僕達年長組だけの話だが、オーナーに逆らったりルールを破ったりすると、こうやって部屋に呼び出されて『遊び相手』をさせられる。
もちろん、僕達年長組以外なら即『お引っ越し』だ。
こんな日々が、僕の日常だった。
それはこれからもずっと続くんだろうと思っていた。
でも、そんな僕の日常はある日突然終わりを告げた。
◇
ある日、集会でTが『お引っ越し』に決まり、Tの枠に新入りが入ってきた。
ソイツは、どう見ても僕達より年上の少女だった。
僕は少し驚いた。
空いた枠に入った新入りの赤ん坊の面倒を見るのが僕達の役目だったからだ。
その女は、僕に話しかけてきた。
「はじめまして。あなた、お名前は?」
「…S。」
「それはアルファベットでしょ。お名前は?」
「…無い。アルファベットで呼ぶのがここのルールだから…」
「そう。」
「あんたは?みんなみたくアルファベットでTって呼べばいいのか?」
「私は
「…ふうん。ねえ、あんた今いくつ?」
「私?13歳。あなたは?」
3歳差か。
「10歳。ここじゃあ、僕が一番年長だよ。」
「そうなのね。私、ここの事よく知らないから迷惑かけるかもだけど、これからよろしくね。」
最初は、変な女だと思っていた。
その女にはギャンブルの才能がまるでなくて、どうせすぐに価値が落ちて売却されるんだろうな、とも思った。
でも、いつのまにかソラは僕達の中心にいた。
彼女が来てからは、みんな足を引っ張り合う事もなくなっていった。
僕もソラと接していくうちに彼女に惹かれていき、ソラと一緒にいるのが楽しくなった。
生まれて初めて、誰かのために生きたいと思えた。
◇
僕は、ずっと前から気になっていた事があった。
僕は、その疑問を本人に直接話した。
「…そういえば、ソラってなんでここに来たの?」
「…ああ、えっとね。私の両親が海難事故に巻き込まれてね。私には両親以外身寄りがいなかったから、ここに流されてきたの。」
「そうなんだ…」
「S君は?」
「…僕は、よくわからない。生まれてすぐに捨てられたから…親の顔も名前もわからないんだ。」
「…そう。」
「ねえ、外の世界ってどんな世界なの?僕達、一度も外の世界に出た事がないんだ。」
「そうなの?」
「うん…僕が知ってるのは、この地下室と営業が行われるカジノだけなんだ。本とか客の話とかで少し知ってるけど、実物は知らなくて…」
「…ねえ、外に出たいって思った事ある?」
「え…?」
「S君、外の世界についてすごく熱心に聞いてくるからさ。」
「…そりゃあ、外に出たいと思った事はあるよ。でも、僕達はオーナーの所有物だから…そんなの、許されないよ。」
「ねえ、外に出ようよ。」
「…え?」
「ここにいるみんなで、一緒に外に出よう。みんな、こんなところで一生を終えるなんて嫌だとは思わない?こんなところにいないで、外の世界へ行こうよ!外の世界はこんなところよりずっと広くて、キラキラ輝いてるんだから!」
「外の、世界…」
「みんな、外の世界に出たら何がしたい?」
「私は、かわいい動物を見てみたい!」
「おしゃれとかしてみたいなー。ずっとこのボロい服一着だけだし。」
「やっぱ美味いモン食いたいよな!」
「ははは、Qらしいや。」
「A、お前は?」
「…笑うなよ。俺、宇宙飛行士になりたいんだ。」
「ギャハハハハ!!お前が!?」
「笑うなって言っただろ!?」
「みんな、夢があっていいね。…S君は?」
「僕は、楽しく生きられればそれで…」
「んだよそれ!つまんねーな。」
「もっと具体的に何やりたいとかないのー?」
「お前ってホント夢が無い奴だよなー。」
僕にだって、ちゃんと夢くらいある。
だけど…
「…外に出られたら話すよ。出られたら、ね。」
「はい絶対これ話す気ないパターン!」
「どうせソラと結婚したいとかだろー?」
「…。」
「うわ黙った!図星だ!」
「あはは…」
僕は、外に出られなくても、この時間が続けばそれだけで十分幸せだった。
…そう思っていたのに。
◇
「おいゴミ共!!全員出ろ!!営業の時間だ!!舞台裏に集まれ!!」
…今日は全員?
いつも、指名が入った奴と優秀な奴数人だけなのに…
オーナーは、メインステージの舞台裏に僕達を集めると、話を始めた。
「おい、テメェら。ここから出たいとかほざいてたらしいな?」
「ッ!!?」
やっぱり、筒抜けだったか。
でも、オーナーの言葉は予想外なものだった。
「テメェらに朗報だ。もし今日のゲームに勝ったら、テメェら全員解放してやる。その後どうするかはテメェらが自分で決めろ。」
オーナーは、髭をいじりながらニヤニヤして言った。
「だが、無条件にというわけにはいかん。もし負けたら、テメェら全員総売却だ。さあ、どうする?」
僕は、オーナーに聞いた。
「…それって、僕達全員やらないとダメなんですか?」
「いや、誰が挑戦するかはテメェらが決めろ。だが、ゲームはちゃんと26回分やってもらうぞ。一回でも負けたら総売却…それでもやるか?まあ、やらなかったらやらなかったでお前らの価値が暴落するのは目に見えてるんだがな。さあ、どうする?」
僕は、少し考えて言った。
「僕が26回全部やります。…やらせてください。」
「あ?なんだテメェ。随分とやる気じゃねえか。まあいい。じゃあS。テメェはこっちこい。」
「…本当に、約束は守ってくれるんですよね。」
「ああ、男に二言はねェ。ほら行くぞ。」
僕は、首に鎖を付けられて、オーナーに引っ張られた。
◇
僕は、舞台に上がった。
『お待たせしました!皆様、本日は我がカジノ・アステルの30周年記念イベントにお越しいただき、誠にありがとうございます。カジノ・アステルは本日をもって閉館となりますが、最後まで心置きなくお楽しみください。さて、本日最後の挑戦者はこちら!当店人気No.1商品のSです!Sが26回ゲームに成功した暁には、商品の孤児全員の解放が約束されております。果たして、彼は無事26回ゲームを成功させる事ができるのでしょうか!?』
僕は、舞台でゲームをこなした。
持っている力を使えば、ギャンブルで勝ち続ける事なんて余裕だった。
あらゆるゲームを、どれも圧勝で切り抜け、ついに26回目のゲームとなった。
「アイツヤベェな…未来でも見えてんのか?」
「このままだと、本当に26連勝やるかもな。」
客席からざわめく声が聞こえる。
…あと一回。
あと一回勝てれば、僕達は自由だ。
『最後の勝負は、目隠しジャンケンです!オーナーとSが、両者ともに目隠しをしてジャンケンをします。この勝負で、商品の運命が決定します!さあ、運命の女神は一体どちらに微笑むのか!!?』
僕は、司会者に布で目を縛られた。
そして、椅子に座らされた。
…よし、決めた。
これでいこう。
僕は、司会者の合図とともにチョキを出した。
その瞬間、会場がどよめいた。
でもその中に、歓声や驚きなどが入り混じって聞こえる。
「しょ、勝負はどうなったんですか!?僕は…」
『ざんねーん!!グー対チョキで、オーナーの勝利です!よって、チャレンジ失敗!!商品は総売却となります!!皆様、遠慮なくお好きな商品を買っていってくださいねー!!』
…は?
嘘だ。
なんで…
僕の能力が狂った事は一度もない。
確かに、オーナーがパーを出すビジョンが見えた。なのになんで…
「いやっ、いやぁあ!売られるのは嫌!!」
「チクショオォオオオ!!おい、S!!テメェのせいだぞ!!一生呪ってやる!!」
「うわぁあああああ!!!誰か助けてよぉおおおお!!」
みんなが、どんどん買われていく。
大人しくて真面目なJ、お調子者のQ、おしゃまで甘え上手なX…
みんな買われていった。
一番長い付き合いでライバルのAも買われた。
そして、最後にはソラも買われた。
「ソラ…!僕のせいで…クソッ、チクショウ…!」
「S君。私は、みんなとここで出会えて幸せだったよ。だから、自分を責めないで。」
「待っ…!」
ソラは、飼い主の男に連れられて店を出て行った。
能力のおかげで値段が桁違いに跳ね上がった僕だけは、高すぎて誰も買えなかった。
結局、売れ残ったのは僕一人だった。
「あ、あああ…僕の…僕のせいで…」
「やー、惜しかったねS君。でも、気にする事は無いよ。君は運が悪かっただけなんだ。」
オーナーは、急に僕に優しく接してきた。
「さてと。アイツら家畜の事は忘れて、記念にパーティーでもしようか。」
「…。」
◇
その日からというもの、オーナーの僕に対する態度が一変した。
今まで人間以下の扱いだったのが、高級な服を着せられて、毎日美味い物を食わされた。
でも、どんなに豪華な暮らしをしようと、ソラがいなければ幸せなんて感じられなかった。
そんなある日、耳を疑う知らせを聞いた。
…ソラが死んだ。
どうやら、飼い主に飽きられて殺されたらしい。
死体は、誰だかわからないくらい無残な姿になってゴミ捨て場に捨てられていたそうだ。
僕は、絶望した。
…僕のせいだ。
僕があの日でしゃばったから、ソラが死んだ。
僕は罪悪感と絶望感に苛まれ、ついには自殺する事を考えた。
僕は、自殺に使う刃物をキッチンから盗もうとした。
その時、廊下から声が聞こえた。
オーナーと司会者の声だ。
「いっやぁ、ホーント今あのガキの価値が爆上がりっスねぇw」
「アイツの能力に裏社会のクズ共が気付き出したからな。アイツの能力を、例の知能犯が欲してんだ。ソイツと取引すりゃあ、俺達は億万長者だぜ。」
「いやいや、今までのガキ共も、NOAHSントコの方神サンの息がかかったお客様方でしょうよ。あちら系の方、ボスの性格がアレだからなのかは知らないっスけど、ロリコンショタコンの変態ばっかですもんねwまるで兄貴じゃないっスか。」
「うるせェ。大きなお世話だ。」
「でも、良かったんですかぁ?店じまいなんてしちゃって。買われてった子達、ほぼ全員死ぬか廃人になるかしちゃってるらしいじゃないっスかw」
「何を今更…自営業でチマチマやってあんなボンクラ共に貴重な利益を割くより、多少金はかかっても確実に高く売れるモンを売り出した方が効率良いに決まってんだろ。」
「いやー、しかしあん時ァビックリしましたよ。あのガキ、本当にアンタに勝っちまったんですもん。」
「何を言っている。俺がアイツに負けた?冗談はよせ。」
「あー、はいはい。そうでしたね。それにしても、兄貴ってばホント性格悪いっスよね。よくあんなかわいそうな事思いつきますよwあのガキ、本当は勝ってたのにオレの一言で負けた事にされちゃって…」
「細けェこたぁいいんだよ。俺が勝ったって言やぁ勝ったんだよ。アイツは結果を見てねェんだからそれでいいだろ。」
「確かに。」
「アイツは俺達の貴重な金儲けの道具だからな。解放なんてしてたまるかよ。アイツには、一生俺の奴隷でいてもらわなきゃな。」
「こっわ。さすが兄貴っスね。」
…は?
何を言ってるんだコイツらは。
僕が金儲けのための道具だと…?
それだけじゃない。
本当は勝っていたのにって何の事だ。
…まさか、コイツら…
僕に勝たせないために、嘘を…?
じゃあ、ソラは…みんなは、コイツらのくだらない金儲けのために殺されたのか。
…殺す。
絶対に殺す。
ただで死ねると思うなよ。
お前らには、ソラが受けた百倍の痛みを味わせてやる。
◇
「やあ、S君。最近元気が無いけど、どうしたんだい?ご飯、ちゃんと食べた方がいいんじゃないか?」
「…あの、オーナー。お話があるんですけど。」
「…あ?」
「僕と、目隠しジャンケンでもう一度勝負していただけませんか?」
「は?俺とお前が勝負だと?」
「…もちろん、タダでとは言いません。もし僕が負けたら、一生あなたの言う事をなんでも聞きます。地下の最下層の牢獄に監禁してもらっても構いません。ただし、僕が勝ったら今度こそ僕を自由にしてください。」
「あの、兄貴…これって…」
「ああ、わかってる。」
二人がヒソヒソ話をしている。
…丸聞こえだっつーの、バカが。
「…いいだろう。その勝負、乗った。」
「ありがとうございます。」
僕は、この勝負で負けるだろう。
でも、それでいい。
むしろ、その先が僕の狙いだ。
僕は、司会の合図でパーを出した。
「残念、チョキ対パーでオーナーの勝ち〜!」
「…。」
「ギャハハハハ、バカめ!!自分から勝負を持ちかけておいて、こんなあっさり負けるなんてな!!じゃあ約束通り、テメェを一生奴隷としてこき使ってやんよォ!!あと、テメェの希望に合わせて今日から地下牢をテメェの部屋にしてやる!!ありがたく思え!!」
…いつ見ても醜いな。まるで豚だ。
その表情がどうやって壊れるのか、是非とも見てみたいものだ。
◇
「オラァ!入れ!!」
「うっ…!」
僕は、地下の最下層の牢獄に閉じ込められた。
…これでいい。
僕には、全てが見えている。
あと30秒。
15秒。
僕は、窓の外を見て時を待った。
10秒。
5、4、3…
…!
空から赤黒い何かが突進してくるのが見える。
それは、こっちに向かってきている。
僕は、それを見てとても高揚した。
キターーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
ドォン
大きく地が揺れる。
振動で鼓膜が破れそうになる。
しばらくして、揺れがおさまった。
「…って、鼻血出てる…」
僕には、見えていた。
故障を起こした人工衛星が、炎を上げながら衝突してくる未来が。
だから、それを見越してわざわざ地下の一番頑丈な部屋に入れてもらった。
さすがに無傷とはいかなかったが、割と軽傷で済んだ。
僕は、地上へ様子を見に行った。
そこには、辺り一帯瓦礫が散らばっていた。
オーナーと司会者は、あっけなく瓦礫の下敷きになってトマトのように潰れていた。
生き残ったのは僕一人だった。
僕は、この時思った。
「…ふふっ、あははは…」
「あーっはっはははははははははははははははは!!!」
この世界には、二種類の人間しかいない。
『勝者』と『敗者』だ。
勝者は一方的に敗者から何もかもを奪っていく。
だったら、僕はこの世界の勝者になろう。
…外に出たら何をやりたいかだと?
そんなの、答えはひとつに決まっている。
この世界の誰よりも楽しく生きる。
それを邪魔するものは、全部ねじ曲げて、切り捨てて、踏み倒していく。
だって僕は、人生を楽しむためだけに生まれてきたのだから。
「うっわー、ひどいな。この有り様は。この様子だと、例の子供もさすがに死んでるかな。」
なんだ…?
誰かがこんなところに来て…
…女?
「せっかく一攫千金のチャンスだと思ったのだが…仕方ない、別の金づるを探すか…ん?」
「…。」
僕は、その女と目が合った。
少し幼くはあるが、誰が見ても間違いなく美人だと思うくらいの端麗な顔立ちの女だ。
その女は突然わけのわからない質問をしてきた。
「…もしかして、君か?少年。」
「え?」
「例の『未来少年』とは、君の事かな?」
「えっと…言ってる意味がわからないです…というか、あなた誰なんですか。」
「おっと、申し遅れたな。」
「私は、超宇宙級の心理学者、
超宇宙級って…自分の事をなんだと思っているんだろうか。
「実は、闇サイトでカジノ・アステルに『未来少年』と呼ばれる少年が商品として飼われているという情報を入手してな。それで、いてもたってもいられなくなって!つい来てしまったというわけなのだよ!!」
なんだこの女。
さっきから子供っぽい言動が目立つけど、本当に心理学者なのか?
「だが、突然スペースデブリが落ちて、到着した時にはもうこの有り様だったというわけなのだよ。これはさすがの『未来少年』も死んでいるかと思ったのだが…まさか、生きた少年に出会えるとはな!!時に少年、君はなぜこの事故から生還できたのだ?」
「えっと…なんか嫌な予感がしたので、地下に逃げて…」
「やはり君だったか!!初めまして、未来少年。君を歓迎しよう!」
「…え?」
「さあ、早くしないと野次馬が集まってきてしまうぞ!私と共に来たまえ!」
「え、あ、ちょ…!」
お前も野次馬だろ、というツッコミをする間もなく、僕はその女に車に乗せられてどこかに連れて行かれた。
◇
僕は、車に乗せられて豪邸に連れてこられた。
「…デケェ。」
「未来少年よ、ずっと君に会いたいと会いたいと思っていたぞ。」
この女、初対面なのにすごくグイグイくるな…
目的もいまいちよくわからないし…
「未来少年、君を我が息子として歓迎しよう!」
…え?
この人いきなり何言ってんの?
「ちょっ、いきなり何言ってんですか!?そんな、初対面でいきなり歓迎するとか息子とか言われても…」
「ただし、無条件でとは言わない。」
「え?」
女は、車から鞄を取り出して僕の前で開いて見せた。
中には、現金が入っていた。
「!!?」
「ちょうど1億入っている。それを1ヶ月だけ君に貸してやる。1ヶ月以内に倍の2億にして私に返せ。そうすれば君を私の息子として認めてやろう。」
「え、い、1ヶ月で2億…!?」
2億って、確かサラリーマンの生涯年収だよな…
「なんだ、君は未来少年なんだろ?1ヶ月で2億稼ぐぐらいできて当然だろう。先行投資ってヤツだよ。私は、未来の君に投資をしているのだよ。…それとも、そんなの無理だというのなら今すぐここから出て行ってもいいが?だが、覚えておくといい。裏社会の奴らは、君が生きている事を知ったらこぞって君を手に入れようとするだろう。そうなったら命の保証はできんぞ。だが、もし仮にも私の息子になれば、情報操作の手伝いくらいはしてやる。」
「そんな事をして、アンタに何のメリットが?」
「…金だよ。私はな、もっと金が欲しいのさ。そのためには君の力が必要なんだよ。」
…コイツも、今までの奴らと同じ、金目当てか。
ホント、世の中って反吐が出るほど腐ってんな、マジで。
…だけど。
「なるほどな、金目当てか。」
「駄目か?」
「…いや、乗った。」
「ほう…」
女は、少し笑ったかと思うと僕の方に鞄を投げた。
「よし、じゃあこの金を全部貸してやろう。1ヶ月で倍にして返せ。わかったな。」
「ああ。」
そっちがその気ならやってやる。
僕は、二度とあんな屈辱は味わいたくない。
楽しく生きるためなら、なんだって利用してやる。
◇
ー1ヶ月後ー
「さて、1ヶ月経ったぞ。少年はどうしているだろうか。…少年?」
「ここにいますよ。」
「なんだ、君。手ぶらじゃないか。まさかとは思うが、約束を忘れたわけではあるまいな。金が無いなら、息子として認めるわけには…」
「手ぶら?冗談でしょう?この僕が、この1ヶ月何もしなかったとでも?…おい。」
「ハッ。」
黒服は、黒いスーツケースを両手に持って僕のところに来た。
そして、黒服は女の前でケースを開けた。
「全部でちょうど10億です。もちろん、全部現金ですよ。嘘だと思うのなら確かめてみては?」
女は、ケースに駆け寄ると金を確認した。
「…ほう。条件の2倍をはるかに超えて、10倍にして私に返すか。…面白い。気に入ったぞ少年。君を我が息子として認めよう。せいぜい、私の金儲けのために頑張ってくれ。」
「ありがとうございます。」
ホントふざけんな。
どいつもこいつも僕を利用しようとしやがって。
…でも、僕の才能を気味悪がる事もなく、ただ金儲けのためだけに利用しようというこの女には興味が湧いた。
そっちが僕を利用しようというのなら、僕もお前らを利用してやる。
僕が誰よりも楽しい人生を送るために、せいぜい僕を利用した気になって大人しく利用されてろ。
「時に息子よ。名を何という?」
名前、か。
考えた事なかったな。
…決めた。
万物を支配する絶対的なルール。
それが僕の生きる道だ。
だったら、それにふさわしい名前にしよう。
「…天理。財原天理、それが僕の名前だ。よろしく頼むよ、母さん。」
「フン、随分と傲慢な名だな。気に入ったぞ。…だが、私の息子になろうというのなら厳しくしつけてやるから覚悟しておけ。わかったな、我が
「…ああ。」
第一話 家族編 完
To be continued…