リコリス・ラジアータ   作:暇を司りし神

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目覚めたのは(禍津神砕過君視点)

「んんぅ……」

 

 爆発音のようなものが起きかけの頭に響く。ここは何処だろう。俺は何をしていたんだっけ。

 

 確か……そうだ、俺は黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃して、それに夢中になるあまり背後から近づくもう一人の仲間に気づかなかったんだ。そして意識を刈り取られ、今に至ると。別に体は縮んだりしていなかった。

 

「んぁ……あぁ? フラン、か?」

 

 視界に飛び込んできた情報をそのまま口にしていた。共通語を意味するリングワ・フランカのことではない。

 

 素早く視線を走らせて、状況を把握する。

 場所は見覚えのない原っぱ。二人の女の子が興味深そうに此方を見つめている。

 

(良かった、ちゃんとあるな……)

 

 密かに背中に手を回して、名月――相棒である大太刀があるのを確認する。剣呑な雰囲気ではないが、物騒な戦闘音で俺は目を覚ましたので、万が一に備えてあるに越したことはない。

 

 女の子の一人は、先ほど口に出したフラン――フランドール・スカーレットという知り合いの吸血鬼とよく似ていた。でも注視すると、所々に相違があるのが分かる。

 服が全体的に紅色のカラーリングで、そこはフランと同じなのだが、何というか暗い紅色なのだ。返り血をたんまりと浴びたのかって感じ。

 

 もう一人はピンク髪の少女だ。知人の新聞記者が言ってた、ピンクの髪の毛は淫乱なんだって。あっ、こんなこと言ったら師匠に殺されるわごめんなさい。

 

「なんだイメチェンしたのか? ちょっと血塗れみたいな感じで心臓に悪いぞ?」

 

 髪は鈍く輝くブロンズヘアー、瞳に宿る光はどこか仄暗い。容姿は確かに似ているが、この少女がフランでないことは明らかだ。

 でも親族か何かだろうし、ツッコミから打ち解けることもある。このまま話を続けさせてもらおう。

 

「あ、あの! 翼を見てもらえます……?」

「ん? 翼?」

 

 少女に言われて視線を落とす。そこには一対の蝙蝠のような羽がピョコンと生えていた。ちょっと欠けてるのがアップルのロゴっぽくてお洒落。

 うん、フランの七色の羽とはかけ離れてるね。

 

「あぁ、確かにフランのじゃないな。まるでレミリアっぽいものだが……それもイメチェンか? 羽を引っこ抜くまでするなんて、気合い入ってんな」

「イメチェンじゃないんですよ! 私は愛杉・アッサスィーノ・スカーレットです!」

 

 やっとアッサスィーノという少女からツッコミが入った。スカーレット、やっぱりスカーレット家じゃないか。愛杉ってなんですか。

 

「なんだその長い名前、厨二病患者か?」

「なにぉう! 私だってこの名前ちょっと嫌になってるんですよ!れ!!」

「お、ビックリマークにれを混ぜてくるか。高等技術だな」

 

 一瞬誤字報告しようかと迷ったが、噂に聞くれを混ぜる高等技術だと気づく。なかなかやるじゃねえか巫山戯てんのか。

 

「そういえば、そっちのピンク髪の子の名前を聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

 

 会話に入れずにいたように見えたので、鮮やかな桜色の髪の少女に声をかける。

 

 気だるげな半眼。天真爛漫な隣のアッサスィーノと対象的に、物静かな印象を受ける。ゆったりとした水色の服装は、パチュリーという知り合いの魔女のそれと似ていた。

 しかし、そんなことよりも、一番に目を引いたのはその瞳だ。いや、パッチリしてるとかキラキラしてるとかじゃなくて、第三の目があるんだ。胸元につぶらな瞳がついてるんだ。

 

 なんだアレ、アクセサリー……ではないよな?

 

 装飾品にしては前衛的過ぎるデザインだし、何より瞳には生気が宿っている。となると、少女の体の一部となるのだろうか。

 うん、眼についてイジるのはやめよう。コンプレックスとかあるかもしれないからな。

 

「……意外と真面目なんですね」

「さとりん? 何か言いました?」

「いいえ。それより、私は古明地さとりと申します。地霊殿の──」

「私の嫁です!!」

 

 さとりの言葉を遮るようにアッサスィーノが被せた。

 

 嫁、妻、配偶者……。アッサスィーノもさとりも女の子に見えるのだが、何時からか幻想郷は同性婚ができるようになっていたらしい。

 さとりも満更でもなさそうだし、真実なのだろう。

 

「ほう、妻とな。同性婚とはやるな。馴れ初めはどんななんだ?」

「えっと……まあ、色々ありまして」

 

 惚気けると思って訊いてみたのだが、予想に反してアッサスィーノは俯いてしまった。

 

 悲しみや後悔といった感情が瞳に見え隠れしている。この表情は……ああ、俺と同じだ。きっとこの幼い少女にも、顔に翳りを落とすような薄暗い過去があるんだ。

 

 少し強引かもしれないが、お茶らけて気持ちを上げてもらいますか。

 

「他人に言えないか。さてはエッチな出逢いだったんだな、このおませさんめ」

「ッッエ……って、何この人初対面なのに酷い?! 参っちゃうんですよね!」

「ですよね言いたいだけですよね?」

 

 うんうん、どうやら調子を取り戻したようだ。

 まあ、初対面でこんなこと言う俺の印象は最悪だろうけど、幼女の笑顔には変えられない。別にロリコンではないけど。

 

「で……ここどこか分かります?」

「サッパリだけど?」

「ですよね」

 

 ですよねって言いたいだけですよね?

 

 それにしても、見覚えのない光景だ。少なくとも慣れ親しんだ妖怪の山やその近くではない。

 

「まあ端的に言うと幻想郷です。貴方が居た幻想郷とは別の」

「俺の居た幻想郷とは別ぅ? どういうことだってばよ?」

「簡単に言えば、平行世界ってやつです」

「あぁ、なるほどな」

 

 衝撃的ではあったが、すんなりと受け入れることができた。

 そう、俺の元いた世界に、愛杉・アッサスィーノ・スカーレットという吸血鬼はいなかった。そしてまだ確定はしていないが、俺という妖はこの世界にいないようである。

 

 ん? つまり、アッサスィーノ=平行世界の俺ってことになるのか?

 

「で、誰に連れてこられたんだ俺は?」

 

 馬鹿な考えに頭を振って、話を進める。まあ大方犯人に目処はついているのだけれど。

 

「覚えてないんですか? 紫さんが連れてきたんですよ、こっちの世界の」

「あぁ……だよな。どの世界でも厄介なのは変わりないな」

「そういうものですからね彼女は……」

 

 遠い目をしているアッサスィーノを見ると、だいぶ彼女が紫に振り回されてきたことが窺える。こっちの世界の紫は、うちの世界の紫よりもヤンチャかもしれない。

 

 そんなことを話していると、突然目の前の空間が裂けた。ギョロリと覗く無数の眼球。紫がスキマと呼ぶ、いつ見ても悍ましい世界が姿を現す。

 

「何か言ってたかしら?」

 

 端から聞いていたくせに白々しい。俺は長い息を吐いて肩を竦めた。

 

「イエ、ユカリサンハキレイダナト」

「随分カタコトね……まあいいわ。それでどうかしら? 禍津神砕過。こちらの幻想郷は」

 

 その質問はちょっと訊くのが早くないか? こちとらまだ目覚めて数分だぞ。ほとんど二人の女の子と会話しただけだ。

 

「まっ、イレギュラーって存在が本当にあるとは思わなんだ」

「私の事です?!」

「そりゃそうだろ。アッサスィーノ――長いからアッサでいいか? お前、全くもって力が読めないんだよ」

「う、嬉しいです」

 

 何故か照れているアッサに苦笑する。果たして嬉しがるところなのだろうか。

 

「こうして見ると、年端のいかない幼女にしか見えないな」

「ひど?!」

 

 レミリアのような高圧的な雰囲気がないから、羽や八重歯に目を瞑れば吸血鬼とすら分からない。良く言えば親しみやすい、悪く言えばカリスマがない。

 

「あ、あの」

「ん? どうした、アッサ」

 

 歯切れが悪い。アッサが何か言い淀んでいる。

 

「何故貴方は──」

「そんなに心の中が真面目なんですか? って聞きたいんですよね、アッサさん」

「え? いや、違」

「そうですよね?」

「は、はい」

 

 何やらあっちでやり取りがあったみたいだが、これは何故真面目なんですか? って質問でいいのかな。

 真面目……か? 今までの俺の態度を見てそう言っているのなら、少し頭が心配だ。永遠亭で診てもらった方がいいのではと思う。

 

「俺なんかが真面目に見えるようなら、医者に診てもらった方がいいぜ?」

「うんうん、この人真面目に見えな──」

「お腹の中アルマゲドンにしたろか?」

「ピッ?! すいませんでした……」

 

 大袈裟に仰け反るアッサの反応が面白い。絶対に君スカーレット家の末っ子でしょ。イジり甲斐がありそうな顔してるよ。

 ……こんな思考をしているところで、自分は真面目ではないなと省みる。

 

「と、とりあえず探索しますか?」

 

 恐る恐るといった感じでアッサが提案する。少し怯えさせ過ぎたかもしれん。俺は可能な限り柔らかい表情をするよう努める。

 

「そうだな。俺やること分からんし、ついでにこっちの幻想郷のことももっと知りたいしな。ついて行く」

「じゃあ、一回紅魔館に行きますか」

 

 そんなこんなで、目的地は紅魔館と相成った。

 この世界のレミリアやフランは一体どうなっているのやら。俺が切に願うのは、フランの料理は二度と食べたくないということだ。




はい、こちらが禍津神砕過君視点です!
ではまた次回。
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