リコリス・ラジアータ   作:暇を司りし神

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前回までの上々に奇妙なリコリス・ラジアータッ!

 タナトスの力により、突如ガチルノに変貌したチルノ! こっわ何これこっわ。こんな状況で続きを書けと無茶ぶりされたエタリオウ! どうしろって言うんだよ。


恐ろしき自然の力……?(禍津神砕過君視点)

 小柄だった体は何処へやら。筋肉が歪に隆起し、ガチムチへと変貌してしまったチルノ。こんなん親が見たら泣くやろ……。

 

「……壊れないでね?」

「ピィッ!」

 

 ガチルノの姿が掻き消えた。

 一番距離が近かったのがいけなかったか、まず狙われたのはアッサ。音すら置き去りにして、ガチルノが殴りかかる。

 

 マズい。いろいろ抜けているアッサが、あのゴキブリみたいな瞬発力を持ったパンチを果たして避けられるだろうか。

 

〝災纏・改〟

 

 グインとパンチの軌道が強引にねじ曲がった。不可思議な挙動、アッサは何事かと目を瞬かせている。

 

 俺は禍――災いを招く妖怪。

 この技は災いを自分自身に纏わせ、不幸を手繰り寄せる。要するに攻撃を引きつける避雷針となる技だ。

 少し前までは愛刀の名月の助けを借りなければできなかったが、永夜異変にてコツを掴んだことにより自分だけの力で発動できるようになった。

 

 よって、パンチという名の不幸は俺に向かってくるわけで。咄嗟に俺は名月を間に挟み込む。

 

「……っ、重すぎだろッ!」

 

 ギシっ、と体中が軋むのを感じた。

 稲妻のような衝撃が腕を突き抜ける。膂力が違い過ぎて踏みとどまることができない。地面を抉りながら後ずさった。

 

 冷や汗が流れる。コイツはさっきまでの能天気なチルノと思ってはいけない。情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、そして何よりも速さ。どれを取っても段違いだ。

 

 ちと口が悪いが、底抜けに明るかったチルノをこんな怪物に仕立てたタナトスとかいう悪趣味なやつにファッ⑨という言葉を贈りたい。

 

「禍津神さん! 大丈夫ですか!?」

「禍津神って苗字、厨ニっぽくてあんまり好きじゃないから下の名前で呼んでくれねーかな!」

 

 返事をしながら、驟雨のように絶え間なく繰り出されるラッシュを紙一重で躱していく。余所見している暇はあんまりない。

 

 岩の如くゴツイ拳が顔面のすぐ真横を通り過ぎる。ふわりと髪の毛が靡く。ひんやりとした冷気が頬を掠めた。

 

「……冷えるな」

 

 あの冷気はヤバいな。禍センサーがビンビン立っている。

 こっちの世界のチルノがどうかは知らないが、俺の世界のチルノの能力は『冷気を操る程度の能力』。仮に能力が同じだとすれば、少しでも拳を受けようものなら氷づけにされてしまうぞ。

 

「ったく、筋肉モリモリのマッチョマンになっても能力は健在とか……つくづく神様ってヤツは優しくないな」

 

 頬を通して伝う冷気に、思わず悪態をついてしまう。できれば決着は早めにつけたいところだ。

 

「あたいにも、剣があれば……。

 〝アイシクル・ソード〟」

「おいおい、氷の剣を造っただと!?」

 

 状況がどんどん悪くなっていく。面倒のやつが面倒なものを持ってしまった。

 徒手空拳から長物に持ち替えたガチルノは、正に鬼に金棒。それに対して俺は鞘に入れたまんまの大太刀。いやさっさと抜けよとツッコまれそうだが、俺にはこの訳ありの剣を抜刀できない理由があった。

 

 名月――幾星霜と俺の災いを溜め込んだ相棒は結果として、くそ悍ましい姿となっていた。

 あの刀身の色を表すにはなんと言えばいいのか。ただの黒では全然足りない。もっともっと暗く、皮肉なことに先程戦ったルーミアの闇よりもずっと淀んでいる。

 

 そんなエゲつない刀身を晒したら引かれるに決まってる。アッサもさとりも悪いやつじゃないってことは分かるんだ。でも絶対に引くね。だって本人の俺でさえ趣味が悪いなって思ってるもん。

 折角できた異郷の知り合い、失うには惜しい。だからこそ俺は抜刀できない。ガチルノを相手に、こんな縛りプレイをしないといけないとはな。

 

「だが形を変えても氷は氷。強度はないようだな!」

 

 氷の剣と切り結んでいると、二三回刃を交えたところでガチルノの剣が砕け散った。

 しかし、意味が無い。武器を破壊したところで、ガチルノはすぐさま新しい剣を造り上げる。

 

「コレがあたいの、無限の氷製! やっぱり最強はあたいねっ!」

「あ、頭が良い……っ!」

「そしてコレを射撃ぃ!」

 

 掛け声とともに生み出された武器の数々が、矢の如く勢いで打ち出される。剣だけではない。槍や斧、果ては刺叉(さすまた)まで何でもござれだ。

 

 参った。俺は剣技が達者じゃないから、これらの氷細工を弾くことしかできない。達人なら弾き返してガチルノの脳天にぶち当てるくらいはできるのだろうか。

 というかなんで触れてもない刀剣が射出されんだよ、おかしいだろ。

 

 弱音はそこまでにしておく。

 目を凝らす。迫る氷の刃に意識を傾けろ。こんな脆いガラス細工に怖気づく必要があるのか?

 

「アッサたち、口を塞いでおいた方がいい。コイツぁ、吸い込むと肺が痛むぜ?」

 

 影のように災いが地面を這う。或いは、蛸の触手のようにガチルノの氷に巻き付く。

 

〝砲禍・砕き〟

 

 パリィンッと硝子が砕けたような音とともに、氷塊が落ちる。氷の塵が辺りに舞った。

 

「あ、あたいの氷が!」

 

 動揺しているガチルノに肉薄する。心が痛むけれど隙を与えるつもりはない。

 ハッ、とガチルノも拳を構えた。

 

「あたいは接近戦でも、最強ッ!」

「悪いが、一瞬でケリをつけさせてもらう」

 

 災いをちょっぴり解放する。周囲に、陽の光を呑むほどに淀んだ風が、どこからともなく吹き荒れる。

 

〝砲禍・連〟

 

 黒い靄だった災いが、次第に形を成していく。次の瞬間には、無数の弧線がガチルノを覆っていた。

 

「またの名を――初見殺し、だ」

 

 禍とは、災いを招くとされる妖怪。つまりある程度の事象は起こせるわけで、俺は今、災いを幾つもの斬撃に変えた。

 剣の嵐が向かってくるなんて、とんでもない災いだよな。

 

 ガチルノは訳が分からないといった様子でがむしゃらに拳を振ったが、抵抗虚しく漆黒の波に呑み込まれてしまった。

 

「うわあ、エッグい。チルノさん生きていますか?」

「安心してくれ。鞘越しに叩いただけだから死んではない、はず」

 

 地に伏したガチルノに目を向けると、ピクピクと痙攣しているのが確認できる。良かった、まだ息をしている。

 

「さっ、気を取り直して紅魔館に向かうとするか」

「そ、そうですね! 行きましょうか!」

 

 そう言うアッサの顔は引き攣っている。

 この程度の災いで驚いてたら、名月を鞘から抜いたら卒倒しそうで不安である。まあ、名月を抜刀するようなことはそうそう無いだろうが。

 

「……何処に、向かうだって?」

 

 その時であった。

 後ろから近づく不穏な人影、ザッと地面を踏む音が辺りに響いた。

 

「あたいはまだ、負けてないっ!」

「チルノさん! 姿が戻って――!」

 

 ボロボロになった()()()が、そこに佇んでいた。覚束ない足取りで、意識を保つのさえ苦しいはずなのに、チルノは立ち上がっていた。

 

 一体何がそこまでチルノを突き動かすのか。いや、分かりきっている。

 最強への誇り――それだけだ。

 

「……お前は凄いよ、チルノ。その状態で立ち上がるなんて、精神的には俺なんかよりずっと上だ」

「当然。あたいは、最強なんだから!」

 

 えっへんと無い胸を張ってみせるチルノだが、その表情はやはり苦しげ。無理をしていることは一目瞭然だった。

 

「だけど、あんまり無理するな。お腹の中、アルマゲドンなんだろ?」

「そんなこと……ない!」

 

 どう考えても強がりであった。

 俺の災いは確実にチルノの体を蝕んでいて、さっきからギュルルると物々しい音がチルノのお腹から聞こえてくる。間違いなく腹を下しているはずだ。

 

 それでもなお虚勢を張るのは、最強はみっともなくトイレに行かないからか。

 

「チルノ……。最強でも腹くらい壊すこともある。行ってこいよ、トイレ」

 

 宥めるように、精一杯の優しい声色を作って語りかける。そうだ、トイレに行かない人間なんていない。咲夜さんのような完璧超人であっても、数え切れないほどのトイレを乗り越えてきたはずだ。

 

「……トイレに行っても、あたいは最強?」

「ああ、間違いない」

 

 力強く肯定する。トイレに行って揺らぐほどの最強があるものか。もしあったらゴメン。

 

「うん、分かったよ。あたい……トイレに行ってくる」

 

 ようやくチルノは決心がついたようだ。目の色が明らかに変わった。今のチルノなら、きっとどんな腹痛だって乗り越えられる。

 

「うぅ……良い話ですねぇ……。ねえ、さとりん?」

「えぇ……。何なんですか、これ」




前書きはエタリオウさんの心の声だそうです。
……そこまで無茶振りした記憶ないんですがねぇ?

https://syosetu.org/novel/235521/

でこれがエタリオウさんのからくさに行けるリンクですね。(分からない)
とりあえず、次回もよろしくお願いします
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