NEW HORIZON〜蒼き炎〜 作:Eeny,meeny,miny,moe
12.篩にかけられた若者たち
青く、まだ青い僕ら。
ひたすら息を吸ってばかりで苦しいのは、ゆっくり吐くことを無意識に忘れているから。
それに気付いた時、
第三章『群青』
青く光る煌めきに、魅せられる。
*** *** ***
年が明けて、一週間と少し──。
ボーダー本部には、新入隊員が集められていた。元々の知り合いや仮入隊で仲良くなった者と話して待っている隊員もいれば、不安か、あるいは期待か。一人で静かに待っている者もいる。海夕もその一人であった。
無事ボーダーに戦闘員として入ることとなり、嬉しさのあまり学校で朝から萌恵に突撃をしてしまったこともあったが、それもいい思い出だ。
そんなことも思い出しながら、海夕は緊張を和らげていた。今日は新入隊員の正式入隊日である。
全員が集まって少しした頃、時間になり壇上に一人の男が立つ。それに気付いた者から姿勢を正し口を閉じ、ざわめきはやがて収まる。
海夕は男を見て思わずあ、と零してしまったが、幸いにも小さな声だったために誰にも気付かれなかったようだった。というのも、男に見覚えがあった。どころか、命の恩人だったのだから。
「ボーダー本部長、忍田真史だ」
男──忍田真史はそう名乗ると、簡潔に、尚且つ熱い言葉を新入隊員への挨拶とした。その塩梅加減が、さすが出来る男である。それだけ忙しい身であるとも言えるが。
その後流れる様に説明を嵐山隊に引き継いだ忍田は去り、入れ替わるように嵐山隊の面々が並ぶ。ボーダーの顔であり、三門市では半分アイドルのような存在である
海夕は嵐山隊が、それも嵐山がそういった存在であるとボーダーに入るために調べた時に知ったが、海夕としてはどちらかというと素の嵐山准の方が馴染みがあったために、実際の人気を目にしてその凄さを実感していた。
ざわめきがある程度落ち着くのを待って、嵐山はポジション毎に
「さて……」
移動が済んだことを確認し、嵐山は早速話し始める。まず改めて名乗り、そして入隊を祝う言葉。途中嵐山は海夕と目が合って、視線を和らげた。海夕はにっこり笑って返した。
そして嵐山は続けてB級に上がる条件や方法を説明し、訓練の体験に移る。
C級のランク戦のブースに案内され、訓練──対近界民戦闘訓練が始まる。詳しい説明をされるが、入ってすぐ、いきなりの戦闘に動揺と驚きを隠せない新入隊員。中には仮入隊組なのか自信ありげな隊員もいたが、大抵は不安そうな面持ちだ。
海夕も初めてであるため不安もあったが、最初から上手くできる人なんてひと握りだと割り切っていたので、良い具合に肩の力は抜けていた。
『4号室用意』
オペレーションの声が聞こえて、海夕は閉じていた目をぱっと開く。
初めてではあったが、戦闘体となって軽くなった身体、そして銃手トリガーならではの、抜いて撃つというツーステップの動作。脳内でシュミレーションを何回かしていたし、制限時間は五分とそれなりにある。いける、と自分を信じて合図を待った。
『始め!』
海夕の思考は、クリアだった。作戦もいたってシンプルである。合図が聞こえた瞬間に急所に飛んで近付き、ホルスターから抜いた銃で急所に集中させてアステロイドを放った。
あの日姉と兄を奪ったフォルムによく似た姿に、ほんの僅か殺意をのせて。
訓練用バムスターの動きが止まり、時間のカウントも同時に止まる。表示されている残り時間は『04:56.10』。
つまり海夕の記録は──五秒を切っていた。
ブースに入っていない新入隊員や、そんな新入隊員たちの様子を見守っていた嵐山隊、様子を見に来ていた数人の正隊員は皆等しく驚く。
木虎の九秒という最短記録を破ったのもそうだが、それが
「すごいな……」
「そうですね。まさか二人も出るとは思いませんでした」
嵐山はそばに居た時枝から言葉が返ってきたこと一瞬驚き、そして声に出ていたのだと理解する。
「そういえば、今の子は嵐山先輩が気にかけていた子じゃないですか?」
「そうだったか?」
「はい。説明の時もアイコンタクトしていましたよね」
自分の立場を理解している嵐山は、海夕が入ると聞いた時からもちろん心待ちにしていたが、それを表に出したつもりは全くなかった。しかしそれでも気付くのが時枝充という男である。これでまだ十五歳というのだから恐ろしい。
「あぁ……充には隠せないな。彼女は、海夕ちゃんは佐補の友達なんだ」
「なるほど、それで」
簡単な嵐山の説明にも、色々腑に落ちたように納得する時枝。
二人はその後の新入隊員の様子も見守りながら会話を続けるが、再び大記録を出す隊員はいなかった。
大型
*** *** ***
入隊してから数日。海夕はまだ慣れない様子でラウンジの一席に座っていた。所在なさげに壁にある時計を確認しながら、水を少しづつ飲んで時間を潰す。
休日ということもあり周りにはワイワイと話すC級隊員達や、ログを確認するB級隊員などで溢れていたが、海夕は知り合いと言えるような間柄の隊員が居なかったため、少し居心地が悪そうだった。
賑やかなラウンジに、誰かを探すように見回しながら入って来たのは小柄な少年──緑川駿だ。海夕と同じC級の隊服に身を包んだ彼は一人のようだ。
やがて緑川の視線がラウンジの一角、海夕のいる場所で止まる。そして好戦的に口角を上げた。そのまま海夕の元へと向かうが、時間を気にしている海夕は気付いていない。
「……ねぇねぇ」
側まで寄り、緑川が声を掛ける。呼びかけで彼の存在に気付いた海夕が顔を上げた。
「はい、私ですか?」
「うん、そう。あんたってさ、この前の入隊で4秒出してたよね?」
「たまたまですが、一応そうです」
「ふーん。ま、オレの方が早かったけどね」
「そうなんですか!凄いですね」
対抗心が隠しきれていない緑川に対し、海夕は純粋に緑川を褒める。緑川は少し勢いを削がれたように鼻白んだが、それでさ、と続ける。
「オレとランク戦しない?」
「今からですか?」
「うん、すぐにでも」
「うーん、申し訳ないんですが、この後用事があってもう少しで時間なので、また後日でも大丈夫ですか?」
ちらっと海夕が時間を確認すると、待ち合わせ時間まではまだあったが、移動を考えるともうラウンジを出たい頃合いだ。
「わかった、いいよ。忘れないでね」
「はい。あ、お名前を聞いてもいいですか」
「オレは緑川駿。あんたも中一だっけ?タメでいいよ」
「私は高槻海夕。そうだね、同い年みたいだしお言葉に甘えるよ。じゃあ、また」
海夕は暇を告げてその場を立ち去り、緑川は不完全燃焼のままの戦意を収めるためにソロランク戦の会場へと向かう。
こうして、大型新人同士の邂逅は終わった。
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
どうしても緑川とライバルにさせたかった……