NEW HORIZON〜蒼き炎〜   作:Eeny,meeny,miny,moe

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2.その雫が落ちるは

 

 いくつかあったおつかいの買い物があらかた終わり、三人は商店街近くの公園で休憩していた。

 立地のせいか、それとも時代のせいなのか、公園には人がほとんどおらず、時折散歩の人が通り過ぎていくだけだ。

 

「お姉ちゃん、後は何が残ってるの?」

「んーと、牛乳とかバターとか、冷たいものだけかな。最後にスーパー寄ってけば大丈夫そう」

「じゃあもう少し休憩できるな」

 

 海夕の質問に梨子はメモを見ながら答える。その答えを聞いて瞳に期待の色を乗せた海夕に佑輔は気付き、優しく笑いながらそう言った。

 海夕を真ん中にしてベンチに座る三人を、通り過ぎる大人たちが微笑ましく見ていた。

 

「じゃあ海夕、ブランコ乗りたい!」

「おぉーいいぞー。兄ちゃんが押してやる」

「やった!」

 

 案の定遊びたがる海夕に佑輔は遊ぶ許可を出す。瞳を輝かせながらブランコへ向かって走る海夕の、その喜びように二人は元気いっぱいだな、と笑みをこぼした。

 

「梨子、すまないけど荷物見ててくれ」

「りょ-かい。でも佑輔、長くなり過ぎないようにね。日が暮れる前に帰らないといけないから」

「うん」

 

 言葉を交わす双子。まだ中学生である二人は、小さくはなくとも決して大きいといえる年齢ではなかったが、5つも年が離れているからか幼い妹への庇護欲は一端の大人並にあった。

 海夕は自分が守る、という思いは強く、元々二人ともしっかりしていたのもあり、両親は安心して海夕を任せているのだった。

 

「お兄ちゃん、まだ?」

「ごめん!今行く」

 

 痺れを切らした海夕が兄を呼び、慌ててそちらへ走り出す佑輔。梨子はベンチに座ったまま、そんな二人を優しく見守っていた。

 

 

*** *** ***

 

 

(——何だろう、凄く嫌な予感がする)

 

 梨子がふと走った悪寒に身を震わせたのは、海夕が遊びはじめてそう経たない頃。寒くもないのに鳥肌が立った腕をさする。

 

 梨子は所謂()()()()タイプの人間で、その中でも特に梨子は並外れた勘の良さを持っていた。それは不気味なほどの正しさで、今まで一度も外れたことが無かった。

 

 過去にも嫌な予感というものはあったが、これ程のものは初めてだ。

 ……というより、普段を平穏に過ごしているには感じることの無い、感じてはいけない類いの予感だった。

 梨子は自分の感覚を信じていたが、いや信じているからこそ、これほど外れて欲しいと願ったことはない。

 

「……梨子、どうした?」

 

 そんな梨子の異変に気付いたのは佑輔で、心配するような視線を向けた。遊んでいた海夕もブランコを揺らすのをやめて二人を変わるがわる見る。

 

 梨子は安心させるように笑おうとしたが、顔が引き攣って上手く笑みを作れない。梨子が自分で思っていた以上に緊張しているらしかった。

 

 佑輔はそんな梨子の表情を見て、すぐに事の重大さを察し、海夕を連れてベンチまで戻った。三人は再び並んで座るが、先ほどまでの穏やかな空気はもはや跡形もなく、温かな昼下がりには似つかわしくない緊張が辺りを支配していた。

 

「……佑輔、海夕。今、凄く嫌な予感がしたの。急いでこの場を離れた方がいいと思う」

 

 深呼吸をして何とか心を落ち着けた梨子が状況を説明する。二人は息を飲み、驚きで目を見開く。

 

「一体何が起こるんだ……?」

 

 思わず、といった風にこぼれた佑輔の言葉に、梨子が首を振る。

 

「わからない。でもこれは単なる嫌な予感じゃなくて、なんていうか、危ない感じがするの」

「そうか。梨子がそういうなら何かヤバい事か起きそうだな」

「……お姉ちゃん。海夕達はどこに行けばいいの?」

 

 気丈に何をすべきか行動の指示を求める海夕だったが、その小さな背は震え目には涙が浮かんでおり、恐怖心を何とか抑えているのがわかる。

 

(海夕がここで泣き喚いて、お姉ちゃん達の足を引っ張るわけにはいかない)

 

 キュッと口を引き結び、その思いだけで何とか堪えていた。

 

「……川の方へ行こう。何となくそっちの方が大丈夫な気がする」

「そうだな。何があるのか分からない以上、梨子の勘に任せちゃうことになるけど……すまんな」

「大丈夫」

「仮に何かあってもお前のせいじゃないからな」

「海夕もそう思う!気に病まないでね」

「うん、ありがとう。……じゃあ行こっか」

 

 小走りで公園を後にした三人は、今いる場所からは南にある川を目指す。その間も梨子が感じている嫌な感じは消えてくれない。

 

「梨子。母さん達に連絡するか?」

「うん、お願い」

 

 佑輔は返事を聞くと、すぐにポケットから携帯を取り出し電話をかけた。そのために三人は少し速度を緩める。

 

プルルルル プルルルル

 

「……ダメだ。出ない」

 

 何度か呼び出し音がなるが、やがてアナウンスが流れ佑輔は電話を切った。

 家事などで出れないことはよくあるはずなのに、今ばかりは焦りを禁じえなかった。

 それでも諦めずに何度か掛け直すが結果は変わらない。一応留守電とメッセージを残しておくことにした。

 

「とりあえず、これでいいかな。早く見てくれるといいんだけど」

「ありがとう。ちょっと急ごう。胸騒ぎがする」

「っわかった。海夕、大丈夫か?俺がおぶってやるか?」

「大丈夫。自分で歩けるよ」

「辛くなったら言えよ」

「うん」

 

 再び速度を上げて街を駆け抜けていく三人。すれ違う人々は一瞬驚くが、子供ということもあり対して気にも留められなかった。

 走り抜ける三人をよく見ている人がいたのなら、その表情は緊迫していて只事ではないことに気付いたかもしれないが、どちらにせよ何も変わらなかっただろう。

 

(どうか酷い事が起こりませんように……!)

 

 そう願う梨子の想いも虚しく、三門市の空に黒い稲妻のような何かが走り地上に落ちたのは、それから間もなくのことだった。

 

 

*** *** ***

 

 

ドオォォン!

バチバチッ……

 

 辺りに響き渡ったその大きな音に、三人は思わず足を止めて振り返った。

 そして、見えた光景に絶句する。

 

 ただの稲妻でないことは分かっていた。晴天の空に、それも黒色の雷なんて落ちるわけがないのだ。何より、それが落ちた場所には大きな空間の裂け目の様なものができていた。

 裂け目の向こうは真っ暗で何も見えない。

 

 と、突然その裂け目からニュっと白い何かが出てくる。

 

 出て来た何かは、まさしく化け物とでも呼ぶべき姿をしていた。そこらの家より大きい体と、その割に滑らかな動作。何の物質なのかよく分からない、硬そうな体表。

 それが何体も次から次へと裂け目から姿を現す。

 

「なに、あれ……」

 

 梨子が呆然と呟く。

 

 まるで漫画やアニメを見ているようだった。そんな非日常の悪夢。きっと隕石が落ちてくるよりも信じられない、想像も出来ない、空想の様な現実(リアル)

 

 黒い稲妻が落ちた時の音や遠くから響く悲鳴や破壊音につられ、三人がいる周りの家の窓やドアが開いた。そして状況を確認した人々は三人と同じように呆然と見ていた。

 

 あんなにも晴れ渡っていた空にはいつの間にか雲が掛かっており、急速に天気が悪くなっていく。

 雷を遅れながらも偽装するような天気の移り変わりに笑う余裕も無い。

 

 パラパラと雨が降ってくる。

 今は降り始めたばかりのこの雨も、やがて本降りになるだろうことは予測出来る。

 

 空を見上げていた梨子の頬にポツリと、ひと雫が流れ落ちた。

 

 

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