NEW HORIZON〜蒼き炎〜 作:Eeny,meeny,miny,moe
あぁ、ようやくだ。
車内アナウンスが流れて、次が新弓手町駅であることを確認する。海夕は電車が止まったら直ぐに出れるよう、忘れ物がないか周りを見回して確認した。
遂に、懐かしい三門の地を踏むのだ。
そう考えたら逸る気持ちを抑えきれずに、海夕は誰が見てもそわそわと落ち着かない様相をしていた。
電車はそう経たずに減速し始める。慣性の法則に従って体が傾き、海夕は近くのポールに掴まってやり過ごした。そして完全に車体の動きが止まり、扉が開いた。
電車から降り、駅から出た海夕は人の邪魔にならない場所で一度立ち止まり、深呼吸をしてから周りをよく見た。先の侵攻により駅の場所が変わっているため、見慣れた景色では無かったが、それでも懐かしいことに変わりは無い。
ようやくだ。と、再び海夕は思う。
あの日、三門から離れた地でみた会見からボーダー入りを決意して約二年の月日が経っていた。叔父一家の説得や年齢など、諸々がありそれほどの年月が経ってしまっていたのだ。けれども基礎体力を付けたりボーダーについて調べたり、決してその期間を無駄にはしなかったけれど。それでも、いや準備をしていたからこそ、より強く思うのかもしれない。
「ただいま、三門」
帰ってきた海夕を歓迎するかのように、一筋の風がふわりと吹き抜け海夕の長い髪を揺らした。
*** *** ***
「いってきます」
「いってらしゃい、海夕ちゃん。気をつけてね」
「うん。でも中学生になったんだし大丈夫だよ」
晴れやかな朝、海夕は東家から学校へと出発する。先日第三中学校の入学式を終えたばかりで、真新しい制服に身を包んだ姿は初々しい。
海夕は現在、母方のはとこである東春秋の実家にお世話になっていた。父方の親戚は三門市外にしかおらず、母は兄弟が居なかったために三門にいる一番近い親戚が東家だった。そんな事情だったから東家とは以前から交流もあり、今回もすんなりと受け入れて貰えたのだ。一人息子である春秋が既に成人し家を出ていたのもあるだろう。
三門へ戻るにあたり、心配した叔父一家はいくつか海夕に条件というか、約束事をいくつかした。そのうちのひとつが小学校はこちらで卒業すること。当時海夕は小学四年生だったから、心配するのも当たり前のものだろう。それを海夕も理解していたから、気持ち的には早く戻りたくともそれを承諾したのだ。
叔父たちが海夕の考えを頭ごなしに否定するのではなく、純粋に海夕を思いやっているのが伝わっていた。
そう時間も掛からずに学校へ着き教室に入る。ホームルームが始まるには少し早い時間だからか、クラスは半分ほどしかいない。何にせよ、まだ海夕は友達と呼べる関係のクラスメイトはおらず、一人静かに席についた。
入学してからそんなに経っていないが、クラスでは既にグループが出来ている。中学入学を機に引っ越してきた海夕は、それもかつてとは違う地区であったため、他の生徒のように小学校からの知り合いが居ない。初日から何となく出来ていくグループに入りずらかった。
(まぁ、小学校の時もそうだったし慣れてはいるけど)
そうは思いつつも、でも出来るなら友達が欲しい、と準備を終え手持ち無沙汰になった海夕は思う。
実のところ、海夕に声を掛けようとした生徒はいたのだ。しかし、海夕はどこか他の生徒とは違っていて、良くも悪くも浮いていた。オレンジがかった美しい茶色の髪色もそうだったし、中学に上がったばかりにしては大人びた、凛として整った顔立ちや立ち振る舞いもそう。単純に海夕が緊張していたこともあり、周りは羨望、あるいは多少の嫉妬を持って遠巻きにされていた。
人と違う存在というのは、多感な思春期でなくとも一線を引かれやすいものだ。それが憧れであれ、何であれとも。
「おはよー」
新たに登校してきたのは、いわゆる人気者(と海夕は思っている)だった。男子女子関係なくすれ違ったクラスメイトに挨拶をして、その女子生徒は席につく。彼女──嵐山佐補は、元気なスポーツっ子である。その明るく気さくな性格は、そのまま交友関係の広さに直結していた。
ずっと誰かしらと話す佐補を海夕がさりげなく見ている中、時間が経つにつれ生徒が続々と登校し、教室が段々と騒がしくなっていく。海夕は明日から本でも持ってこようと決意していると、ようやく担任が入ってきてホームルームが始まった。
*** *** ***
嵐山佐補は、ここ数年少しだけ辟易としていた。
というのも、この『嵐山』の性に──正確には自分の兄である嵐山准に、原因はあった。
元々兄は幼い頃から近所の間、学校の間では人気者だった。整った顔立ち、人より優れた頭脳や身体能力、そしてそれだけの能力を持ちながら全く鼻にかけることなく、正義感の強い、妹弟思いの優しい兄。それが上っ面じゃないことを愛を向けられる佐補と副はよく分かっていたし、少し暑苦しいと思うことはあれど、尊敬できる大好きな兄である。しかし。
佐補たちが小学校に上がる頃になると、周りが騒がしくなったのだ。
特に佐補の周りは女子ということもあり、ませた子たちが准に近付こうくために佐補を利用しようとする事が急増した。低学年の頃はそれこそまだ准の事を聞くくらいの可愛いものだったが、高学年になるにつれ仲を取り持って欲しいなんて言われることもままあった。それも、年上の女子から頼まれることもそれなりに。
そしてそういった出来事は准がボーダーに入り、その見た目の良さを生かして広報活動を始めた頃からもっと頻繁になる。近所間で済んでいたのが、三門全体に広がったのである。
毎回佐補はきちんと断るため、相手を怒らせることはあったが幸いにも大事になったことは無い。それでもその数の多さに少し兄を恨みたくもなってしまう。
そんなだったから、正直中学入学は楽しみな気持ち半分面倒臭さ半分、と言ったところだった。中学となると複数の小学校から生徒が集まるからだ。
案の定、入学して間も無いというのにどこから聞き付けたのか、佐補を准の妹だと知り近付く人はそれなりに居る。それは新しく同じクラスになったクラスメイトにも。
しかしクラスでは一人、佐補からしたら不思議な雰囲気を持った人物がいた。その名を、高槻海夕という。海夕は中学上がり立てには思えないほど大人びていて、何となく近寄り難く感じていた。
印象が変わったのは、なんて事の無いある日の、なんて事ない出来事である。
授業終わり、片付けている途中で海夕が消しゴムを落としてしまった。そして近くを通っていた佐補が拾った、ただそれだけ。
『佐補ちゃん、だよね?ありがと!』
それだけだったが、お礼を述べた時に海夕が浮かべたパッと花が咲いたような表裏の無い笑みに、佐補が海夕に人として惚れた瞬間だった。
「佐補〜おまたせ!」
「こんくらいいいって。それより用事は大丈夫だった?」
「うん、大した事じゃなかった。先生に呼び出されるからびっくりしたよ〜」
「ホームルーム後に、高槻、ちょっと来い、だもんねぇ」
「はは、佐補それ似てる!」
そんな他愛ない話で盛り上がりながら、昇降口へと向かっていく。
佐補が見込んだ通り、と言うべきか、海夕は嵐山の名に反応することは無く、もしかしたら准の存在を知らないのかも、と佐補は思っている。確かに今まで見た事ない顔だったし、小学校はボーダーから離れた地区だったのかもしれない。
しかしそんな事よりも、海夕は話してみると初めの印象は何だったのかと思うほど明るく人懐っこくて、すっかり意気投合した二人は仲良くなっていた。それこそ、毎日一緒に帰るほどに。
校庭の桜はもうその体に緑を付け始め、輝かしいほどの新緑が顔をのぞかせていた。
佐補ちゃん色々捏造してますが悪しからず。でもたぶん絶対苦労してると思う。レズ展開は全くないです、男が男に惚れる、そんな感じ。
※一応補足
いとこは親が兄弟、祖父母が同じ
はとこは祖父母が兄弟、曾祖父母が同じ
です。