NEW HORIZON〜蒼き炎〜 作:Eeny,meeny,miny,moe
海夕は一人、放課後に図書館へ来ていた。
幼い頃からの知識欲もあり、元から活字や物語を読むのが好きだったから、小学校の頃からよく図書館に入り浸っていたほどだ。しかし中学ではまだオリエンテーションを終えたばかりで、少し緊張しながら扉を開けて中へと入る。
少しだけ埃っぽい、紙の匂いが海夕を出迎える。その匂いに安心を感じながら、手前の棚から順に見て歩いていった。
入室してからそう経たない家に気になる本を見つけて、手を伸ばす。が、あと少しのところで届かない。如何せん海夕の身長は同年の子達と比べても小さい方なのである。
周りを見回せば、ステップ台はあったものの少し遠く、持ってくるのが少しだけ面倒だった。あと少しで棚から抜き取れそうだったのもあり、海夕はそのまま頑張って取る事に決める。
しかし、数分格闘するもいくらやっても上手くいかなくて、やっぱり持ってこようか、と考え始めたとき、背後に何人目かの足音が聞こえた。そのまま通り過ぎるのとばかり思っていた海夕だったが、意外な事にその足音は海夕の近くで止まった。
「あの、どの本か言って貰えればぼくが取りますよ」
図書館という場所を考え、ボリュームを抑えた声。
驚いて海夕が振り向くと、そこに居たのは特徴的なアンダーリムのメガネを掛けた黒髪の少年だった。上履きにあるラインの色からどうやら上級生らしいと分かる。制服を全く着崩していないところに、彼の真面目さが伺えた。もしかしたら学級委員などをやっているのかもしれない。
「え、あ、じゃあ、お願いしてもいいですか?あの赤い装丁の本なんですけど……」
「わかりました」
急な申し出に驚きつつもここで遠慮する理由も無いため、言葉に甘えてお願いすれば彼はひとつ頷き、さっと取り出して渡してくれる。
「これで合ってますか?」
「はい、ありがとうございます」
「他には大丈夫ですか?」
「はい、これだけです。あの、本当にありがとうございます」
「いえ、ぼくはやるべき事をしただけなので……。それでは」
「あ……」
少年はぺこりと会釈をして去っていった。海夕は少しだけ呆気に取られていたが、先輩の優しさに心が温かくなり、いい気分のまま本探しを続けた。自分も困っている人がいたら積極的に助けよう、と思いながら。
……もちろん、身長が必要な事は除いて、だけれども。
*** *** ***
「貸し出しでお願いします」
「はーい」
小学校から中学校ということで、やはり蔵書数も増えラインナップも変わっている。たくさん読みたくなる魅力的な本がある中、なんとか残り一冊を決めてカウンターへと向かった。
カウンターの内で座って本を読んでいた図書委員に声を掛ければ、どこか見覚えのある風貌に海夕は目をぱちくりとさせる。
「……ってあれ、もしかして萌恵ちゃん……?」
艶やかな長い黒髪、涼し気でくっきりとした緑青色のアーモンドアイ。海夕の記憶より幾分か大人びていたが、萌恵のような紛うことなき美少女を見間違えるはずも無い。
驚いて思わず漏れた声は、静かな図書館には少々大きかったようで、席に座って本を読んでいた数人からチラッと視線を貰ってしまう。海夕は申し訳なさそうにぺこっと頭を下げる。
萌恵の方はと言うと、自分の名前を呼んだ目の前の少女を見ていた。海夕も同じだけ成長しているし、何より髪の長さもだいぶ変わっているため一瞬だけ思案顔になる。だが直ぐに海夕のくりっとしてるのに真っ直ぐな光を湛えた青色の瞳に、あの日の誓いの少女を思い出した。
しかしここにいるはずのない人物で、萌恵は信じられない気持ちでまじまじと海夕を見つめる。
「海夕、だよね……。久しぶり。こっち戻っててきたんだ?」
二人にだけ聞こえる程度の小さい声で話す。
「久しぶり。そうなの、今年からこっち来たんだ」
「そっか。中学入学で……。とりあえず、この本だけ貸出にしちゃうね」
「あ、お願いします」
そのまま色々話し出しそうな雰囲気の海夕に、本来の目的を果たすことにした萌恵。萌恵もまた、海夕とたくさん話したい事があった。だからこそ、用事を先に片付けようとしたのだった。
海夕のクラスを聞き、本人のバーコードをスキャナーで読み、次に本に貼られたバーコードを読み込んで完了だ。
「はい、これでよし。貸出期限は一週間です」
「はーい、分かりました」
「海夕はこの後時間あるの?」
「うん、部活とかは入ってないんだ」
佐補はまだ決まってないなら一緒に陸上やろう、と誘ってくれていたが、ボーダーに入ることを決めていた海夕は断っていた。もちろん誘い自体は嬉しかったのだが、部活もボーダーも、となるとどちらも中途半端になる事が目に見えていたからだ。ただ、佐補にはボーダーのことは話せなかった。まだ入れるか分からないというのもそうだし、
佐補は少し残念そうだったが、他にやりたい事がある、と理由を話して納得してもらっている。佐補に申し訳無かったが、彼女は割とあっさりしていて、やりたい事も聞かず、その引き際というか、塩梅が美味かった。さすがコミュ強どある。
「そっか。私も今日はこの委員会の仕事が終われば何も無いんだけど、もう少しで終わるから、良ければ待っててくれる?」
「あー……、ごめん、今日友達と帰る約束してて。部活終わるの待ってるんだ」
でもそれまでなら暇だよ、と続けるが、ここで色々話すのはね、と困った顔をする萌恵。
「そりゃそうだよね。ごめん、わかってるんだけど、萌恵ちゃんに会えたの嬉しくて、私が思ってる以上に興奮してるかも」
「全然大丈夫だよ。私も会えて嬉しいし!じゃあまた時間ある時話そっか?」
「うん。あっ、それなら、今週の土曜日とか空いてる?普通に遊び行かない?」
萌恵も土曜日は予定が無いようで、二人はその日に会う約束をする。手短に場所と時間だけ決めると、さすがに図書館で長く話しすぎたのと時間もちょうど良かったため、萌恵に手を振って図書館を後にした。
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