わたしが突撃バカで、あいつは狙撃バカ   作:クルスロット

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1.衝撃のファーストミッション

 ターゲットインサイト――視界に浮かぶターゲットサイトが一瞬、赤く染まり、また正常な緑になった。木々の隙間に居た標的である飛行ユニットは、わたしから逃れ、悠々と視界から消えていった。わたしは、また撃ちそこなった。そういうことだ。いや、そうじゃない。撃てた。トリガーを引く意志さえあれば、瞬時に、粉々にできたはずだ。

 肩から力を抜いて、コントロールグリップから手を離す。わたしの愛機(ヴィダール)は、用意されていたビームスナイパーライフルを空に向けたままで、メインカメラも空を睨んだまま。

 

 「…………毎度隠れてこそこそなにかやってたと思ったら、あいつ、ずっとこんなことしてたの?」

 

 わたしは、ため息混じりに呟いた。毎度同じ言葉、ため息。信じらんない。呆れた。ほとほと呆れた狙撃バカだよ、あいつは。

 辞めるなら辞めるで、もっと他にやることがあったはずだ。思い出づくりとかこう、色々だ。いくらガンプラバカで、ゲームに人生捧げたバカで、狙撃のことしか考えてない大馬鹿でもそれくらい思いついたはずだ。

 

 空から焦点を視界に浮かぶタイマーへ向ける。カウントダウンする数値は、ミッションの残り時間を示している。まだまだ時間は、いっぱい。

 なにせこの狙撃ミッションの制限時間は、三時間。三体の標的がランダムに、空を横切る。それを撃ち抜くのがこのミッションのクリア条件。さっきのが一体目。だから残り二体いる。

 なんて思っていたら影が空の彼方に消えていった。もう見えない。油断するな、そういうことだろう。あいつのやれやれと首を振る顔が思い浮かぶ。瞼がぴくついた。

 

 ちなみに、この狙撃ミッションは、1stミッション。手慰みに、スクロールしたミッション一覧を見て分かる通り、まだ2nd、3rdとある。

 しかもこれをあいつは、クリアしている。ほんとバカだ。わたしは、口を尖らせ、一覧を指で弾いた。くるくる回るウィンドウは、コックピットの隅にぶつかって、エフェクトと共に砕けた。

 プレイヤークリエイトのミッションを公開するには、まず自身でクリアしておく必要がある。クリア不可のミッションなんて、クソゲー極まるし、下らないからだ。

 あいつは、寝る間を惜しんで、作って、最後の最後に送りつけてきた……。もっとこう……あるじゃん!?

 

 「ばーっか!」

 

 そう思うとわたしは、無性に腹が立って、リタイアを全力で殴った。勿論、あいつの顔に見立ててだ。だからグーパン。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「どうだった?」

 

 「やっぱり狙撃は、向いてないです」

 

 「君、いつも突貫してるしねえ」

 

 「切り込み隊長としてやるべきことですし、性に合ってるので」

 

 わたしのメイン機体は、〈ガンダムヴィダール〉。カラーを赤に、動力を疑似GNドライブに変えた以外は、元の〈ヴィダール〉とそんなに変わらない。強いて言うなら近接武装を多めにしている。ガラッソを流用して指先にビームサーベルを仕込んでみたりとか色々だ。

 ビーム系の仕込み武器が欲しかったのとトランザムの出力増加が魅力的だったというのが主な理由。

 嘘。トランザムって叫びたかった。でも〈ヴィダール〉も使いたかったからこうなった。

 

 「まあ、リオが切り込んで、炙れたのをあの子、エルアが撃ち落とす。それを僕が援護をする。それがうちの鉄板戦術だったからね」

 

 ガンダムベースの喫茶スペースで、わたしと向かい合っているのは、わたしがGBNをやっていることを知っている二人の内の、残った方だ。わたしの所属しているフォースのリーダー。メガネで温和。狙撃バカのあいつと突撃バカのわたしを纏められるのは、この人くらいしかいない。

 ちなみにリオは、本名じゃない。アバターネーム。GBNとかこういうゲームやってるとリアルでもこっちで呼ばれがち。

 

 「これ、わたしがやらなきゃ駄目ですか? 途中で寝落ちしそうなんですよね」

 

 「君の元に送られてきたんだ。君がやった方がエルアも喜ぶよ」

 

 「嫌がらせですよ、これ」

 

 「そんなことないさ。あの子は、君を高く評価してた。直接は、言わなかっただろうけどいつもいつも褒めていたよ」

 

 「……直接、言ってもらわないと分かりませんよ」

 

 「……全くだね。本当に、そればかりは、君の言う通りだ」

 

 リーダーは、溜息をついた。深い深い溜息。会話の途切れ間、わたしは、頼んだカフェオレを冷めない内にと啜った。ああ、そういえばあの時もカフェオレだった。

 今と同じように、わたし達のフォースに狙撃手が居ない頃、宛がなくどうしようかと悩む日々に、あいつ、エルアが現れた。

 GBNで、わたし達が贔屓にしているカフェテリア。今日もメンバー募集は、空振り。今日は、どうするか話していたわたしとリーダーの間に割って入ったんだ

 

 『狙撃手、欲しいんだって?』

 

 気障ったらしい第一声だった。言葉自体は、大した何かがあるわけじゃないけれどどうにも口調、雰囲気が気障ったらしかった。どうして狙撃手というのは、どいつもこいつもこうなのか。どうしてロボットアニメの狙撃手は、高確率で、三木眞一郎なのか。いや、それは今関係ない。

 茶髪で、片方刈り上げたアシンメトリーの女。なんかちゃらちゃらしてる。ぶっちゃけ好きじゃない。気に食わない。

 というかリーダーだけしか見てねえ。わたしもフォースメンバーだぞ。こっち見ろ。おいこら。

 

 『おっ、君狙撃手なの? いいね! 使う機体は?』

 

 『勿論、デュナメ『寒気がする喋り方と服のセンス直してから出直して』――は?』

 

 乗り気なリーダーとエルアの会話を叩き斬ったわたしに、あいつが向けた視線で、評価がちょっと良くなった。なんだいい目をするじゃん。そっちの方がいいよ、絶対。

 

 『な、なに、ゴホン……なんだ、テメエ……!!』

 

 『このフォースのメンバーだけど? あ、今の喋り方なら大丈夫。二度と寒気がする話し方しなければ入っていいよ。あーでも服装は直して。声帯三木眞一郎じゃなきゃ許されないよそれ』

 

 『はっ、余計な世話だっての。誰がこんな迷惑失礼千万女がいるフォースに入るか』

 

 『あ、逃げるんだ。まあ、芋砂されても困るし、良かったかな』

 

 『だーれが芋砂だこのツインテール!! そもそもテメエはなんだよ、テメエは。テメエは何できるんだよ』

 

 『口で言うより早い方法あるでしょ』

 

 『いーぜ!? やってやろうじゃねーの! おら! バトルスペースいくぞ! ボッコボコのギッタンギッタンにしてやるわ!! 泣いて入ってくれと土下座するくらいまで、ボコボコにしてやるからな!!』

 

 『ふ~~ん、楽しみにしとくね。まっ、わたしといい勝負できればフォース入り、認めてあげなくもないかな~~』

 

 『うーん……僕がリーダーなんだけどなあ……』

 

 結論として、わたしとエルアは、五分五分だった。だからしゃーなしで、フォースに入れてあげたってわけ。

 

 「その挙げ句にこれかぁ……」

 

 「まぁ、君にかっこ悪い所見せたくなかったんだろうね。あの子、そういうとこあるから」

 

 「馬鹿みたいに負けず嫌いで、馬鹿みたいに意地っ張りでしたしねえ」

 

 「……まあそうだね」

 

 「なんです。その生暖かい目」

 

 「いーや? あっはっは。それで、どうするの? 今日は、止めにする? そろそろ僕は、「もうちょっとやります」了解。ま、遅くならないようにね」

 

 そう言い残したリーダーは、袋いっぱいのHGを背中と両手に持って、ガンダムベースから出ていった。あの財力、羨ましい。なによりあのパワーがあの巨乳を支えているに違いない……羨ましい。

 それからカップに残ったカフェオレを一気に飲み干して、わたしは、立ち上がった。

 

 「やりますかぁっ」

 

 負けたままは、癪だしね。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「はっはぁ!! わたしにかかればこれくらい余裕なんだわっ! 悔し涙を垂れ流して、頭を垂れるがいいわ!!」

 

 やっぱり、突貫突撃突破なんだよなあ……。わたしは、GBNにいた。挑むは、バトルロワイヤル。バトルロワイヤル専用にクリエイトされたこの一面の荒野には、無数のガンプラが蠢いて、鎬を削り、爆散している。

 わたしは、このわちゃわちゃしたカオス空間が好きだ。好きなだけ暴れて、好きなだけ倒す。たまに倒されるから仕返しに帰ってくる。無限ループだ。

 通りがかりの黒いザクⅡをGNビームクローで切り刻む! 熱したナイフで、バターを斬るが如き所業! あまりにも脆い!

 ぶっちゃけ言います。件のミッションの進捗最悪です。駄目だわ。ちょっと目を逸らしたらいつの間にか通り過ぎてる。ながら作業できないじゃん。きつすぎる。Vの者見ながらさせてほしい。もしくはRTA。

 

 「こんなもん送りつけてきて……! 絶対許さん。わたしは、絶対許さんぞ……! ばーっか!!」

 

 『派手にやってるじゃねえかぁッ!!』

 

 「はっ! この特徴的なバーサークボイスは!」

 

 なんて反応したと同時に振り下ろされてきたブレードに、フロントスカートから抜き出したハンドガンを合わせる。ガンカタしたさにブレードつけたりスパイクつけたりしたから強度は十分! 多分! 睨みつけてくるGN-XⅣの改造機、〈オーガ刃-X〉。武闘派で有名な百鬼、そのリーダー、オーガの乗機。そうつまり!

 

 『いつも通りふざけた特攻狂いだなァ、おい! 今日も噛み砕いてやるよ!』

 

 「かー!! かー許せんばい! めっさ許せんばい! 今日こそは、白星つけてやるばい!!」

 

 『……キャラが不安定すぎるだろ』

 

 「急に、真顔にならないで頂けますかっ!?」

 

 あーやっぱ〈オーガ刃-X〉のパワー高いんだよなー。わたしの〈ヴィダール〉が機動性に割いている分、正面からの殴り合いは、不利。まあ分かって正面から殴って来てるんだろうけどさ。あ、やばいやばい。押し潰される。

 

 『んで、どうすんだよ?』

 

 「――トランザム!」

 

 使い所を誤らない! 出し惜しみをしない! トランザムは、そうやって使うもんだ! とわたしは思う。拘束を抜けて、がら空きの背後に回り込んだわたしの目の前で、〈オーガ刃-X〉の粒子放出量も増大する。トランザムだ。赤い残像がブレードを引き連れてくるのをわたしは、見た。

 

 『来ると思ったぜぇ!!』

 

 「わたしもっ!!」

 

 著しく出力を増す〈オーガ刃-X〉を前にして、

 

 「ちゃんとトランザムで追ってきてくれるって信じてた!」

 

 わたしは、トランザムを解除する。一見自殺行為だけど相手がトランザムの速度を乗せ、ブレードを横薙ぎしてくるのに合わせて、減速。足を地面から離し、後ろに倒れ込んで回避。

 GNドライブの利点は、普通無理な体勢だとしてもこうして、浮かせてくれること! そして、ガンダムフレームの利点は、可動がよく運動性能が高い所! 間髪を入れずがら空きの横っ腹へ両手のハンドガンを連射し、そのまま滑るように、〈オーガ刃-X〉の懐から離脱、体勢を立て直した。

 

 『甘えェ!!』

 

 「びぃっ!?」

 

 ――所に、正面から叩きつけられた衝撃に、視界と頭がぐわんぐわん。何?! 何が!? つんのめって転がる機体を立て直して、衝撃の方を向いたら転がっているのは、〈オーガ刃-X〉のブレード。投げたの!? ウッソでしょ! 

 

 「ッ! トランザム!!」

 

 「ハッハァ!!」

 

 驚いている場合じゃない。起動コードを入力。再度〈ヴィダール(わたし)〉の粒子放出量が増大して、赤く輝いた。〈オーガ刃-X〉がブレードを拾いながら迫ってきた。ハンドガンで、牽制――いや、今は! 両手のハンドガンを〈オーガ刃-X〉目掛け投げつける。次に、脚部マウントしてあるバーストサーベルを引き抜く!

 

 「逃げるは恥! わたしができることは、ただ一つ! 突貫――――」

 

 『GBNの近接戦闘は、リアルの運動神経、反射神経が結構関係してくるんだ。俺は、お前が羨ましいよ。俺には、それが無いから』

 

 ――それ、今思い出すことか? なんて思ってるわたしへ敗北は、無慈悲に突きつけられた。

 ブレードが〈ヴィダール〉を膾切りにする。腕が肩ごと飛んで、返す刃とクロスに斬り裂かれた。

 

 『……ふん』

 

 オーガは、鼻を鳴らすと踵を返して、去っていった。次の獲物を探すんだろう。わたしは、あまりにも間抜けな結末に、しばらく立ち竦んで。

 

 「くっそ」

 

 呟いた――――エルアが見てたらどう思うだろう。なんて言うだろう。

 

 『なっさけな。めっちゃ笑えるんだが?』

 

 笑った顔で、嘲った口調で、そう言うに違いない。

 

 「いや、めっちゃムカついてきたな」

 

 

 

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