だけど怒りで、狙撃は、上手くならない。リーダーも狙撃は、いまいちで教えるのは難しいって言われた。なので、
『マギーさん、狙撃得意な人、教えて下さい!!!!』
『うーん、突然ね~~!』
GBN名物のマギーさん。紫髪に、赤いジャケットのグッドルッキングガイ。初心者を導く愛の伝道者。初心者の頃は、わたしもかなりお世話になった。よくログインしてるからちょくちょく女子会したりもする。
『でも貴方って、近接メインで、遠距離戦しないでしょう? 急にどうしたの? 方向性変える感じ~~?』
『実は、ガンガンダムダムでして……』
『ザクザクジムジム。なるほどね~~! 分かったわ! そういうことなら任せて~~!』
『さっすがマギーさん! 話が早い!』
『まっかせなさ~~い! じゃ、アポ取れたら連絡するわね~~』
『は~~い!』
とお願いしました。その場で、連絡。即オッケー。ルンルンで待ち合わせ場所に待機していたらその人はすぐにやってきた。
「君が狙撃を習いたいっていうプレイヤーでいいかな」
「そ、そうです! リオです! よろしくお願いします!」
ほ、ほんとにアヴァロンの制服だ……! 流石マギーさんの伝手……!! 聞いてはいたけど目の前にすると流石に驚くし、緊張する。
「俺は、ヒロト。見ての通り所属は、〈アヴァロン〉。できる範囲でレクチャーするよ」
「うっす! よろしくお願いします!」
「えーっと……とりあえず狙撃ミッションをクリアしたいって聞いてるんだけど、どんなミッションなの?」
「あ、こういうやつです」
ミッション内容をウィンドウに表示して、ヒロトさんに差し出した。どれどれと内容に目を走らせていくとヒロトさんの表情が少し険しくなった。うーん、やっぱそういう反応するよねえ。
「君、普段は、どういう風に戦うの?」
「真っすぐ行って、ぶん殴る。って感じですね」
「……大体わかったよ」
「じゃあ、とりあえずレクチャーを……」
「いや、その前になんだけどこのミッションさ」
わたしが出したウィンドウをヒロトさんは、差し出して、
「狙撃、必須条件に入ってないんだけど。それでも狙撃のレクチャー受ける?」
そう尋ねてきた。
「……………………へ? いやいや、あいつがそんなことするわけ――」
ミッションの内容、必須欄を舐めるように、入念にチェックして……あ"っ……。
「先入観でした……」
「君の感じからして、そのミッションをクリエイトした人は、かなり狙撃に入れ込んでたみたいだね」
「まあ、そうですね……。わたしが突撃バカで、あいつが狙撃バカ。そんな感じです」
「なるほど。それで、どうする?」
「えーっと、その、折角集まってもらって大変心苦しいんですが……」
めちゃくちゃ申し訳ない。うわーー……ほんとどうしよう。狙撃至上主義なあいつがこんなこと許すなんて、まったく思ってなかったから……。すごい言い訳だこれ。何がすごいって、言い訳になってないところ。
「良ければなんだけどこのミッション、同行させてもらえないか? 同行というか見学だけどどうだろう。一応、アドバイスみたいなこともできるかもしれない」
一瞬で、快諾した。
+++
「専用の密林のステージに、転移。スタート地点も絶好の狙撃ポイント。しかもお誂え向きに、ビームスナイパーライフルが設置されている。狙撃好きのダイバーが用意したものという事前情報があったら勘違いするかもしれないな」
「というか見学できるミッションだったんだ……」
次からは、ちゃんと要項読みます。はい……。
「まあ、今更だ。とりあえず上に上がってみよう。乗せてもらえるかな」
「了解です!」
〈ヴィダール〉を呼び出して、操縦席へヒロトさんを招き入れた。するとヒロトさんが感心したように話し出した。
「ヴィダールの動力をGNドライブにしているのか。武装もいくつか変えている……腕、ガラッゾのか。なるほど。より近接特化したのとビーム兵器を導入して、フェイズシフト装甲への対策をしているんだな」
「ひと目でバレちゃうんですね。そうですね。ビームサーベルを持つより早いですし、そのまま殴ってもいいので」
「ツイン・リアクターシステムに比べると基本出力が下がるけどGNドライブの柔軟性のある動きとトランザムは、かなり魅力的だ。とてもいいガンプラだと思うよ」
「えへへ……。ありがとうございます」
こう真正面から真面目にべた褒めされると照れちゃいますね……ふへへ。
「ごめん。偉そうなこと言ってたな……。他人のガンプラを詮索するのも失礼だった」
「いえいえ、全然。めちゃくちゃ嬉しいです」
「……そうか。よかった」
会話の途切れ目を合図に、〈ヴィダール〉を上空へ。樹々を押しのけ、空に飛び出ると一面緑が覆っている地上と青空が広がっている。ミッション専用の空間だから他に人影や機影はない。だから飛んでいるのは、この〈ヴィダール〉。そして、このミッションの標的である飛行ユニットだけ――。
「……えっ」
「これは……」
飛行ユニット――だけじゃなくない? 確かに三機いる。旋回している。空に上がると挙動が変わるのかもしれない。ただ、問題はそれじゃない。わたしとヒロトさんは、そのまだ上にいるものを見ている。
ズーム、ズーム、ズーム。拡大映像に、映っているのは、
「青い、ラフレシア……?」
「ラフレシアの改造機だと思う。大きい花弁の下に一回り小さな花弁がある。そうなると周りのユニットは、バグの改造か?」
「ちょっと丸っこいの見覚えある。あ、ハシュマルの……なんでしたっけあれ。あれを元にしてるんじゃないですかね」
「プルーマか。なるほど。そうかもしれない。ところで、」
言葉の途中で、接近警告――予想通り、プルーマだ。三機同時に迫ってくる。飛行ユニットもこれだろう。
「……やっぱ落とさないと駄目っぽいですね」
「そういうことだろうね。いける?」
「やりましょう! あ、ヒロトさん。ちょっと、いや結構揺れるんで気をつけてくださいね」
「邪魔にならないようにするよ」
肩を竦めるヒロトさんからプルーマ?に視線を戻す。接敵は、すぐだ。コントロールグリップを握り締め、スラスターペダルを蹴り押す。バカみたいな加速がわたしの体を後ろに引っ張り、前に押す。プルーマとの距離も見る見る、いやもうほんの一瞬で、ゼロになった。この距離がわたしだ。
「猪突猛進ッ!!」
二対五指――GNビームサーベルを展開。接敵と同時に1体を斬り捨てる。ゼロだった撃墜カウンターが1つ増えた。これでいいんかい!!
『くっくっく……だからお前はバカなのだ。目先のことにすぐ囚われる』
「東方不敗かっつーの!!」
あいつの声が聞こえた気がする。気の所為だ。幻聴だ。嫌になる。いい加減成仏してくれ。わたしの隙を突く相手を撃ったあいつは、大体こんなことを言ってた。ムカつく。けど分かる。だけどこう返さずには、居られない。
「君、大丈夫……?」
ヒロトさんの声が聞こえた気がする。ちょっと悪いけど無視しよう。
反転から次いで二機目、爆散。カウンターが増える。今までの時間を返せ。うっぷん混じりに3機目へ。乱射が来る。実体弾。あいつ製だから〈ヴィダール〉への対処が仕込まれている可能性がある。回避だ。回避して潰す。
途中まで、それでよかった。プルーマの尾が分離して、襲いかかってきた。有線兵器だ。インコムとかと同じ。下らない。鎧袖一触。〈ヴィダール〉のGNビームサーベルで、斬り落とす。
『だからお前はバカなのだ』
「同じことを、何度も何度も繰り返すなっ……!」
『目先のことにすぐ囚われる』
「そもそもあんたは、師匠でもなんでも無いでしょうが!! 狙撃手は、後ろにいるからよく見えてるだけでしょうが!!」
……前しか見てないのは、事実だ。内心ぶっちゃけ否定しづらい。だって、前ばっか見てるのが気持ちいいんだもん。後ろは、任せられる人に任せたい。だから、さあ! レールガンの弾幕を引きつけ、射線を逃れて、一気に斬り刻んだ。カウンターがまた1つ増えた――ミッションクリアが大きく浮かんだ。荒く息を吐く。肩が揺れる。GBNでは疲れないはずなのに。
「君、本当に大丈夫か?」
「すみません。大丈夫です。ヒロトさん。この調子なら残りのミッションもクリアできると思います」
「そういう、ことじゃないんだが……」
「大丈夫です」
ヒロトさんの気遣いは、分かってる。幻聴相手に叫んでるやつなんてまともじゃない。わたしだって、そう言う。だからわたしは、そう言った。大丈夫だって。
だけどヒロトさんは、あまり納得していない様子。いい人だなって思った。だから大丈夫です、とゴリ押ししようとした。差し伸ばされた手を叩き落とす所業。我ながら最低だ。
『2nd Mission Start!』
言う暇はなかった――操作をしていない。ならミッション側が時間経過での切り替えが仕込まれていたんだ。
直後、強烈な閃光が降り注いで、〈
+++
空に居た青いラフレシアからの砲撃だった。機体名は、〈ブルーローズ〉。メガ粒子砲を受けた〈ヴィダール〉は、一撃で、蒸発してしまった。馬鹿げた火力だ。
折角ヒロトさんに、レクチャーしに来てもらったのは、申し訳ないけどとりあえず自分で、できることでやってみようと思ったんだ。ただクリアしたら報告する約束をした。
「花言葉は、夢叶う、不可能、奇跡。後は、神秘的、不可能なことを成し遂げる。そして、」
「一目惚れ」
スマホの画面を読み上げるわたしに、コーヒーを片手に戻ってきたリーダーが口を挟んできた。ネットで、検索して出てきたのを読み上げていた。青薔薇の花言葉。わざわざあんな名前つけたんだから意味があるのだかと思ったから。
いつものガンダムベース。カフェスペースで、これまたいつものように向かい合っていた。
「なんの花言葉か分かります?」
「え、あー……青薔薇」
「正解です。リーダー。もしかして、あいつのミッションのこと最初から知ってました?」
「どうして、そう思う?」
「ミッション内容を見せたのに、わたしの間違いを指摘しなかったこと。よくよく考えたらあいつがクリエイトしたには、ミスリードとかがやたら凝ってるとこ。そもそもあいつは、ダブルオー大好き。せっかくのクリエイトミッションで、ラフレシアとかプルーマは、なんか違うなって……そこだけは趣味が合ったな…………ムカつく。最後に、今の花言葉。まあ有名な花だけどパッと出てくるのはちょっと怪しいと思いました」
というか。
「リーダー、花よりガンダムじゃないですか」
「……はは、」苦笑いしたリーダーは、「まあ、うん。全部じゃないけどね」と頷いて、わたしの機嫌を伺うよう訊く。
「…………怒ってる?」
「ちょっとだけ……いや、結構? とりあえず、怒ってます」
「……カフェオレでどう?」
「アイスクリーム倍乗せなら」
「かしこまりました……」
さて、どこから聞いたものか。なんて考えていると先に口を開いたのは、リーダーだった。
「あの子が言い出したんだ。GBNがやりたいってね」
「リアルの知り合いなんですね、あいつ」
「まあ、ね。うん、知り合い。GBNで撮ったスクショとかプラモの画像見られちゃってさ。前、こういう趣味隠してるって言ったでしょ? もちろん職場でも隠してたんだけどね。だからそうちょっと負けちゃってね」
歯切れが悪く話すリーダーに、わたしは、つい苦笑を浮かべてしまう。わたしは、別にそういうのは無いけど隠したい人にとって、バレれてしまうのは、結構きつい事なんだろう。
「それで、最初あんな妙な小芝居を?」
「普通に入れるつもりだったんだよ? でもあの子がしたいっていってね? しょうがないからああなったんだ」
「……まあ、分かりました」
とりあえず、事情は、把握した。じゃあ、一番聞きたいことを聞いてみよう。わたしは、意を決して、口を開いた。
「なんで、あいつ急に辞めたんです?」
「……それはね」
コーヒーを啜ったリーダーがいつになく真剣な表情を浮かべるから生唾を呑んで、わたしは、次の言葉を待った。
「ミッションクリア報酬がその答えだよ」
「や、野郎ぶっ殺してやる……!!」
思わず口をついて出ていた。しゃーない。殺意が漲ってしまった。リーダーは、悪くない。あいつが悪い。間違いない。わたしは、自分に言い聞かせた。苛立つ。なんで苛立ってるんだろう。わからん。何で? どうして?
――わたし、怒ってばっかだな。
実際、ムカついていたから。勝手に、黙って辞めた。そして、知らなかったのは、わたしだけ。これで怒らないほうがおかしい。わたしは、間違っていない。
「ごめんね」
「リーダーのせいじゃないです。悪いのは、あいつです」
体をすぼめて、申し訳無さ気なリーダーに、苦笑いしてからカフェオレを呑んだ。
いつものカフェオレに、ソフトクリームをどんと乗せたやつ。甘い。ちょっと苦い。美味しい。落ち着く。ふうと息を吐く。
「まあ、とりあえずクリアします。これからは、飛んで、詰めて、殴ればいいだけですから」
笑って、力こぶを作ってみせる。余裕だ、余裕。