「はい、ついたよ」
「ありがと、リーダー」
クリア報酬として、一通のメッセージが届いてた。載っていたのは、位置情報と待ち合わせの店名、後、クリアおめでとうだけ。もっと他にあるでしょうが。まあ、いいか。直接聞いてやる。直接キレてやる――なんて肩怒らせて来たけどちょっと萎えた。アバター通りにしてよ、もう。
リーダーの軽自動車から降りて、ぐっと体を伸ばす。座ってる時間が長かったからちょっと背中が心地よく鳴るのを聞いてから周囲を見回す。この辺に来るのは、初めてだ。
あいつ、意外に住んでるところ近かったな。ここのガンダムベース、来るの初めて。中見てみたいな。
「んじゃ、僕は、中でガンプラ見てくるねー。あの子、そこの喫茶で待ってるって」
「え? 一緒に来てくれないんです?」
「まあまあ、若い子同士、積もる話もあるでしょ?」
「いや、そんなこ……居ないし……」
しゃーない。肩を落としたわたしは、ガンダムベースに背中を向けると道路を挟んだ向かいにある喫茶の方に向かった。
「……おしゃれじゃん」
実際この辺り、かなりおしゃれ。歩いてる人達の服とかめっちゃおしゃれで可愛い。ガンダムベースの隣の雑貨屋気になる。後で行こう。こうなるとガンダムベースめっちゃ浮いてるな……。まあいっか。とりあえず入ろっ。
「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」
定員さん可愛っ! 制服も――あ、これザフトレッドモチーフ? ガンダムベースが目の前にある理由が少し分かってきた。
「いえ、待ち合わせをしていて……あ、見つけました」
「では、ごゆっくり」
定員さんに会釈をしてから写真で見た顔の座っている席へ。ここに来るまでに、リーダーのスマホで見た写真そのまま。これのお陰で、勢いを殺されてしまった。アバター通りの見かけ、性別ってのは中々ないけどさあ。
「あんたが、エルアでいいんだよね?」
「わあ……」
どすんと座った向かいの席にいた制服姿に、メガネとおさげの女の子――つまり、エルアは、わたしを見て、目を丸くすると。
「GBNと一緒だ」
「あんたは、違いすぎでしょ」
「まんまの方が珍しいからね……!?」
そう言い返して、返ってきた言葉にわたしは、思わず吹き出してた。それは、確かに。
「それで、なんでやめたの。GBN」
「直球だなあ……。えー、ケーキとか頼まなくていいの? ここのモンブラン絶品だよ? チョコレートケーキもかなりいける。好き。食べない? 食べようよ。ね? カフェオレも美味しいよ?」
「……カフェオレは、後で飲む。だから、ほら? 問題は、最初に片付けておきたいって思ってさ」
「え~~……私だって、心の準備がさ……ね?」
「キャラが違いすぎて、調子狂うんだけど」
「オンゲで、ロールプレイなんて普通だよー……。GBNだと結構いるよー? なんにも変わらない君の方が珍しいって」
「そう? わたしは、そのカフェオレに、モンブランをじっくり味わいたいの」
「ご、強情……!」
「ほら、ね? あ、そうだ。わたしが注文して届くまでに言うとかどう?」
「へ?! いや、そういうのは、ちょっと……「すみませーん。カフェオレとモンブランお願いしまーす」話聞いてる……!?」
「はい、どうぞ」
「え、ええ……!? ってこれもしかしてクリエイトミッションの仕返し?!」
「そうだよー。そうだぞー。そうなんだよー」
なーんて言って、にっこり笑ってあげる。いやもう苦労させられたんだからこれくらいしてもバチは当たらないと思うんだよね、わたし。なんかごにょごにょしてる。そんなに言いにくいこと? まあ、あんなもの用意したくらいだしねー。なんだろ。
「……青薔薇の、花言葉は?」
「へ……? ああ、なんだっけ 夢叶う、不可能、奇跡。後は、神秘的、不可能なことを成し遂げる……もう一つあったような……なんだろ……なんだっけ?」
「―――れ」
「? 何?」
よく聞こえなかった。なんて言ったんだろう。わたしは、眉をひそめて、首を傾げた。
「――惚れ」
「?」
「一目惚れっ!!!!」
GBNのアバターと似てもつかない可愛い女の子は、顔を真赤にして、立ち上がるとそう声を上げた。結構驚いた。そんなに声出すことだった? わからん。
「一目惚れ」
「そう!!」
「……とりあえず、座りな?」
「へ、あ、うん……」
店内中から向けられてる視線に気づいたエルアは、小さい体をもっと小さくして椅子に座り直した。真っ赤な顔のままアイスココアをストローから啜ってる。そう言えばGBNでもココアばっか頼んでたな。そこら辺は、ロープレしなかったんだ。好みが可愛い。
「それで、一目惚れって、リーダーに?
「リーダーは、ただの先生。私の学校の歴史の先生なの」
「……だから宇宙世紀好きなの? リーダー」
「さあ、どうだろ。卵が先か鶏が先かって感じ」
「ま、まあ、いいや。んで、一目惚れって、誰――」
――――うちのフォース。三人しかいないよ? え、嘘。まじで? まじ?
「……わたし?」
「人生初の告白が非常に情けない告白になってしまった……」
ごつんとテーブルに、エルアは、額をぶつけると「うおー……」と唸り始めた。目の前でつむじとおさげが左右に揺れてる。
「あー、マジなんだ……」
「ゲームで出会った人に、マジ惚れするとかしかもキャラを見て、一目惚れするなんて普通無いじゃん……。痛い人だよ……」
「ゲームのアバターに、一目惚れは、確かに……」
うぐう……!と元の位置に戻りつつ合った頭がまたテーブルとお見合いした。痛そう。
「単純に顔が好きになったんだ。けどね一緒にゲームしてる内に……その、ね?」
「マジになってた?」
ちらっと見て、頷いた。ああ、わたしも顔が熱くなってきた。どうすんだこれ。どうするんだよこれ。収集の付け方が分からない。リーダー! 早く来て!! ヘルプ! ヘルプミー!
「マジになりすぎてどうにかなりそうになったからGBNも辞めました。でもなんか黙ってやめるのは、流石に私もどうかと思って……。後、なんか逃げた気もして……」
「あのミッション? 流石に性格悪いでしょ。後、辞める言い訳も色々あるでしょ」
「後半は、向かい合ってるのが辛くて、結構限界で……それは、その……ごめんなさい」
やっと顔を持ち上げたエルアは、非常に申し訳無さそうな顔をして、アイスココアを啜るとぽつぽつ話し出した。
「好きだけどあんまり伝える気はなかったし、ミッションもあんまりクリアさせる気なかったし。あれ狙撃できるなら私いらなくない? ふええ……帰る場所がぁ……」
……なんか齟齬がある気がする。わたしとエルアの考えてるミッションなんか違う。
「ヒントそこら中にあったよ? ダインスレイヴとかビームスナイパーライフルとか。ていうか狙撃縛りとかなかったし」
「え!? 私、そんなの置いてないん――リーダーぁぁぁ!! 余計な真似をぉ……!!」
あーなるほど。大体わかった。頭を抱えて妙な声を上げながらじたばたずるあいつに、ご愁傷様だと苦笑いが浮かんだ。
「全部吐いてしまった……。スッキリしたし、ま、いいかなあ……」
「んで、どうするの?」
「どうするって……?」
「戻ってくるんでしょ? もう吐いちゃったんだから関係ないじゃん」
「そ、そういう問題じゃない!!」
どういう問題だ……? 分かんないな……。どうやって説得しよう。後衛居ないのいい加減、シンドいんだよな。
「ていうか、告られといて反応微妙じゃない!? もっとこう……あるでしょ……!」
「え、ええ……」
んなこと言われてもなあ。わたしは、ぽりぽり頬を掻いて、モンブランを一口。うわ、めっちゃ美味しい。カフェオレを一口。これも美味しい。ここまた来よ。
「いや、だってさ」
「だって……?」
「タイプじゃないんだよね」
「ごっ……」
また額をテーブルにぶつけた。絶対痛いやつ。音がもろにそう。あれはやばい。
「お、お客様!?」
「あ、大丈夫です。大丈夫です。気にしないでください」
「は、はあ……」
困惑している定員さんに、愛想笑いを返した後、突っ伏したままのエルアに、わたしは、話しかけた。
「そりゃほら、GBNのあんたしかわたし知らないわけだしさ。なんていうの? こう、親密度アップイベントが無いじゃん?」
「……つまり?」
「戻ってきて、スナイパーやってよ。またわたしの背中守ってよ」
「ううー……やっぱそうなる?」
「そうなるよ。今度は、アバター、リアルよりにしてよ。今のよりよっぽどいい」
「……まじ?」
「まじまじ。アバターより今のエルアのがいいと思うよ、わたし。ロープレより断然好き」
「口説かれてる……?」
ここは、押す! 強く押せばなんか流せそうだし! 押し押しだ! イケイケドンドンって感じ。ほら、迷ってる。惚れた腫れたは、まあこの際いい。戻ってきてさえ貰えば後でもなんとかなる! ぐっとテーブル越しに距離を詰める。顔と顔を近づける。
「あんた、居ないと物足りないしさ? ね?」
「……わかった」
よし! 勝った! 第三部完! わたしは、テーブルの下で、小さくガッツポーズをして……ん? あれ、どうしたのその目。おーい、据わってますよ。怖い。いや、怖い。
「覚悟、決めた」
「なにの……?」
「バトルで負けたら大人しく戻る。リアルモチーフのアバターにもする」
「あれ?」
「だけどわたしが勝ったら彼女になってもらう。アバターは、勿論あのまま」
「うん?」
「その条件なら戻ることを考えなくもない!!」
立ち上がって、ビシ! とエルアが指を突きつけてきた。……店内中の視線に負けて、座り直すのがなければ完璧だったと思うよ。
「ふーん、上等」
モンブランの栗をすくって、口に放り込んで、もぐもぐむしゃむしゃ――ああ、そうだ。わたし、怒ってたんだった。思った以上に可愛らしい女の子がいて、告白なんてされたからちょっと忘れてた。
つーかなに勝手に条件つけてんのさ。こっちからわざわざ譲歩したげてるのにさ。
「やってやろうじゃないの」
勝手にこじらせて、勝手に出てったこいつに、どこまでも自分勝手なこいつに、わたし結構怒ってます。
「……あの、怒ってる?」
「察するのが遅い」
ギッタンギタンにしてやる。
+++
「……普通トランザム特攻がかぶるとかある? おかしいでしょ」
「……知らないよ、それにもう何回目? ほんともう……あんなに射撃外すなんて屈辱……」
「ま、あんたの助言のお陰だね。敵に塩を送ったことを後悔するといいよ」
「何の話だよ。ていうかやっぱスカートスースーする。やめちゃだめ?」
「制服スカートだったのに今更でしょ。だめ」
「気分的なやつだよ。GBNでは、強強モードだったんだから。ねえ、リオ」
「なに?」
「手、繋いでいい? ロビーにコレで出るの初めてで、ちょっとね?」
「ただのアバターじゃん……。誰も気にしないでしょ」
「気分的な問題なの……! だから、ね? ほら? カフェオレ奢るから!」
「まったくもう。エルアは、ほんとに仕方ないなあ」