――――――その光景に、胸の奥に何かが焼き付いた。
ウィンドウ一杯に天蓋とライト。逆光の中にあるのは、鋼の巨人。
エメラルドグリーンと白の包まれ、右肩に翼を模した巨大な剣、左手には身の丈もある鋭い槍。胸には宝玉のようなスフィアコア。鋭角的なボディはしかしどこか女性的なラインを描いている。腰から延びるエネルギー状のスカートがそのイメージを強調させているのだろうか。頭部の一対の耳がどこか猫を思わせるのがコミカルだ。
美しいと、素直に思った。
忘我を許さない状況だったのにも関わらず、思わず見惚れてしまった。
時間が止まったかのように。
何かが、奥底で揺らめいた。
「ガッ―――!」
直後、白翠の槍が自分の鋼の体にぶち込まれる。
コックピットが揺れ、仮想空間故に痛みがないが純粋な衝撃が全身を襲い、
『 YOU LOSE ! 』
「弱い」
「っ……」
音声のみのウィンドウから、対戦相手の声が届く。
凜とした銀嶺の声は、しかし絶対零度の切れ味。
「期待外れだわ――――偽物さん」
その言葉に――――――胸の奥で何かが燃えている。
「というわけで、GBNだ!」
「はぁ」
学校の放課後、幼馴染のタカシタ・コウタに連れられ、叫ばれカガリ・レンは思わず声を漏らした。
明るめの茶髪を揺らし、黒いフレームの眼鏡を輝かせたコウタが大きく手を広げ、その店の中を示す。つられて視線をずらせば、あたり一面にあるのは―――ガンプラだ。
ガンダムプラモデル。
レンが生まれる前から放送しているロボットアニメのプラモデルであり、その箱が陳列棚にいくつも並んでいて、ショーウィンドウには完成済みのものが展示されている。
どれも、レンには見覚えがないものだった。
短く切りそろえ、整髪料で逆立った髪を思わず掻き、右眉にある小さな傷をなぞる。
「というわけと言われても……その、なんだ。何をすればいい?」
「GBNだ!」
「んん……」
十数年来、高3の冬になるまで長い付き合いだったが、しかしここまでテンションが高いコウタは初めて見た。
背が180を超えていて、体つきも高校生離れしたがっしりとしたレンに対して、平均的な高校生らしいコウタなのだが勢いのせいか彼の方が大きく見えてきた。
「やっとこの日が来た。苦節18年、幼馴染の堅物をついにGBNに引き込める……!」
「いや、俺とコウタがあったのは小1の時だけどな」
「そんなことはどーだっていい! GBNだ!」
腹からの叫びがこの店、ガンダムベースに響き渡る。ほかの客の目線を集めるがすぐに逸らされる。コウタはここの常連らしいから慣れたものかもしれない。
コウタをいさめても無駄なことを悟り、思わず息を吐いた。
「……で、GBNとは」
「よくぞ聞いてくれた!」
ガンダムバトル・ネクサスオンライン。電脳空間で自分が作ったガンプラに乗って戦ったりして遊ぶゲーム、らしい。それ以外もコウタがノリノリで色々語ってくれたが今のレンに分かったのはそれくらいのことだった。コウタが中学からそれにはまっているのは知っているが、レンはやることがなかったのでプラモデルで遊ぶ、ということくらいしか知らないし、元々やる気もなかったのだ。
もちろんGBNは世界中に普及されており、今レンたちがいる川崎のガンダムベースのような店も大きな街であれば当然のようにあるから、存在自体は知っていた。だが、ただ知っているだけなのと実際にやるのはまた別の話である。
高校3年の冬、本来であれば受験シーズンまっさかりであるが、レンもコウタも推薦での大学進学が決まっており暇なのだ。
だからこそ、コウタに誘われてレンはGBNデビューを飾ることになったのだが。
「GBNにはガンプラがいるんだよな。俺、持ってないぜ」
「あぁ、うん。僕の予備の機体を使ってもいいし、一から作ってもいいんだけどレンはガンプラ触ったことないよな。とりあえず今回は初めてだし」
「レンタル機体もやってるわよ!」
「そう、レンタル機体……って姉さん! 人のセリフを!」
「あ、ども。ミナさん」
「はい、どうも。コウタ、レン君。ミナおねーさんですよ!」
亜麻色の髪のポニーテールにスポーツタイプのドライ素材のTシャツとスキニージーンズ。川崎ガンダムベースのロゴが入ったエプロンとシンプルな装いだが如何せんコウタの姉、タカシタ・ミナは美人だ。ここいらの学校で彼女以上の美女はそうはいないし、たまにだがモデルもやっている。横浜の大学でもミスコンを取ったという才媛だ。おまけに陸上で全国大会にも出ているのだから隙がない。レンにしても学校の勉強を何度も見てもらっている、姉に等しい存在でもある。
レンとコウタの二つ上の彼女は数年前からここでバイトをしていた。
「GBN初心者にはこのベースに置いてあるガンプラをレンタルで貸し出せるのよ。もちろんちょっとお金はかかるんだけどね。その分完成済みだから動作には問題ないわ。ただ、後々自分で作るのを推奨してるのはお忘れなく」
「なるほど……じゃあとりあえずはそれでいいか」
「んー、GBNは自分の機体作ってナンボだけど……1回目だし、いっか。姉さん、レンタル機体って何があったけ?」
「初心者貸し出し用はおすすめはザクかフリーダムかしら。……っていっても、私はガンプラやGBN自体には詳しくないから何が人気かくらいしか分からないけど」
「店員なんだからいい加減ちょっとは基本性能くらい覚えようよ、姉さん。うーん、レンなら汎用性が高いやつがいいと思うんだけど……」
姉弟がレンを置いといて、レンタル用機体らしいショーウィンドウの前であれこれ語り合っている。
GBNの勝手が分からないし、こだわりもないレンは仕方ないので並んでいるガンプラを眺めていく。青や白のカラーリングが多いが中には赤や緑がメインのそれもある。ぱっと見、いかにもプラスチックの材質でコウタがよく読んでいたガンプラ雑誌のよく見れば細部に違いはあるが、正直レンには全て一緒に見えた。
「ん……これは?」
ショーウィンドウの中、一つ雰囲気が違うガンプラに目が止まった。
赤の色を基調したガンプラで、胸や肩、膝、腕にクリアパーツが輝いている。特徴的なのは腰回りに棒状のパーツが短いマントのように腰の横と後ろにかけて8本並んでいた。その棒マントだけではなく、なんというか機体の色味が他の物とまったく違ったのだ。色に深みがあるというか、プラスチック感がない。
「あー……それかぁ」
「あらあら」
コウタが首をひねり、ミナが口に手を当てる。
「それも、貸し出し用なんだけどあんなり人気ないのよね。半年くらい前にここでやったガンプラコンテストの優勝したものなんだけど、最初はすごい大人気だったけど今じゃまったく使われないわね。作った人が隣町の人だからたまーにメンテナンスはしてくれてるけど」
「へぇ」
「まぁそりゃあの人が作ったやつだし、それは初心者には……でもなぁ……レンならなぁ……」
なにやら唸っているコウタを横目にしつつ、改めてその機体を見る。
小さなカードにガンプラの名前と製作者らしい名前が。見覚えも聞き覚えもない二つの名前を見やり、
「俺、これにするよ」
「あら、いいの、コウタ?」
「…………まぁ、試す分にはいいんじゃない?」
「それじゃあこっちで貸し出し書類書いてねー」
「オッス」
「よし、なにはともあれガンプラは準備できたし――――行こう、GBNへ!」
「おー……凄いな、これ」
GBNにログインし、ロビーへ出現したレンは思わず驚きの声を上げた。
初めてログインするのは半仮想空間とでもいうのか、漫画でよく見るフルダイブ型ではなくガンダムベースの筐体からバイザーとコントローラースティックでプレイするタイプだがそれでもやたらリアルだ。自分の体を動かしているかのように錯覚してしまう。
ログインロビーは広く、見渡す限り多くのアバターがいて人のそれもあれば、獣人、少ないがどう見ても人間じゃないものもいる。
中央にあるのは受付らしき場所といくつかの大きなモニターが。
「グレン! ちゃんとログインできたね!」
呼ばれたのは背のログインポータルから。
初めて見る、だがなんとなく見覚えがある眼鏡の少年。藍色の髪とカーキ色のフライトジャケット姿だ。
「コウ……じゃなくて、サンタだっけ?」
「あぁ! こっちではリアルネームは無しでね」
タカシタコウタで、タが三つ。だからサンタ。
なんというか、安直だ。
「しっかし、そっちもグレンは安直じゃない?」
「いいだろ、別に。名前もじってるだけだし、あとアレも赤かったし」
GBN用のグレンのアバターはあまり現実と変わらない。高3にしては高い身長とガタイの良さ。髪型も変わらず、色だけ赤くしているだけ。緩めのボトムズに、ハイネックでノースリーブの体に張り付くアンダーウェアタイプのタンクトップ。
右眉の傷跡も、リアルと変わらずそのままだ。
「どっちもどっちか」
コウタ―――肩をすくめる。
「それで? 何から始めればいいんだ」
「んー、そうだなぁ」
「そこの二人、もしやGBN初参加かね!?」
「むっ?」
聞こえて来た声に振り向き、その男を見る。
長身茶髪の男性アバター。特徴的なシルバーのサングラスに、赤いネクタイ。スタイリッシュなスーツ姿の男が、二人へと歩み寄ってきた。
「め、メイジン・カワグチ!?」
「いかにも!」
「誰?」
「メイジン・カワグチだ!」
だから誰だ。
「何、ただのビルダーさ。君たちのような初心者をサポートするためにロビーにたむろしているだけのね」
不敵な笑みを浮かべ、グレンとサンタに視線を送る。
「……ふむ?」
何やら小さく首をかしげたが、その意味はグレンには分からなかった。
「サンタ、この人のこと知ってるのか?」
「三代目メイジン・カワグチだよ。ファイターズシリーズの人気キャラ」
「あぁ?」
「あっと……」
「ファイターズとはアニメ『ガンダムビルドファイターズ』、および『ガンダムビルドファイターズトライ』において二作に渡りレギュラーであったキャラクターだ。ファイターズ主人公のイオリ・セイ、レイジのパイロットであり、トライでは主人公セカイを始めた多くのファイターたちを見守っていたガンプラのメイジンだよ」
「はぁ」
本人から説明は分かりやすかったが、よく分からなかった。
「えっと……アンタはアニメキャラで」
「うむ」
「……NPC?」
「否! 私はリアルに生きる人間である!」
「えっと……」
つまり、
「アニメキャラになりきってる人……?」
「あぁこら! グレン!」
首をかしげてつぶやいた途端に、サンタに首を引っ張られ、メイジンとやらに背を向けさせられる。
「ダメだろう、ガチロールの人にそういうこと突っ込んだら! 無粋だ無粋!」
「ガチロ……? あのさ、サンタ。専門用語を並べられても分からんのだけど」
「フハハハハハ! なぁに、気にするなサンタ君! そしてグレン君! 君はこう思っていることだろう!」
「はい?」
高笑いに振り替えると、メイジンは腕を広げ、
「いい歳してアニメキャラになりきっているイタイ男に話しかけられて本当に大丈夫なのかと!」
「いや、そこまでは言ってないんだけど……」
「だが! ここはGBN! GBNは自由! 己の愛を否定されない世界!」
故にと、メイジンはさらに腕を振る。
「私は三代目メイジン・カワグチだ! 誰がなんと言おうと三代目メイジン・カワグチなんだ……!」
「お、おう」
あまりの熱量にグレンは頷くしかなかった。
そもそもメイジンとやらを詳しく知らないグレンからすれば、そのあたりはコメントしづらい。
「それで、俺たちに何か用か?」
「こほん。先に言ったように私は初心者ダイバーの手助けをしていてね、君たちがそういう会話をしていたから話しかけたのだが……ふむ」
一度頷き、
「どうやらサンタ君は初心者というわけではないようだ。グレン君をサンタ君が誘って、というわけかね。どうやら私はお邪魔だったかな」
「そうです! その通りですメイジン! そしてそんなことないですよ! 僕があれこれ言うより、メイジンに見てもらったほうがいいですし! そうだよな、グレン!」
「まー俺は別にいいけど」
「よかろう! それではこのメイジン、全力でサポートを務めさせてもらう!」
「へぇ……これがコックピットか」
グレンは黒緑の球体空間を見渡し息を吐く。
格納庫エリアから、初めて搭乗したガンダムの中は思いのほかシンプルだ。目前のコンソールと操縦桿用スティックが二つだけ。ガンダムとの戦闘においてこのコックピットから機体を操縦し、戦闘時の衝撃もここで表現されるらしい。
『どうだね、グレン君。操縦桿を握った気持ちは』
右横に小さなウィンドウが開き、メイジンの顔が映る。
ロビーからグレンの初操縦をナビゲートしてくれるとのこと。右も左も分からない身としてはありがたい。
「んー、ま、とりあえず動かしてみないとなんとも」
『確かに』
『テンション低いな、グレン。まだ火は付かないか?』
メイジンの横に、サンタの顔も映り問いかける。
「そりゃあまだ何もしてないからな。ここから、なんだろ?」
息を吐きつつ、操縦桿を握る。
メインウィンドウから見えるのはグレンが載るガンダムの外、射出路だ。
ガンダムのことをグレンは知らない。
だが、出撃の流儀だけは知っている。
「グレン―――――ソウルバーニングガンダム、出る!」
頭部アイラインに瞳を模した赤い光が輝き、各部クリアパーツが済んだ空色で光を灯す。
背部バックパックが起動し、光の粒が放出することで推進力が発生。コックピットに疑似再現された軽度の重力がグレンの体に掛かり―――カタパルトから飛び出した。
「―――おぉ」
飛び出した先、広がるのは無機質だが巨大なコロシアムだ。何もない地面とドーム状の天蓋は黒く、目立ったものは何もない。
『改めて説明をしよう、グレン君』
「あぁ」
『そこはフリーバトル用のコロシアムだ。ダイバーランクに関係なくランダムマッチングでバトルができる場所だね。システム的にトップランカーが参加すればニューピーとマッチングが起きることもあり得るが、まぁそれはあまりないね。ランクでマッチング制限を賭けることも可能だ。おおむね下位から中位ランカーがメインとなる。上位ランカーは上位ランカーでバトルを行う場も用意されている』
メイジンの説明を聞きながら操縦桿を操作し、グレンはソウルバーニングの飛行させる。コロシアム内は広いから試しで飛ばすには十分すぎるほどだ。
上下や高速飛行を軽く試しながら、飛行の感覚を確かめる。速度を上げれば軽いGがかかり、飛ばしている。
『だが―――本当に良かったのかね? チュートリアルミッション無しでいきなりのバトルで』
「ま、習うより慣れろって質なんでね」
答えつつ、操縦桿を弄っていく。
それに従いソウルバーニングが動き、各部のスラスターから光が噴出し加速や減速、停止を行っていく。
「んー」
一度首を傾げ、
「やっぱ地面だな」
飛行を切り、着地した。
「彼はガンダムを見たことがない。その上でリアルで何か武術をやっていたのかね?」
「へっ」
ソウルバーニングが機体を動かしているのを眺めながらメイジンから発せられた問いに思わずサンタは変な声が出た。
「……なんで分かったんですか?」
「メイジンだからな!」
叫び、
「実際、見れば解る。私に反応しないあたりビルドシリーズは見ていない。そこはまぁ、別に珍しくもない。現在GBNは大きく普及し、アニメシリーズ自体を全く見たことないという初心者は今では普通だからね。大体のものは宇宙で戦うロボット……それか、ガンダムベースで立っているやつという認識だね」
その上で、
「ガンダムを知らないものが初めてGBNにダイブし、ガンプラを動かせばまずやるのは――――空を飛ぶことだ」
それは現実では不可能だが、GBNでは自在に行えることで最もシンプルで、大きく、何より解りやすい。
ガンプラを触ったことがなかろうが、ガンダムというアニメを見たことがなかろうが。
それは誰にだって解ること。
そして、初心者だろうが上級者だろうが魅了するものだ。
GBNの場合、どんな機体でも飛行スキルを付与すれば飛べるために初心者でもログイン直後から飛ぶことができる。故に、概ねの初心者はまずは空を飛び、その感覚に酔いしれる。
「だが、グレン君は軽く確認した程度で地面に降りた。高所恐怖症や感覚のズレに慣れないから、といったものではなく自分の意志で、だ。そういった場合、GBN以外、リアルで武術ないし体を動かすスポーツの類をしていた場合だ。GBNでは地上において現実の動きをシームレスに再現できるからね。ビルドダイバーズのリク君も足技が素晴らしいが、現実でサッカーをしていたという話も聞く」
その上でウィンドウを見る。拳や足を繰り出したり、加速器を使ってダッシュするソウルバーニング。
「そして彼の動きは戦い慣れたそれだ。ただ体を動かすスポーツではなく、対人を想定された武術の、ね」
「……はえぇぇ。さすがメイジンですね」
「ふっ、造作もない」
「メイジンの言う通り、グレンはリアルでまぁ武術……というか、戦い? ……その、まぁ慣れるっちゃ慣れてますね。だからいきなりバトルってのも大丈夫だと思いましたし」
何やら話にくいようにサンタが頬を掻く。
「ふむ? ……まぁリアル突っ込むのはマナー違反だね。GBNは自由だがマナーは大事だ」
肩をすくめながら、ウィンドウを注視する。
「しかし気になるのは、この機体だが……」
小さくつぶやき、グレンへ語り掛ける。
「グレン君、どうだね?」
『ん、あー、うん。大体感じは掴んだ。もういいよ』
「よかろう! では外部からコロシアムのマッチング機能をオンにする。今回はナビゲートのために私が行うが、次回からは自分で頼むよ」
『ありがとう』
メイジンがウィンドウを操作し、マッチング機能をオンにする。
読み込み画面が数秒表示され、
「――――来たぞ」
『BATTLE MATCHING!』
どこかの誰かが、フリー募集されていたグレンのバトル枠に申請を掛け、バトルが成立する。
「グレン君」
『おう』
「楽しみたまえ―――ガンプラバトルを」
コロシアムは変わらず、二機のガンダムが向かい合う。
赤を基調としたソウルバーニングと白を基調とし、巨大な剣と左肩に小さな翼のような装備を持つガンダムだ。見るからに近接用だが、左腕の手首に二つ大きめの銃口が付けられている。
『ソードストライクガンダムだな。近接用のストライクガンダム、君のソウルバーニングも大元をたどれば同じ機体だ』
『見る限りほぼ素組み、左腕の手首のサブマシンガンだけ追加してる感じかな? 中距離の補助だろうから、メインはやっぱり近接だろうね。ガンプラの出来はこっちの勝ちだよ』
『初戦としてはやりやすい相手だろう。思い切りやりたまえ』
戦闘フィールドは特徴のない円形のコロシアムのままだ。
天蓋は閉じられているために空中戦には適さないために、地上戦向けかつ、初心者向けと言えるフィールドでありその為にメイジンが設定したものだ。向こうもそれを見越して、というわけではないだろう。グレンとそう変わらない初心者がコロシアムのフリーバトルに参加して自分の機体と戦いやすい場所に合わせて来たのだ。
「ふぅー」
ソウルバーニングが腰を落とす。
左に拳を握り、右手を開き。
「――――さぁ、どうだ?」
胸の前で左拳を右手の平にぶつける。
その後に右手を緩くに構え、左手を開いたまま腰あたりに置く。
対するようにソードストライクも両手で巨大剣を握り正面に構える。切っ先は真っすぐにソウルバーニングへ。
ソウルバーニングの赤とソードストライクの黄色の瞳が輝き、
『BATTLE START!』
同時に、二機が前に飛び出した。
ソウルバーニングは自分の足で、ソードストライクは背部の噴出機を使ったロケットダッシュ。
赤は拳を、白は大剣を振りかぶり、真っすぐ激突する構図だ。
初心者同士の地上戦、そこに細かいマニューバは発生しない。ガンプラでの戦闘をグレンはまだ知りえていないし、ソードストライクのダイバーも同じだろう。真っすぐ突っ込んでぶちこむという、きわめて分かりやすい。彼我の距離は一瞬で縮まっていき、
「よっ」
――――激突の二歩手前で、ソウルバーニングがスラスターを用いて急加速を行った。
『!?』
ソードストライクが驚きで一瞬揺れる。だが、激突と攻撃はもう止められず、反射に近い形で大剣が振り下ろされた。
だが、背部だけではなく、踵のスラスターも吹かしたソウルバーニングの方が早かった。
赤の蹴り上げが、振り下ろされる直前の大剣を握った両手に直撃する。
激突の音が響き、ソードストライクは大剣を落としながら仰け反る。対し、ソウルバーニングはさらに背腰部のスラスターを用い体を押し出す。
そのまま、押し込むように残っていたソードストライクの右膝の関節部を押しつぶす。
「意外にもろいな」
つぶやきつつ、ソウルバーニングは止まらない。
膝から下を失い、崩れ落ちるソードストライクを見据えながら、押しつぶし大地を踏みしめた右足を軸に体を回転。機体をコンパクトにまとめつつ、左膝をソードストライクの頭部にぶち込んだ。頭部が吹き飛ぶが、
「あ、これじゃ止まらねーか」
ガンプラの頭は基本的に感覚器官なのでつぶれても死なない。エネルギーゲージが設定されているGBNなら猶更だ。
だが、片足と頭部を失ったガンプラは概ねまな板の鯉に等しい。
崩れ落ちていた機体の両脇を掴んでから一度持ち上げ、地面に叩きつけた。
「トドメだ」
ダメ押しと言わんばかりに、踵落としを胴体の叩きつける。
『YOU WIN!』
「――――ふぅ」
勝利のシステムアナウンスを聞き、息を吐く。
首を鳴らしつつ、
「こんなもんか、GBN?」
「なんと……!」
わずか数秒で着いた決着にメイジンはサングラスの奥の瞳を見開いた。
一方的と言っていい勝利。事前の確認から良い動きだとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。
「……サンタ君、マナー違反とは知りつつも聞かずにはいられない。彼は、リアルで何を?」
「あーっと」
彼の幼馴染は苦笑しつつ、
「有体に言えばヤンキーですかね」
「は……?」
「地元の学校らへん、あんまり治安良くなくて昔のヤンキーみたいなのたくさんいたんですよね。グレンは昔からリアルでもガタイ良くて、よくケンカ吹っ掛けられてて。それでまぁ返り討ちにしてたら―――高2ん時は地元じゃ負け知らずの喧嘩屋ですよ。受験もあってその高2で卒業して勉強に専念してましたけどね。GBNも昔から誘ってたんですけど、ヤンキーがGBN初めてガンダムベースで喧嘩起きたらまずいだろってずっと断られてたんですよね」
その上で、受験に一区切りついたから誘えたのだが。
格闘特化のトライバーニングの改造機がグレンになら扱えるかと思ったのはそれが理由の一つ。
それだけではないのだが。
「なるほど、いやはやなんというか」
思わずメイジンが苦笑する。
どういうわけか本人に熱量を感じないため、姿が被る、ということはないのだが。
自分のものではないが卓越したガンプラ。
ガンダムもガンプラも知らない初心者。
その上で卓越した本人の格闘能力。
アバターとはいえ、燃える炎のような赤い髪。
それはまるで、
「カミキ・セカイ。バーニングな男を思い出させるじゃあないか……!」
ヒロインが出てこない。
ダイバーズキャラも出てこない。
ビルド杯とはい一体
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