―――――ユキハナ・フウカは自分のことが嫌いだった。
それは簡単に言えば思春期のコンプレックスから始まったことだ。
祖母が日本に帰化したロシア人だったためなのかフウカは小学校に上がる前から、成長が早く身長も常にその世代の女子平均身長にプラス10センチはあった。発育も良かったせいか、小学校の高学年に上がった時は高校生、場合によっては大学生や成人に間違われることも珍しくなかった。
小学校の時はそれが原因で男子に揶揄われることも多く、元々気が弱かった為にそれはストレスであり、気弱なせいで言い返すこともできなかった。それ以降は中高一貫の女子高に進学したため、男子からの揶揄われることはなくなったが、そちらの場合自分で言うのもなんだが妙に女子からモテた。
気弱さを隠すために外面を固めたのが悪かったのだろうか。
なるべくはっきりと会話できるようにしていたら妙に冷たくなったのが、それが逆に良いと周りの女生徒には大うけだった。
よく分からない。
周囲にドMしかいなかったかもしれない。
いわゆるお嬢様学校だったせいか、お姉さまと呼ばれてていたが色々ノリに付いていけなかった。
恵まれていたと思う。
家は裕福で、友達はちょっと困ったが慕われていた。
ただ、自分のことが好きになれなくて――――きっかけは高校二年の時だった。
休日に、たまたまテレビをつけた。
そしてやっていたのがガンダムビルドファイターズトライの再放送だった。二年前の時点でGBNは既に大きく世界に普及しており、各シリーズも積極的に再放送をしていたのだ。
ガンダム、というかアニメ全般を見たことがなくもちろんホビー系統のおもちゃを触ったことはなかった。フウカにとっては娯楽は習い事でやっているバレエくらいのものだった。それもコンクールがあるとプレッシャーだったが。
なにはともあれそれはただの気まぐれであり、暇つぶしだった。
ただ何気なく見ていて、
――――――そこに、タマキ・フウカの理想の少女がいた。
キジマ・シア。
青みがかかった白銀の髪と可愛らしい小柄な体形。
透明感と幻想さを併せ持った風のような少女。
これだと、思った。
身長も胸も尻もデカいフウカとは対照的な小さくて可愛らしい女の子。
かわいいという概念を極めたキャラクター。
それは電撃的な一目ぼれであり、自分のことが嫌いだったフウカは当然のように彼女に憧れた。
手始めに放送途中だったファイターズトライのそれまでの話を見て、前作も見た。それから自身でガンプラも買い勉強し、ファイターズトライの放送後は過去のガンダム作品の視聴に時間を費やした。特にキジマ・シアとその兄キジマ・ウィルフリッドはOOが熱烈に好きというからテレビ版と劇場版を含め何度も繰り返し見て、シアが好きなものを学んでいった。
もちろん受験勉強や習い事はあったが、それは勿論完ぺきにこなしつつ自分の自由を作り出しながらガンプラに没頭していった。
受験に関しては高校の推薦もあったので、ある程度のラインを熟していれば問題はなかったし、それまで優等生だったので貯金していたポイントが良いように働いたのだろう。
その間、キジマ・シアのように憧れてガンプラ作成以外も色々やった。
わかりやすいところではコスプレなんてのもしたが、コスを用意して来て鏡を見て知ったのは、
『違う……! シアはこんなに色々大きくない……!』
自分の理想と現実のギャップだった。
無駄に成長した身長と胸と尻は嫌いだったのがさらに加速した。自分の体で唯一嫌いではなかった、胸に反比例して細かったウエストすらもシアの前では大根である。
高校の時から芸能界からモデルやら女優やらいろいろ誘われたが、そんなことをしている場合ではなかった。大学に入れば入ったでミスコンなんかにも誘われることになるが当然そんなことをしている場合じゃなかった。
受験を完ぺきにこなした上で、1年半前からフウカが没頭していること。
それは言うまでもなくGBNだ。
現実世界でどれだけシアのように小さくて可愛いい女の子になれなくてもGBNの世界でアバターを作ってしまえば関係ない。
ガンプラも時間をかけてOVAアイランドウォーズでシアが使っていたガンダムOOシアクアンタ――――は、当時までGBNに実装していなかったので、自分なりにOOクアンタを改造し、シアがGBNをプレイするとしたらと思考をトレースして改造した自信作であるガンダムOOシアスペシャル。
そうして満を持して、GBNへ。
自信作のガンプラと事前に下調べして設定を決めてい置いたアバターによりダイバーズシアスタル・キジマとして思ったことは、
『違う……! こんなのシアじゃない……! それっぽいだけの偽物……!』
シンプルに限界があった。
アバターはともかく全体的な雰囲気、つまりなり切りの問題でシアではないし、そもそもいかに声を再現しようと思ってもまるで違う。
さらに言えば根本的にファイターとしてもビルダーとしてもスキルが足りなさ過ぎた。
キジマ・シアはファイターズトライにおいても作中最高クラスのビルダーであり、同時に極めて強いファイターでもあった。
鹿児島代表のなんとかっていうモビルアーマーを一人で倒したあの回はフウカ的神回だ。
現実を逃避してGBNに来たのに現実を突きつけられた。
当時はまだファイターズトライ関連要素はなかったので、半年前に声優ソフトが出るまではそれっぽいものでしかなかった。
結局半年前までは自分のアバターとガンプラの出来に満足することができなくて別の名前とアバターを使ってスキルの研鑽を積むだけの日々にとどまっていた。
そしてトライシリーズ要素実装の時のフウカの歓喜と言えば今でも言葉にし難い。
思わず全身を躍動させてガッツポーズを決めた。
同時にちょっときつかったブラジャーが壊れて凹んだが。
アバターといえば、一度仲良くなりかけた変わったダイバーがいた。
忍者ルックの熟練のSD使いであり、偶然ミッションが一緒になって会話をすることになったのだが、共通の会話としてアバターの話で最初は意気投合したのだ。
『アバターって理想の自分に近づけたくなるよね。貴女の、本当によくできているわ。リアルアバターそれ?』
『えぇ。もちろんそうよ。現実の私を基に作っているわ。えぇ。………………貴女のはシアのに近づけているのね。そちらもクオリティが高いわ』
『まだまだ全然よ。まだクオリティは上げられる。……といいつつ、このアバターはリアルよりも動きやすくていいのは間違いないのだけれどね』
『……むっ? どういう意味?』
『あぁ、ほら、胸とか? 大きいと邪魔じゃないかしら。現実だとガンプラを操縦することはないけれど、バトルの時に邪魔にならない? そのサイズだと』
『ならない…………ならない、が。…………えっ? 貴方はもしかして、この私のアバターと同じくらいのサイズなの?』
『ええと……どうかしら。んー……それよりももうちょっと無駄に大きいわね。本当、恥ずかしいわ』
『な、なるほど……ちなみに、ウエストは?』
『えっ? ウエストは……そうね、貴女のそのアバターとそう変わらないかしら? 変な話、といってもそれでもこのアバターよりも少し太いから嫌になるわ』
『少し……?』
それまで仲良く会話していたと思うのだが、そのあたりから急に距離を取られたのはショックだった。
やはり自分はコミュニケーション能力に難があった。
改めて自分が嫌いになった。
胸は成長が止まっていなかった。
大きいサイズのブラジャーについて彼女とも話したかったのだが。
何はともあれ、トライシリーズの実装によりフウカは理想のシアにまた近づけた。トップランカーとまではいかないが上位ランカーに食い込むようになり、ガンプラスキルは極めて高いもの――正確にいえばOOガンダムに関してはシャフリヤールにさえも届くと信じている。
半年前満を持してアバターと声、スキルと共にほぼオリジナルに近づき、後はバトルやミッションでその存在を周りに広めて自分がキジマ・シアであると認識し、証明する。
それがフウカのGBNの楽しみ方だった。
だが――――ある程度のクオリティに至り、新たな問題が発生した。
それは、すなわちキジマ・シアを語る上では外すことのできないカミキ・セカイである。
キジマ・シアの魅力はセカイに対する圧倒的ヒロイン力である。
トライでいえばホシノ・フミナという大きなお友達の性癖に直撃したヒロインががいるが、アニメにおいてヒロインだった彼女を登場と共に殴りつけたのがシアだ。
当然のような呼び捨て。相棒であるビルドバーニングの手入れのマンツーマンレッスン。さりげないボディタッチ。
強すぎる女である。
男の手をまともに握ったこともできないフウカには絶対できない所業だった。
その無敵ヒロイン力がシアの魅力の一つ。
すなわち、シアを追求するならばそれも発揮しないといけない。
だが―――GBNにカミキ・セカイはいなかった。
それっぽいものはいたが、まるでクオリティが低かったし、それじゃあ代わりに惚れるような別の男を相手にするかといえば完全に否だ。
キジマ・シアの相手はカミキ・セカイでなければならない。
ユキハナ・フウカはキジマ・シア限界オタクであるのと同時にシアセカ過激派オタクでもあったのだ。
そうして彼女は、フウカは、シアスタルはグレンに出会ったのだ。
正直期待した。
彼のGBNデビューの経緯はまさにカミキ・セカイだったから。
だから彼と戦い――――正直期待外れだった。
要素はカミキ・セカイだ。キャラのズレもまぁいいだろう。
だが、機体性能に任せた戦い方はただの獣のそれだった。
カミキ・セカイといえば次元覇王流。次元覇王流といえばカミキ・セカイ。
彼というキャラクターの根幹ともいえるものがなければ、あれはカミキ・セカイっぽい何かだ。
確かに、少し失礼な対応になってしまったのは申し訳ないと後から思ったが。
それでも、まだ足りないのだ。
このGBNで、己がキジマ・シアであると証明するのには。
それは信仰にも近い憧憬。
OOにおいて刹那・F・聖詠がガンダムを神聖視していたように。
彼がガンダムを紛争根絶、世界の歪みを正す象徴としたように。
フウカ――シアスタルもそれに近いものを持っている。
キジマ・シアは『可愛い』が具現化した存在だ。
世界、否宇宙共通の無敵概念。
可愛いによる紛争根絶すら可能レベル。
来るべき対話もこれで乗り切れる。
つまり―――――キジマ・シアもガンダムだ。
「ふふふ……」
「くくく……」
どこかのフォースネスト、そのどこかの書斎。
ライトのほとんどを落とし、小さなランプを囲み二人の男が向かい合っていた。
片や三代目メイジン。サングラスに揺らめく炎が反射する。
対するは金髪の仮面の男だった。ワインレッドの着物を模したような衣装に、顔の上半分を覆う仮面。
どちらも、互いの口元は歪んでいた。
「協力感謝する、チャ――」
「おっと。私はAVALONのリーダーのチャンピオンとは関係ない。ただのトライエイジ大好き仮面と呼んでくれ」
「……長くないか?」
「ふむ……ではトライエイジ仮面と」
「なるほど! ではトライエイジ仮面、協力感謝する!」
「なに、造作もない」
二人の仮面の男の間に出現したホロウィンドウ。
それはフォーストーナメントの詳細発表だ。
『メイジン主催・誰がなんと言おうと! 俺が! 俺こそが○○だ大会!』
その名に突っ込む者はこの場には誰もいない。
「元々この手の原作キャラロールダイバーのみのトーナメントバトルはやってみたいと思っていた。それをメイジンが主催してくれるというなら、私の個人的采配で運営に掛け合い、方々に協力を求めることも是非は無し」
「ふっ……流石はトライエイジ仮面。話が分かる」
「くくく……トーナメント参加者にはすでに招待を?」
「あぁ。私がえりすぐった16人には招待メールを送った。おそらく全員受け入れてくれるだろう。――――あの二人もね」
「例の、か」
トライエイジ仮面は何か思い出すように手を顎に当てる。
「確かトライエイジ仮面……いや、チャンプが稽古を付けたと聞く」
「あぁ。チャンプもヒロトとリク君の紹介では無碍にできなくてね」
「ははは、流石はリク君とサラ君の結婚ミッションでラスボスに割り込んだチャンプは一味違うね」
結婚ミッションは歴代ガンダムの中のカップリングが成立している主人公機体をヒロインのカラーリングに染まったガンプラ3機と戦うというものだったのが、リクとサラの場合、その三機目にわざわざ神父風にガンプラを改造したチャンピオンが立ちはだかったのだ。ちなみにそれは公式でリクが一人でチャンプに勝利した唯一のバトルである。
数多のGBNタイトルと二つ名を持つチャンプだが、そこに『リクサラ正面当て馬面』が追加された。
そんな彼がグレンと一度戦い思ったことは、
「素晴らしいセンスだな。かつてのリク君を思い出す。ヒロトの機体を使っていると思えば初期のリク君以上やもしれん。……まだまだ未熟なところはあるがな」
「君に……チャンプに言わせれば誰もがそうだろう」
「だが、確かな熱を感じた。彼は素晴らしいダイバーになるよ」
「ふっ……あぁ、そうだ。彼は素晴らしいダイバーとなる素質を持っている――――だが、だからこそ、彼はまだ本当の意味でGBNを始めていない」
それはグレン自身感じている歪みであり、メイジンもまたそれを感じていた。
だから、
「この格好の舞台を用意したわけか。ずいぶんと気に入っているね」
「なに、この身は三代目メイジン・カワグチ! GBN初心者を導くのが私の役目というものだ!」
「――――本当は見たいだけだけだろう? アニメではなかった、カミキ・セカイ対キジマ・シアのガンプラバトルを」
「否定はしないっ!」
「くくく……私も」
「ふふふ……」
暗い部屋に、羽目を外して趣味に没頭する子供みたいな大人の笑い声が響いていた。
「あれ、隊長って今日休みじゃなかったけ? なんか隊長室立ち入り禁止になってるけど」
「さぁ? 何やらメイジン・カワグチが訪れていたので、歓談しているのではないでしょうか」
リアルのシアスタル、フウカちゃんはアズレンのキャラみたいな長乳してます。
アヤメは死んだ。
トライエイジ仮面……一体何ジョウ・何ヤなんだ……