通常、観客はいないフリーバトルエリアであるコロシアムに観客席が開放される。
天蓋も取り払われ、青空の下に数千人が一度に集いそのトーナメントを見物に訪れていた。
『メイジン主催・誰がなんと言おうと! 俺が! 俺こそが○○だ大会!』
1プレイヤーが主催しているトーナメントであるが、いかなる手法か運営からも一時的にコロシアムの機能が開放され、大規模大会として成立していた。
それはトライエイジ仮面が運営に掛け合いイベントなっているということもあるが、同時に三代目メイジンというGBNダイバーの影響力と注目度も表している。ファイターズシリーズにおいて圧倒的な存在感を放ち、人気を博した男のなり切りダイバーはしかし、多くのGBNダイバーからなり切りとして認識されていなかった。
キャラクター、バトル・ビルドスキル、発言、言動、精神性。
その全てが、彼がメイジン・カワグチであるということを多くのダイバーに見せつけ、認めさせていた。
原作キャラロールプレイ、なりきりダイバーというのはGBN内において一定数いるが、しかしメイジンほどの存在感を持つダイバーは外にはいない。
そんな彼が自ら選んだなりきりダイバー16人。
GBNダイバーは大半が少なからずガンダムオタクであるので、アニメで見たキャラが実際にGBN内とはいえ生きて動くという様を見たくないわけがなかったのだ。
1対1のトーナメントバトル。
フィールドはランダム。効果無しから宇宙、資源衛星軍、コロニー、高知、森等々、コロシアムで設定可能なものから自動で選択。
ただし、観客席から見えるフィールドとコロシアムは別のディメンションとして区切られており、戦闘時の位置や状況に応じてズームやリアルタイム切り取りをするように調整されている。
その中で、我こそは原作キャラの化身であると信じるダイバーが己を証明しあう。
そして、その16人の中にはグレンが、シアスタルが参加しており――――。
「――――で、例のカミキ・セカイとキジマ・シアの子が決勝かぁ」
ポップコーンを齧りながらBUILD ダイバーズのモモは対戦表を見つめていた。
コロシアムの観戦席、すり鉢状になった中央は現在空っぽだ。
開催して数時間、準決勝までの全ての試合は終了し、インターバル。これから十分後程に決勝戦が始まる。
「バトルのレベルは決して低くなかったけど、その二人が突出していたのは否めないね。特にガンプラの出来は段違いだ」
ホロウィンドウでこれまでの対戦表と試合映像を切り取った画像を見ながら、眼鏡をコウイチが押し上げる。
ビルドダイバーズのガンプラ製作を監修する彼からすると、グレンとシアスタルのガンプラは興味をそそられるらしかった。先ほどから色々な角度から二人のガンプラを見つめ、推し量っている。
「リクくんとあとヒロトが直前に稽古つけたんだっけ。それなら納得だねぇ」
「…………あの子、まさか……いや……でもあのレベルのロールプレイなんて……」
ジュースを飲むユッキーはのんきに、隣のコーイチのウィンドウを除き、アヤメは何故か口端を引きつらせていた。
何か覚えがあるらしいのだが、話しかけても唸っていて反応が返ってこない。
昔の知り合いなのかなとモモは適当に想像する。フォース結成して3年半だが、GBN歴はアヤメが一番長いし、学年や学校といったリアルの都合で彼女が一人でミッションを行うこともそれなりにあった。その中で友人ができていてもおかしくない。
キャラメル味のポップコーンを噛みしめ、GBNの味覚再現エンジンのクオリティの高さに関心―――することもなく、美味しいなぁと思いながら頭上、一般の観客席ではないボックスの観客席に視線を移す。
「リク君とサラちゃんはVIP席か。いいなぁー」
「グレンの師匠枠ってことでメイジンが招待してくれたみたいだね。ヒロトとメイもそっちに行ってるらしいよ?」
「はー、なるほどねぇ」
一般の観客席が嫌というわけではないが、それでも自分たちがいることで若干の騒ぎになるのは否めない。
フォースBUILD DIVERS。
3年半前の二回の有志連合戦で名をあげ、1年半前のエルドラミッションでも最前線で戦った。その後のも難易度の高いミッションをクリアし、フォースリーダーがGBNナンバー2であるリク、それに彼とサラがGBN初の結婚システム利用者ということもあって注目度は非情に高い。
だから、大会が始まって席に座っただけで知らないダイバーに色々話しかけられた。
モモはまるで気にならないのだが、ユッキーはともかく人付き合いが上手と言えないコーイチとアヤメは未だに戸惑っていたのがちょっと面白かった。
「コーイチさんはどっちが勝つと思う?」
「ふむ」
問われ、コーイチが再び眼鏡を押し上げた。
いわゆる眼鏡クイ。
ひそかにモモが軍師ムーブと呼んでいるもの。おそらくあれをやることで瞬間的に知能指数を上げている。何回かモモも試したがそんな気がした。
作戦立案は結局コーイチの仕事なのであまり意味もなかったが。
「ガンプラの出来でいえば……互角だけど、グレンのはヒロトが作ったものだから理解度という意味ではシアスタルが勝つだろうね。操縦スキルでもシアスタルが上だ。これは純粋な経験値によるものだろう」
「じゃー、シアスタルちゃんの勝ち?」
「どうかしら」
アヤメが口をはさんだ。
彼女もまたウインドウを展開し、コーイチがフォースの共有フォルダに保管した大会戦闘画像を展開する。
これまでの3回のバトル。
一回戦、サカイ・ミナトロール、ミスターMSと使用ガンプラ『はいぱーふみな・まりん』。
ファイターズトライのヒロイン、ホシノ・フミナをそのままガンプラにしてさらに水着を着せた変態ガンプラである。それでお色気による油断させるというとんでも戦法を取ったが、グレンが構わずにライトニングストライダーで蹴り倒した。
馬鹿だなぁと、モモは思った。
二回戦、三部仕様フリット・アスノロール、フリッターと使用ガンプラはガンダムAGE-1 フルグランサを改修した『ガンダムAGE-1・エクスターミネイト』。元々の機体にさらにミサイルポッドやビーム兵器を盛りまくり、フィールドであったデブリ群のデブリを残らず消滅させるほどの殲滅ぶりを見せつけたが、ウイニングスターの防御力を遺憾なく発揮し近接に持ち込むことで勝利。
余談だが、『特に理由はないが殲滅殲滅ゥ!』とひたすら叫ぶ危険思想の持主だった。
キャラロールの方向性が間違ってない? とモモは首を傾げた。
三回戦、東方不敗ロール、西方無敗と使用ガンプラは改造無しの『マスターガンダム』。
まさかの素組み機体での正面からの殴り合い。
色物続きだったところに面白成分抜きのバトルであり、正面からの殴り合いだったが―――それでもソウルバーニングガンダムの拳が打ち勝った。
超級覇王電影弾を生で見れた時点でモモは満足した。
「一回戦は置いておいて、二回戦、特に三回戦の相手は確かな強さの持主だったわ。それらを正面から打ち勝ったということは彼は確かな実力がある。シアスタルのガンプラと経験値をも上回ることはなくもない」
「彼はまだGBNを始めて二か月と経っていないらしいよ?」
「それを私たちが言うのかしら?」
「……違いない」
アヤメの問いかけにコーイチが苦笑した。
時に経験を上回るセンスというものは存在する。
彼らのリーダー、ミカミ・リクが最たるもの。
リクの場合、GBN初日からその戦闘技術には光るものがあったのだから。
そのリクがトレーニングを施し、コーイチに匹敵、ある分野では勝てないとと認めるヒロトが作成したガンプラをグレンは使っているのだ。
そりゃ絶対強いわなと、モモは思った。
そしてそれ以上に、
「リク君が鍛えたんだから、負けちゃダメだよー!」
「――――こんなものかしら」
格納庫で一人、ウィンドウから自身の機体の最終調整をしつつシアスタルは首を傾げた。
と言っても、GBN内からログイン時にスキャンしたガンプラ以上の何かを生み出せるわけではない。武装の切り替えや内蔵されたシステムのオンオフ、使用制限を弄る程度に過ぎない。
これはシアスタルなりの精神統一だ。
機体は完璧だ。
これまでの三つの闘いでシアスタルは危うげなく完勝している。
この大会のためにチューンアップしたSSクアンタは想像以上の性能を発揮しており、大会におけるガンプラでも最高峰の完成度を誇っているあたり、キジマ・シアの面目躍如と言えるだろう。
その上で、
「勝たないと」
この大会で勝利しなければ意味がない。
三代目メイジン・カワグチが主催した今回の大会の注目度は非情に高い。
運営の後押しもあり、どう見てもチャンプなトライエイジ仮面がいて、多くのトップフォースが観戦に来ているのも確認する。
個人的の尊敬するメイジンとシャフリヤールがいるのが非常に大きい。
それらの前で己がキジマ・シアであると証明すること。
シアスタルにとってそれこそが積年の願いでもあるのであり、GBNでバトルを行う理由なのだから。
それに、
「――――まさか、彼が決勝とはね。今度は、ちゃんとセカイになってくれているかしら」
対戦相手、カミキ・セカイロールの青年。
これもまた本来であればシアスタルが待ち望んだ相手であるが、以前の闘いは失望の一言だった。あれから、どう変わっているのか。彼がカミキ・セカイでいてくれているのか。
少しだけ、期待している自分がいる。
強くあってほしい。
それは心から願う。
シアスタルにとって強くないカミキ・セカイに意味はない。
「……そう思うと、勝っても負けても悪くないのかしら?」
勝てば己をキジマ・シアとして証明できる。
負ければ相手がカミキ・セカイという証明であり、シアスタルにとって宿命の相手が見つかり、キジマ・シアロールはより完璧なものに近づける。
分析すれば、どっちに転んでもシアスタルの得になる。
そう考えて――――苦笑する。
「ふっ――――シアなら負けることなんて考えない。必ず勝つと、静かに決めるだけよ」
故に心を決める。
キジマ・シアはダイバーではなくビルドファイターだ。
多くの可能性を持つGBNにおいて、戦うためにダイブしている。
GBNという世界に飛び込んでいるのではなく、ガンプラバトルという戦いに飛び込むのだ。
「期待しているわよ」
小さく呟き―――ウィンドウを操作する。
これまで制限をかけていた機能をアンロック。
元々決勝でしか使う気がなかったシアスタルの奥の手。
ウィンドウを消して、作り上げたガンプラに乗り込む。
「行きましょう、クアンタ」
――――来るべき証明を超えるために。
「準備はいいかい、グレン」
「おう」
格納庫でストレッチを終えたグレンはサンタに応え頷いた。
GBNという電子空間においてストレッチの意味はないが、気分の問題だ。その方が勢いが付く。
体は好調、機体は万全―――――心は、燃えている。
「誘った甲斐があったよ」
そんなグレンを見て、サンタは笑う。
「こんなに君が燃えてくれるとは思ってなかったな」
「……そういう意味じゃ、悪かったなサンタ」
少しだけ、申し訳なく思う。
この一月半、グレンはGBNを続けて――――辞めていないが、それはサンタと楽しんでいるとは言い難い。
多くのダイバーに助けを借りているが本質的に見ているのは一人だけだから。
一緒に遊ぼうと誘ってくれた幼馴染に応えているわけじゃないのだ。
だが、サンタは一瞬目を丸くした後、
「あはは、いいだよグレン。そんなの。そりゃあ一緒にバトルできればいいとは思ったけど、それ以上に燃えているグレンを見るのは結構楽しいんだよ」
「そんなもんか?」
「あぁ。……ま、それならこのバトルがどうなっても、GBN続けてくれると嬉しいかな」
「……本当にGBNが好きなんだな」
「もちろん」
胸を張って言い切るサンタに思わず苦笑する。
何かをそんな風に好きと言えるのは素敵なことだ。
そして、グレンはまだそういう風には言えない。
言えるかどうかは、全てこの後の戦いに掛かっている。
「……よし、行ってくるぜ」
「あぁ、行ってこい」
背中を押されて、ソウルバーニングガンダムに乗り込み、操縦桿を握りしめる。
『準備はいいかね、グレン君?』
「あぁ」
すぐにウィンドウが開き、メイジンの顔が映る。
彼の顔は、好きなおもちゃを前にした子供のように笑っていた。
自分は今、どんな顔をしているのかなとふと思う。
『――――ふっ、燃えているね』
告げられ――――考えるまでもなかった。
「当然……!」
口端が吊り上がる。
自然を歯をむき出しにして笑う。
この瞬間だけを望んでいた。
そのためだけにこれまでの日々があり、出会いがあった。
燃えている。
燃えている。
熱く―――――燃えている。
『それでは―――良いバトルを』
一言残し、ウインドウが閉じる。
同時正面メインウインドウに出撃許可のシステムメッセージ。
ここからはもう、全てが介入する余地がない。
あるのは自分とシアスタル。己と相手のガンプラだけ。
一度、長く息を吐き、
「―――――-グレン! ソウルバーニングガンダム!」
「シアスタル・キジマ。SSクアンタ・プリマ・アソルータ」
「行くぜェェッッッ!!」
「―――――目標を駆逐する」
プリマ・アソルータ
バレリーナにおける最高位の称号