無機質なフィールドに光が走り――――荒野へと変換される。
戦闘フィールドとしては地形効果がなく広いだけ、ただし空は成層圏まで続いている。
障害物や高低差もない故に策を生じえず、ガンプラの出来と操縦スキルが物を言う。そういうステージだ。
そしてそれだけではなく。
ファイターズトライにおけるガンプラ全国大会で、主人公のビルドダイバーズ対キジマ・ウィルフリッド率いるチームソレスタルスフィア。
決勝戦が時間制限を迎えた後の延長戦のバトルステージになった場所だ。
グレンとシアスタルの決戦の地としてはこれ以上ふさわしいものはない。
「つおおおおおおおおおおおおお!!」
「ッ―――――!」
その中央、ゲートから飛び出すと共に紅蓮と翡翠が激突する。
「ずっと、この瞬間を待っていたぜ……ッ。シアスタル!」
歯をむき出しにしてグレンは笑う。
言葉通り。ただ彼女と再び相対するためだけにこの二か月はあったのだから。
空中の激突の後に地面に着地し、拳を構える。
焦がれた相手を見据え――――そして、目を奪われた。
「んん――――っ」
シアスタルのガンプラ。
SSクアンタ・プリマ・アソルータ
SSクアンタをさらに改修したものなのだろう、基本的な造形はSSクアンタであり、右肩のGNバインダーに加えて左肩にはGNフルセイバーを模したプリマセイバー追加されている。
元々SSクアンタはOOクアンタをキジマ・シアが改造したガンダム00シアクアンタをシアスタルがGBN仕様にアレンジしたもの。
そして00クアンタにはいくつかのバリエーションが存在する。
00クアンタフルセイバー。
それがプリマの基になった機体だ。
00クアンタのツインドライブを安定させるためにGNフルセイバーを装備。劇場版では使用されずゲーム等のみで出演する機体であり、機体デザイナーの設定では限定的な条件下ではあるもの一週間で作中地球に襲撃した地球外生命体ELSを殲滅しるうという戦闘力を誇る。
対話のためではなく、戦うためのガンダム。
シアスタルはこの戦闘特化機体を素案にしつつ、しかしただのアップデートバージョンとはしなかった。
プリマはSSクアンタに比べて各部のクリアパーツ、GNコンデンサーが関節部だけではなくレンズ状ではない長方形のそれが両足の脛や上腕部、腰回りに増設さている。
GNフルセイバーは本来機体背部にマウントされるが、プリマセイバーは右肩にジョイントパーツを増設し翼に近い左右対称のシルエットに。
太陽の光に照らされて、全身のクリアパーツがエメラルドグリーンに輝く。
太陽炉を備えた機体は太陽光をドレスのように纏う。
ガンダム00における最高級の戦闘力を兼ね備えながら、グレンが思わず呼吸が止まるほどの美しさを持つガンプラだった。
SSクアンタ
シアスタルの持つガンプラ製作技術。ガンダム00シアクアンタとそのオリジナルである00クアンタを始めとした太陽炉搭載機体へのみ特化した彼女のビルドスキルの集大成ともいえる。
「素晴らしい。言葉が無いな」
隣に座ったシャフリヤールが嘆息したのを聞き、タイガーウルフは少なからず驚いた。
タイガーウルフとシャフリヤールの付き合いは長い、その上で腐れ縁とでもいうべき相手。
ライバルとさえも言っていい。
決して口にする気はないが。
同時にそのガンプラビルドの技術は誰よりも認めていると言っていいし、名実共に彼の技術はGBNにおける最高位。その鑑定眼もまた認めている。
その上で、彼が純粋な称賛のみを口にするのはめったにないことだ。
「……そんなにか? そりゃあ確かによくできたガンプラだが」
プリマから目を離さなかったシャフリヤールが一瞬視線をウルフに向けた。
道端の石ころを見るような目だった。
「犬。君は本当に何も見てないな」
「んだこら狐野郎てめぇ!」
「分からないのか! あのガンプラに込められた――――愛がッ!」
琥珀の瞳が見開かれる。
「なんという……なんという愛……! 今私はらしくもなく羨望、嫉妬すらしている! 一つのガンプラに、あそこまでの愛を込められるとは……!」
「えぇ……」
あまりの勢いに思わずタイガーウルフは仰け反った。
愛に関しては口うるさい、一家言ある男ではあるがここまで盛り上がることはそうそうない。
「お前さんがそこまで言うたぁな。しかも、GNドライブ乗っけてるやつで」
シャフリヤールの愛機、セラヴィーガンダムシェヘラザードはプリマと同じでガンダム00に登場する太陽炉搭載機体セラヴィーガンダムを基にヴァーチェやプトレマイオスの要素を足して作られたGBNにおける最高傑作の一つ。
彼は他人のガンプラを何よりも込められた愛で判断する。
愛がなければ論外。
愛があれば、その上で長所を褒めて、それから短所を指摘するというよりも彼から見た改善点を伝えることで製作者の成長を促す。
ビルダーの頑張りと愛を認め、その上で次へと導く。
教え方が理論的でわかりやすく、上手いのだ。
その点も感覚派のタイガーウルフにはできないやり方ではある。
だからこそ、シャフリヤールが無条件で褒めるというのは極めて珍しい。
彼がべた褒めする太陽炉搭載機体はタイガーウルフが知る限りリクのダブルオーダイバーメビウスくらいだ。GNドライブのくくりを抜いても片手が余るくらいだ。
「この大会はなりきりダイバーによる大会だが、しかしガンダムのキャラに影響を受けているダイバーは多い。私自身、ティエリア・アーデから多くのインスピレーションを受けている」
「あぁ。万死に値する! だよな。あれお前が言いだしてから00見るとお前の面が過るんだけどどーしてくれんだ」
「だが、彼女の場合はキジマ・シアになりきり、キジマ・シアがGBNにいたら、ガンプラをどうするか。ただなり切るわけではなく、その先まで思考をトレースし、技術を重ね、あのガンプラを作成した」
故に、
「これを愛と言わずに何と言う……!」
ガンプラは愛で作るものだと、シャフリヤールは口にする。
そしてそれをタイガーウルフも認めていること。GBNにおけるガンプラの強さとは機体の設定ではなく、ガンダムの作りこみであり、ビルダーの好きで決定される。
モモのモモカプルがいい例だろう。
あれはビルダーのセオリーから見れば滅茶苦茶だが、モモの思う可愛いをGBNを読み取ってやたら高性能な機体に出来上がっているのだから。
正直タイガーウルフには分からない可愛さだが。
そこにあるモモの好きは伝わってくる。
リクのサラカラーのメビウスもわかりやすいだろう。
一部では嫁ガンダムと言われる機体だ。
そのせいで一時期推しキャラのカラーリングをするガンプラが非常に流行ったこともある。
「素晴らしい。私は彼女に掛け値なしの賞賛を送ろう。――――おそらく00系列のガンプラの扱いに関してだけ言えば、彼女のスキルは私をもう凌駕するだろう」
「マジかよ」
「ふふふ……これが愛」
ううむと、唸りタイガーウルフがプリマへ視線を送り、シャフリヤールもまた目を細める。
見やる先はプリマ―――その増設されたクリアパーツ。
「あれは――――ふふふ、全く。驚嘆に値する」
空中を赤と緑が交差する。
飛行による高速戦闘はGBN、ガンプラバトルにおける花形の一つだ。
プリマの主要武装は刹那・F・聖詠の乗るガンダムの流れを汲んだセブンスソード。
左腕の折り畳み可能なGNソード改。右肩のGNバインダーは三つのソードビットで構築され、プリマセイバーはGNソードⅣをGNガンブレイド二つを結合することで七つの剣を実装させている。
大型剣二本とビットが五つの構成だが、それぞれは合一機構は取り込まれておりライフルモードも使用可能だ。
そして、ソウルバーニングの拳とGNソードをぶつけ合いつつ、シアスタルは思う。
「――――腕を上げたわね」
内心素直に関心し、唇を舐める。
『んん……! そりゃ嬉しいなァ!』
数度の激突でシアスタルはグレンの操縦スキルの上達を認めざるを得ない。
前回の闘いは機体を動かしているが、ガンプラバトルのそれではなかった。動きそのものは卓越していたが獣のものであり、空中機動などは見られたものではなかった。
だが、今回は違う。
ソウルバーニングガンダムのプラフスキー粒子スラスターを扱いきり、自在に空を飛ぶ。
いいや、彼の場合空を飛ぶというよりも、
「ふっ……!」
GNソードを叩き込み、それがソウルバーニングの拳とぶつかり、弾かれ合う。
互いが距離を取り、ソウルバーニングはスラスターを吹かせ――――中空を踏みしめた。
「粒子変容機能!」
ソウルバーニングの動力炉―――そして、SSクアンタ・プリマもまた、プラフスキ―粒子により動くガンプラだ。
プリマのGNドライブも、あくまでもプラフスキー粒子がGN粒子に変容して動いているというものだ。
そして、ビルドファイターズの一部のガンプラにはプラフスキー粒子に干渉・変容させることで攻撃を曲げ、飛ばし、そして足場にすることができる。
それを以てソウルバーニングはプラフスキー粒子を足場として空中ジャンプを可能としていた。
「レインボービット!」
両肩のGNバインダーとプリマセイバーがそれぞれ分離。GNソードⅣのみを残してソウルバーニングへと殺到する。五つのビットから粒子ビームが放たれるが、ソウルバーニングは止まらない。
空中跳躍とスラスターの加速を繰り返して行われる鋭角疾走。
チャンピオンにも認められ、リクとのトレーニングで研ぎ澄まされたバトルセンスが粒子ビームの檻を駆け抜けさせる。
『――!』
再度、GNソードと拳が激突しプラフスキー粒子の光が二機を中心に弾け煌めく。
「―――認めるわ、グレン。貴方は弱くない」
残していたGNソードⅣを右手に握り、二刀流にてソウルバーニングを迎撃する。
二本の剣と四つの手足がぶつかり合う。
「その上で見せてもらいましょうか、貴方がカミキ・セカイに相応しいのかを!」
拳と剣がしのぎを削り、ソウルバーニングとSSクアンタのツインアイの輝きを交わる。
そしてシアスタルもまたグレンを見定める。
セカイとシアの宿命をなぞることができるのか。
それがシアスタルが彼と戦うための理由の一つで、
『――――よ』
「ん?」
『――――れよ』
オープンチャンネルから声が小さい。
何かを言っているかよく聞こえず、
『――――――もっと! 熱くなれよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「きゃっ!?」
急に聞こえて来た爆発するような咆哮に思わずシアらしくない声を上げてしまった。
だが、グレンは構わず、ソウルバーニングの赤いツインアイは燃えるように輝いている。
『温い温い温い! どうしてそこで諦めてるんだ! そんなことはどうでもいい! セカイもシアも知ったことじゃあない! 俺はそんなことのためにここにいるんじゃないっ!』
「き、企画の全否定!」
『シアスタル!』
グレンが叫ぶ。
炎のように。
『俺はただ、お前を倒すためにここにいる! そのためだけにGBNに残っている!』
「なっ―――」
『お前に負けて、温いと言われ―――お前とそのガンプラに魅入られた』
一月半前のこと。
シアは彼という男を温いと、偽物と断じ切り捨てた。
『だから、俺が望むのはお前と俺の決闘だ! そこにシアとセカイは関係ない! それ以外の何物も必要ない! ――――――あぁ、そう!』
叫びの途中、急にグレンは何かを思いついたかのように言葉を区切った。
そして、
『この気持ち―――――まさしく愛だ!』
「愛……!?」
カミキ・セカイもどきではなくグラハムもどきだった……?
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