「うおおおおおおおおおおおおおおお!! 愛! 愛って言いました! 告白じゃないですか? 告白ですよね? 告白ですよこれ!!」
「いや、落ち着けよパル。告白というか――――グラハム語録だろ」
●
「っ――――な、なるほど」
グレンから飛び出してきた愛という言葉に一瞬頬を赤くしたシアはしかし、すぐに冷静さを取り戻した。
グレンの言葉は確かに聞きようによっては愛の告白にも聞こえるだろう。
中高時代、現実でやたら女生徒からの告白を受け、さらには態々別の学校から告白しに来るような男子からも愛の言葉を浴びせられたがここまで直接的なものは初めてだ。
だが、これは愛の言葉ではない。
「グラハム・エーカーの代名詞的セリフの一つ――――見て来たというのね、00を!」
グレンが叫んだ言葉は機動戦士ガンダム00の主人公、刹那・F・セイエイのライバル、フラッグファイターグラハム・エーカーのもの。作中刹那と何度も戦いを繰り広げ、彼に固執し、在り方を歪め、歪められてしまった武士道の男。
特徴的セリフ回しと声優の好演から人気の高いキャラクターだ。
その言葉を使ったということはグレンは00を視聴してきたのだろう。
あれから二か月ほどあったのだ、アニメ二期分と劇場版を見るのには十分に余りある。
シアスタルにとってはガンダムビルドファイターズトライは聖典だが、それを除けば一番繰り返して見たのは00シリーズだ。
もっともそれもキジマ兄弟が00が熱烈好きだからというのが理由なのだけれど。
『あ、いや別にアニメ見たわけじゃねーよ』
「……は? ならなんで今のセリフを」
『チャンプとトレーニングした後に、シアスタルと戦う時はこれを使うといいっていい笑顔でグラハム語録とかいうテキストデータをくれた』
「チャンプ……!」
●
VIP席、苦笑するリクとかつての上司のハメの外し振りに頭を抱えたヒロトがトライエイジ仮面を見た。
「ふっ……困ったチャンプがいたものだね!」
●
「全く……でも、トライくらいは見たんでしょうね!」
『あぁ! ちゃんと調べたぜ!』
「…………んん? 調べ、た?」
日本語が不自由なのかこの男は。
アニメを見ることを調べたなんて、言うはずもなく。
「――――まさ、か」
『あぁ―――――ちゃんと全部ガンダムwikiで調べたぜ!』
「こ、こいつ―――――!」
思わず無造作にソードビットやガンブレイドから粒子ビームを乱雑にぶち込んでいた。
いらだちを込めたものだったから当然ソウルバーニングには当たらず、簡単な空中機動で回避される。
「なんてもったいないことをしてるあなたは! 見た後に情報補完のために見るならばともかく、見る前から先に調べるなんて! そんなことをするよりも貴方はそのソウルバーニングガンダムの基である、ファイターズやオルフェンズを見る――――」
言葉にして、ふと気づいた。
ガンダムマニア、ガノタとしてあってはならない可能性を。
「ま、まさか貴方……!」
『あぁ! やっぱりそこらへん全部wikiで調べたぜ!』
問答無用で怒りの粒子ビームを叩き込む。
さっきから同じセリフしか聞いていない。
しかして、原作を見ずにwikiで情報だけ文字で読んで見た気になるなんて言語道断である。
ウインドウに表示した観客席からもブーイングが上がっていたが、それも当然だろう。
GBNは全員がというわけではないが概ねガンダム好きの集まりなのだから。
そんな風に見る者に対して、良い感情は出てこない。
見てないのはともかく、調べるだけで見た気になるのは問題だ。
『えぇい、仕方ねぇだろ! だってよ―――――多いんだよ! アニメ! いくつあるんだ!』
「くっ……!」
思わずビット制御が乱れ、観客席のブーイングも止まった。
『そりゃちょっと見ようとは思ったし、ヒロトやリクにも齧りだけ聞いたからおすすめ見ようと思ったらやたら出てくるし、そもそも配信サイトに登録して課金するかレンタルするかしないと見れないし、やたら話数が多い!』
「それでも2,3日潰せば見れたでしょう」
『そんな時間作るくらいならログインしてバトルする』
「この……っ」
グレンの言葉に思わず歯噛みするが、彼の言葉もある意味正しい。
そもガンダムシリーズの始まりは約40年以上前のこと。そこから多くのアニメメインシリーズを生み出し、ゲーム漫画小説資料集ムック本等々すべてを網羅するのには膨大な時間と金銭が必要になる。
決してアニメを見始めて二か月の少年がカバーしきれるものではないのだ。
シアスタルでもそれこそ数年かけているが、いまだにその全てを抑えているとは言えないのが正直なところ。
『まぁ俺はガンプラ好きで続けてないってのはさっき言っただろう。熱量はそこにぶち込んだんだ! なぁに、シアスタルが言ったようにファイターズとトライとオルフェンズ、ダブルオーはざっくりとだがさらっといたぜ! 機体設定は特にな!』
「あぁ……うぅん、まぁ最初なら仕方ないかしら……」
『オルフェンズはなんかSNSで一時期噂になったしな! 『止まらねぇ』ってやつだろ。団長が死ぬのは知ってる。なんかやたら死ぬのも』
「確かにあれは話題になったけど……このっ……なんていうか……そういう感じで見る奴じゃない……!」
『まぁ個人的に金髪の水着みたいなツインテの子が生きてれば俺は問題ない。乳はデカければデカいほどいいしな』
「あっ」
『ん?』
「……な、なんでもないわ」
『そうか』
ははは、とグレンは笑い。
『―――――いや絶対それ死ぬ奴だろ!!!! いい感じに戦死するんだなあの子!』
何も言えず、ソードビットをGNソードに合一させて、GNバスターライフルによるビームを叩き込んだ。
それをぎりぎりでグレンは回避しつつ、
『この野郎……! いいさ――――今の俺は、アスランすら凌駕する存在だ!』
「アスランを超えてどうするのかしら!?」
●
「ぬぅ……! あれは『みんな知ってるけど実は重大なネタバレだったの問題』と『オタクついつい匂わせぶりな発言でネタバレしてしまう問題』!」
「知っているのぉ!? ロン電ちゃん!」
「ああ……!」
ロンメルはグレンとシアスタルの会話に思わず声を上げた。
マギーの声に頷きつつ、
「現代社会はインターネットは世界中に普及し、情報という概念はもはや地理的な距離を意味をなさない。実際GBNから世界中の人間がログインし日々交流することが可能だ」
「壮大な始まりねっ!」
「アニメ一つをとってもSNSやGtubeで実況や感想をアップすれば家にいながら多くの同好の士とコミュニケーションを取ることが可能だ。盛り上がりが大きければトレンドに乗ることもある」
だが、それ故に、
「重大なネタバレが盛り上がった故にトレンドに乗り――――関係ない人の目に留まって、盛り上がり故にそれを知ってしまうわけだな」
「あぁ……」
マギーにも覚えがあった。
先ほどグレンが口にした団長――オルガ・イツカの件もそうだ。
彼の死に様は物語上衝撃的な展開であり、視聴者にもショックを与えたが同時に非常にSNS、ネットで盛り上がった。
だから、オルフェンズ未視聴者でもその存在を知っているくらいに。
あぁ、あの死んでも止まらねぇからよの人だよね、という具合に。
ガンダム以外でも似たようなことはある。
赤いアーチャーの正体はエミヤだとか。
ダース・ベイダーはルークの父親だとか。
宝生永夢は世界で初めてのバグスターウィルス感染者だとか。
そういう本来は絶大なネタバレなのに、皆知っている類。
マギーにしても自分の店に鉄血ネタのものを飾っているので頷くしかなかった。
「じゃあ、あの子が実際にアニメを見るときは楽しみが半減しちゃうのね……」
「いや、事実に対して感情が追い付いてきて、知ってたけどこういうことだと……と情緒が死ぬ」
「死!」
マギーは来る彼の情緒へしばし黙祷を捧げ、
「それで、もう一つの方は?」
「うむ。これは言葉通りの意味だ。正直、良いこととは言えんのだが。……マギー君」
ロンメルは彼女の名を呼び、そして空を見上げ、
「――――初視聴の友人のアニメ実況って、それだけで面白くないかね?」
「分かるわぁ……」
「さらにその人物の推しが終盤死んだり闇落ちしたりとんでもないことになったらついつい意味深しちゃわないかな……」
「しちゃうわぁ……」
「『オタクついつい匂わせぶりな発言でネタバレしてしまう問題』!」
「豪が深いわね私たちは!」
「特に彼の推しがラフタとは……」
「彼の情緒にダインスレイブね……」
マギーは再び彼の情緒へ黙祷を捧げた。
●
ソウルバーニングとSSクアンタが激突を繰り返す。
二種のビットの量子ビームを潜り抜けながら、グレンが飛び込み、シアスタルが迎撃を行う。或いはビットの攻撃からグレンが逃れつつ、シアスタルの攻撃を耐えて反撃を行う。
状況が膠着し、ある程度の拮抗状態が生じていた。
ガンプラの技量や操縦スキル、思考らによるいくつかの要素がかみ合いこの現状を生み出していた。
だが、
「もっと……もっと燃えられる……!」
足りないと、心が叫んでいる。
前と違って、まともな戦いにはなっている。二か月でここまでこれたのなら大したものだろう。
だがそれでは満足しきれない。
ただ戦えることを目指して、ここまで来たわけではないのだから。
「―――そうだろう」
叫びと共に赤い粒子を纏った拳を叩きこむ。
それはプリマのGNソード改に受け止められ、返す刃で返されたGNソードⅣの一刀を逆の手の甲で弾いて逸らす。そのままの勢いを殺さずに、
「シアスタル!」
頭突きを打ち込んだ。
『っ……野蛮!』
「はっ、なんとでも!」
頭部がぶつかり、弾かれ合い、そしてプリマの機体が下にズレた。
落下することで距離を取ろうとしたと思った瞬間、
「がっ!?」
胸元に衝撃が突き刺さった。
下がったのは上半身だけでエビ反りを行い、そのままの勢いで右足を背後に振り上げる。そのまま頭上を通して蹴りを叩き込んだのだ。
嘘だろと、思った時にはSSクアンタは動きを重ねていた。
――――ぐるり。
そんな音が耳に聞こえた気がした。
サソリのように体をそらしたまま、体の各部のスラスターを起動させて胴体中心に一回転。加速と遠心力が十分に乗った二撃目の蹴り足がソウルバーニングへと叩き込まれた。
「っっ――――――!」
意識外の一撃を諸に浴び、機体が地面に激突する。
埒外の可動域。
ガンプラという体からは想像もつかせないその動きの柔らかさをこの瞬間に理解した。
「関節部か……!」
『あら……ちゃんと勉強してたのね』
ガンプラの重要要素の一つに関節部の強度がある。
そこを疎かにすれば可動域が下がり四肢も外れやすく、壊れやすくなる。またリクの存在により現在のGBNでも圧倒的な人気を誇るトランザムシステムも関節部の作りこみが甘いと発動しなかったり、発動中に自壊することもあるのだ。
ソウルバーニングの場合、関節部が近接格闘戦に特化するために非常に頑強に作られている。
だからちょっとの力加減ではまともに動かないし、力を入れすぎれば過剰な動きを生んでしまう。それはGBNにおいても上から数えたほうが早いヒロトが使いあぐねるほどのピーキーさであり、グレンの持つ天性のセンスがあったからこそ動かせたものだ。
そして、SSクアンタ・プリマ・アソルータの場合、
「どんだけ緩くしたらあんな動きができるってんだ……!」
各関節がソウルバーニングと逆に緩く填められている。
その塩梅はグレンにはまるで分からない。だがあえてゆとりを持たせてジョイントさせることで可動域と柔軟性を高めているのだ。
一歩間違えれば、簡単に外れてしまうような絶妙なバランス。
そしてそれを使いこなす繊細極まる操縦技能。
シアスタルのスキルの粋を集めた成果がそこにはある。
『関節のパーツを鑢で丹念に削れば貴方もできるわ』
「気が狂いそうだぜ!」
だが。
あぁ、まったく。
「最高だぜ……!」
ガンプラを作ったから、彼女の技術の高さが分かる。
ガンプラで戦ったから、彼女の操縦の巧さが分かる。
以前の戦いでただ魅入られた。
しかし、こうして自ら学び、体験することでよりシアスタルの素晴らしさを思い知る。
「あぁ、全く――――抱きしめたいな、シアスタルッッ!」
燃える血潮に逆らうことをせずに、そして彼は吠えた。
「オールソウル・ユナイト!」
全身のクリアパーツが赤く輝き、エグゾフレームが起動する。
「
グレンのコックピット内、機体表示ウィンドウの三色に分割されていたトライアングルが一度消え―――より鮮やかな紅蓮の三角となって表示される。
エグゾフレームの内、四本が腰部から離脱。残った四本がそれぞれ四肢へとレールを沿って移動し、装甲となって上腕部と脛の位置にそれぞれが合一。残った四本は空中を浮遊し、ソウルバーニングの背部に十字を刻むように展開。
――――全てのナノラミネートコートが剥離し、クリアパーツが輝いた。
機体の各地に増量したクリアパーツ、粒子許容体から赤いプラフスキー粒子があふれ出す。
背の四本はフレームの半ばから曲線で繋がれて大きな日輪がソウルバーニングの背後にて背負われる。
腕部のクリアパーツは勝利の道をこじ開ける星のように黄金に。
脚部のクリアパーツは彼方まで至る雷光のように群青に。
そして背後の日輪と胸、両肩のクリアパーツは燃え盛る心のように紅蓮に。
三つの色が一つとなる。
「ソウルバーニングガンダム――――トライファイターフレームッ!」
あふれ出すプラフスキー粒子がフィールドを飲み込んでいく。
●
ソウルバーニングガンダムはヒロトが作りだしたエース機としての最高傑作だ。
ヒロトの半身であり――――彼にGBNを愛することを教えてくれた少女と作り、名付けたコアガンダム。
それはアーマーを切り替えることによりあらゆる状況や環境に適応することができるガンプラだった。
対してソウルバーニングガンダムはコンセプトが違う。
トライファイターズの主人公チーム・トライファイターズを元にして、三つの形態変化を実装。
バランス型のソウルバーニング。
パワー型のウイニングスター。
スピード型のライトニングストライダー。
そしてそれらの純粋強化と粒子放出を全開にしたトライファイター。
コアガンダムほどの対応力はないが、しかしその分純粋な戦闘力へ特化させている。
チーム・トライファイターズのエースだったカミキ・セカイがよりその力を発揮しつつ、より活躍できるように。
エースとしての存在を極限にまで突き詰めたのがソウルバーニングガンダムであり、その最強形態とでも言うべきものがトライファイターフレームなのだ。
現在のGBNにおいて近接格闘主体機体、その最高傑作。
掛け値なしの賞賛されてしかるべきガンプラだ。
「――――そしてそれを使いこなせる貴方も、か」
フィールドを覆うプラフスキー粒子の中でシアスタルは静かに呟いた。
機体は絶賛できる。
だがそれは並みのファイターでは扱えない。
ソウルバーニングの操作性に匹敵する難度のSSクアンタを使うシアスタルだからこそわかるのだ。
そして、ソウルバーニングの輝きはまだ準備が完了していないことが分かる。
あふれ出す粒子がソウルバーニングを中心に球状フィールドとなるそれはあるシステムの前触れ。
バーニングバースト。
トライバーニングの全身、スタービルドストライクガンダムより連なる真骨頂、その先だ。フレームの変化により機体強度を底上げした状態で行う出力強化を行うのだろう。
それを扱い熟すだけの自信があるから、切り札を彼は切った。
故に認めよう。
そして受けよう。
グレンという男の果し合いを。
正面から叩きつけられる彼の炎を。
きらめく粒子の中で―――――――シアスタルは静かに呟いた。
「クアンタムシステム―――――起動」
同時、SSクアンタの全身から虹色の粒子が吹き荒れた。
「―――!」
驚愕するグレンは息をのみ、ソウルバーニングの粒子とせめぎ合うようにフィールドに広がっていく。
プリマの関節部のGNコンデンサーや胸のGNドライブが展開し、膨大な粒子を放出する。
クアンタムシステム。
それは来るべき対話のためのもの。
紛争の中で生まれ、闘争の中で生きた刹那・F・聖詠。
彼が世界の歪みと向き合う中で見出した答え。
戦うためではなく、分かり合うための光。
別の宇宙に生まれ、全く違う生き物であろうとも。
心臓が無くても、脳が無くても。それでも心さえあれば分かり合えるのだから。
それを――――シアスタル・キジマは闘争の為ではなく己の証明のために転用する。
ソウルバーニングの粒子を押し返して生み出される高濃度粒子空間。
虹色と紅蓮に割れる世界の中で、彼女は微笑んだ。
「行くわよ、グレン」
「――――あぁ」
呼ばれた名に、噛みしめるように頷き返す。
やっと、初めて彼女が自分を見てくれた気がしたから。
燻っていた奥底へと風が吹き込み、そしてさらに燃え盛る。
「バーニング――――」
「S2F――――]
「「――――――-
バーニングトライバースト。
ソウルバーニングの機体装甲が剥離し、さらにクリアパーツが露出。溢れ出した粒子を機体内部フレームに浸透させることで性能を極限まで強化。本来トライバーニングでは各部から炎によってあふれ出していた炎状の粒子は背後の日輪となった四本の粒子許容エグゾフレームが無駄無く循環させることによりバーストの制限時間と強化効率を大幅に伸ばしていた。
それがソウルバーニングガンダム・トライファイターフレームの決戦兵装。
S2F・
S2Fとは
T3とは
展開していた装甲が放出していた粒子を残らず取り込みながら格納され、機体の色が変質する。それまで白だった装甲が濃いエメラルドグリーンに。クリアパーツは虹色となり、溢れ出す粒子を機体が纏いドレスのように。
そして装甲が通常形態に戻った瞬間、SSクアンタの内部フレームまでもが虹色に輝いた。
クアンタムバーストにより周囲に放出した膨大な高濃度粒子を―――――RGシステムにて取り込み機体を極限強化する。
それがSSクアンタ・プリマ・アソルータの決戦兵装。
爆熱の炎と虹色の風。
互いにその全力を構え、
「さぁ――――もっと! 燃えていくぜシアスタルッッ!」
「吹き消してあげるわ――――グレンッッ!」
Wトライバーストの詳細は次回にて。
ラフタショックはマジで悲鳴が出ましたね。
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