泡沫のスピカ(恋愛ゲームRe:rise ███攻略√)   作:世嗣

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ようやっと恋愛ゲームらしいことができました。




恋愛ゲームにありがちな最初のやつ

 

 

 

 

 クガ・ヒロト。17歳。高校二年生。趣味はガンプラ作成。父母ともに健在。GBNではダイバーネーム『ヒロト』として『BUILD DiVERS』に所属する。幼なじみは一人。

 

 けど、その彼の『日常』が狂っている。

 

(なんで、俺、当たり前に登校してるんだ)

 

 ヒロトがちら、と今自分の横を歩く制服の少女を見る。

 自分の肩ほどまでの背丈、長い髪は極上の絹のように柔らかで、瞳は深い空の色。

 そして、耳には、ヒロトのかつてあげたイヤリング。

 

 でも、あり得ない。

 

 イヴはGBNに住む電子生命で、こうして現実に出てこれるはずなんかなくて、そして何より。

 

(イヴはもう、こうして話すことはできない、はずなんだ)

 

 心の中で呟き、唇を軽く噛んだ。

 

「どうかしたヒロト?」

 

「え?」

 

「すごく難しい顔してるよ? 何か悩み事?」

 

「いや、そんなことはない……と思う、けど」

 

「ふうん……」

 

 言葉を濁すヒロトの頬にちくちくと疑いの視線が突き刺さる。再び目だけで隣を伺えばそこにはぷく、と頬を膨らまして不満を示すイヴが。

 

「あ、いや、その……君は……」

 

 ──こんなところにいるはずがない。

 

 そう続けようとして、開いた口が力なく閉じられる。

 

「……その、なんで、俺の家の前に?」

 

 結局、出てきたのはそんな疑問。

 

「なんでって、昨日約束したから?」

 

「俺と、君が? なんで?」

 

「なんでって……私とヒロトが一緒にいるの理由がいるの?」

 

「──!」

 

「ヒロト?」

 

「や、なんでもないから」

 

 ヒロトが眉間を揉むふりをしつつ、少し赤くなった顔を隠した。

 未だ目の前の光景が現実と信じられなくとも、それはそれとしてこれだけの美少女に好意全開のことを言われればやはり照れる。

 

 ヒロトだって、まだ思春期の男の子ということだ。

 

 が、そんな男の子の機微がイヴには感じ取れないらしい。

 

「ヒロト」

 

 くい、とヒロトの制服の袖がひかれる。

 

「今日のヒロト、なんか変。風邪でもひいちゃった?」

 

「え? いや別に、普通だよ」

 

「むー、なんか隠してるでしょ。ほら、おでこ出して、熱測るから」

 

「ちょ、ここは人目もあるし駄目だって!」

 

「え、きゃっ!」

 

 イヴの白魚のような手がヒロトの方へと伸ばされると、反射的にヒロトが大きくのけぞった。

 流石に予告なしで触られるのは看過できなかったための行動だが、ヒロトの袖を掴んでいたイヴはヒロトの動きに引っ張られるように前へ突っ込んだ。

 

 それは、自然と目の前の人物の──ヒロトの胸に突っ込むことになるわけで。

 

「──」

 

「ーーー」

 

 二人の顔が意図せず近づき、ヒロトは空色の瞳の中の自分を、イヴは淡い黒の瞳の中に写る自分を覗き込んだ。

 

 一瞬、二人が時が止まったかのように動きを止めた。

 

「「 ご、ごめん! 」」

 

 ほう、と互いの息が頬を撫でた瞬間、金縛りから解放された二人が、しゅばっと通学路の端から端に分かれた。

 

(近い柔らかいめっちゃいい匂い──じゃないそうじゃない何か言わなきゃ。謝らなきゃ。えっとまずはえっといい匂い違うじゃない。まずは機体を唱えて落ち着けガンタンクガンキャノンガンダムボールジムザクグフドム)

 

 テレビシリーズ登場機体をあらかた唱え終わり一瞬で高まったボルテージを落ち着けると、後ろを振り向いた。

 

 するとそこにはほんのり紅のさした頬を制服の裾で隠すイヴがいて。

 

「あ、え、と……」

 

 それを見てヒロトの頭が尚更真っ白になって────

 

 

 

 

 

「おっヒロトじゃねえか! そんなとこで出会うのは珍しいな!」

 

 

 

 クソデカくてやかましい声が割り込んできた。

 

 その声の人物は手慣れた様子でヒロトの首に腕を回し力任せに引き寄せた。厚い胸筋にヒロトの顔が押し付けられカエルが潰れるような声が漏れる。

 

「よっ、朝に会うのは珍しいな。なーにチンタラしてんだ?」

 

「その声まさか」

 

「ふっ、声でわかっちまったか。そう、俺がお前の親友ジャスティーーーース」

 

「カザ……誰?」

 

「っておーーーい! 俺だよ! カザミだよ! お前の親友だよ!」

 

「いやだって、お前は……」

 

 ヒロトが自分にひっついていたカザミをひっぺがすと上から下までしげしげと見つめる。

 ヒロトよりも頭ひとつ大きい体躯、鍛え上げられた筋肉、トレードマークの赤いバンダナはGBNの時と変わらない。

 

「俺と同じ学校じゃないはずだ」

 

 けど、その見慣れたカザミは何故か()()()()()()()()()()()()()

 

 それに、ヒロトは知っている。

 現実のカザミはこんなに筋骨隆々ではない。

 身長だってせいぜいヒロトと同じくらいである。

 

 現実に()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 が、しかしカザミは「何言ってんだ?」とばかりに目を細める。

 

「俺とお前は高一の頃からおんなじクラスじゃねえか。ヒロトがジョーダンなんか珍しいな」

 

「いやそういうんじゃ」

 

 ヒロトがカザミを押しのけようとしたとき、ふとカザミがヒロトの隣の少女に気付いてこれまたデカイ声を上げた。

 

「ん、って、そこにいるのはイヴ先輩?! な、なんでヒロトの野郎と一緒に?!」

 

「あはは、おはよう、カザミくん」

 

「お、おう、おはようございますっ!」

 

「なんで敬語で話してるんだ」

 

「る、るせっ!」

 

 ちら、とヒロトが隣を伺うとちょうどイヴも同じタイミングでヒロトを見ていたのか、二人の視線が合った。

 

「あ、えと、先。私、先に行くね、ヒロト」

 

「え、あ、うん、じゃあ」

 

「……」

 

「イヴ?」

 

 不意に、ぐっとイヴがヒロトとの距離を詰めて、ヒロトにだけ聞こえる声量で耳元でささやいた。

 

「今日お昼、話したいことがあるから屋上に来て」

 

 耳に息がかかる。だが、それも束の間。

 イヴは言うや否やヒロトから素早く離れ、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。

 

「……じゃあね、ヒロト。カザミくんもまたね」

 

「う、ウスっ!」

 

 ひらひらと手を振って小走りで学校に向かうイヴの背中を見送りつつ、カザミがポツリと一言。

 

「何、お前ら付き合ってんの?」

 

「うるさいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくつか、分かったことがあった。

 

 一つ、この世界はヒロトの知ってる現実とかなり高いレベルで同じということ。通う学校も、その他の常識なんかもおかしな点は特に見当たらない。

 

 二つ、この世界にもGBNはあるということ。登校の時にそれとなく話を振ってみたが、カザミはGBNのことをきちんと認識していた。

 

 そして、最後。

 

「こら、ヒロト少年、どこを見ているのかな」

 

 物思いにふけるヒロトに声が降ってくる。

 

 つらられように目線を上げると、そこには圧倒的ないスーツを着た巨漢が煌めく笑顔を見せていた。

 

 真っ白な歯が電気に照らされきらりと光る。

 

「あ、すみません……キャプテンジオン先生

 

 そう、いまの現実にはヒロトがGBNで知り合ったプレイヤーがなぜか当たり前のようにいるのだ。

 

 カザミはなぜ高校一年からの親友だったし、イヴは三年の先輩で去年の文化祭のミスコンで優勝したらしいし(カザミが登校の時聞いてもないのに教えてくれた)、そしてキャプテンジオンは歴史の先生をしている。

 ヒナタが隣のクラスなのは変わらないが、この分だと『BUILD DiVERS』のメンバーや、他のGBNでの知り合いもいそうだった。

 

「では、今日の授業はここまで! 学級委員号令を頼むよ!」

 

 教室のどこかで気の抜けたような「きりーつきょーつけーれー」という声がかかり、キャプテンジオンが去っていくと途端に教室がガヤガヤとうるさくなる。

 

 それと同時にズシッと太い腕が首に回された。

 

「よっ、ヒーロト、学食に飯食いにいこーぜ」

 

「いいよ俺は。購買とかで適当に買うし」

 

 カザミには言わないが少し学校を見回って今のこのよくわからない状況を整理したかった。

 

 それに、イヴとの約束もある。

 

 だが、カザミはヒロトの返答に納得せずやたらと食い下がる。

 

「なんだよいいじゃねえかよ、俺とお前の仲だろ? ほら、さっさと行くぞ」

 

「ちょっと、俺行くなんて一言も」

 

「付き合い悪いなぁ……あ、まさかイヴ先輩と飯食う約束でもしてんのか?!」

 

「……別にしてないって。イヴとは、そういうのじゃなかったから」

 

「かー、呼び捨てしやがってよ。いつの間にそこまで仲良くなったんだよ」

 

「別になんだっていいだろ」

 

「隠すなよみずくせえなあ。ほら、昼はこってり搾らせてもらうぜ。ほら、行くぜ! 立った立った!」

 

「あー、わかったから、行けばいいんだろ、行けば。でも途中で抜けるかもしれないからな」

 

 どこか呆れたように、でもその頬が僅かに上がっていることをヒロトは気づいているのか、それともいないのか。

 

 カザミは半ば引きずるようにヒロトを連れて廊下に出る。

 すると、運良く、というべきか運悪く、というべきかちょうど廊下の曲がり角から出てきたヒナタに出くわした。

 

「おっと、悪いなヒナタ」

 

「わ、なんだカザミくんか」

 

「なんだとはなんだ。フォースのリーダーだぜ、俺」

 

「あはは、ごめんごめん。あれ、ヒロトもいるんだ」

 

「おう、今から飯に行こうと思ってよ」

 

「あ、そうなんだ。じゃあ、ちょっと遅かったかー」

 

「遅かった?」

 

 ヒロトの目が「どういうこと?」と尋ねる。

 するとヒナタは指をくんで、いじいじと何か言いにくそうに目を泳がせる。

 

 ふわふわ、ゆらゆら、目が動く。

 

「え、と、ヒロト、今日お弁当持ってないでしょ?」

 

「え、ああ、そういえば……」

 

「実は朝、私百合子さんにヒロトの分のお弁当預かってたんだけど渡しそびれちゃって」

 

「ああ、今日ヒナタのも母さんが作ったのか」

 

「うん、正確には私と百合子さんで作ったんだけど、ね。今日の卵焼きとかは、わりと、自信作」

 

 ゆらゆら。

 

「じゃあどうすればいい? 今から取りに行く方が」

 

「うん、それでもいいけど……カザミくんとこれからご飯なんだよね? それなら、無理強いはできないや」

 

 ごめんね、とヒナタが笑う。

 目が気にしないで、と言っていた。

 

(……弁当か)

 

 きっと朝からヒロトの母と一緒に作ったのだろう。

 自分の分もとなると、さすがに食べないのは気が引けてくる。

 

 けれど、隣にはカザミがいる。

 

 それに、朝した約束も。

 

(……どうしたものかな)

 

 カザミと学食に行くか。

 ヒナタの弁当を食べるか。

 それとも、二人の誘いを断って今すぐイヴの待つ屋上に行くべきか。

 

 選ばなきゃ、いけなかった。

 

 

 





 この作品はアンケート選択分岐式の小説となります。
 
 二日後にアンケートの結果一番多かった選択肢をヒロトが選び、行動することでルートの分岐が行われていきます。

 読者の皆さんは、自分が見てみたいシチュやルートを考えながら投票してもらえると嬉しいです。

 今日のところはこの四つ。

昼休み、ヒロトが取るべき行動は?

  • 二人に謝りすぐ屋上に行きイヴを待つ。
  • カザミを優先し学食で食事する。
  • ヒナタに弁当をもらい二人で食べる。
  • 誰も選ばず校内を探索する。

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