お兄ちゃんのおしごと   作:エビアボカドロックンロール

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 久しぶりに再会した桃子との会話を喫煙室からのんきに楽しんでいた俺は、その内容をよりによって絶対に知られてはいけないやつが盗み聞きしていることに、決定的な証拠を握られるまでついぞ気付くことができなかった。

 聞かれてしまったが最後、それを知ったあいつらがどうなってしまうかくらい想像できていたはずなのに…

 

 

ーーーーー

 

 

 桃子から最寄りとして伝えられていた駅から歩くこと15分。

 

 到着したのは大きな体育館ほどもあるサイズが目を引く劇場。

 建物の顔とも言える入り口には大きな蝶をあしらった看板が鎮座し、どれほどの高さがあるのかと見上げてみれば目に入ってくる765LIVE THEATERの文字は初めてテーマパークに連れてきてもらった時のようなワクワク感をもたらし胸のあたりがむずがゆくなる。

 

 何から何まで計算し尽くされたであろうその世界観になるほど、ちひろさんはこれを盗んで来いと言いたかったのだと納得させられる。破壊してこいあるいは乗っ取ってこいと言われなかったのはあの人に残った最後の良心なのだろう。

 

 

 

 ――あ、『私たちを捨てるの』って泣き叫んでたアイドルたち?

 うるせえし事務所に置いてきたけど何か問題でも?

 

 いや、だって新規事業立ち上げサポートと言う名の敵情視察も立派な仕事だし。……別にあいつらの相手するより桃子といる方が楽そうだからとかそんなことは一切ないのであしからず。

 

 つーかあいつら『他の女のところに行くのね』だの『若い女の何がいいのよ』だの割りと余裕あったし、何より代償に色々と約束させられたからな…。実質俺だけが損してる形だ。『ひどい!血も涙もないです!あるのは性欲とSっ気だけなんですか!』などとほざきやがった茄子は後日、たっぷりと時間を取って折檻する。

 

 

「ねえねえお兄ちゃん。ここが765プロライブ劇場、通称シアターだよ♪」

 

「…まあそれは見りゃ分かる」

 

「ねえねえお兄ちゃん。ここが765プロライブ劇場、通称シアターだよ♪」

 

「村人かな?」

 

「――でもほんとに大きいねー。お兄ちゃん何人分かな??」

 

「東京ドームとかでするやつを俺でしようとするな…」

 

 

 俺の周りをうろちょろと上目遣いに話しかけるその姿は大変に愛らしくて結構なんだが、どうにもその口調の節々に毒を感じる。

 故意なのか恋なのか、先ほどから3桁単位で足を踏まれてることからもそれはうかがえる。

 

 故意だとしたらやめてね、革靴よれよれになっちゃうから!

 恋だとしたらありがとう、踏まれるたびに愛を感じるよ!

 

 

「はぁ?何言ってんのお兄ちゃん。社会人になっても相変わらずごみいちゃんだな…」

 

「つーか小町ちゃんなんでついてきちゃったの?お兄ちゃん一応おしごと中なんだよ?――ほら、お小遣い上げるから買い物で―――」

 

「あっ、お兄ちゃん!もうっ、なんで約束の時間ギリギリなの!桃子はセンパイなんだから待たせたりしちゃダメって前も言ったでしょ!」

 

 

 職場に親族を連れていく気恥ずかしさに有り余る財力を駆使して小町ちゃんにエスケープしてもらおうとあれこれ試していると、今回の助っ人先である765プロで唯一の顔見知り、周防桃子が玄関まで迎えに来てくれた。

 

 

「あーすまんな桃子。家を出る時に妹がどうしても見学したいってぐずってな…」

 

「え!?お兄ちゃんの妹さん!?あ、あ、えと、いつもお兄ちゃんにお世話になってます…765プロの…周防桃子です…」

 

「………」

 

「どうした小町?お前にしては珍しく人見知りでもしてんのか?――まあこんだけ可愛かったら緊張するのも分かるけどな」

 

 

 新人アイドルとは言えすでにテレビで見たことのある人が目の前にいるのは緊張するんだろうと思い、なんとかほぐしてやろうと桃子の髪を撫でながらニヤリと冗談を言ってみるも小町はピクリとも動かず、両のまぶただけがピクピクと痙攣していた。んー、美人は雪ノ下で見慣れていると思っていたが、こと有名人となると話は変わるのかもしれないな…

 

 

「ね、ねえねえお兄ちゃん。桃子妹さんに嫌われちゃった…?」

 

「…桃子の事を嫌いな人間なんて平塚先生の結婚相手見つけるより難しいぞ」

 

「ひ、ひらつかせんせ…??」

 

 

 先ほどから変わらず無表情の小町が怖くなったのか、視線から逃れるように涙目の桃子は俺のジャケットを握り後ろに隠れてしまった。

 これほどまでに弱気な桃子は珍しいのでずっと見ていたい気もするがそれより今は小町の様子がおかしいことが気になる。たかが15分歩いただけとは言え猛暑に慣れていない小町にはきつかったのかもしれない。

 

 

「小町もしかして熱中症に――」

 

「お兄ちゃん」

 

 

 うつむきながらゆらりと1歩を踏み出す小町。

 

 

「ど、どうした?タクシー呼んで病院行く――」

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」

 

 

 万歳三唱ならぬお兄ちゃん三唱。

 

 

「小町ちゃん?目が怖いわよ?」

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん―――お兄ちゃんの妹は小町だけでいいの!!!!」

 

 

 ガバッと顔を上げた小町の瞳に光はなく、幾多の修羅場を乗り越えてきた俺は直感的に小町を抑えるように抱きしめた。

 

 

「お兄ちゃんどいて!そいつロコせない!」

 

 

ーーーーー

 

 

八幡「こら、桃子がマジでビビっちまってるだろ…」

 

桃子「えっ?………えっ?」

 

小町「あいたッ!……もぉー、チョップはやめてよー」

 

桃子「も、桃子これからもお兄ちゃんって呼んでいいの…?」

 

小町「あったり前だよっ!ごみいちゃんのことを好いてくれるのは小町も嬉しいからね♪」

 

桃子「じ、じゃあ桃子もお兄ちゃんの妹になっていいの…?」

 

小町「うん、それはダメ」

 

桃子「――えっ………えっ?」

 

 

 

八幡「………」

 

 




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