目の前にずらりと並ぶ52人のアイドルたち。
アイドルブームの火付け役とも言えるオールスターズ組の13人は、突然助っ人などとのたまい現れた俺の本性を暴いてやろうと射抜くような視線で睨みつける。一線で活躍し続ける人間の持つオーラは凄まじく思わず息をのむ。
新規事業の助っ人ついでに765プロの良い所をこっそりと盗んで帰ろうなんてのは甘い考えだった。
目の前で睨みを利かせる天下のオールスターズは、たかが346プロ下っ端社員の俺ですら自分たちの成長の糧にしようというのだから。
殺して解して並べて揃えて晒してやんよと言わんばかりの貪欲さこそが圧倒的成長を遂げ第一線を走り続ける765プロのその根幹なのだろう。
げに恐ろしきはその瞳の輝きである。
だって俺はもう、すっかり彼女たちに魅入られてしまっているのだから。
まあ、戯言だがな。
ーーーーーー
「ねえお兄ちゃん。なんか格好つけてるけど、ずっとあずささんの胸見てたよね」
「………普通にファンなんだけど、後でサインもらえないか?」
「知らないよっ!自分でお願いすれば!?」
今日からここで手伝いをすることになりました、うんぬんかんぬん。
好奇心、嫌悪感、無関心。様々な視線に晒されながら無難な挨拶をした俺は劇場内を桃子に案内してもらっていた。
あこがれのあずささんの手前、格好つけたいという男心が疼いたがそこはなんとか抑え込んだ。やらずに後悔するよりやって後悔しろ、ただしロシアンルーレットみたいな?。そんな感じのメンタルヘルスマネジメント。
「まあそんな怒んなよ。そんなことより俺の挨拶大丈夫だったか…?」
「――挨拶してる時のお兄ちゃんは、まあまあかっこよかったよ…」
「……いや、そういうことを聞いてるわけじゃないんだが」
「…ッ!……おっ、…」
「お?」
「お兄ちゃんのえっち!!!!!」
「エッチ!?エッチナンデ!?―――っておい!どこ行くんだ!?」
廊下は走っちゃいけませんとか何がえっちなんだとか言いたいことは色々あるがそんなのが些細なことに思えるほどのピンチが目の前の角を曲がりカツリとヒールが床を叩く音ともに現れた。
「ごきげんよう~♪ところで私、たまたま今の音声を録音してたんですけどそちらの魔王さんは何をすべきかおわかりですね~?」
「お歳暮でも送りましょうかね、聖母だけに」
「つ、強がっても無駄ですよ~。本当は焦っているのが私にはお見通しですからね~?」
「つーかお前だれなの?いきなり現れて人を魔王呼ばわりとか、なに?熊本出身なの?」
「ぐぬぬ……」
「俺今おしごとで忙しいの!用がないならあっちに行って!」
「あ、あなたなんか嫌いです~~!!」
フッ、たあいもない。
10歳近くも年下の女の子をあほなフリして追い込み、まるで自分の非など最初から無かったかのように勝ち誇る男がいた。
まあ、俺なんだけどな。
ぶっちゃけかなり焦ったし勢いで聖母って言った後に誰なのって言ったりかなり矛盾はあったが所詮は小娘。百戦錬磨どころか億千万の胸騒ぎの俺の相手にはまだまだ力不足だったようだ。
………やべえ、初日からクビかもしれん。
「お兄…ちゃん…?」
「あ、そうだ。タピオカでも飲みに行くか桃子?」
「いや全部見てたから…。―――ほら朋花さんに謝りに行くよ」
「……はい」
そりゃそうだ。悪いことをしたら謝る。当然です。
桃子に連れられて劇場内を歩く。途中、姫を自称する完全にキメちゃってるロリータファッションの少女や346プロへの潜入を要求してくるツインテールの呂布に絡まれたりもしたが、鉄壁の桃子ガードに守られ天空橋のもとにたどり着くことができた。
「あー、すまんな。……天空橋」
「なんですか。私の事なんて知らないんじゃないんですか…」
生まれてこの方、蝶よ花よと育てられアイドルになる前から多くのファンがいた天空橋は俺からのあまりにもあんまりな態度にショックを受けたようで両ひざを抱え顔をうずめている。まるでぽむぽむとしたお団子がしゃべっているかのようだ。萌える。
「あのね朋花さん。お兄ちゃんはみんなのことをちゃんと覚えて来てくれてるんだよ」
「――そういえば、先ほど聖母って言われた気がします……」
「さっきは桃子も急に大きい声を出して悪かったと思うし、お兄ちゃんのこと許してあげてほしいんだ」
「あまりにも天空橋が可愛くてな。…ほら、好きな子にいじわるしちゃう小学生みたいな感じ。………たぶん」
「………ふぇぇ!?」
「ちょっ!お兄ちゃん!?」
やば、口が滑った。涙目+上目づかいの攻撃力が高すぎていらんこと言ってしまった。
つーか天空橋はこの手の誉め言葉は言われなれてるだろうになんでこんなラブリーなリアクションを取ってくれてんの?俺があと10歳若かったら確実に惚れてたわ。
「そ、そそそ、そこまで言うならと、特別にっ、んんっ………私だけの騎士王にしてあげてもいいんですよ~」
「ちょっと朋花さん!お兄ちゃんは桃子のお兄ちゃんに、あ、これはダメなんだった……」
「なんだこいつら、おもしれえ」
ーーーーーー
歌織「このみさん!このみさん!なんか甘酸っぱい空気が流れてますよ!」
このみ「……あんなにいじけちゃうまで下げておいて、最後は一気に褒める。比企谷君、並みの鬼畜じゃないわね……」
歌織「――ねえねえこのみさん、酔わせたら私たちのことも情熱的に口説いてくれるんじゃないですか?」
このみ「…それいいわね。さっそくみんな誘って歓迎会をしましょう」
歌織「……ガンガン飲ませましょうね」
このみ「……そうね、ガバガバ飲ませるわよ」