初めは冗談のつもりだった。
そう言えば許されるとでも思っているのだろうか。
被害の大小はあれど、犯した罪に大小はない。
等しく罪であり、己の過ちを認め代償によって償わなければならない。それが咎人の責任である。
少なくとも俺は自分のしでかしたことを許してもらおうなんて考えていないし、だんだんと楽しくなってしまっていたことも認めるにやぶさかではない。
謝罪する準備も責任を取る準備も随分と前から整っているのだから。
ただひとつ言っておきたい。
初めは冗談のつもりだった。
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抜き足差し足忍び足。
お仕事が終わり先ほどまでの気だるげな雰囲気とは打って変わって、心なし軽くなった足取りでシアターの扉をくぐるその後ろ姿。タイミングを計るように追跡していた私たちはついになされたこのみさんの合図とともにターゲット確保に駆け出しました。
ところで忍び足は分かるんですけど、抜き足と差し足っていったい何なのでしょうか…?
どことなく下ネタの波動を感じるのは私だけでしょうか。
「ほら歌織ちゃん!ぼーっとしてないで確保するわよ!」
「は、はいっ!」
思考が逸れてぽやぽやとなってしまった私にこのみさんから叱咤の声が飛びます。
ハッとなり見てみるとターゲットは莉緒ちゃんと風花ちゃんに腕をがっしりと捕まえられすこぶるめんどくさそうな表情を浮かべていました。……いえ、風花ちゃんに抱えられた方の腕をしきりに気にしていますね。あの溢れる母性に包まれてそれでも表情を取り繕うことができるのは大したものですが、彼もやっぱり男の子なのだと再確認です。
「確保ーー!逃がさないわよっ!」
「す、すいません!このみさんの命令なんですぅ~」
両腕を二人に取られてしまったので私のつかむ場所がなくなってしまいましたね…
「歌織ちゃん背中ががら空きよっ!」
「なるほど!――えいっ!!」
全身に新人アイドルをまとわりつかせ、いよいよ身動きの取れなくなった彼の前にゆったりとした足取りでこのみさんが仁王立ちしました。
「八幡君、あなたに選択肢はないわよ!私たちの命令に従ってもらうわ!!さしあたってまずは居酒屋に――」
「……なるほど、そういうことか。―――まずはこのみちゃん、今日はお疲れ様でした」
もったいぶるほどでもなかったかもしれませんが、ターゲットは助っ人プロデューサーの比企谷八幡さんです。
比企谷さんはこのみさんを視界にとらえるとめんどくさそうな表情から一転、春の陽気のようにあたたかな表情になりました。その表情を間近で見てしまった莉緒ちゃんと風花ちゃんはすまんと一言かけられふぇっと手を放してしまい比企谷さんは一瞬にして自由の身になってしまいました。
私ですか?恥ずかしくなってすぐ離れましたけどなにか?
「え、あ、――お疲れさまでした…」
「よし、ちゃんとあいさつできてえらいな。お姉さんたちに遊んでもらってたのか?」
「あ、いや、あの…私もう」
「そうかそうか優しいお姉さんばかりでよかったな」
このみさんの前までゆっくりと近づいた比企谷さんは片膝をつき目の高さを合わせると、腰に手を当て仁王立ちするこのみさんの髪を優しい笑顔で2度3度と撫でました。
ただでさえ至近距離で顔を見られて真っ赤になっていたこのみさんは髪を撫でられ、いよいよ目を回してしまいました。可愛い。
「そ、そうじゃなくて、あの、私もお仕事終わったから、よかったらこの後飲みにで」
「このみちゃんもお仕事終わったのか。よく頑張ったな。ちょうど帰るところだったから駅まで送ってやるよ」
「じゃなくてじゃなくて、―――あっ、あうあう」
わっ!抱っこですよ!
ふわりとこのみさんを包み込んだ左腕はそのまま腰へと回されひょいと抱えあげられてしまいました。このみさんは恥ずかしそうに比企谷さんの首筋に顔をうずめぎゅーってな感じです。
コアラさん抱っこ、あるいは駅弁と言うと想像しやすいかもしれないです。
「3人も今から帰りですよね?せっかくなんで駅まで一緒に行きましょう」
「は、はいっ!」
「ちょっと歌織ちゃん!飲み会はどうするの!」
「でも比企谷さんこのみさんのこと子供だって思ってるみたいですし…」
反射的に返事をする私の反応を確認した比企谷さんはこのみさんに今日は楽しかったか?やアイドル楽しいか?と優しく話しかけながら駅に向かって歩き始めてしまいました。 慌てて後を追うと莉緒ちゃんが耳元で器用にも小声で怒ってきました。
しかし今は控えめに「うん…」とうなずくこのみさんが可愛すぎて写真と動画を撮るのに夢中でそれどころじゃないです。
「……歌織ちゃんはだめね。風花ちゃん、その身体で八幡くん誘惑してきてくれないかしら?」
「ええぇっ!!私なんか無理ですよ…。さっきもあててみたんですけど反応してくれませんでしたし…」
「もうやってたのね……。風花ちゃん、強くなったわね」
いつも作戦を立ててくれるこのみさんは比企谷さんに抱っこされたままで、リーダー不在の私たちは話をまとめることができず、そうこうしているうちに駅まで到着してしまいました。
このみさんをゆっくりと下ろしカバンからセンスのいい定期入れを出す比企谷さん。
今誘わないともうすぐにでも改札を抜けてしまうというところまで来てしまいました。
「それじゃみなさん、あまりお話しできなかったですが明日からよろしくお願いします」
「莉緒ちゃん、誘わなくていいの…?」
「だって八幡くん、もう帰る気マンマンじゃない…」
「わ、私が聞いてみます…!―――あの比企谷さん!」
「どうかしましたか豊川さん?…っと、もう電車の時間なのでお話はまた明日でお願いします!」
「あ、はい………」
「それじゃ、女性4人で飲みに行くのもいいですけど、飲み過ぎには気を付けてくださいね!お疲れ様です!!」
コソコソと話す莉緒ちゃんと私にしびれを切らしたのか、風花ちゃんがずんずんと近づき比企谷さんに話しかけますが、腕時計をチラリ。先送りされてしまいました。
最後に比企谷さんはふるふると振るえるこのみさん含め、私たち4人にくぎを刺すとピッと間抜けな音を残して人の波に消えて行ってしまいました……
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このみ「ぐぬぬぬ~」
莉緒「このみ姉さん完全に子ども扱いされてたわね」
歌織「でもちょっと嬉しかったんじゃないですか…?ずいぶんと照れてたみたいですし」
このみ「なんでよしよしされて抱っこされて嬉しいわけがあるのよ!!」
莉緒「――私はちょっとうらやましかったり…」
歌織「でも私たちだとプレイ感でちゃいますよね…」
このみ「アイドルがプレイとか言わないの!―――風花ちゃんは急に静かになってどうしたの?」
風花「……比企谷さん女性4人で飲みに行くって言いませんでした?――それってこのみさんが成人してるって知ってるってことなんじゃ……」
「「「………」」」