大体3話ぐらいに分かれると思います。ではどうぞ
太古の昔…今より遥か6500万年前、地球の生態系の頂点にあったある種族が滅びの危機に晒されていた。後に人間に『恐竜』と呼ばれることになるその大型爬虫類群は、数千万年に渡って地上を支配し、現在確認されている限り最も長い繁栄を誇った生物である。…しかし、白亜紀の終わり頃に突如地球に飛来した小惑星の衝突。その衝撃による地殻変動と、衝突の際に舞い上がった粉塵や立て続けの噴火による多量の火山灰により齎された急激な寒冷化。変温動物である恐竜たちは環境の変化に適応できず、元々種族全体の大型化により個体数が減少傾向にあったことも相まって、地球最強の生物であった彼らは絶滅の道を辿っていった。
…それが、現在知られている恐竜絶滅の最も有力な説である。
しかし、それは違っていた。恐竜たちはただ数を減らしていたのではない。大型化に伴う熾烈な生存競争を生き残るために、更なる進化を遂げている最中であったのだ。そんな折に訪れた未曽有の大災害と寒冷化…それによる極限の環境と飛来した小惑星から放たれる高濃度の放射線が、生き残った恐竜の中で最も進化を進めていたある個体にかつてない変化をもたらしたのだ。
その恐竜は元々ブラキオサウルスのような草食恐竜の一種であった。しかし進化の過程で草食によるエネルギー摂取の限界を感じ、世代交代の中で徐々に肉食へと食性を変えたことで首はやや短く太くなり、肉食化により大きくなった頭部を支えるために脚や尻尾も頑強なものになっていった。それだけでなくより広い範囲を縄張りとするために、歩行のみならず飛行能力を得るために永い世代をかけて少しずつ有翼化を進めていた。更にそれだけに飽き足らず他の恐竜が近づかない寒冷地帯の獲物を独占しようと、雪原に適応した白い体色や体毛を会得していた。その個体は、そんなどん欲なまでの進化の末に結実しようとしていた種族の末裔であった。
恐竜としての限界、生物としての領域の頂点にまで進化を遂げていたその個体は、周囲の生物が次々と死に絶えていく極限状態による刺激と、何よりそんな環境下においても尚進化と生存を求める本能によりついにその限界を突破する。いつしかその姿は、もはや恐竜だった頃のそれとはまるで異なっていた。
新雪よりも純白な、鱗や毛の一本一本が輝きを放つ美しい外皮。未だ飛ぶことすらままならなかった筈の翼は、全身を包み込めるほどに大きく、力強い。そして頭部から生えた4本の角は王冠の様で、まるで『彼女』こそがこの世界の王であると証明しているようであった。
それこそが、恐竜を超えた最初の龍…『祖龍 ミラボレアス』の誕生の瞬間であった。
究極の進化を遂げたミラボレアスは世界に轟くほどの雄叫びをあげると、大きな翼をマントの如く広げて空へと舞い上がった。そして空を遮る分厚い粉塵の雲を突き抜け、あの暖かな太陽の光を再び浴びるべく上昇し…ふと、真下を睥睨する。
祖龍の眼に映ったのは、今しがた自分が手を伸ばしかけた太陽の温もりを失って久しい極寒の大地…そしてそこで泥水を啜ってでも生き延び、そうした者たち同士が喰らい合うことでしか種を存続できずにいる生き物たち…そんなこの世の終わりの瀬戸際と言ってもいい光景を、ミラボレアスは…『悲しんだ』。
『何故…彼らは死ななければならないのだろう。ただ生きていただけなのに、ただ当たり前のように明日が来ると信じていただけなのに…どうして彼らは滅び、私は生き延びた。ただ他よりもほんの少しだけ先の明日を求めただけの私と彼らで、何故こうも違ってしまっているというのだ』
ミラボレアスが進化によって得たのは、強靭な肉体だけではなかった。発達した脳が、強大な己の力を制御するために獲得した叡智が、彼女に『心』というものを齎していたのだ。
『…生きろ、明日を求めるものよ!諦めるな、今を生きる全ての生命よ!歩みを止めるな、進み続けろ!そのための翼を…私が与えてやる!!』
ミラボレアスは咆えた。地球総てに響き渡るように、今を生きる全ての生命に届かせるように。大気を震わせる咆哮が赤雷と化し、天を覆う黒雲を貫き吹き飛ばした。
黒雲が霧散したことで久しかった太陽の輝きが降り注いだ時、狂ったように生を貪り合っていた恐竜たちは揃って空を見上げた。その瞬間、滅びへと向かうだけの戦いが止まったのだ。
降り注ぐ日光を背に空に君臨する純白の龍。その姿を見た時、恐竜たちは理解した。彼の者こそが、この星で最も強き存在…この世界の王であると。
そんな彼らの畏怖の視線を受けるミラボレアスは更に上昇し、太陽を背負うように覆い隠す。すると、日光を受けたことでミラボレアスが自ら放つ輝きが高まり、彼女自身が太陽になったかのように白い光が地上へと降り注いだ。その輝きは大気中を漂う霧散した黒雲に含まれていた微小な鉱石の粒によって幾重にも乱反射され、地球総てを遍く照らしたのだ。
光を浴びた恐竜たちは、程なくして徐々に姿を変えていく。恐竜だけでなく、太古の昆虫や魚類、鳥類や哺乳類に至るまであらゆる生物がその生態をより高度なものへと変質させていく。ミラボレアスが放つ輝きに含まれる彼女の遺伝子が、数万年を必要とする進化をとてつもなく加速させているのだ。中には進化のスピードについていけず力尽きるものもいたが、多くの生命がその進化を受け入れ、耐え忍んだ。この地獄のような世界で、生き残るために。
ミラボレアスの輝きは6日間、昼夜を問わず世界を照らした。そして7日目の朝、光が収まった時には…既にこの星の生態系は一新していた。
まず、ミラボレアスの遺伝子に最も強い影響を受けた恐竜たちが一際飛びぬけた進化を果たした。奇しくもその姿は揃ってミラボレアスに近い姿をしており、更に地球上の様々な環境に強い影響及ぼす力を持っていた。
クシャルダオラ、テオ・テスカトル、ルコディオラ、ヴァルハザク、ネロミェール、イヴェルカーナ、オオナズチ…後に『
強靭な足腰を持ち、地上での活動に最も適応した『獣竜種』。鳥類の特徴を色濃く残し、同じ分類でも幅広い生態を持つ『鳥竜種』。原始的な蛇や蜥蜴の特徴を持つ長い身体の『蛇竜種』。翼を持ちながらも地上を駆ける強靭な脚を有し、最も広い生態系を持った『飛竜種』。首長竜が進化し、水中だけでなく陸上での生活圏を獲得した『海竜種』。竜の骨格を持ちながらも様々な生物の特徴を取り込んだ『牙竜種』等、恐竜たちは既存の生態を超越した進化を遂げた。
恐竜だけでなく、獣や魚類、昆虫やエビ、カニといった生物たちもそれぞれ大型化や幅広い環境への適応を遂げ、中には竜たちに劣らぬ力を持った種族もいる程となった。
そしてそれは後に人類の祖先となる類人猿たちも例外ではない。彼らもまた独自の進化を遂げ、元より他の生物より知能が高かったことからやがて文明を築くほどとなった。彼らは大きく2つに分かれ、獣だった頃の性質を持ったまま高い知能を有し、自然の中で生きることを選んだ『獣人種』と、現在の人類に近い姿でありながら竜の遺伝子を持ち、長い寿命と発達した技術で同族による強固なコミュニティを形成する『竜人種』へと変化した。
地上の生命全てがこの世界に適応したのを見届けた後…ミラボレアスは満足したように一鳴きすると空の彼方に飛び去って行った。その後の行方を知る者は居なかったが、やがて世界で最も高い山の山頂が巨大な黒雲で覆われるようになった。黒雲は時折赤い稲妻を放ち、興味本位で近づいた者たちをあしらうように山頂に近づけさせなかった。人間たちはその黒雲こそがミラボレアスの居城であると考え、その山を禁足地として畏れ敬うようになった。
これこそが、現在確認されている祖龍伝説の最古の記述…『白き日食』の終わりであり、その後数万年に渡って続く進化した恐竜たち…モンスターを中心とする失われた歴史『竜興紀』の始まりであった。
恐竜が隕石で滅ぶ前から数が減少していた…という学説を聞いたので、敢えてそれを逆に考えた結果こうなりました。ミラボレアスのくだりに関しては天地創造やエルキドゥとシャムハトの逸話を参考にしました。
次回は進化したモンスターと人類の世界、そして人類の最初の過ちについての話になります。ではまた次回