天翔ける凶星と黒い悪魔   作:マイン

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皆大好きマロニーちゃん登場。…但し今回いいとこ無し

ベルリン編2話視聴完了。やっぱりウィッチの機動力って異常だよね。ネウロイが大型化すればするほどウィッチのスピードと小回りが活きてくるし、いざとなったら必殺のシールドアタックで面攻撃も出来るし。…最もあのレベルの攻防が出来るのは全ウィッチの中でも一握りなんでしょうけど。
あと今期はカッコいい男連中の出番がありそうなのも楽しみ。対ネウロイ装甲なんてものが出てきましたし、戦車や戦闘機に乗って戦う男たちが見れるかもですね


あとどうでもいいけれど、岸部露伴は動かないを高橋一生さんで実写化とかマジかよ…。しかも脚本はあの小林靖子さん。これは…期待していいんじゃあないっスかねぇーッ!!今から放送が楽しみですよ

長々と失礼、ではどうぞ


繋がっていた縁

 緊急出動したものの、昴が速攻でネウロイを全滅させてしまった為にトンボ返りすることとなったストライクウィッチーズ。肩透かしを食らった徒労感もあって、帰投後は各々爆睡、家事、趣味の時間と訓練そっちのけな時間を過ごす者が多い中、ミーナと坂本は大急ぎで支度を済ませるとバルクホルンに残務処理を託し、ペリーヌと昴に見送られてブリタニアの首都ロンドンへと向かっていった。

 

 そして現在…ロンドンにある議会場にて、ブリタニア連邦首相チャーチル、501の実質的上官であるブリタニア空軍大将トレヴァー・マロニー、そして人類連合軍の総参謀長である浜口子門少将という面々を前に、ミーナは自身が徹夜で書き上げた昴に関する資料を公開していた。

 

 

「…ミーナ中佐。改めて確認するが…この資料にある男性魔法力保持者…ウィザードの存在は確かなんだね?」

「はい。彼は紛れもなく魔法力を有し、ネウロイと戦う力を持っています。私を始め、部隊の全員が彼の戦闘を目撃しました。つい今朝のことです」

「既に報告書は読ませてもらったが…中型ネウロイ4体を出撃から僅か30分足らずで単身撃墜するなど…俄かには信じがたい内容ではあるがな。しかもなんだね…使い魔がドラゴン?君の冗談は初めて見るが、君にも苦手なものはあったようだな」

「ですが、事実です。彼の実力も、彼の使い魔の存在も我々の目でしかと確認しました。扶桑海軍少佐の名に懸けて、嘘偽りないことをここに誓います」

 半信半疑なチャーチルと元よりウィッチと501の存在を毛嫌いしているマロニーの言葉に、ミーナと坂本は毅然と反論する。そんな中で、資料に目を通したまま沈黙を保っていた浜口が徐に口を開く。

 

「…凶星か。噂は聞いていたが、本当にネウロイを駆逐していただけだったとはな。それにしても…岩城、か。まさかその名を再び聞くことになるとはな…」

「…少将閣下は、岩城のことをご存じなのですか?」

「ああ。…と言っても、彼本人ではなく彼の父親をだがな。彼の父親は製薬業を営んでいたのだが、時折戦地に赴いて辺境の村や町に薬を配って回る困った癖があってな。私も立場上軍事物資である薬を無料で配ることを咎めなければならないのだが、何度捕まえて送り返しても懲りずにまた来るものだから、心底呆れたものだよ」

「まあ…!」

「…なるほど、流石は岩城の御父上だな」

「ふん、親子そろってロクでもないと来たか。…それで、貴官らは我々に一体何を求めているのだね?」

 棘のあるマロニーの態度に坂本はカチンと来たが、ミーナは慣れたもので眉一つ動かすことなく答える。

 

「はい。我々501としましては、彼をこのまま保護観察対象として監視下に置き、その能力と人格を見極める為に『仮隊員』として部隊に編入することを希望します」

「…ふん!随分と色物ばかり集めるではないか?最近は入隊間もない素人同然のウィッチが2人、そして今度はよりによって男のウィッチとは…君の掲げるガリア解放の為の精鋭部隊とはコメディアンの集まりかね?」

「…お言葉ですが、私はこのメンバーこそが現時点における世界最精鋭部隊であるという自負があります。…それに、リネット・ビショップ曹長を501に推薦してくださったのは閣下であったと記憶していますが?」

「ム……まあどうあれ、貴官の希望は却下だ。これ以上軍属経験のない素人ばかりを編入して、その指導に時間をかけていればその分ガリアの解放が遅れることなる。我々の責任下の元であまり悠長にされるのは迷惑なのだよ。…件のウィザードの身柄は我々ブリタニア空軍が預かる。その能力の有用性がどうあれ、我々の元で然るべき活躍をしてもらうことになるだろう」

「…差し出がましいようですが、彼の戦闘能力とネウロイの探知能力は最前線でこそ最も活きると考えます。彼をどのような扱いとするかは存じ上げませんが、その能力を後方に下げるのは扶桑で言うところの宝の持ち腐れというものかと…」

「口が過ぎるぞ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐!!貴官と501はあくまで我がブリタニアの庇護のもとで活動できているに過ぎないということを忘れるなッ!」

「…出過ぎたことを申しました」

「ふん…!閣下、貴方からもこの思いあがった小娘に言って差し上げてはくれませんか?」

 ミーナの主張を捻じ伏せたマロニーが、隣のチャーチルに同意を求めて発言を促したが…

 

 

「…ふむ。私は、ミーナ中佐の申し出を許可しても良いと思う」

「なッ!?」

 マロニーの期待に反し、穏やかな口調でミーナの擁護に回ったチャーチルにマロニーが愕然とした時…ミーナは隣の坂本にだけ分かるレベルで口元を歪めた。

 

「か、閣下…!?何故そのような…」

「まあ落ち着きたまえ、マロニー大将。…今ミーナ中佐も言ったとおり、彼が従来の索敵網以上の探知能力を持っているというなら、その力は最も会敵数の多い501にこそ必要なものであろう。加えて、ただでさえ前例の少ないウィザードであって、戦闘能力も高いともなれば、ノウハウのない我々よりベテラン揃いの501で管理するほうがより良い活躍を見込めるのではないか?」

「ぐぬ…し、しかし女ばかりの501に男を入れて、万が一のことでもあれば…」

「それこそ無用な心配であろう。いくらウィザードとして優れていようと、正規の軍人である彼女らを力尽くでどうこう出来ると思うのかな?そもそも、501には既に整備兵を含め多くの男性職員が配属されている筈だが」

「ぐぬぬッ…!」

 反論を悉く封殺されるマロニーに、向かいの席から追い打ちが掛かる。

 

「小官も、彼を501に加入することに賛成します」

「浜口!貴官まで…!?」

「小官は彼の戦闘を直に見たわけではありませんので、彼の運用法について口を挟むつもりはありません。…小官はただ、彼の有用性を認めた現場の意見を尊重するだけです」

「浜口少将…!」

「ぐ…ぬぅぅ…!」

 

 

 結局その後、マロニーはそれ以上反論を述べることが出来ず、ミーナの希望通り昴は非正規ながらも仮隊員として501に編入することが決定した。目的を達したミーナと坂本が礼を言って退室する刹那、マロニーが憎々しげにその背中を睨んだが、ミーナはどこ吹く風といった可憐な立ち振る舞いで悠々と退室したのであった。

 

 

「…此度のご協力、心から感謝します。浜口少将閣下」

「なに、私はただ思い出話と率直な意見を言ったに過ぎんよ。感謝されるほどのことはしておらん」

 協議が終わった後、ミーナと坂本は浜口少将の元へとやってきていた。

 

「それにしてもミーナ中佐、随分と裏で大盤振る舞いをしたそうじゃないか。チャーチル閣下が苦笑いをしておったぞ?あそこまで手をまわされては敵わん、とな」

「お褒めの言葉として受け取っておきますわ」

「…とはいえ、これでミーナのブリタニア政府に対する手札は殆ど尽きてしまったのですがね」

 今回の協議、マロニーは知る由もないが議題が提示されるより以前に既に結果は決まり切っていた。ミーナは協議の時間より数時間早くロンドンに到着し、その足でロンドン中のチャーチルの支持者たちに挨拶周りをしに向かい、これまで溜め込んだスキャンダル等をネタにした交渉を持ち掛け、チャーチルに首を縦に振らせる以外の選択肢を無くしたのである。いかに一国の首相とはいえ、選挙によって選ばれた以上支持者を失うことは政治家にとって死活問題であったが故だ。

 そして目の前の浜口はというと…どういう訳か、昴の名を聞いた時点でミーナに賛同することを確約してくれたのである。

 

「ところで少将、なぜこうもあっさり我々に協力してくださったのですか?先のお話を聞く限りでは、岩城のご両親とはあまり親密であったようには思えないのですが…」

「…坂本少佐。男にはな、例え一方的ではあっても通すべき『仁義』というものがある。私はそれを貫いただけだよ」

「仁義…?」

「あれは…そう、岩城の奴を3度目に連れ戻した時だったか。あの頃は私もまだ現場に出ていた頃でな、毎度毎度同じことを繰り返す奴にいい加減腹が立って、尋問室でつい怒鳴ってしまったのだよ」

 

『いいか!貴様のやっていることは、我ら扶桑皇国軍が必要とする物資を不法投棄するに等しい行為、詰まるところ扶桑皇国に対する裏切りなのだぞッ!!貴様が詰まらん感情に流されて物資をバラまくせいで、欧州の辺境の民から我々は吝嗇(ケチ)呼ばわりされているのだぞッ!貴様のせいで我ら皇国軍の面子は丸つぶれだッ!!』

 

「…閣下、それは…」

「ああ、分かっているとも。我ながら配慮に欠けた物言いであったと反省しているよ。それでも、どうしても我慢できなかったのだ。…だが、奴は口角唾を飛ばして怒鳴り散らす私に澄ました顔でこう言ってのけたのだ」

 

『…じゃあ、アンタの言うその面子とやらで一体どれだけの人を救えるってんだ?教えてくれよ。もしそれが俺の薬で救える奴より多いってんなら、俺も金輪際お宅らの邪魔はしないって約束してやんよ』

 

「…まあ」

「なんというか…命知らずな御仁ですね」

 横紙破りで捕まった立場であるにも関わらず、軍人に対して挑発としか思えない態度をとった昴の父に、ミーナも坂本も口元を引くつかせて唖然としていた。

 

「ああ、まったくだ。正直あの場で殴り飛ばしていてもおかしくなかったと思うよ。…だが、そうはならなかった。正確には、出来なかったのだ。奴にそう言われて一瞬カッとなったのだが…同時に、頭の中に浮かび上がってしまったんだ。奴を強制連行する際に我々を引き留めようとする、辺境の村の人々のことをな…」

 昴の父を連れ戻す際、皇国軍の兵は毎回昴の父が逗留していた村や町の人々に連れて行くのを止めるよう懇願されていた。若い兵士の中にはそんな光景に耐えきれず逃げてきてしまう者もおり、当時から自他ともに厳しいことで有名であった浜口が毎回担ぎ出される羽目に遭っていたのだった。

 

「我々とて、人類の為に命を懸けてネウロイと戦っているという自負はある。しかしだ…そうして我々が戦ったとて救えぬこともあるし、救えたとしても我々は守った人々の顔も知らず、守られた民衆も我らのことを知ろうともしないだろう。君たち見目麗しいウィッチと違って、軍艦乗りは地味だからな…。それに比べて奴は、救うべき人々に直接寄り添い、個人でできる範囲とはいえ確実に人々を救っている。…誰を守っているのかも分からない我々と、一人一人の心と体を確実に救っていた奴…。それらを天秤にかけた時、果たしてどちらが人々に求められているのか…そう考えた時、私は奴の言葉に何も言い返せなかったのだ」

「…しかし閣下、それは比べても仕方のないことでは」

「そうだろうな。…だが、そんな風には思えなかったのだ。もし仮に奴がほんの少しでも自分の利益の為に横紙破りをしていたのであれば、力尽くで連れ戻すことに何のためらいもなかっただろう。だが奴は一切の見返りも、何の称賛も求めずただ困っている民を、苦しむ人々を救いたいという一心で動いていた。そんな奴に、所詮軍隊という組織の中でしか動くことが出来ない自分の価値を押し付けることが…恥ずかしいことのように思えたのだよ」

「……」

「それからだ。私が奴の渡欧を知ってもそれを見て見ぬふりするようになったのは」

「え」

 唐突なカミングアウトに坂本の喉奥から変な声が出てしまう。

 

「あの時、私は奴の生き方をほんの少しだが羨ましいと感じてしまった。規律にも面子にも囚われず、己の心の赴くままに誰かのために動く奴の自由さが…眩しかったんだ。そう思ってしまったら…もう奴を止めることなど私には出来なかった。…そんな自分の浅慮を悔いたのは、8年前に奴が一家諸共カールスラントでネウロイに襲われて死んだと聞いた時だったよ」

「…!」

「あの時どうして止めなかったのかと、いやそれ以前にもっと早く止めていればと…奴の命日が来るたびに後悔したものだ。そんな時に、奴の息子が生きていて、しかもウィザードとしてネウロイと戦っているという話を君たちが持ってきた。…運命を感じざるを得なかったよ。天が私に、今こそ奴への筋を通す時だと告げているような気がしたのだ」

「だから、私たちに手を貸して下さったのですね」

「うむ。これは私の個人的な感傷でしかない。だがそれでも…人類連合軍の総参謀長として、ネウロイの侵略に抗う者の一人として、これは必要なことであったと確信しているとも。奴の志を継ぐ者に、無粋な首輪は必要ない。…ミーナ中佐、坂本少佐。勝手な願いだと承知しているが…岩城の息子を、我が盟友の忘れ形見を…守ってやってくれ」

「勿論です、閣下」

「必ず、この坂本美緒の名に懸けて…!」

「うむ」

 

 ミーナたちが部屋を去った後、浜口は窓の外から空を見上げてポツリと呟いた。

 

「…この空を、お前の息子が飛んでいるそうだ。俺にしてやれるのはここまでだ。あとは、お前が精々見守ってやれ…岩城」

 

 

「…浜口少将、良い方だったわね」

「ああ。土方の話では海軍内部では『人殺し子門丸』とまで言われているらしいが、あんな一面もあったのだな」

 扶桑海軍きっての知将にして猛将として国内外から畏れられている浜口の温和な一面を垣間見たことに、帰りの車の中でミーナと坂本は話を弾ませていた。

 

「人殺しって…随分過激な渾名ね」

「ああ…。扶桑海事変の時のことなんだが、閣下は大陸方面からやってきたネウロイの軍勢に対して先制攻撃を仕掛けるべくウィッチ部隊と戦闘機部隊による絨毯爆撃作戦を決行されてな。当時はまだストライカーユニットの性能もそれほど高くなく、ウィッチによる護衛が間に合わなかったことで半ば特攻同然にネウロイ諸共自爆する戦闘機が多かったが為に多大な損害を出してしまったんだ。…結果的にネウロイの進行を一時食い止めたことで閣下が処罰されることは無かったが、多くの犠牲を出した閣下のことを『人殺し』と裏で呼ぶようになった…と、北郷先生から聞いたことがある」

「…なんというか、正直どう言っていいか分からないわね。閣下の判断自体は間違ってなかったでしょうけれど、端から見れば犠牲を前提とした作戦にしか見えないものね…」

「ああ。…実はその時にも、凶星が現れたという噂があってな。もし岩城が加勢したことでネウロイを撤退させることが出来たのなら、閣下個人としても岩城に思うところがあったのやもしれん。最初に岩城が凶星であることを気にしておられたのは、そういうことだったのかもな」

「そうね…あ、ごめんなさい。ここでいいわ、止めて頂戴」

 ミーナは運転手に声をかけ、とある場所の前で車を止めさせる。

 

「じゃあ、美緒…少し行ってくるわね」

「ああ、ゆっくりしてこい。私も寄るところがあるんでな、後で迎えに来る」

「ええ。それじゃあ…一六〇〇にまたここで」

「了解だ、ではな。……済まないが、この辺りで腕のいい装飾品店があったら…」

 ミーナを下ろした後、坂本は運転手になにやら注文をつけるとその場を離れていった。

 

「…今装飾品って聞こえたけど、あの美緒がそんなところになんの用かしら?美緒に限ってお洒落に目覚めたとは思えないんだけれど…ま、後で聞けばいいことね」

 そんなことを呟きながらミーナは一人、事前に決めていたもう一つの目的地…クルトの入院している病院へと向かっていった。




今回出てきた浜口子門少将は本作のオリキャラです。モデルは当然、飛龍の艦長だった山口多門少将。少将が人殺し多門丸と呼ばれる所以のエピソードをウィッチーズ世界風に置き換えてみました

ではまた次回。

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