天翔ける凶星と黒い悪魔   作:マイン

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筆が乗ったので連日投稿

ウィッチーズ世界ではなにやら諸事情で中国、朝鮮半島にあたる国家が存在しないので、今作では『華国』という架空の国家を扱います。設定としては、扶桑と遥か昔から交流と戦争を繰り返してきた大国だったが、オラーシャがネウロイに支配された際に北から攻めてくるネウロイを防ぎきることが出来ず、一部の山脈地帯を除いてほぼ全域を支配されてしまった…という感じで。細かいことは設定の方に書いておきます

ではどうぞ


歓迎の裏で…

 病院へと入ったミーナは入り口ですっかり顔なじみとなった看護師や医師と軽い雑談をした後、何度も通ううちに憶えた道を進み、クルトの眠る病室へとやってきた。

 

「…クルト」

 ミーナの呼びかけに、ベッドに横たわったままクルト・フラッハフェルトは何の反応もなく眠り続ける。既にダイナモ作戦で負った負傷は多少の傷跡を残して完治しており、今は点滴だけが繋がれた状態で、パッと見る限りではとても傷病兵には見えないだろう。…だが、クルトは既にこの状態で4年もの間ここで眠り続けている。

 ダイナモ作戦における捨て駒の役割を押し付けてしまった負い目からか、カールスラントは未だクルトを除隊しておらず、負傷兵扱いでこのブリタニアの病院に入院させていた。入院にかかる費用は軍とミーナが折半して支払っており、ミーナ自身も休暇や今回のような話し合いでロンドンを訪れた時の合間を縫ってこうして見舞いや介護の世話をしに来ている。

 …この4年間、ロンドンの名だたる医師がクルトの治療を試みたが、あらゆる処置を施しても目を覚ますことは無かった。1940年代の医学では脳神経外科は未だ研究段階にあり、脳内の異物や腫瘍を取り除くことは出来ても、脳の仕組みを完全に把握できていない現状では手の施しようが無かったのである。

 

「クルト…今回は、ちょっと間が空いちゃってごめんなさい。こっちで大変なことがあったのよ。…あの時、貴方を助けてくれた凶星が…岩城昴君って言うんだけどね、彼が私たちの新しい仲間になったのよ」

 クルトの手を握り、ミーナはクルトに話しかける。ここに来るたびにミーナは、クルトに自身の近況を言い聞かせていた。無論返事があると思ってはいなかったが、こうしてクルトに話しかけることで自分自身を見つめなおすこともあり、ミーナは欠かすことなく語り掛け続けていた。

 

「…でね、彼が貴方に飲ませたっていう『いにしえの秘薬』なんだけれど、何が材料だと思う?…虫とキノコとハチミツと、シカの角ですって。ハチミツとキノコとシカの角は分かるけど、虫ってちょっと…ねぇ?言い辛そうにしてたから嫌な予感はしてたけど、お医者さんが聞いたらなんてもの飲ましたんだ!…って言いそうよね。ウフフ…」

 

「ああでも…扶桑にはバッタを食べる風習があるって美緒が言ってたかしら。美緒も宮藤さんも子供の頃にバッタとかハチの幼虫を食べたことがあるっていうし、東洋では結構普通のことなのかしらね?」

 

 他愛もない会話であったが、ミーナの心はいつもよりいくらか晴れやかであった。以前はクルトの姿をした墓石に語り掛けているような虚しさを感じていたが、昴から事情を聞いたことで必ず目を覚ますという確信が生まれたことが、ミーナの気持ちにゆとりを生み出していた。この何気ない言葉も、クルトに届いているのかもしれないと思えば、ミーナの声は不思議と弾んでいた。

 そんな風に話していれば、時間というものは意外と早く過ぎていくものである。

 

「……あら、もうこんな時間ね。美緒が迎えに来ているかもしれないわ。じゃあクルト…もう行くわね。また休暇の時に来るから、出来ればその時には…ピアノは無理でも、貴方の声が聞けると…期待しているわ」

 名残惜しみつつ、次の機会への期待を投げかけながらミーナは病室を去り…病室には再び静寂が訪れたのであった。

 

 

 

 

 病院を出たミーナは予想通り病院の入り口で既に待っていた坂本の乗る車に乗り込むと、そのまま一直線に空港へと向かい、501へと向かう特別便の飛行機に乗っていた。

 

「…じゃあ、装飾品のお店に行ったのは岩城君からもらった宝石の加工をお願いしに行ったの?」

「ああ。貰ったはいいがあれだけ大きいと、この鱗の様に縫い付けるわけにもいかんのでな。相談しに行ってみたのだが、そこのご主人が私の扶桑刀に一目ぼれしてしまってな。しばらく見せてやったら、お礼にとあの宝石を使って刀装具や鞘飾りを作って貰うことになったんだ。私はあまりチャラチャラと着飾るのは好かんのだが、ご主人の熱意に圧倒されたのとかつての武将たちも刀の装飾に拘っていたというのを思い出してな、ご厚意に甘えることにしたんだ」

「ふぅん…。でも美緒ったら、折角の宝石なのだからネックレスとか髪留めとか、もっと身近なものにして貰っても良かったじゃないの。偶にはお洒落しないと勿体ないわよ?」

「そんな余裕は私にはない。…今はネウロイを倒すことだけが私の意義だ。お洒落だの嫁入りだのは当面関係のない話だ」

「もう…岩城君のこと枯れてるだなんて言えないじゃないの」

 

 飛行機の中で雑談や明日以降の日程について話し合っているうちに、日が暮れるころにブリタニア基地へと帰ってきたのであった。ちょうど夕食の時間であった為2人はそのまま食堂へと直行した。

 

 

「ただいま皆…あら、いい匂いね」

「あ!ミーナ中佐、坂本さんお帰りなさい!」

「お帰りー!」

「おお宮藤、今帰ったぞ。…む、今日はお前が作っているのではないのか?」

 食堂へ入ると夜間哨戒組を除いた全員が揃っていたが、普段厨房に立っている筈の宮藤が今日は食卓の準備を整えており、厨房には別の誰かが調理作業をしていた。

 

「あ、はい。今日は私じゃなくて…」

「はいよー、お待ちどう」

 厨房から現れたのは、配膳用のワゴン車に沢山の料理を乗せた昴であった。

 

「岩城さん!?貴方が作ってたの?」

「あ、お疲れ様です中佐、少佐。ええ、昼間にちょっと料理のことで宮藤さんと話してまして、俺が中華…もとい華国料理を作れるってことで教えて欲しいと頼まれまして。今日は宮藤さんがアシスタントで、俺がメインで飯作ってたんですわ」

 昴が押してきたワゴン車には、麻婆豆腐や回鍋肉、酸辣湯に各種点心、ゴマ団子といったいわゆる大衆中華の数々がてんこ盛りであった。

 

「おおーッ!これが華国料理か。名前は有名だけど初めて見たよ、うまそーじゃんか!」

「ほう、なかなか本格的じゃないか。私も横浜の華国街で何度か華国料理は食べたことがあるが、こっちに来てからは久しぶりに食うな。これは楽しみだ」

「ブリタニアにも華国料理を出している店はあるが、…どうもあの雰囲気が私は苦手で入ったことがないからな。今回はどんなものか試させてもらうとしよう」

「トゥルーデ、ああいう胡散臭い感じ嫌いだもんね~」

「うふふ、そうね。それじゃあ、いただきましょうか」

「はーい!いただきまーす!」

 物珍しい華国料理の数々に、ウィッチたちは舌鼓を打ちながら各々感想を言い合っていた。

 

「…うむ、なかなかうまいじゃないか。だが、華国街で食べた物よりかなり食べやすい気がするな」

「本場の華国料理は独特の調味料の風味が結構キツイですからね。俺のはその辺を手に入りやすいもので代用してるんで口に合うと思いますよ」

「…でも、結構辛い料理が多いですね」

「四川料理はそんなのばっかりだからな。でも、辛い物は体を温めるからほどほどなら体には良いぞ」

「こらルッキーニさん、お口の周りが汚いですわよ!もっとお上品に食べなさいな」

「いーじゃん、おいしーんだからさ!」

「…ん?ああーッ!お前ラ、何お前らだけいいもん食べてるんダ!?」

「あ、エイラさんおはようございます」

「ん…いい匂い、もしかして華国料理?」

「ッ!お、お前らサーニャの分はあるんだろうナ!?」

「大丈夫ですよ、お二人もどうぞどうぞ。…ところで中佐、今日は結局どうなったんですか?」

「あー、私も聞きたい聞きたい!」

「ええ。喜んで頂戴、今日から岩城さんは…」

 

 昴の501加入の報に皆安堵し、笑顔で夕食のときは流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …同時刻、ブリタニア連邦本土の北部地方。ロンドンから遠く離れている為にブリタニアの名士たちによる分割統治が許されているこの地の中でも、最北端に位置する領地にある大きな屋敷の書斎で、一人の少女が電報を受け取っていた。

 

「…そう、彼が501に…ね。あの烏、どこをほっつき歩いているのかと思えばよりにもよってあのマロニーの足元に居座るだなんて、私への当てつけのつもりかしら?」

 表情こそ変えないものの声色の端に確かな苛立ちを含めた少女。整った…整い過ぎているとも思える程の美貌と女性としての魅力が全部盛り込まれているようなプロポーションを持った彼女は、この北部地方を統治する名士たちの中で最も若い領主である。…しかし、同時に彼女はそんな名士たちの中で最も重要な北部諸島を含めた領地の主であり、周囲からは『冷血の女帝(コールド・エンプレス)』の渾名で畏れられる辣腕の持ち主であった。

 

「あれだけ私の元で厄介になっておいていいご身分ね。お祝いに鮭の頭でも……いえ、そういえば501は確か…」

 嫌味代わりのお祝いを送りつけようとした彼女であったが、書斎の棚からいくつかの資料を引っ張り出してなにかを確認すると、ふと何かを思いついたのか口元を歪める。

 

「…そうね、それよりもこっちの方がいいわ。そのほうが、あの髭にとっていい嫌がらせになるでしょう。…婆や!」

「はいはい、どうしましたお嬢様?」

 呼び出されてから間もなく、婆やと呼ばれた温和そうな老婆が書斎へと入ってくる。

 

「アレが501…ストライクウィッチーズの元に居るのは知っているでしょう?すぐに501に荷物を送るわ、手配をお願い」

「かしこまりました。…で、何を送りましょう?」

「そうね…確か、扶桑では大きなマグロが好まれると言っていたわね。昨日大物が揚がったと聞いたわ。それを贈りましょう。いかにも中に何か詰まっていそうな、丸々と太ったものをね…」

「はい。承りました」

指示を受けた婆やは恭しく頭を下げ…すっかり一人前のブリタニア貴族に成長したことに教育係として満悦の笑みを浮かべながら去っていった。

 

「……さて、それではそろそろ…無粋な侵入者にお帰り願いに行こうかしら」

電報を受け取った時から少女の感覚は、スオムス方面から陸づたいに此方に向かってくるネウロイの存在を捉えていた。…であるにも関わらず彼女が悠長にしていたのは、領地の周りをぐるりと囲むように張られた彼女の固有魔法、シールドを自分から切り離して設置できる『防壁(イージス)』に触れたことで、コアも含めて大半の部分が『凍り付いた』ネウロイが既に満身創痍だったからである。

 

「ネウロイとはいえ、嬲るのは趣味じゃないわ。すぐに…楽にしてあげましょう」

 何時でも飛び立てるよう書斎にある裏口を出てすぐ傍に用意されたストライカーの発進装置からストライカーに足を通す。機体名は『ハリケーン』。現在ブリタニアで主流のスピットファイアの前身に当たる機体で、型落ちされたものを買い上げたのである。ストライカーに魔力を通すと、それに呼応して彼女の肉体にも変化が起こる。

 

 群青色の美しい鱗が肌の表面を覆う。背中からは全身を包み隠せるほどに大きな翼膜を持った翼が生え、臀部から生えた尻尾は強靭でありながら鞭のようにしなやかで、先端はまるで槍の様に鋭く細く尖っていた。そして本来耳が生えてくるはずの頭からは…まるで氷柱が逆立って伸びたような角が生えてくる。

 この姿こそが、彼女のもう一つの顔。領民のことを考えつつも敵対する者には容赦のない冷徹な領主であると同時に、己が領地を侵さんとするネウロイの悉くを凍てつかせるこの地の守護神。それが、限られたものだけが知る『ブリタニア連邦最強のウィッチ』としての彼女の姿であった。

 

 

 彼女の名は、『エリザベート・タウンゼント』。元ブリタニア空軍パイロットの父と、ブリタニア連邦現女王の妹を母に持つ、正真正銘の王族の一人。そんな彼女が身に宿す使い魔は、絶対零度を司る古龍…『冰龍イヴェルカーナ』。彼女もまた、昴と同じドラゴン・ウィッチなのであった。

 

「首を洗って待って居なさいスバル…!ネウロイを片付けたら、次は貴方にお仕置きをしに行ってあげるわ…!」

 普段は誰にも見せることのない冷酷な笑みを浮かべ、エリザベートは周囲の空気が凍りついたことで出来た微細氷を撒き散らしながら、ネウロイに死の宣告を下すべく薄闇の空へと舞い上がったのであった。

 

 

 




二人目のドラゴンウィッチ登場です。
彼女は実在した軍人がモデルになった訳ではなく、かつてエリザベス女王の妹であるマーガレット王女とのスキャンダルがあった『ピーター・タウンゼント』が、本当に王族と結ばれていたら…というifの可能性から生まれたキャラです。細かいことはまた設定の方に。ついでにドラゴンウィッチそのものの設定も載せておきます

一応、イヴェルカーナを知らない人の為にざっくり説明を

イヴェルカーナ…MHW:IBで登場した氷属性の古龍。典型的なドス古龍だが、似たような見た目のクシャルダオラより一回り体がデカい。マグマすら凍らせるシリーズ史上最も強力な冷気を操る。氷属性のモンスターらしく怒り状態になると自身の体を頑丈な氷で覆い、翼や頭部、尻尾のリーチが伸びる。氷結ブレスのみならず自身を中心に氷の壁を波紋状に押し広げるなど範囲攻撃が得意で、必殺のアブソリュートゼロはそれら2つを立て続けに全方面に放つ回避が困難な技である。また、槍のように鋭い尻尾による近接戦闘にも注意が必要
IBではパッケージモンスターとして幾度も調査団と関わりあったが、肝心の問題の元凶ではなくむしろ巻き込まれた側の存在であったので必要以上にボコられたちょっと可哀そうな子。その点に関してはむしろ前作パッケージのネルギガンテの方が良いところ持って行った。

ではまた次回
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