天翔ける凶星と黒い悪魔   作:マイン

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…ご無沙汰してました。私のこと憶えてますでしょうか…?
プライベートで色々悩みやトラブルがあってしばらく筆を執る気にならなかったのですが、ちまちま描き続けてどうにか仕上がったので投稿します

今後も他の作品含め更新速度は酷いことになるかもですが、全部少しずつ続きを書いているのでどうか思い出したときに見てくれると嬉しいです

ではどうぞ


負けたくないから

 昴が501の元で世話になり始めて数ヶ月が経った。最初こそ女所帯で唯一の男性ということで色々と問題や苦労もあったが、慣れてくると朝は宮藤やバルクホルンらと共にグランマたちの朝食作りの手伝い、昼は今までミーナが担当していた基地の会計業務を手伝ったりルッキーニと一緒にロッキーの散歩に出たり、時折エーリカやシャーリーとトランプなどに興じ。夜は夕食を摂ったら早めに就寝し、エイラとサーニャの出迎えも兼ねた日課の早朝パトロールに備える…と、ネウロイと戦うこと以外は穏やかな日々を過ごしていた。

 それまでの根無し草な日々が性に合っていると思っていた昴であったが、こうした安定した日々をどこか懐かしいように思えてしまったことで自分はつくづく性根の部分は現代人…この時代からすれば未来人だな、と感じてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…!緊急発進(スクランブル)だ!ちょっと行ってきます!」

「え、ちょ…岩城君!?」

 …とはいえ、そんな呑気な気持ちの昴に知ったことでは無いとばかりに彼の内に居るバルファルクは新たなネウロイの存在を知らせてくる。バルファルクは契約したことで昴の事情を知っており、昴がずっと自分に憧れていたことは理解しているし、バルファルクも昴のことを只の契約者以上には認めている。だから基本的に昴が自身の力を自由に使うことも認めている。

 だが、それ以上にバルファルクにとってネウロイは決して赦してはならない殲滅対象なのだ。古龍…かつてのこの星の支配者の一角として、星を穢すネウロイをのさばらせておくことなど有ってはならないのである。

 

 

 

 

 

 

「こいつで…ラストぉッ!」

 

ズガンッ!

パキィィンッ…!

 

 501基地のあるブリタニアから直線距離にして約2000㎞離れたオラーシャ帝国辺境の空。仲間が全滅し逃げ惑うネウロイの横っ面に振り子の如く叩きつけた翼脚の先端がコアを捉え、最後の一体が砕け散ったことで再び空に静寂が戻った。…昴がやってくるまでネウロイと交戦していたウィッチの乗るボロボロのストライカーの駆動音を除いて。

 

「…いやぁ、一応女として生まれたからには白馬に乗った王子様が迎えに来る…なんてロマンを夢見たことが無い訳じゃないんだけどね。まさか白馬どころか流れ星に乗って来た王子様なんてのはちょっと予想外だったかなぁ」

「そんだけやられてよくそんな軽口が言えますね…噂に聞いた通りですね、クルピンスキー大尉殿」

 

 シールドすらロクに張れない程に疲弊していながらも軽薄な笑みを浮かべながら冗談を言う彼女の名は『ヴァルトルート・クルピンスキー』。この一帯を管轄とする502部隊、通称『ブレイブウィッチーズ』に所属するカールスラントの古参ウィッチだ。

 彼女は先ほど倒されたネウロイ群…502の管轄区域内に存在するネウロイの巣から欧州方面へと向かっていたものを追いかけて来たが、編隊行動をとって攪乱してくるネウロイに苦戦し撃墜寸前であった。そこに到着した昴が超音速でネウロイの編隊を掻き乱し、瓦解したところを2人がかりで各個撃破により掃討したのである。

 

「およ?ボクのことを知っているのかい?いやあ、名高い凶星クンに知って貰えてるだなんて光栄…」

「ああ…俺、今ミーナ中佐の501部隊んトコで厄介になってまして。そこに居る貴女のお知り合いの方々から色々聞いてますよ。…主に碌でもない方面についてですが」

「…あちゃ~、そりゃ残念」

「全く、貴女には俺も色々と言いたいことがあるんですよ。よくも8年前までは『まだマシ』だったエーリカを『あんなん』にしてくれましたね…」

「いやいや、ボクはな~んにもしてないよ?文句を言うならボクなんかをお目付役にしたロスマン先生に言ってよね」

 その台詞、バルクホルンやミーナにも言ったんだろうな…と、へらへらと悪びれないクルピンスキーに呆れる昴であったが、ふと先ほどまでの状況が気になって尋ねることにした。

 

「…そういえば、何故貴女一人でこんな所で戦っていたんです?ペテルブルグの基地からは相当離れてますし、哨戒中にしては相方(バディ)の姿が見えないんですが…」

「ああ…実はさっきのネウロイはボクたちが取り逃がしちゃった奴なんだ。少し前にボクと菅野ちゃん、それにニパ君と先生でスオムス方面に向かうネウロイの群れと戦ってたんだけど、群れの一部が急に進路を変えて欧州に向かい始めてね。追いかけようにも菅野ちゃんとニパ君のストライカーも武器も限界だったから、2人を先生に任せて動けるボクだけで追撃をかけたんだ。…けれど、追いかけたはいいけど相手が想像以上に手強くてね。もうダメか…と思ったところに君が来てくれたってワケなのさ」

「…よく行かせてくれましたね。お話に聞いた限りですけど、ロスマン曹長ってその辺りとても厳しい方なんじゃないですか?」

「うん…まあね。最後まで反対されっぱなしで、結局押し切って来ちゃったんだよ。終いには泣きつかれちゃってさぁ…本当、帰ったら謝らないとね」

「そうですね。ちゃんと謝ってきっちり叱られてきて下さいね…死に別れなんてのは、させるモンじゃあないですから」

「…そっか。そういえば君もそうだったね、フラウからそんな話を聞いたよ」

「はい。…そういうことですから、早く帰投して無事を知らせてあげて下さいよ」

「そうだね、それじゃあお言葉に甘えさせて貰うよ。…今回は本当にありがとう、君には感謝しているよ」

「お気になさらず。ネウロイ退治は俺の責務なんで。それじゃ、またいつか」

「ああ、またいつかね」

 

 

 こんな風に、昴は501の傘下に入ったことで正体を隠す必要が無くなりこれまで以上に大手を振って世界中の空を飛び回り、時には他の部隊のウィッチと共にネウロイを駆除して回っていた。そうすることで昴と面識を持ったウィッチから所属する部隊へと情報が渡り、徐々にではあるが凶星の名は畏怖から希望の象徴へと移りゆこうとしていた。

 …尚、立派な脱柵行為なので昴には帰還後に反省文と始末書が待っているが、ネウロイを倒してきたことは後に証明されるので怒るに怒れないミーナのやるせなさは考えないものとする。

 

 その流れはウィッチ…ひいてはマロニー一派を除いた多くの人々にとって良いものではあったが、501に一名、マロニーとは別の方向でそれを面白くないと感じている者が居た。

 

 

 昴とクルピンスキーが邂逅してから数日後…

 

ドバンッ!

「おいハルトマン!いい加減に起きんと準備が…」

 バルクホルンが最早自分のルーティンの一部になりかけているエーリカの起床コールの為に部屋に怒鳴り込むが、扉を開けて間もなく目にしたものに目を丸くする。

 …話は変わるが、501の所属ウィッチはミーナと坂本を除いて原則2名で1部屋を共有しており、エーリカとバルクホルンもルームメイトである。彼女たちはお互いにプライバシーを尊重し、部屋の半分で区切ってお互いのスペースを確保している。

 …が、エーリカはズボラすぎる性格により着替えやおやつから面白半分で拾ってきたもの、果ては勲章に至るまであらゆるものが片付けられること無く山積みとなり、今ではバルクホルンのスペースにまで侵食するほどのゴミ山が形成されてしまっていた。しかも当のエーリカは一切気にせずゴミ山に埋もれて寝ているほどである。なのでバルクホルンの起床コールは、まずエーリカをゴミ山から叩き出す所から始まる…筈だったのだが。

 

「…ん?なに、トゥルーデ?」

 いつもならセミの幼虫の如くゴミ山から這い出てくるエーリカが、今日はとうに目覚めてゴミ山の頂上で枕に顔を突っ伏したままジロリと視線を向ける。

 

「な、なんだ…起きていたのか。珍しいこともあるものだ、お前が他人に起こされる前に起きているだなんて入隊以来じゃないか?」

「あー…そだね」

「…?どうしたんだお前、妙に淡泊…というか不機嫌そうだが。具合でも悪いのか?」

 揶揄うつもりで言った筈が反応を示さないエーリカの様子にバルクホルンは眉を顰める。

 

「そんなんじゃないけどさ…私にも色々考えることがあるんだよ」

「悩みでもあるのか?相談くらい乗るぞ」

「別に、トゥルーデに話すようなことじゃないし…」

「まあ、そう言うな。お前がそんな調子ではこっちまで気が滅入ってしまうからな。…それに、今日はお前のネウロイ250機撃墜を記念した柏葉剣付騎士鉄十字勲章の受勲式があるんだ。そんな腑抜けた顔で式典に出るわけにはいかんだろう?」

「…250、ねぇ」

「…どうしたハルトマン?」

 無反応のままだったエーリカであったが、バルクホルンの『250』という数字に僅かに反応すると、しばし黙り込んだ後に溜息を吐きながら話し始める。

 

「…昨日さ、502の伯爵から電話があったんだよね」

「伯爵…ああ、クルピンスキーの奴か。アイツの方から連絡してくるなど珍しいな。一体なんだったんだ?」

「この間さ、昴が執務室からかっ飛んでったことがあったでしょ。その時にペテルブルグの近くまで行ったみたいで、ネウロイにやられそうになったのを助けて貰ったから改めてお礼言っておいて欲しいってさ」

「そんなことがあったのか…。だが、それで何故お前が不機嫌になる?クルピンスキーは無事だったんだから良かったじゃないか」

「それはそうなんだけどさぁ…もういいよ。トゥルーデじゃ分かんないだろうし」

「な…なんなんだ一体。…まあいい、それより早く着替えて来い。朝食を食べ終えたら11:00(ヒトヒトマルマル)に簡易式典を始めるとのことだ。それまでにその顔を少しはまともにしてこい」

「ほいほーい…」

 怪訝そうな顔をしながら部屋を後にするバルクホルン。実際、彼女には今のエーリカの気持ちは分からないであろう。バルクホルンはウィッチとして遙かに長いキャリアを持ち、既にエーリカに先駆けてネウロイ250機撃墜を記録し、その実力は精鋭揃いのカールスラント軍でも三指の内に入るほどだ。だが、彼女はそんな自身の戦績を気にしたことは無く、記録よりも確実な作戦の成功を優先するタイプである。

 …故に彼女には分からない。エーリカがこの度自身が記録した『250機』という数と、自己申告ではあるが昴がこれまでに撃破したであろう『ネウロイ2万機』という数を比べ、自分が遙かにおいて行かれているのではないか…という焦燥感に駆られていることなど。

 

「…そりゃあさ、分かってるんだよ。今の私よりスバルの方が強いってのはさ。でも…でもさ、折角また会えたのにいつの間にかずっと遠くに居るなんて、なんか…ズルいじゃんか」

 昴の持つドラゴン・ウィッチの力に嫉妬しているというわけでは無いが、自分の知らないところで昴が自分を追い越してしまったという事実がエーリカには気に入らなかった。昴の中で自分たちと過ごした時間よりも、昴が強くなっていった時間の方が大きくなっているのではないか…かといって確かめようにもそんな子供染みたことを聞けるはずも無い。エーリカにとって昴は追いかけるものではなく、隣り合って笑い合う『悪友』なのだから。

 

「…あーもーッ!ムシャクシャする!こんなの私らしくないって、はいはいもう止め!朝ご飯食べに行こ!えーっとズボンズボン……あれ、ズボン何処だっけ?ズボン~…」

 

 

 

 

『……?』

 基地の外れで惰眠を貪っていたロッキーがふと背中に何かが乗ったような感覚を憶え、またルッキーニが来たかと半眼で背中に視線を向けるが、重みを感じるその背には誰も乗っていなかった。そうしている間に、背中の重みはふわりと消えるように消失する。

 

『……zzz』

 疑問に首を傾げるが思考よりも眠気の方が勝り、ロッキーは本能のまま再び眠りに就いた。

 

 

 

 その日、日の出と共に消えるブリタニア名物の朝靄が、日が完全に昇っても残り続けた。…501の基地の周辺を包み込むようにして、不自然に。

 

 

 

 厨房では早朝巡回から戻ってきた昴がアイルー達と一緒に朝食の準備をしていた。

 

「…前から聞きたかったニャルけど、なんでこの基地にはジャガイモとキャベツだけこんなにたくさんあるニャルか?」

「そりゃこの基地の代表がカールスラントきってのエリートのミーナ中佐で、同国のトップエースが2人も在籍してるからじゃないのか?異国で戦うエースにせめてもの心づけってやつだろ」

「にしたって年頃の嬢ちゃんたちに芋とキャベツだけじゃあなぁ…。宮藤の嬢ちゃんが来るまでよくこれで満足出来てたもんだぜ…ニャ」

「カールスラントはワインもチーズも実にボーノですのに勿体ないですニャ」

「こら、貴方たち。折角送って下さったものに文句を言うんじゃ有りませんニャ。どんな食材であろうと丹精込めて美味しくするのが料理人の勤め…そう教えた筈よ?」

『ご、ごめんニャさいお母ちゃん!』

 グランマの檄が飛ぶ中、良い匂いに釣られたシャーリーとその様子に眉を顰めるバルクホルンが食堂に入ってくる。少し遅れて朝練組の坂本、宮藤、ペリーヌ、最後にやっと身支度の済んだらしいエーリカが入ってきたのだが…

 

「おはよう少佐、みやふ……どうしたんだ宮藤、ペリーヌ?」

 首を傾げるバルクホルンの視線の先には、何故か服の裾をがっしりと押さえ込んだままよたよたと歩く宮藤とペリーヌ。そして何故か宮藤のズボンを手に持った坂本がいた。…ちなみにエーリカはというと呑気に鼻歌を歌いながら朝食のポテトパイに手を伸ばしている。

 

「あ…お、おはようございますバルクホルンさん…。これはその…」

「ち、違うんですのよ!これは誤解であって、決して私にそんな趣味があるわけでは…ちょ、こっちを見ないで下さいまし岩城さんッ!」

「…どうしたんですか少佐?何か訳ありみたいですが…」

「ああ…皆、少し聞いてくれ。どうやら事件のようだ」

「?」

 

 

 

「…ペリーヌのズボンが無くなった!?」

「ああ。朝練を終えて風呂に入っていたんだが、着替えようとした所忽然と無くなっていたらしくてな…それで代わりにと宮藤のズボンを拝借しようとした所を御用になったということだ」

「ううう…申し訳ございません少佐、ほんの出来心だったんですの…」

「ペリーヌさん、ズボン取られたの私なんだけど…それより、返して貰ってもいいですかぁ…?」

「いや、済まんがこれは証拠物件として確保させて貰う。…とはいえ、岩城もいる以上何も着ていないというのはマズイだろう。何か代わりに着るものがあればいいのだが…」

「あらあら、それは大変ねぇ。宮藤ちゃん、これで良ければ着て頂戴」

 セーラー服の下に何も着ていないが為もじもじと身じろぎもままならない宮藤に、グランマがボロの継ぎ接ぎで出来たセーターを差し出した。

 

「あ、ありがとうございます!…でもこれどうしたんですか?」

「ウチの子たちの冬用の重ね着なのよ。普通のアイルーサイズじゃ小さいけれど、シェフちゃんが着れるくらいのなら大丈夫だと思うのだけど」

「よいしょっと…あ、大丈夫です!丈はともかく、裾とかはブカブカですけど…」

「ミィ、芳佳さんはちょっと痩せすぎですからニャ。もっとチーズを食べて精をつけないと強くなれませんニャ」

「お前はちょっと太りすぎだ。…宮藤はそれでいいとして、ペリーヌはどうするか…」

「どうするもこうするもありませんわ!こうなったら私のズボンを盗んだ犯人を見つけるまでベルト一丁で我慢してやりますわよッ!」

「どうどうペリーヌ、落ち着け。盗んだ犯人とは言うが、まだ盗まれたとは限らんだろう?」

 血気盛んなペリーヌを皆が宥め、エーリカは一人我関せずといった態度で食後のコーヒーへと移ろうとしている。

 

 

『…!』

 そんな喧噪が広がる食堂に、誰にも気づかれること無く何者かが忍び込む。それと共に、湯気に混じって食堂に漂う靄がより一層濃いものとなっていく。

 

「そんな物騒なこと言うなよなペリーヌ。見落としてどっかに紛れ込んでるだけかもしれないだろ?今日は朝からやけに視界が……って、なんかマジで変な感じになってないか?」

 ペリーヌの気を逸らそうと周りに目を向けたシャーリーが最初に周囲の異変に気がついた。

 

「確かに…妙に煙たい?…のか?おい、なにか焦がしたりしていないか?」

「いや、もう火は殆ど消してあるから煙も湯気もたいしたことない筈…ニャ」

「湯気でも煙でも無い…?ならばこの靄のようなものはなんなんだ?朝靄にしてはおかしいような…」

 

 と、そこに

 

「…あれ~?何処行ったんだろ?ちょっと目を離したら無くなっちゃった…」

 どこかぎこちない歩き方をしながらルッキーニがキョロキョロと食堂に入ってくる。

 

「ん?ようルッキーニ、遅かったじゃんか。今まで寝てたのか?」

「え?ルッキーニちゃん、さっきまで私たちと一緒にお風呂入ってたよね?先に上がったからご飯食べに行ったのかと思ってたけど…二度寝してたの?」

「んーん。私今までずっと追いかけっこしてたんだよ」

「追いかけっこ?何と?」

 

「ペリーヌのズボン」

 

「…何?」

「ルッキーニ、今なんと言った…?」

「だから~、ペリーヌのズボンを追いかけてたって…」

 

パリィッ…!

 そこまで言いかけたところで、ルッキーニの直ぐ傍を小さな稲妻が迸った。

 

「ひぃッ!?」

「…ルッキーニさん、貴女が犯人でしたのね。悪びれもせず堂々と名乗り出るとは良い度胸でしてよ…!」

 思わず蹈鞴を踏むルッキーニの視線の先には、彼女の怒りによるものか、それとも固有魔法による帯電なのか、まさに怒髪天を衝くといった様子のペリーヌがゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「うぇぇぇ!?な、何?どったのペリーヌ!?私まだ何も悪いことしてないよ?」

「今更しらばっくれたって遅くてよ…!たった今貴女が仰ったじゃありませんの。私のズボンを持って行ったと…」

「え?あ…ち、違うって!私が持ってったんじゃ無くて、ズボンがどっか行っちゃうのを追いかけてたの!」

「どっか行っちゃうって…他にペリーヌのズボンを盗んだ奴がいるってのか?」

「それは…なんていうか、そうかもしれないけどそうじゃなくて…」

「…話が読めんな。ルッキーニ、何があったのかをきちんと説明しろ」

 いきり立つペリーヌを抑える坂本に促され、ルッキーニは辿々しく経緯を語り出す。

 

「えっとね…少佐と芳佳とペリーヌと一緒にお風呂入った後、私だけ先に上がって着替えようとしたら、何故か私のズボンが無くなってて…」

「え、ルッキーニちゃんのズボンも無くなったの?」

「うん。それでね、ズボンが無いとスースーして変な感じだったから…その、たまたま目についたペリーヌのズボンを借りようとしたんだけど…」

「やっぱり貴女なんじゃないですのッ!」

「だから違うんだって!あのね、ちょっと悪いと思いながらズボンを取ろうとしたら…いきなりズボンが何も無いのにふわ~…って浮き上がったんだよ!」

「…ズボンが?独りでに浮き上がったとでもいうのか?」

「いや~…流石にそれはないでしょ」

「ホントなんだって!それでね、私もびっくりして手が止まっちゃってたら、ズボンが天井くらいにまで浮き上がって、そのまま外に飛んでっちゃったんだよ!それで今までずっとズボンを追いかけてて…ついこの辺りまで来て見失っちゃったの…」

「何を言い出すのかと思えば…言い訳ならもっと現実的なことを考えなさい。ズボンが勝手に飛んでいくわけがありませんでしょうに」

 ルッキーニの言い分を当然ながら皆は半信半疑…というより九分九厘信じれなかったが、昴はその内容に何かが引っかかり思案していた。

 

「…ズボンが、というより…物が独りでに浮かぶ…?何者かの固有魔法…にしては態々ペリーヌのズボンを狙う意味が分からない。そもそも侵入者がいるならロッキーやアイルー達が気づくはず…それに、今朝からのこの深い霧…靄…?何か、何か思い出しそうな…」

「スバル?何ぶつぶつ言ってんの?」

「おいルッキーニ、白状するなら早い内が賢明だぞ。あんまりしつこいと誰も庇ってくれなくなるぞ」

「本当なんだってばぁ!私の目の前で、ペリーヌのズボンがあんな風にふわ~って…ふわ~…って…」

 と、必死に弁明しようとしたルッキーニが突如停止し、あんぐりと口を開けて坂本達の方を指さす。

 

「?ルッキーニ、一体どうした?」

「み…みみ、皆!う、う、う、後ろ!」

「え?」

「その手は食いませんことよ。そう言って逃げようとしたって…」

 ルッキーニから視線を外さないままのペリーヌを含めた皆が示された方向を振り向くと…

 

 

 

 そこには、机の上に置かれていたはずの宮藤のズボンがまるで風船のように宙に浮かび上がっていた。

 

「え…えええええええ~ッ!!?」

「み、宮藤のズボンが…浮いている!?」

「ホラ見てホラッ!私が言ったとおりでしょ!」

「だ、だがッ…一体何がどうなっている!?何故ズボンが何も無い所で勝手に浮かぶのだ!?」

 

「…ッ!まさか、これは…ということは、この靄の原因は…ッ」

 浮かび上がった宮藤のズボンの挙動に、昴は引っかかっていたものに思い至り、即座に行動に移る。脇目も振らずに窓の方へと走ると、次々と窓を開けていく。

 

「岩城!?お前何を…」

「説明は後で!エーリカ、お前の『シュトゥルム』でこの靄を全部外に吹き飛ばしてくれッ!」

「へ?い、良いけど…ちゃんと説明してよね!シュトゥルムーッ!」

 昴の指示に従い、エーリカの発動した固有魔法が生み出す強風が室内の靄を瞬く間に吹き飛ばし、朧気だった視界がクリアになっていく。

 

 

 それと共に、その靄によって隠されていた存在…宮藤のズボンを浮かび上がらせていたものの正体が露わとなる。

 

「…うぇッ!?」

「な、なんだありゃ!?」

 

 皆が見上げた先…浮かび上がる宮藤のズボンの真上の天井に張り付いていたのは、2mを超える巨体を有した蜥蜴のような怪物であった。

 

 その背中には皮膜のある翼があり、尻尾は全身の半分を占めるほどに大きく、それでいて団扇のように平べったくなっており、先端だけが細くなってとぐろを巻いている。

 

 顔つきはまるで天狗の鼻のように長く尖った角を持ち、その目は忙しなくギョロギョロと蠢いている。そして何より、大きく開いた口から伸びた長い長い舌…その先に宮藤のズボンが張り付いていた。

 

「やはりコイツの仕業だったのか…!幻影の古龍、霞龍『オオナズチ』ッ!!」

 昴の言い放ったその名に皆は目を見開く。

 

「こ、古龍だと!?ということは、コイツもお前のバルファルクやあのオストガロアと同じ…」

「ああ…こんな間抜けな面こそしているが、コイツもれっきとした古龍の一体…この世界の中で指折りの力を持った生態系の頂点に立つモンスターだ!」

 宮藤たちは驚きと畏れのの入り交じった表情でオオナズチを見上げる。つい先日、オストガロアの力のほんの一端を相手に死にかけたというのに、それと同類である古龍そのものが目の前にいるのだ。大きさや見た目こそオストガロアほどの威圧感は無いが、その時の恐怖が思わず身を竦ませてしまう。

 

 そんなウィッチ達を眼下に、オオナズチは舌を巻き取って宮藤のズボンを口の中へとしまい込んだ。

 

「あ…わ、私のズボンが食べられちゃった!?」

「な、なんでズボン食べたの!?そういう趣味なの!?」

「おのれ…!よくも宮藤のズボンをッ!」

「このッ…私のズボンも返しなさいッ!雷撃(トネール)!!」

 ペリーヌの怒りの電撃がオオナズチへと放たれるが

 

バサァッ!

バチィィンッ!!

 寸での所でオオナズチは翼を広げてそこを飛び離れ、空振った雷撃が天井の一部を焼き焦がす。オオナズチはそのまま皆の頭上を滑空し、食堂の入り口近くに着地する。

 

「くっ…躱されましたわ…」

「皆、気をつけろ!相手は古龍だ、何をしてくるか分からんぞ!」

「…俺の知る限りでは、オオナズチは強力な毒を使ってくる筈だ。奴の吐き出す毒液に注意してくれ!」

「毒か…そりゃヤバそうだな。シールドで防げるもんならいいけど…」

「先生達は下がって下さい!ここは私たちが…」

「そうね…申し訳ないけど、お願いするわ」

「お母ちゃんたちは私らが守るニャルよ!」

 アイルー達をキッチンの奥に避難させ、皆は魔法力を発動して身構える。それに対しオオナズチはゆっくりと振り返ると口を開け、宮藤とペリーヌのズボンを巻き取った状態の舌を掲げる。

 

「!私のズボン…やはりコイツが犯人でしたのね。…ルッキーニさん、疑って申し訳ありませんでしたわ」

「今はいいって…それより、気をつけて!なにかしてくるよ!」

「宮藤とペリーヌのズボンで何をする気だ…?」

 得体の知れないオオナズチの挙動に、その場の緊張感が益々張り詰める。毒液を警戒し即座にシールドを展開する構えのウィッチ達に、オオナズチが動いた。

 

 

 

 

『…wwwwwww~!』

 …目玉を明後日の方向に動かし、舌先の2人のズボンを見せびらかすように振り回す…人間で言えば、所謂『あっかんべー』のような動きを。

 

 

「………は?」

 張り詰めた緊張が一瞬で解け、呆然とする人間達を尻目にオオナズチは再びズボンを口の中に仕舞うとバタバタと一目散に走り去っていった。

 

 

「………」

 未だに困惑から立ち直れない一同。…その沈黙を破ったのは、ペリーヌの震えるような…しかし底冷えするほどにドスの利いた声であった。

 

「…岩城さん、ちょっとよろしくて…?」

「お、おう…」

「私、生憎古龍という生物のことには全くの無知ですの。ですのでこれはあくまで人間としての私の感性から思ったことなので…もしあのオオナズチとやらにそういう習性があるのでしたら、訂正して頂きたいのですけれど…」

「お、おう…何だよ?」

 

「…今の行動は、私たちのことを馬鹿にしている…と受け取ってよろしいんですの…!」

 

「…うん。まあ…舐めてるんだろうなぁ、文字通りに」

 

 

 

「■■■■■ーーッッ!!」

 

 声にならない怒りの咆哮と共に、特大の雷が落ちた。先ほどルッキーニへと向けていたものが可愛く思える程の怒りに身を震わせたペリーヌは逃げたオオナズチにその矛先を向ける。

 

「上等ですわあの変態トカゲッ!!このペリーヌを、ピエレッテ・アンリエット・クロステルマンを愚弄すると言うのであれば、望み通り黒焼きにして差し上げますわッ!!」

 オオナズチを呪い殺さんばかりの悪態を吐くと、ペリーヌはズボンを履いていないことなど気にも留めず全力でオオナズチを追いかけていった。

 

「…はッ!?お、おい待てペリーヌ!冷静になれ、相手は古龍なんだぞ!」

「ペリーヌさぁん!?」

「あー…もう!まだ食べてる途中だったのに~!」

 無謀な追跡に走ったペリーヌを追って、坂本達も食堂を飛び出していったのだった。

 

 

 

 

 

 

☆以下のクエストを受注しました

 

 

・クエスト名 悪戯古龍に天誅を

・依頼主 怒れる青の一番(ブルー・プルミエ) ペリーヌ

・依頼内容 オオナズチ一頭の狩猟

・狩猟環境 不安定

・報酬 ウィッチのズボン

・とにかく!あいつを!!捕まえてくださいまし!!!




…タイトルからシリアスな内容だと思いましたか?残念、この話は7話ベースだ!

初の古龍との直接対決がこれで大丈夫なのだろうか…?

オオナズチのサイズや行動云々に関してはまた次回で。ではまた
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