天翔ける凶星と黒い悪魔   作:マイン

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今回でプロローグは終わりです。展開が突飛かもしれませんが、全て伏線ありきですので楽しみに見てくれると嬉しいです

ではどうぞ


蘇る銀翼

「…ッ、ハッ…ハッ…!」

 うっそうとした針葉樹の森の奥…崖っぷちにぽっかりと空いた洞穴の中で、昴は荒い呼吸をなんとか落ち着かせようとしながら隠れ潜んでいた。

 

「クソッ…クソォ…!なんで、なんでこんなことに…父さん、母さん…ッ!」

 

 あの直後、街道の周囲の森の中から放たれた赤い閃光が岩城一家の乗った馬車を襲った。外の景色を見るために馬車の後方に座っていた昴は、幸か不幸かその衝撃で吹き飛ばされ近くの茂みの中に転げ落ちた。痛みを堪えながら起き上がった昴はハッとして自分が飛ばされてきた方向を見るが…そこにはかつて馬車であった残骸だけが散開し、馬も、御者も…両親の姿も、影も形も残っては居なかった。

 現実を理解した昴が嘆きの叫びを上げる寸前、森の奥から何かが姿を現わした。けたたましいキャタピラ音を響かせながら現れたのは、重厚な装甲を模したボディと88ミリ高射砲を備えた漆黒の怪物…所謂『ティーガーⅠ』と呼ばれる戦車の姿をしたネウロイであった。その周囲には先ほど父が話していたものであろう球状のネウロイがいくつか浮かんでおり、昴の予想どおりそれがあの戦車型ネウロイの『偵察機』であったことを示していた。

 

 それを視認した昴は喉元まで出かかった叫びを必死に飲み込み、しばし悩んだ後に断腸の思いで両親の死地から背を向け、音を立てないようこそこそと森の中へと逃げ込んだ。既に一度『死』を経験している昴だからこそ、家族の死を目の当たりにし、自分自身の死すら迫ったこの状況に於いても、理性を失う事なく最善の選択を選ぶことが出来たのである。

 …しかし、最善の選択をしたからといって何事も無く済むはずなど無かった。木々の間を這うようにして逃げていた昴であったが、とうとう偵察機の一機に見つかり、それを察した本体が木々をなぎ倒しながら昴へと迫る。見つかったことを感じた昴は隠れるのを止めて全力で逃げ、偵察機の目を振り切ろうと物陰や木々の隙間を走り回っている間に、この洞穴を見つけて飛び込んだのであった。

 

「…まだ、ここに隠れていることには気づいてないみたいだな…。とはいえ、あの監視体制の中じゃ時間の問題か…」

 穴の隙間から外を窺うと、直ぐ近くに戦車型ネウロイが鎮座しており、偵察機が巡回するようにぐるぐると回っていた。

 

「ここから最寄りの基地までは距離がある…ついさっき警報が鳴ったから、ここに到着するまでは…平均的なストライカーの速度でも30分は掛かるか……持ちそうには、ないな」

 扶桑に居た頃に見たウィッチの飛行速度から現着時間を想定し…自分が見つかるまでに間に合いそうにないことを悟り、歯噛みする。

 

「…それでも、諦めるものか…!俺が死んだら、それこそ父さん達の死が無意味になってしまう…!それに、俺を殺せばまた奴はウィッチに見つからないように何処かに隠れてしまうだろう。そうなったら今度はあの街が…エーリカ達が危ないッ…!なんとか、ウィッチが来るまで生き延びるんだ…!」

 覚悟を決め、なんとしてでも生き延びるべく昴は少しでも見つからないよう洞穴の奥へと向かおうとする。

 

…ポロッ

コツン…!

 その時、ネウロイの震動音によって頭上から何かが転がり落ち、昴の頭に当たる。

 

「痛ッ…なんだ、石か?」

 声を殺してそれを拾い、微かな隙間の光にそれを翳して確認してみると…

 

「…これ、アンモナイト?」

 昴の頭に落ちてきたのは、黒々とした掌ほどの大きさの『アンモナイトの化石』であった。

 

「なんでこんなものが…もしかしてこの崖、太古の地層なのか?この土壇場でなんだってこんな発見を…」

 

 

ドガァァンッ!!

「うわぁッ!?」

 突然、劈くような音と共に凄まじい衝撃が空気を震わせ、空気だけで無く昴の潜む洞穴も地震でも起きたかのように震え、少しずつ崩れだした。

 

「…まさか、見つかった…いや違う、野郎どこかに隠れてるからって滅茶苦茶に撃ちまくってるのか!クソッ、このままじゃ見つかるより先に生き埋めになっちまうぞ…!」

 悪態を吐きながら頭を抱えて身を屈めるが、洞穴の岩盤は徐々に崩れ落ちていく。そして…

 

ドォォンッ!!

ガコォォンッ!

「うああッ!?」

 昴の居た直上に命中した砲撃により頭上の岩盤が崩れ、巨大な瓦礫となって洞穴の入り口がこじ開けられてしまった。

 

「ぐ、うッ…もう、駄目かッ……?」

 ボロボロの身体を必死に動かしながら尚も逃げようとする昴であったが…顔を上げた先、自分の直ぐ近くに落ちてきた巨大な瓦礫を見た瞬間、その表情が驚きの色に凍る。

 

「これ、は…」

 その瓦礫…否、瓦礫と思っていたものは、透き通るような群青色をした楕円形の物質…色こそ違うが『琥珀』の様な巨大な結晶であった。そしてその青い琥珀の中に閉じこめられていたものに、昴の目は釘付けになっていた。

 やや黒ずんだ銀色の鱗。槍のように尖った頭部。三つ又に分かれた、翼と呼んでいいのかすら不明な形状をした特徴的な翼脚。そして、胸部にぽっかりと空いたロケットの噴射口のような孔。あちこちに戦いのものであろう生傷を残したままの雄々しい姿をしたその生物の名を、昴は誰よりも知っていた。

 

 

「バル…ファルク…!?」

 天彗龍バルファルク。『銀翼の凶星』とも呼ばれ、前世の自分が何よりも憧れた大空の支配者たる古龍の完全な肉体が、そこにあった。

 

「なんで、バルファルクがここに…?どうしてこんなものの中に、というか…なんでバルファルクが『実在』してるんだ?」

 余りの事態に驚きと困惑が入り交じり、混乱する昴。…しかし、そんな彼の心情など知る由も無く破滅の衝撃が襲いかかった。

 

ビィィィッ!

バキィィンッ!

「ぐあッ!?」

 昴の背後から放たれた光線が、バルファルクの琥珀に直撃する。琥珀は木っ端微塵に砕け散り、その破片が昴の身体を打ちのめし、中のバルファルクの身体も地に堕ちた。

 

「…チェッ、人が折角憧れの存在を前に感動してるってのに…情緒のねえ侵略者だ、全く…!」

 もはや死に体となりつつも起き上がろうとする昴に、ネウロイが砲口を向けながら近づいてくる。

 

「…さっきはもう駄目かも、って思ったけど…こんなものを見ちまったら、もうそんなこと言ってられるかよ…!俺が憧れた、俺が目指したあのバルファルクが、今ここにいるんだ…!だったら、もう逃げも隠れもしない…ッ!最後の最後まで、抗ってやるッ!俺は絶対に生きるんだ!父さん達の為に、エーリカとウルスラとの約束を守るためにッ!だから…力を貸してくれ、バルファルクッ!!オオオオオオオッ!!」

 

 

 雄叫びを上げ、ネウロイへと向かって昴が駆け出そうとしたその時…

 

 

 

 地に堕ちたバルファルクの目が、遙か昔に琥珀となった筈のバルファルクの目が

 

 

 

 

カッ!

 力強く、見開かれ

 

 

 

ドウンッッ!!

 その場を、赤黒い輝きが覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …数十分後、現場に駆けつけたウィッチが目撃したのは、ネウロイに破壊されたであろう馬車の残骸と…まるで大規模な戦車戦でも行われたかのように灼かれ、削られ、抉られた森の惨状であった。出現したであろうネウロイの姿は無く、後に応援に駆けつけた探知魔法を持つウィッチを以てしても痕跡すら発見できず、やがてネウロイ…そして生存者の捜索も打ち切られることとなった。

 現場に残された馬車の残骸から岩城一家の契約したものであることが分かり、全員が死亡したものと見なされ、その報は扶桑に…そして直前に訪れていたエーリカの街にも知らされた。

 

 扶桑の岩城家の製薬会社は万が一に備えて用意されていた当主の遺言書により、会社の権利は国へと移り、国営の製薬企業として運営されることとなった。岩城家にはこれまでの各国での活動により、欧州各国から勲章と感謝状が贈られ、一家は名誉の戦死として扱われることとなった。

 

 一方、訃報を知らされた街の人々は岩城一家の死を嘆き、街の英雄として慰霊碑を建てるほどであった。特にエーリカとウルスラのショックは大きく、2人とも知らせを聞くや否や狂ったかのように泣き喚き、しばらく憔悴して部屋から出てこなかった。その後、両親のケアもあってどうにか立ち直った2人は軍人になることを両親に告げ、適性検査の結果2人ともウィッチの素養を見いだされ、特にエーリカは類い希な魔法力と戦闘センスがあることが分かり、最終的に両親が折れたことで軍学校へと入学した。

 ウルスラは自分に戦いの才能が無いことを自覚しており、当初から前線では無く研究者として兵器や魔法力に関する勉強を始めた。エーリカは当初こそ親友を奪ったネウロイに対する憎しみでオーバーワーク気味であったが、指導役となった『ヴァルトルート・クルピンスキー』ののらりくらりとした態度に感化されたり、エーリカをライバル視してしつこく絡んでくる『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ』と競い合ったり、以後様々な意味でお世話になる『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』に諭されたり、後に愛称で呼び合う程の仲となる『ゲルトルート・バルクホルン』という新たな友との出会いにより適度に力を抜くことを憶え、以前のようなエーリカのまま軍人として成長していった。

 

 そして、軍学校を卒業した2人は正式に軍属となり、ウルスラはスオムス方面の防衛を担う507統合戦闘航空団『サイレントウィッチーズ』…裏で『スオムスいらん子中隊』と呼ばれる部隊に所属し、マニュアル重視の頭でっかちな性格で自他共に四苦八苦しつつも戦果を上げ、後にカールスラント技術省で新兵器の開発の一翼を担うこととなる。

 エーリカは最前線へと配属され、同期の仲間達と共に数々の武勲をあげ『カールスラント4強』の1人として英雄となるが、それでも尚も進行の止まらないネウロイによりとうとうカールスラントの首都ベルリンが陥落、エーリカ達は祖国を追われ、クルピンスキーはウラル方面、マルセイユはアフリカ、エーリカ、ミーナ、バルクホルンはブリタニアへと分かれることとなった。そしてミーナがブリタニアにて立ち上げた第501統合戦闘航空団…『ストライクウィッチーズ』にエーリカとバルクホルンは所属となり、欧州全土の奪還の為に尚も戦い続けることとなる。

 

 

 

 そんなネウロイとの侵略戦争の中で、ウィッチ達の間に奇妙な『噂』が流れていた。曰く、ネウロイの出現により出撃をした際、何時からか昼夜を問わず『赤く輝く彗星』が見えるようになったという。彗星が何度も見えるようなことはそうは無い筈なのだが、目撃者のウィッチの証言は絶えなかった。正体を確かめてやろうとスピード自慢のウィッチが追いかけようとしたこともあったが、ストライカーの限界速度を魔法でブーストしても尚追いすがるのが精一杯という超高速で飛行しており、おまけに通常の飛行高度を超える空域を飛んでいるため魔法力が持たず、ハッキリと捉えることは出来なかった。

 …そしてなにより不気味だったのが、その彗星が目撃された現場では警報が鳴ったにも関わらずネウロイが不在、或いは想定よりも少なかったり満身創痍だったりと、ウィッチの出番が殆ど無いという事例が多々報告されていた。欧州奪還の為に設立された遺欧艦隊は損耗が出ないことを喜んだが、現場の士官にとっては不気味以外の何物でも無く、いつしか彗星は『凶星』と呼ばれ畏れられることとなった。

 

 

 

 

 そして…来る1944年、扶桑の『宮藤芳佳』が父であるストライカー開発者『宮藤一郎』からの手紙を理由に501へと加入した年、ついに運命の歯車が噛み合い始めた。

 




バルファルクが閉じ込められていた結晶は、実はとあるモンスターによるものです。登場はおそらくずっと先になるでしょうが…

次回から一期編のスタートです。ではまた
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