ではどうぞ
ブリタニア基地を発してから数時間後、宮藤とエーリカはガリア沿岸部が目視できる空域まで何事もなくやってきていた。
「とうちゃーく。ネウロイと遭遇しなくて良かったね」
「は、はい…」
エーリカの呼びかけに生返事で返す宮藤の視線は既に眼前…ガリアの中心部から沿岸の上空にかけて大きく広がる、漆黒の積乱雲のような存在、『ネウロイの巣』へと釘付けになっていた。
「あれが、ネウロイの巣…!」
「…そうだよ。あれが私たちの敵、ペリーヌの故郷を奪ったもの…みんなから、大事なものを無くした奴らの本拠地だよ…!」
呆然とするしかない宮藤に対し、エーリカの目は何度も見ているからか冷静ではあったが、その内に秘めた激情が薄々と顔を覗かせていた。
「ッ…、巣とは言っても、あそこでネウロイが人間みたいに寝泊まりしているかどうかは分からないんだけどね。あそこからネウロイが次々と出てくるから、便宜上、巣って呼んでるだけなんだけどさ」
「そうなんですか」
その感情を認識したエーリカは、宮藤にそれを悟られないよう敢えて軽い口調で話しかける。そこに、基地のミーナから通信が入ってくる。
『…宮藤さん、ハルトマン中尉、聞こえてるかしら?そろそろ目標地点に到着した頃だと思うのだけれど』
「ミーナ中佐!はい、もう到着しています。…ネウロイの巣が、はっきりと見えます…!」
『…そう。なら、観測を始めて頂戴。ひとまずは沿岸部を旋回して、こちらに向かってくるネウロイが居ないかを確認して。近づきすぎると、巣を護衛しているネウロイに見つかる恐れがあるから慎重にね』
「了解です!」
『ハルトマン中尉、くれぐれもよろしく頼むわね」
「わかってるって!そんじゃ宮藤、私に着いて……ッ!」
「…ハルトマンさん?」
急に押し黙ったハルトマンに首を傾げながらその視線の先を追うと、ネウロイの巣の真下に空いた黒雲の隙間から、飛行機のような形状の大型のネウロイが一体と数体の小型ネウロイが姿を現した。
「ネウロイ!?ミーナ中佐、ネウロイです!ネウロイが巣から出てきました!」
『なんですってッ!?数は!』
「大型が一匹、小さいのが5匹!進路はこっち…じゃ、ない!?」
出現したネウロイは予想に反し、基地のある宮藤たちの方向ではなく別の方向へと進行を始めていた。
『目的はここじゃない…?進行方向には何があるの?』
「何がって、あっちには海しか…」
「…ッ!?ハルトマンさん、あそこ!」
ネウロイの向かう方向からふと視線を落とした宮藤が見つけたのは、海岸近くに浮かんでいた一艘の『漁船』であった。漁船の上では、数人の男が必死の形相で手を振ってこちらに呼び掛けていた。
「はぁ!?なんであんなところに船が!?この辺りは航行禁止区域の筈なのに…」
「…もしかしてあの船、動けないんじゃないでしょうか?ネウロイには気づいてるみたいですけど、操縦しようとしてませんし」
「違法操業な上にガス欠…!?んもう、余計な事ばっかして!」
「ハルトマンさん、すぐに助けに行きましょう!」
「分かってるッ!先行するから援護して!」
「はいッ!」
『待ちなさい!応援が着くまで無茶は…』
ミーナの制止もそこそこに、2人はネウロイの進行方向に割って入る形で交戦を開始する。
「宮藤は小さい奴を引き付けて!倒さなくても、デカいのから引き離すだけでいいから!私はデカいのを倒したらすぐに合流する!」
「わ、分かりました!」
ガガガガガッ!
宮藤が機関銃をネウロイ目掛けて放つと、すぐさま小型ネウロイが反応して宮藤たちの方へと向かってくる。
「来ました!」
「オッケー!また後でね!」
それを確認すると宮藤とエーリカは2手に分かれ、エーリカは大型ネウロイに向かい、宮藤は小型ネウロイに銃を乱射して飛び回る。小型ネウロイもエーリカを阻もうとするが、その機先を制するように宮藤が弾幕を張って合流を防ぐ。
バシュゥッ!
「…ッ、そう簡単には行かせないんだから!」
持ち前の頑丈なシールドで反撃を防ぎながら抗戦する宮藤を見やりながら、エーリカは大型ネウロイの真上に躍り出た。
「この…こっちを向けデカブツ!!」
ドドドドドドッ!!
エーリカの機関銃が火を噴きネウロイの装甲を撃ち砕くが、弱点であるコアに当たらなければネウロイは受けたダメージを瞬く間に修復してしまう。
しかし、エーリカとてそれは承知の上。いくら自分がウルトラエースだとはいえ、一人で戦えるなどという驕りは彼女にはない。基地からの応援が来るまで宮藤の安全を配慮したうえでネウロイの注意を下の船から逸らし、合流したのちに総力を以てネウロイを倒せばいいのだから。
ヴォンヴォンッ!
攻撃を受けたことでエーリカを敵と判断した大型ネウロイから無数の光線がエーリカへと迫る。
「『
それに対しエーリカは固有魔法の『疾風』を発動させ、周囲の気流を操作することで変則的な動きで光線を躱し、更にネウロイの後方に回ると竜巻のような気流を前方に吹き付け、その風に乗ってネウロイの周りを旋回軌道を描きながら飛行し、全身を撃ちまくった。
しかし、それでもネウロイは止まらない。ゆっくりと、しかし確実に海上の船へと近づいていく。
「このッ…!いい加減に止まれって…」
「…ハルトマンさんッ!済みません、一体そっちに行きましたぁ!」
「え!?」
宮藤の叫び声に視線を向けると、その視線の端を掠めるように小型ネウロイが一体すり抜けていった。宮藤を見れば機関銃にリロードを終えた直後のようで、どうやら弾切れの隙をついて抜かれたようであった。
「こいつッ!」
慌てて後ろから撃ち落とそうとするが、それを阻むようにして大型ネウロイから光線が放たれ、今度はエーリカもシールドで塞がざるを得ず反撃を阻まれてしまう。
「クッソォ!なんでこいつら、執拗にあの船を狙うんだよ!?」
「駄目!待って…止まって!やめてぇッ!!」
エーリカの悪態も宮藤の叫びも知る由もなく、小型ネウロイの光線が絶望する船上の男たちへと放たれようとした…
その時。
ドシュゥゥンッ!!
パキィィィンッ…!!
上空より飛来した『赤い光弾』が小型ネウロイを真上から貫き、コアと共に大きな風穴を開けられたネウロイは光線を放つ間もなく爆散した。
「…え?」
「今のは…!?」
キィィィィッ…!
突然の出来事に唖然とする宮藤とエーリカの耳に空気を劈く異様な音が徐々に近づいてくるのが聞こえ、やがて太陽を背にして黒い影が大型ネウロイの真上から飛来する。
「何…」
「サイクロン・スクラッチッ!!」
エーリカがそれを視認するよりも早く、急降下してきた黒い影がネウロイとすれ違いざまに体を旋回させると、ネウロイの右翼部分が大きく削り取られた。
「ッ!?」
「龍気砲、発射ぁ!」
黒い影はそのまま海面近くで赤い光を放出しながら急停止すると、左右それぞれ三条の光の内2つを宮藤の方へと向け、そこから先ほど小型ネウロイを仕留めた光弾を放った。
パパキィィンッ!!
光弾は宮藤を取り囲んでいたネウロイをすべて撃ち抜き、ネウロイたちは呆気にとられる宮藤の眼前で全て砕け散った。
「は…え、え?」
「なんだよ、あの黒いの…?」
未だに状況を理解できない2人を他所に、手下を全てやられた大型ネウロイが反撃の光線を放つ。
「おっとおッ!」
黒い影はそれを見ると光の向きを変えて爆発的に加速し、光線の軌道を置いてきぼりにするスピードで躱すと、海上から急上昇してはるか上空に舞い上がる。
その姿に、赤い光の尾を引きながら猛スピードで飛行するその姿に、エーリカと宮藤はかつて自分たちが見た『それ』を重ね合わせざるを得なかった。
「まさか…」
「あれって…『凶星』!?」
黒い影…凶星はある程度上昇すると停止し、再び光の向きを変えると今度はネウロイ目掛けて斜め上前方から急降下を始めた。
ヴヴォヴォンッ!!
ネウロイも撃ち落とそうと光線を放つが、凶星が自身を回転させるとビームは直撃した端から回転起動に沿って弾かれてしまう。
「おらぁぁぁッ!!」
雄たけびと共に凶星がネウロイに激突し、前方部から後方部にかけてその装甲の表面をなぞる様にして回転しながら抉り取っていく。
キラッ…
やがて抉れた装甲の下からネウロイのコアがうっすらと見えた瞬間、エーリカと宮藤は我に返った。
「宮藤ッ!」
「はい!」
ガガガガガッ!!
即座にコア目掛けて集中砲火が放たれ、修復が間に合わずコアへの直撃を受けたネウロイは断末魔の如く奇怪な音を立てて砕け散った。
「よし!これで全部…だよね?」
「はい!…それよりも…」
宮藤とエーリカが見上げた先には、背中の奇妙な物体から赤い光を放出しながら滞空する、全身がやや黒光りする銀色の見た目をした人型の存在…凶星と思わしき何かがこちらを見ていた。
「アレが凶星の正体…なんですよね?どうみても人っぽいんですけど…」
「でも普通の人間じゃないでしょどう見ても…。ストライカーも無しに飛んでるし、…まさかホントに怪物か何かなんじゃ…」
「聞こえてるぞ、そこ。俺は怪物でもエイリアンでも無いぞ」
「「ッ!?」」
十数メートルは離れているというのに二人の小声を聞き取った凶星から発せられた声に、2人は2つの驚きを示す。1つはこの距離から会話の内容を正確に聞き取ったこと、もう一つはその口調と声が明らかに『男性』のものだったからだ。
「お、男の人…ですよね、今の声?」
「そうみたいだけど…んん~、なんかどっかで聞いたような…」
「…あの、私ちょっと声をかけてみます!」
「え、ちょっと宮藤!?」
その声にどことこなく既視感を憶えたエーリカであったが、こうしていても埒が明かないと判断した宮藤に追いすがる形で凶星に近づいていく。
「……」
「…あ、あのぉ!」
「宮藤、いきなり声かけるなんてちょっと危ないって…」
「…なんだ、随分慎重ってもんを覚えたじゃねえかエーリカ。軍人になって少しは大人になったのか?」
「……へ?」
凶星の口から出た自分のファーストネーム、それもかなり親しみのあるその口調に、エーリカは真顔で固まってしまう。
「エーリカって…ハルトマンさんの名前ですよね?どうしてハルトマンさんのことを…」
「そりゃあ知ってるさ。あんまり長くは一緒に居なかったが、こいつには散々に振り回されたからなぁ。…まあ、ウルスラもウルスラで扶桑語の本を全部カールスラント語に翻訳するからって書庫に缶詰にされたからどっこいだけどな」
「…一緒に?ウルスラ?本の…翻訳…」
以前に自分と会っていたこと、妹の名前、そして…一日ぐらい自分に独占させてほしいというウルスラの我儘で連れていかれた際、一日中書庫の本の翻訳をさせられていたと苦笑いで愚痴っていた思い出…その全てが、凶星の放つ声と噛み合っていき、やがて一人の男の顔と名前に一致していく。
「…まさか、まさか…お前…!?」
「ん?まだ思い出せない…ああ、この姿だとちょっと分かりづらいか。なら、顔周りだけ元に戻してっと…」
凶星がそう言うと、顔周辺を覆っていた銀色の甲殻が消えていき、その表情がはっきりと露わになる。時が経ち、成長して声も変わったとはいえ…自分にとってかけがえのない存在の一人であったその顔を、エーリカが見間違える筈もなかった。
たとえ、それが死んだ筈だった男だとしても。
「…スバル、なの?」
「おうさ。岩城昴、本人だよ。…随分時間はかかっちまったが、約束…守ったぜ」
目の端から涙が零れ落ちたエーリカに、凶星…昴はサムズアップと笑みで応えた。
「いわき…すばる?それって、扶桑人の名前?この人、ハルトマンさんの知り合いなんで…」
「……」
「…ハルトマンさん?」
話についていけない宮藤を他所に、エーリカはゆっくりと昴の方へと近づいていき…
「…スバル、スバル…スバルぅぅッ!!」
感極まった声で昴の名を叫び、ストライカーを吹かして思いっきり飛び込んだ。
「…バッキャローーーーッッ!!!」
ドグォッ!!
「ぐぼぉッ!!?」
「ええーーッ!?」
昴の腹目掛けて、頭から、それはもう全速力で。
オリ主、モデルとなった岩城勉氏の栄光に泥を塗る初被弾。尚、フレンドリーファイアな模様
感動の再会?んなもんねーよ!〇して寝ろ!!
あ、一緒に設定集も更新したので今回の諸々に関してはそちらをどうぞ
ではまた次回