世界の真実を見つけるお話   作:kS

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1:忘れちまったぜ……世界の真理なんて言葉

 

 穢れを知らぬ乙女の集う聖テレサ女学院、その放課後。お嬢様学校の名を欲しいがままにする学園で異端児と呼ばれる三人は共通の目的の為、というのは建前で本当は特に深い理由もなく集まっていた。

 

 

「さて、今日も今日とて集まってもらったわけだが……」

 

 

 低身長で若干の発育遅れが目立つ最年長のユニがぴょんこと跳ねて話題を切り出し、いつも通りに奨学金を勝ち取るため「仲良しの探求」を名目にただ時間を浪費し駄弁り散らかすギルド活動が始まるはずだったのだが、今日はいつもと様子が違った。

 

 その原因は二つ。一つはこの活動に欠かせない一人が本日お休みだという事。もう一つはミス・クロエの強面フェイスが今日は疲労と焦燥が顔と雰囲気から露骨に滲み出ていたからだった。

 

 

「あの……クロエ先輩? 何かありました?」

 

 

 普段なら自らの身体を彼女に押し当て、辛気臭い顔をせずに幸せを分かち合おうと言いながらボディータッチで通称ウザ絡みをするチエルだが、今日ばかりは勘か本能か、お巫山戯のしにくい雰囲気を察していた。チエルは空気の読める子ちゃんなので。

 

 

「あーごめん、ちょっと昨日色々あってあんまし寝れてないんだよね」

「ふむ。クロエ君が寝不足なのはあまり珍しいことではないが、ここまで目に見えて疲労が溜まっているのは初めてだな。我々ユニちゃんズに遠慮は不要。どうだね、もし何か悩んでいるのであれば是非話したまえ」

「そうですよクロエ先輩! 私たちなかよし部に遠慮なんていらないですよ!」

 

 

 この三人の付き合いはそう長くはないが、それでもユニとチエルは彼女がただの寝不足だけでなく、それに付随して何かしらのトラブルに悩まされていることを察するのに時間は必要なく、似合わないと思っていた。

 

 そして当の本人であるクロエは、いや普段のアンタらはもう少し遠慮を覚えろと内心でツッコミを入れていたが、同時に二人が本心で心配してくれていることが嬉しくもあり、頬を少しだけ朱く染めた。

 

 

「ん……いや、なんつーか昨日さ。うちの母さんが突然倒れちゃって。普段お世話になってるかかりつけ医に相談したんだけど、なんかあんまし良くない状態みたいで。大きめの病院に入院した方が良いって言われたんすよ」

「え、それ結構ガチめにヤバげな話……チエル達聞いても大丈夫ですか?」

 

 

 告げられた理由にチエルは一瞬だけ言葉を失った。確かに普段どんな逆境にも立ち向かう程強気な彼女が目に見えて悩んでいる為、ただ事ではないとは思っていたが想像より結構カロリー高めな話だった。

 

 

「それで、入院自体はいいんすけど。それに必要な纏まったルピがって話になって、ちょっとうちには厳しめな額で……まぁなんすか、柄にもなく悩み散らかしてたんすよね」

 

 

 自ら悩みの種を打ち明ける事に若干の気恥ずかしさを感じるも、少しだけ心が軽くなったので話してよかったな、なんて口にはしない事を思っていた。

 

 そしてユニにはチエルとは違い動揺の色は見えず、暫しの沈黙の後クロエに対して口を開いた。

 

 

「なるほど、それは大変だっただろう。どれ、ここはユニ先輩に任せたまえ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 学院から離れ、しばらく歩いたランドソルの街外れにある一軒のお店。辺りの古ぼけた雰囲気は以前クロエがボランティアで働いていた店舗を思わせるも、目の前の建物は綺麗に保たれていた。

 

 「薬」の文字が刻まれた看板が端に置かれており、一見するとお客を受け入れているようには見えない。そのお店に普段の引きこもり気質はどこに行ったのか、ユニは慣れた手付きで扉を開ける。

 

 

「クロエ先輩、ここ本当に大丈夫なんですかね……」

「まァ、知んないけど。行くしかないっしょ」

 

 

 遅れずユニの後に続く二人。彼女らはユニから薬学に詳しい知人がいるので相談しようとしか聞かされていない為、内心不安しかなかった。日頃のユニを見ていたら猶更だ。

 

 そして戸を潜った瞬間、クロエはその不安が増加した事を認識した。

 

 到底薬を売るようなお店とは思えないその内装。端的に言えばピンク多めチエル受けの良いデコレーション。

 

 

「え何このちぇる散らかした店……」

「クロエ君、まあ気持ちは分かる。ぼくも初めて訪れた時に同じような感想を持ったよ」

 

 

 ユニはクロエの肩に手をポンと乗せ、またチエルは売り物ではないであろう装飾品を手に取り隣で目を輝かせていた。

 

 そんな事をしているとカウンターの奥の戸が開かれ、覗いた暗闇から声が聞こえてくる。

 

 

「騒がしいと思ったら客じゃなくてユニの連れかよ……」

「やあカリオストロ君。ここ暫くはユニコプターⅡの研究であったりと多忙で来られずまことに申し訳ない。ぺこり」

 

 

 目の前に現れたのは金に輝く長髪とミニスカートをふわりと浮かせ、あの最低身長であるユニよりも低身長の子供。チエルは目の色が変わった。

 

 

「うっっっわ!! なにこの超絶美少女!? ユニ先輩紹介早く!!」

「まあ落ち着き給えよチエル君。彼女はあの錬金術の開祖にしてぼくの友人、カリオストロ君だ」

「はぁーい☆ 美少女錬金術師のカリオストロです! よろしくね?」

 

 

 自らの事を美少女と断言する厚かましさ、クロエはカリオストロにチエルと同類みを感じた。

 

 

「そしてカリオストロ君。この二人はユニちゃんズの仲間たちであるクロエ君にチエル君だ」

「違いますなかよし部です。……こほん、ちぇる~ん☆ チエルはチエルっていうんだよ~、一生よろしくね♪」

 

 

 地獄から蘇りかけていたギルド名をもう一度抹消するチエル。自己紹介は間違いなく同類だった。

 

 

「あー……どもハジメマ。テレ女二年の、あーいや、クロエっす。よろしく」

 

 

 自己紹介に慣れていないクロエはいつぞやの森の臆病者(ぼっち)に使った自己紹介を流用するところだった。テレ女という情報は必要ない。

 

 

「それで、大勢でここになんの用なのかな☆」

「おっとそうだった。実は君に友人として頼みがあって来たのだよ」

 

 

 最強に可愛い仕草をするカリオストロにユニはあれこれと説明を行う。本当ならクロエ自身が説明した方が良いのかもしれないが、ここは友人であるユニに任せようという判断だった。決してチエルと同じような雰囲気に面倒くささを感じたわけではない。

 

 説明が終わったタイミングでカリオストロにちらりと視線を移されたクロエは軽く頭を下げた。

 

 

「わ~。チエル、クロエ先輩が頭下げてるの初めて見た気がします」

「口をはさまないでくれチエル君、すまないが今は真面目な話をしている」

「え待ってください。てことはチエルと話す時は真面目じゃないんですか?」

 

 

 割と話に置いてけぼりなチエルは、つまらなさそうに店内の装飾品を物色する作業に戻った。

 

 

「なるほど。つまりオレ様の錬金術を見込んで……クロエつったか? そいつの母親を治療してくれって頼みか」

「ああ、そういう事になる。引き受けてくれるだろうか」

「えーっと……その前に一ついいすか。その錬金術って一体なんすか」

 

 

 先ほども聞いた錬金術という聞きなれない単語。等価交換が絶対の法則で、聞けば科学に近く、魔法に並び立つ程の学問らしい。

 

 

「一概に錬金術といってもその用途は多岐にわたる。まあオレ様は万能だから、お前の母親を治してやる事くらい朝飯前だが、当然タダではやらねえ」

「ぷー……まァ、そりゃそうっすよね」

 

 

 当然だ。何の見返りもなく人を助けられる善人など、この世にそう多くはいない。その例外が簡単に思い当たるのはきっと気のせいだ。

 

 

「彼女の家庭はあまり金銭的な余裕がない。あまり無茶な額は……」

 

 

 ユニが助け舟を出す。こういう時のパイセンは結構頼りになるという事を改めて感じるクロエは、内心ユニの評価が上がりつつあった。普段はアレだが。

 

 

「まあ聞け。別にオレ様は金に困ってるわけじゃねえ」

「え、じゃあ要求ってなんすか」

「ちょっとしたアルバイトだ」

 

 

その見返りは彼女、クロエにとっては聞きなじみのある言葉だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 カリオストロは、目の前で眠りについている女性を見てデジャブを感じた。それが何なのかは世界の真理に到達した彼女であっても分からなった。

 

 

「どう……っすかね」

 

 

 応答のないカリオストロに恐る恐る声をかけるクロエ。ここで治癒不可能なんて判定を貰った日には心が折れてしまうかもしれない。

 

 彼女は一般平均に比して成熟した精神を持っていると評価される。確かに家庭の事情やそもそもの地域の治安も含めてそれは間違いではないが、同時に彼女は未だ一七の少女。大切な母親が最悪の事態に陥った場合など考えたくもなかった。

 

 

「容体だが現状は安定している。治療に関しても問題ねえ。安心しな」

 

 

 その言葉にクロエは安堵した。これで長年クロエを悩ませてきた母親の容体に決着が付くと。

 

 

「病気に関してはな。治ったとしても、そもそも体質が虚弱なこいつは今後別の病気を患う可能性はあるし、外で元気に走り回るなんて事はできねえだろうが」

 

 

 それに関しては理解していたし、納得もしている。

 自宅に到着するまでにカリオストロ自身についてと、患者である母親について話していた際に言われていた。病気を治しても体質までは完璧に良くすることは出来ないと。

 

 そして一番驚いたのが、彼女の年齢がなかよし部の総年齢を十倍しても足りないという事。ユニという前例がある以上、見た目通りの歳ではないと思っていたが、あの伝説の吸血鬼と同じくらいの年齢と言われて流石に信じるのに時間が掛かった。主にチエルが。

 

 

「じゃあ、お願いしてもいいすかね」

「ああ任せな、薬を調合するだけだから時間はかからねえ。ガキ共が邪魔しに来ないよう見張ってな」

 

 

 クロエはカリオストロと出会って僅か一時間足らずだが、彼女のことは信頼における人物だと感じていた。そっと戸を閉じ、ユニとチエルに任せていた弟たちの相手に加わる。

 

 そしてカリオストロは、クロエが出て行ったのを確認し、すぐにいくつかの薬の材料となる素材を広げる。手順はすでに浮かんでおり、あとは錬金術で適当に作成するだけだ。間違えようがない。

 

 

「それにしても……」

 

 

 思考は先ほどのデジャブに戻っていく。どこかで見た光景。病に病人。まさか自分がなんて想像が頭をよぎるが、錬金術で何度も身体を作り変えているのに病気なんてかかった覚えはない。

 

 考えても行き着くは無。どこかのタイミングで読んだ漫画か何かが引っかかっているだけだろうと結論を出した。

 

 時を同じく、思考しながらも作成していた薬が完成した。最終確認として錬金術で解析を行い、想像通りに作られていることを何度か確認して母親に投与する。

 

 作成した薬は即効性且つ副作用なしの夢のような霊薬、エリクシール。小瓶一本で戦闘不能の兵士が飲めばすぐにでもフルパワーを出せるほどに回復するその薬は、不老不死の薬とも呼ばれていた。こんな簡単に作成して与えてはいけない代物。

 

 

「一応、様子は見ておくか」

 

 

 少し荒れめだった呼吸と脈拍は整い、顔色も良くなっていく。調べると、驚くことに体質も多少の改善があった。激しい運動は不可能だが、歩いての外出なら問題なく可能な範囲まで回復している。

 

 

「ほぉーう、怪我や状態異常は回復するが呪いや体質の改善は見込めない物と思っていたが……クククッ、こいつは良い収穫だな」

 

 

 残った素材を錬金術で本の中に収納し、使ったフラスコを腰に収める。最後に薬品の匂いが染みついた空間内の空気を全て作り変えて終了。なかよし部とクロエの弟たちがいるリビングへ足を運ぶ。

 

 

「終わったぜ。完璧な仕事だ」

 

 

 姿を現したカリオストロにもう何度目になるかの感謝を告げたクロエは、母親の容体をその目で見るため弟たちをチエルに預け入れ替わりで母親の元へ向かった。そしてユニは一仕事終えたカリオストロの元へ。

 

 

「助かったよ。ユニちゃんズの代表として礼を言おう」

「あ? ああ」

 

 

 クロエの弟たちに髪に付けているリボンを今にもむしり取られそうになって絶叫しているチエルを横目に、置かれていた麦茶の入ったコップに口を付け、ユニの発言を適当に流す。

 

 

「いやしかし、なんだ。頼んでおいて言うことではないが……まさかカリオストロ君が素直に協力してくれるとは思わなかったよ。正直、何でオレ様がー、などと渋ると思っていた。何か理由でもあるのかね?」

「特に理由なんかねえよ。強いて言えば気まぐれだな」

 

 

 またチエルの絶叫。あのクールビューティなクロエの弟とは思えない悪ガキっぷりにカリオストロですら多少の同情を覚えていた。

 

 

「はぁーい☆ みんな良い子だから、お母さんとお姉ちゃんのいるところに行っておいで☆」

「え、行ってもいいのか?」

「もちろん☆」

 

 

 さすがに見ていられなかったので、チエルに群がっていた悪ガキたちをクロエの元に向かわせる。彼らは彼らなりに母親のことを心配していたらしく、許可が下りるとすぐさま駆け出した。

 

 

「え、ありがとうございます。でもいいんです? 安静にさせておかなくて」

「構わねえよ、どのみち完治はしてるからな」

 

 

 残っていた麦茶を一気に飲み干し、帰り支度を整える。

 

 

「何? もう帰るのかね」

「ああ。クロエには明日の放課後でいいから顔を出すよう伝えておいてくれ」

「承知した。本当は作成中のユニコプターⅡについて語りたい事が山ほどあるのだが、まあまた後日に取って置こう」

「あ、カリオストロ先輩! 今度可愛い雑貨が売ってるお店一緒に行きましょうね!」

 

 

 近しい趣味を持つチエルに随分と懐かれたカリオストロは、まあ暇があったらなと一言返すと、ふとユニに対して疑問が芽生えた。

 

 

「そういえばユニ、お前世界の真理について研究してなかったか? それはどうした」

 

 

 その言葉に首を傾げ、うむむと何かを思い出そうとするユニ。

 

 

「いや、そんな研究をした覚えはない……が、どこか懐かしさを感じる言葉だ。ずっと忘れていたような、片時も忘れなかったような」

「あ? そんなはずはねえ。オレ様の錬金術を見て世界の真理について研究を始めてただろ」

 

 

 ユニは再びメモ帳を手に取り、記憶を遡り始める、が。

 

 

「すまない、そんな記憶はない」

 

 

 

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