魔法科高校の劣等生 if 桜井水波回復ルート 作:green-tea
パラサイト化以外に回復する方法はないのか。
魔法演算領域の『オーバーヒート』についての達也の見識・研究はどうなっているのか、その辺りにフィーチャーしたifストーリーです。
拙作の内容には原作に登場しない独自の設定が詰め込まれていますので、その点をご了解の上お読み頂きたく思います。
拙作本編は26~27巻の時間軸で始まります。
※達也と幹比古が授業後に封玉の修行(開発)に取り組んでいた場面
それは水波が入院し、新ソ連と大亜連合の衝突が間近に迫った頃。
達也は幹比古を巻き込み、一高の演習林で九重八雲からヒントを授かった新魔法の鍛錬を続けていた。
「今日はここまでにしよう」
その台詞を吐いたのはもちろん達也。
独立情報体、いわゆる『精霊』に拒絶の念を込めた想子流で前後左右それに上下の6方向から
「今日はまだいけると思うけど」
これまで数日の訓練で幹比古は自分の限界ギリギリの所で達也が訓練を中断しているのを理解している。
体力・魔法力の限界まで彼に付き合うのは当然だ。
その考えは妖魔を駆逐する魔術が自分と自分の家にとっても有益だという損得勘定から来るモノというより、達也が自分に与えてくれた恩に報いるためであった。
魔法力の回復の切っ掛けを達也が作ってくれた。
魔法力の回復だけでなく、この学び舎で青春を謳歌できるのも、大事な時間を無駄にせずにいられるのも、二科生である自分を嘆き不貞腐れていては出来なかった。
光り輝く時間すら彼が与えてくれたモノだと幹比古は理解している。
そしてまだ自分には余力がある。思い上がりではない。明日も続く試験への配慮だとも思えない。
「いや少し話をしたい」
そんな想いを見透かしたように達也はそういって近場の石の上に腰を落ち着けた。
どうやらその理由を説明してくれるらしい。
「わかった」
そう応えて幹比古も目に留まった切り株の上に座る。
お互いの距離は膝を付き合わせるほど近くない。だが達也の感性なら話しにくいという事もないだろう。
さてどんな話が飛び出してくるのか。
達也の目を見てそれが気楽な話ではない、と幹比古は理解した。
相手の瞳の中に浮かぶのは先程までの魔術鍛錬に勝るとも劣らない真剣さ。
それは間違いがないのだ。
「幹比古、水波の容態について吉田家はどうみている?」
「どうみているって……父に相談をした方が良い、と言いたいのかい?」
「意見が欲しいとは思っている」
「事件の中心には水波さんとパラサイトに侵された九頭家の光宣君がいるけれど、今回の件は十師族が対応しているから手だしはしないよ。
魔法協会から求めがあれば協力は惜しまないだろうけれどね」
「言い方が悪かったな」
「え?」
「幹比古、水波が入院しているのは魔法演算領域のオーバーヒートによるものだ。
新ソ連の戦略級魔法の莫大なる破壊力をたった一人の女子高生の防御魔法で防いだのが原因とみて間違いない」
実際はベゾブラゾフの3連トゥマーンボンバの内、水波が防いだのは最後の一撃だけだったが、そこまで説明する必要もないだろう、と達也は思いつつ、続ける。
「限界以上の力を使ったせいで本来備わっているセーフティ機能が破損し、それが回復していない。
その結果、水波は魔法を行使する際の威力の制御が出来なくなってしまっている」
「吉田家の長い歴史を以ってしてもそれを回復する術はないと思う。
そもそも無意識化にある魔法演算領域についての研究は現代魔法の分野だからね。
そんなことは……」
トーラス・シルバーの片割れである達也なら判っているだろうと幹比古は言おうとした。
だが達也がほんの少し口元を綻ばせたような気がして言いかけの言葉は口の中に取り残された。
「確かにそうだ。
だが当主は自分の息子に起こった謎の病について何も調査をしなかったのか?」
「当主? 息子?」
吉田家の当主の息子、それは幹比古と幹比古の兄に該当する。
達也が口にした病は自分には当てはまらない。ならば兄がそうなったと言外に示しているのか?
幹比古は頭が悪い訳でも勘の鈍い少年でもない。だが今回の一件と自分や自分の家族に起こった出来事に関連性があるとすれば、それは妖魔、パラサイトでしかないという思いに囚われて、それ以上の思考に至る事はなかった。
このときまで。
「幹比古、秘術に関して答えられないのなら仕方がないが」
「ちょっと待って、達也。
うちの兄が水波さんと同じ病気に罹った事があると言いたいのかい?」
「わかった」
「何が」
「おまえが何も理解していないということがだ」
ヒドイ言われように少しだけ仰け反る幹比古。
だが歯に衣着せぬ言い方には慣れている彼は、思考を停止して怒りで顔を紅潮させるような事はない。
ただ頭の中は疑問符で埋め尽くされるばかり。
それは彼の神経を逆撫でして止まない幼馴染のお陰かもしれなかった。
結果として言葉を繋ぐことが出来ず、沈黙で答える形を取った態度に、諦めた達也は「しかたないな」と口にする。
「幹比古、おまえが二科生として入学したのはなぜだ?」
斬り込まれる質問が想起させるのは愚かな過去の自分。
分かっていても言葉にするには3秒を要した。
「……二年前の僕は、ある事故のせいで魔法が上手く制御できなくなっていた。
だから入学試験の実技の点も振るわなくて二科生として入学した」
自分でも不十分な答えだと判りつつ、幹比古は回答をそこで切った。
それはなぜかと再度問われたら、吉田家が密かに執り行っている行事とその中で自分が行った『竜神』喚起の儀式について説明せねばならないだろう。
無論のこと恩人には誠意でもって答えるつもりだが、容易に口外するのが許される内容でもない。
だから、彼は必要以上の情報を差し出さない事も勘繰りを避けるのには必要だと自分に言い聞かせた。
「事故か……」
「でも僕は病気でも怪我になったのでもないだろ。
それを教えてくれたのは他ならぬ達也じゃないか」
「そうだ。
吉田家の魔法には現代魔法における視点では無駄が多く、事故後のおまえの魔法感性とマッチしていなかった。
魔法に得意・不得意があるのと同じだな。
現代魔法型になってしまった感性に対し、古式魔法の術理に従った魔法を構築すれば身体や意識に想定外の負担がかかり、結果として本来の力すら失うことになっていただろう」
幹比古はそこまで理解していなかった。
達也に解説されて初めて過去の自分に起きた現象を理解した。
達也としても確信がある訳ではなく、今言った事は推測なのだが彼の分析力を幹比古が疑う事はなかった。
「だが、俺には知らない事がある。
なぜ、おまえはそうなったんだ?
事故と言っていたが」
「高位の精霊を喚起したんだ」
「精霊を喚起した事によってオーバーヒート状態になったのか」
「少し違う……と思う。
喚起しただけではなく、その精霊をこの身に降ろしたんだ。
その瞬間、意識が飲まれて僕は倒れた」
「神降ろしの儀式を行ったという訳か」
そこで少し視線を外し、「そういうことか」と呟いてから何事か考えた達也が瞳の中に幹比古を戻す。
達也の話は続く。
「魔法を使う際は魔法演算領域が露出する。
喚起した精霊と繋がろうとするということは即ち、魔法演算領域の露出をし続けることを意味する。
独立情報体の膨大な情報量が幹比古の魔法演算領域に一気になだれ込み、何らかの処理が本人以外の力によって働いたとみるべきだろうな。
そしておまえはオーバーヒート状態を迎えた」
この解説は幹比古が秘匿している儀式の内容に触れた事に対する、達也なりの情報公開だった。
幹比古がそれに気付いたかどうかは定かではないが。
「僕がオーバーヒートを起こした?
俄には信じがたいけれど……たとえそうだとしても僕はセーフティ機能が壊れていない。
水波さんとは症状が違う」
だから参考にはならない。症状を癒す助けはできない。
幹比古の言外の主張を指摘すれば、そう補足できるだろう。
そう達也は察知した。
だがそこに今、話したい課題がある気がしているのも確かだ。
幹比古の否定的な主張を聴いても、その直感までが否定されることはなかった。
「そうだな。
恐らく独立情報体はお前のセーフティ機能を傷つけずに演算領域だけに影響を与えたのだろう」
「水波さんは魄に傷がつき、僕にはその傷がなかった?」
「そういうことになる。
しかし分からないのは魔法師にとって魔法の威力とは制御できるものだということだ。
自分の限界以上に設定できるというのもあるが、威力は魔法式に、あるいは変数として設定できるものだ。
セーフティ機能が壊れているからといって自分の霊体を傷つける程の威力を無意識に設定してしまうのはおかしい。
セーフティだけでなく魔法式をまともに読み込めないのなら魔法を起動できなくもなるという方が納得いくんだが」
「水波さんの魔法感性が変質して5の力で設定しているつもりでも10になってしまっている可能性もあるんじゃないかな?」
「幹比古にはそういう感覚があったのか?」
「いいや僕にはそういう症状は出なかったけれど。
でも人によって感覚は違うかもしれないじゃないか」
残念ながらそれは違うだろうと達也は考える。
オーバーヒートの研究は進んでいないが、オーバーヒートを起こした多くの者が同じような悩みに苦しみ魔法技能を失っているのは数字が示している。だが達也はその勘違いを指摘しなかった。
それよりも自分の知りたい事を尋ねた。
「まぁ良い。それよりもだ。
幹比古自身の、それまで自由に扱えていた古式魔法が上手く使えなくなった理由をもう一度詳しく教えてくれ」
「いいよ」
乞われた幹比古は結局、"普通の"精霊魔法の喚起手順を示した。
即ち、呪符に
単にアクセスしただけでは精霊を使役することはできない。
アクセスした後に精霊が持っている波形と自分を同調し、支配または誘導可能な状態にする。
そうして初めて魔法式が意図する事象改変を起こさせる事が可能になる。
「でも精霊を形作っている情報量がもたらす圧力に耐える必要があるんだ。
僕はその圧力に耐えながら精霊と交信して、なんらかの強い衝撃を受けて意識を失ったと聞いてる」
意識を失ってしまった前後については記憶もあやふやなようだ。
だが、そこまで考えて達也はおやっと感じた。
今、幹比古が説明した内容では精霊を自分の中に降ろすイメージはない。
いや、『情報の圧力に耐える』という部分だけがそのイメージに合致する。
ならば一つ前の工程である『同調』というのは波調を合わせるだけでなく、その独立情報体の一部を魔法演算領域にロードすると考えるべきだ。そうすれば言葉とイメージは合致する。
「力になれなそうで、ごめん達也」
幹比古は難しい顔をしている達也に謝った。
元来、優しい性格をしているこの古式魔法の逸材に謝罪を求める程、自分は傲慢ではないのだが。
と達也は頭の隅で考えつつも、やはり意識の大半(当然、深雪を守るためのリソースを割り当てた残りの大半)で魔法演算領域に精霊をロードした事による"圧力"が何を意味するのかを考えていた。
「いや、非常に参考になった」
そう言って達也は立ち上がる。
幹比古も立ち上がり、互いに帰る雰囲気だと察して演習林を後にした。
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その夜、深雪と下校を共にしながら水波の容態を確認し、漸く帰宅した後。
達也は研究室で幹比古と話した内容についてさらなる仮説を立てていた。
精霊をロードする事とは、魔法演算領域に独立情報体の情報を展開する事と同義だ。
そしてそれを『負担』ではなく『圧力』と感じるのなら、展開した情報は自分の意識とは別の意識、即ち
幹比古が無意識下で通常の魔法処理時に行っている場合より、神降ろし中には高い負荷が魔法演算領域に行われたとするなら、セーフティが壊れる直前でそれが止まったとしても、それは自分の限界以上の威力の魔法を行使しようとする行為となんら違いはない。
そして付随する不調はオーバーヒートによって発生した症状の一つだと定義できる。
いや、幹比古が遅いと感じたということは負荷というのは速度的なもの。
演算速度が彼の普段行っているよりも速い、超過した速度で実行されたとみるのが筋だろう。
波形の同調という話もあった。波形の周期を合わせる事、波形同期と合致する。
その周波数が本来の演算速度より速まれば、それ即ち十文字家の秘術『オーバークロック』だ。
そして分析から因果を逆転すれば、幹比古は体験した『オーバークロック』状態を無意識になぞらえて魔法式構築を行おうとしたという話になる。
幹比古はそれまでと同じ周波数で演算しながら、構築速度に求めたのは『オーバークロック』状態にあった時の物。
その勘違いに悩み、不調を来たしたとするなら……
夕方の演習林では魔法的感性が変化したと解釈してしまったが、どうやらそれは誤りな気がする。
そもそも吉田家の古式魔法に存在する速度的な無駄が邪魔していると説明した2年前の話も誤認であると結ぶ事が出来る。
いや構築速度の遅さに起因した勘違いというのは間違いではなかったが、その原因が『オーバークロック』による物だと理解していなかった。
そして本来の解決策は魔法演算領域を『オーバークロック』化する事だったのだろうが、もしそうしたのなら幹比古は十文字家と同じ末路を辿っていただろう。
だからあれで良かったのだ、と達也はその気持ちにケリをつけた。
幹比古の体験に対する仮説は立った。
次に考えるべきは水波の状況の整理だろう。
「桜」シリーズの第二世代となる水波の防壁は、物理的な攻撃を受け止める障壁の"生成"と"維持"の2段構えの魔法行使をセットにした方式だ。トゥマーンボンバの発生を知覚した水波は事故の直前に障壁を生成したと思われる。その直後、戦略級魔法が生み出した爆発、その爆発が生み出した物理的な衝撃波がその障壁に衝突する。衝撃波の運動ベクトルが魔法障壁に掛けられた定義内容を破綻させようとし、一方の水波はそうはさせじと障壁を維持する。
ここで衝撃波が生み出した運動ベクトルの大きさが水波の魔法式に負担を与えた訳ではない。
衝撃波を受け止めることが出来た時点で魔法の定義内容は運動ベクトルに対して有効だった。
途中で耐えきれずにシールドがパリンと割れたり、防いだ分だけ減衰してくれるのと考えるのは誤りで、それが負担になった訳ではない。
水波は全種類の攻撃に対する防御という処理量の多い魔法を選択し、屋敷を覆うように変数を設定した。
さらにそれを衝撃波が消えるまで持続。
魔法式の選択、変数、持続時間、いずれも高負荷であるが故に『オーバーヒート』を起こす。
水波の抱えている病気の究明に繋げるには、水波と幹比古に共通する物。
『魔法の過剰行使』に対する仮説が必要だろう。
これまで考えて来た事の再整理に留まるか、新たなアイディアの創出につながるか……
魔法を行使する際に使用するのは魔法演算領域だ。
そこには『容量の限界』がある。
『容量の限界』とは言うなれば作業机のような物で達也自身、魔法演算領域に『分解』と『再生』が常駐しているせいで作業机は一杯で、他の魔法を使えないと説明がつく。
しかしこの『容量の限界』を超えて魔法を使うことは『魔法の過剰行使』にはならず、魔法が起動しないという結果を導く。
では『魔法の過剰行使』に至る魔法演算領域の過剰使用とは何を意味するか。
作業机に作業用の機械『
短い時間内に『分解』や『再生』を連続して何度もキャストすれば『処理器』は『オーバーヒート』する。
だから『処理器』には限界、即ち『限界処理量』があると見て良く、『限界処理量』の後には冷却時間が必要となる。
『限界処理量』は魔法式固定の負荷に、変数で変化する変化量、さらに持続時間を計算した物になるから、"単位時間内"の『限界処理量』という方が正確だろうか。
また、この『処理器』には処理速度があるとも考えられる。
その処理速度が何で決まるかは分からないが、例えば『処理器』を動かすための動力として想子波が使われているとすれば、想子波の周波数ないし活性度を上げることにより『処理器』は同じ魔法を速く構築できるようになると思われる。
ただし、『処理器』が安定稼働するための安定周波数は決まっていて、それ以上に『クロックアップ』すれば『処理器』の寿命を縮める結果をもたらす。
さらに魔法演算領域にはセーフティ機能が備わっている。
これが何を表すか、夕方に幹比古と話をしたときに気付いた事をまとめてみる。
魔法式には威力が記述されている、もしくは変数によって変化させられるとしてもそれは魔法式に書かれていて、これを誤読/解釈誤りを起こすとは本来考えられない。
変数とは魔法式の記述内容の要素の一部でしかないのだ。
威力の部分を誤読するのなら、魔法式の他の部分を誤読する可能性も同率に存在しなくてはならい。それが魔法式の根幹部分であれば魔法は全く予想外の結果を導こうとしたり、不発に終わったりするはずだ。
だがそのような症例は耳にしたことがない。
だからこのセーフティ機能が制御しているのは『処理器の処理速度』であると考えられる。
そして処理速度を一定にするための装置というならば産業用機械で言う処の『
これが壊れると、どんなに魔法式を正しく処理しようと考えていても、意図せずに『処理器』を傷めるような処理速度が出てしまうのかもしれない。
水波2(予定)に続きます。