【悲報】転生したらツンツン頭で知らない部屋にいたんだけど   作:現実殺し

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前回の続き。
というか、意外と長くなりそうだぞこれ。


決着、そして真実

「それで、狙うの?この子を」

 

 どこかのビルの一室で、金髪ドレスの少女が、ホストのような恰好の金髪の青年に、手元の資料を見ながら問いかける。

 資料には、『鈴野影(すずのえい)』の情報がずらりと並んでいた。

 青年はずっと窓のほうを見て、少女を一瞥することもなく答える。

 

「当たり前だ。一方通行(アクセラレータ)の演算パターンの入手に、そいつほど勝手のいいやつはいねぇ」

「それはそうだけど……彼女を匿ってるの、あの人何でしょう?」

「あん?……そういや、お前はそのガキを匿ってるやつと、1年前にあってるつったな」

「ええ。彼ほどやりにくい相手はいなかったわ」

 

 本当に、まるでトラウマをほじくり返されたかのように、億劫そうな表情で答える少女。

 

「お前にそこまで言わせる奴か。……まあいい。心理定規(メジャーハート)誉望(よぼう)の奴にそっちは任せる。俺はそいつと()る」

「それは構わないけど……いいの?」

「ああ。お前にそこまで言わせる野郎に興味が湧いた」

 

 すると、窓から視線を外した青年……学園都市超能力者(レベル5)第二位、未元物質(ダークマター)にして暗部組織『スクール』のリーダー、垣根帝督は心底愉快そうに言った。

 

「さて、上条当麻つったか?お前は俺の世界に、何処までついてこれる?」

 

 

―――――――――

 

――――――

 

―――

 

 

 

 7月18日。

 上条当麻と鈴野影は危機に晒されていた。

 

「……なんで風呂が壊れてるんだよ!」

「……、」

 

 そう。上条家の風呂が壊れていたのだ。見事に黒焦げになっている。

 少なくとも、上条は風呂を壊すような使い方をした覚えはない。ならば必然的に、

 

「お前か鈴野?」

「……使い方がよく分からなかったから、うっかり。そもそも、私のいた研究所の風呂の方が設備良かった」

 

 無表情でそんなことをのたまう鈴野に、上条はどんどん額に青筋を浮かべていく。

 

「知るかゴラァァァァァ!!!」

「痛い……」

 

 ぐりぐりと鈴野のこめかみをまるで某アニメの如くそれはもうぐりぐりとする上条。

 いつの間にか、こんな風に接しあえるほどには、二人の距離は縮まっていた。

 ついこの間も、上条がうっかり鈴野の着替え現場に居合わせてしまい、能力で暴れられそうになったほどだ。その時、鈴野はかなり顔を赤らめていたが、上条は気づかなかった。

 

「この様子じゃ風呂は使えねぇな」

「ったく、しっかりしろよ三下ァ」

「唐突に能力モード使うのやめろよ……」

 

 上条が能力モードと呼ぶそれは、鈴野が能力を使用した際、口調が変化することを指す。

 まあ、そんなことはどうでもよくて、仕方がないということで明日、業者に連絡して修理してもらうことになった。なので、今日一日は外のお風呂だ。

 

「……ったく、余計な金使わせやがって」

「ねぇねぇとうま」

「なんだよ?」

「コーヒー牛乳って言うのが銭湯にはあるって聞いた」

「あるけど、それがどうしたんだよ?」

 

 突然振られた話題に首を傾げる上条。

 

「どんな味?」

「コーヒーと牛乳が混ざった味」

「それじゃ分からない」

「俺も普段から飲むわけじゃないから知らねえよ……」

 

 それもそうか、と。鈴野は一人納得した。

 しばらくすると、銭湯が見えてくる。

 

「あ、おい!」

 

 余程楽しみだったのか、鈴野は銭湯の存在を認識すると、すぐさま突っ走ってしまった。

 引き止めかけた手を下ろし、その後ろ姿を見送る上条。

 

「失礼」

 

 すると、突如背後から声を掛けられた。上条がその方向を振り向くと、金髪のホストのような恰好をした青年がいた。

 

「実は人を探しているのですが……こういう少女なんです」

 

 そういって青年が出してきた写真には、鈴野が写っていた。

 それを見た上条は僅かに目を細め、

 

「……いや、知らないぞ。人探しなら警備員(アンチスキル)に通報を……」

「それには及ばねえよ。ちゃんと確認してんだからな。テメェがこいつと一緒にいるのは」

 

 瞬間、何かに吹き飛ばされるように上条はその場を……否、実際に吹き飛ばされたのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()に。

 

「その翼……テメェ、第二位!?」

「流石に知ってるか。……そうだ、俺が『未元物質(ダークマター)』、垣根帝督だ」

 

 垣根と名乗った青年は、ゆっくりと上条に近づいていく。

 

「!……、鈴野は……!?」

「あァ、俺の仲間が回収に向かってるぜ?」

「くそっ……うおっ!?」

 

 急いで鈴野のもとに走ろうとした上条に、垣根が翼が襲い掛かる。

 何とか回避するも、()()()()()()()()()()()()()()()瞬間を上条は目撃した。先程の一撃で、自分も「そうなっていた」可能性があることを考え、ゾッとする上条。

 

「それで?まだやるのか無能力者(レベル0)?アイツを素直に渡すってんなら、特別に見逃してやってもいいぞ」

「誰が……渡すか!」

 

 上条は右手から竜王の顎(ドラゴンストライク)を出現させ、垣根に身構える。

 

「あん?んだそれ。書庫(バンク)では無能力者だつったじゃねーか誉望の野郎……」

「はぁああ!」

 

 上条が右手を伸ばすと、その腕のドラゴンが垣根に向かって伸びていく。

 しかし、その攻撃を垣根は飛翔して躱し、上条は追撃するも垣根の圧倒的な飛行スピードに追い付けない。

 

(なんてスピード……音速かよ!?)

「そら、よ!」

 

 垣根がドラゴンに翼で迎撃するが、ドラゴンは未元物質(ダークマター)を噛み砕き、再び垣根に突っ込む。

 それを躱し、側面を未元物質(ダークマター)で攻撃するも、まるで堪えた様子を見せないドラゴン。

 

「ちっ、想像以上に厄介だな……なら」

 

 一瞬、垣根の視線は本体である上条に向き……、次の瞬間、凄まじいスピードで上条へと接近する。

 

「な――!?」

 

 上条はそれを呆然と見送ることしかできない。竜王の顎(ドラゴンストライク)があったところで、上条自身の戦闘力が変わるわけではない。

 彼は確かに、普段からそれなりに不良などと争うことも多く、ある程度は鍛えられている。だが、実際に暗部で鍛えた垣根とは、キャリアが違うのだ。

 ドラゴンはドラゴン、上条はあくまでも上条である以上、垣根の攻撃に対処する術を、上条が持っているはずはなかった。

 

「オラァッ!」

「ぐぁぁああ――ッッ!!」

 

 勢いに乗った垣根のローキックが、上条の腹に炸裂する。上条はその蹴りに吹き飛ばされ、地面を削りながら転がっていく。

 

「ぐっ……!」

「こんなもんか。少しは楽しめると思ったんだがな……あん?」

 

 つまらなさそうに言った垣根が、上条の背後を見て妙な声を上げる。

 上条もそれにつられて後ろを振り返ると……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何やってんだテメェら。まさか、いくら能力が一方通行(アクセラレータ)の反射だからって、ガキ相手に負けたんじゃねえだろうな?」

「……それだけならまだマシだったでしょうね」

「獄彩……海美!?」

 

 ドレスの女性、心理定規(メジャーハート)こと獄彩海美を見て、上条は驚きの声を上げる。

 なにしろ、二人は1年ほど前に一度出会っている。それも敵同士で、だ。当然、上条も警戒する。

 しかし、心理定規(メジャーハート)の方は出来るだけ上条に関わりたくないのか、意図的に彼を無視し、垣根と会話する。

 

「……どう言う意味だテメェ」

()()()

 

 その瞬間、垣根は怪訝な目を向け、上条は呼吸が止まるかと思った。

 心理定規(メジャーハート)はそんな二人を無視し、ゴーグルの少年を下ろして、話を続ける。

 

「木原が介入してきたわ。私たちが鈴野影を無力化した瞬間にね。()()()()()()()()()()()()()()、それなりに絞り込めるとは思うけど」

「どういうことだ。なんで今更木原なんぞが介入してきやがる」

「私に聞かないでよ。こっちもイラついてるの」

 

 それは尤もだろう。漁夫の利を狙われ、みすみす標的(すずの)を逃がしてしまったのだから。

 

「ちっ、一度帰還だ。……それで、そいつはどこに行ったか分かるか?」

「さあ?」

 

 そのまま、垣根たちは去っていった。上条は只一人、呆然とその場に突っ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほどの間、そうしていただろうか。

 自分の無力感に苛まれ続けるが、このままでは駄目だと、行動を始める上条。

 相手は木原。しかし、情報がない。そもそも、上条は木原とはほとんど関わり合いがないのだ。……()()()()()()()()

 

(まさか……アイツなのか?……車椅子に乗っている女性の木原……特徴は一致する……くそっ!)

 

 とにかく走る。

 木原は科学者だ。なら、研究施設が密集する、第十九学区か?と、「木原」が居そうな場所に辺りを付けて駆ける上条。

 

「おっ、見つけたぞガキンチョ」

 

 すると、金髪で顔に刺青のある白衣を着た男性が、上条に話しかけてきた。背後にはまるで部隊の様に統率された戦闘服のようなものを着る集団もいる。

 男性は、上条の方へ近づくと、彼に一枚の紙を渡した。

 

「これは……?」

「木原病理の居場所を記してある」

「!?」

 

 まさかの情報に、上条は驚愕を露わにして男性を見るが、直ぐにおかしいことに気づき警戒する。

 

「なんでそんなことを……アンタ一体……?」

「数多……とだけ答えておく。ったく、面倒くせぇ仕事俺に押し付けやがって。あばよ」

 

 本当にあっさりと、情報だけを渡した数多という男は、そのまま去っていった。

 

()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだってこんなところに」

 

 上条は紙に書かれた、第二十一学区の地殻熱発電所の真円の湖畔に来た。

 ここは上条もよく知っている。一年前、とある少女が……上条の友人が、()()()()()()だ。

 

「あらぁ?もう来ちゃったんですか?珍しく間に合いましたね」

 

 そして、見つけた。車椅子に座るパジャマ姿の女性と、その横で()()()()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()()()()()()()鈴野を。

 

「木原……病理ィ!」

 

 普段の彼からは想像もつかないような憎しみを持った表情で、その女性、木原病理を睨みつける上条。

 上条が知る木原、彼の仇敵……宿敵ともいえる人物。

 

「丁度いい機会だ、答え合わせをしようぜ。……なあ、お前なんだろ?()()()()()()()()()()()()()

 

 上条の確信を持った問いかけに、木原病理は無言を貫く。

 

「俺が誰かを助けようとすると……決まって邪魔が入る。それも、只の足止めじゃない。俺が誰かを助けようとすると、()()()()()()()()()()()!」

 

 いつもそうだった。

 彼が一年前、この場所で自殺を思い悩む友人のもとに駆け付けようとした時も、突如何の前触れもなく、通り魔に襲われる少女と出会った。

 

「あの女の子は助けられた。けど……アイツは、()()は死んだ。俺が他の誰かを助けてる間にな」

 

 間に合わなかった。いつもそうだった。誰かの助けを無視できない上条は、目の前の苦しむ人間を救おうとし、それより前に助けを求める……自分にとって一番大切な人たちを失ってきた。

 だが、それはすべて上条の責任。自分が目の前の救いを求める人たちを無視すればよかっただけの話だ。……尤も、それをした瞬間、上条当麻は『死ぬ』だろうが。

 しかし、今回は違う。間に合った。初めて。ならば、必ず届かせる!

 

「いつもそうだった。本当に大事なものほど取りこぼしてきた……でも、もう取りこぼさない。必ず届かせるッッ‼」

「出来るといいですねぇ?……まあ、直ぐに諦めてもらうんですが」

 

 パチンッ!、と。木原病理は指を鳴らす。

 すると、謎のローブの人物が、鈴野から離れた。

 

「?」

 

 その行動を不審がった上条だが、突如起き上がってきた鈴野を見て、思考を切り替える。

 

「鈴野!」

「……ぶっ殺してやる……三下がァ!」

 

 口元が三日月状に裂けたかのような笑みを浮かべ、鈴野が上条に突進した。

 それを咄嗟に右に転がって回避する上条。

 

「な――!?待て、鈴野!俺だ!」

「詐欺のつもりかァ!? 調子乗ってンじゃねェぞ()()ァァァ――ッッ‼」

 

 な――!?と、上条が驚愕に目を見開き、木原病理を睨みつける。

 

「まさか、そこの野郎は……!」

「ええ。()()()()()()()()()()()()()()()で、私に協力してもらったんです。互いの利害の一致したので……ねぇ?」

「!……、」

 

 ローブの人物は、右手で左の腕を力強く掴み、無言を貫く。

 その態度に、木原病理に弱みを握られているのか、と上条は予想する。

 もしそうなら、上条はローブの人物を責めるつもりはない。そして、その人物も、鈴野とともに解放すると胸に誓い、鈴野に向き直る上条。

 

「こそこそ逃げ回ってンじゃねェぞォ――ッ!」

 

 悪魔のような目付きで、上条を睨む鈴野。

 恐らくだが、彼女は「上条当麻」と「木原病理」を逆に認識するように精神を操作されている、と上条は推測する。

 しかし、ローブの人物が上条に精神操作を行わないのは、木原による指示か、それとも彼女の能力の制限か……だが、今はそんなことはどうでもいい。

 肝心の()()()()()()()()()が分からないのだから。上条にあるのは、敵を倒す力だけ。もし仮に、()()()()()()()()()()()()なんてものがあれば、状況はいくらでも変わっただろう。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この少年は、幻想(ひげき)を殺せない。

 

「ちょっと待て……そもそも、なんでこいつは、木原(テメェ)にこんなにも殺意を抱いてんだ!」

 

 そう。上条の言う通り、彼の推測が正しいのなら、鈴野が木原病理に強烈な殺意を抱いていなければ、その推測が根本から崩れる。

 故に、上条は問いただす。

 それに対し、木原病理は首を傾げながら答えた。

 

「何故って、私は彼女の研究を、つい最近まで行ってきただけですが?」

「は……?」

「その実験の最中に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が……思い当たるのはこれくらいですね。これ以外の情報は諦めてください」

 

 底知れない闇を感じさせる笑みを浮かべて、そんなことを言う木原病理。

 

「て、めェ……テメェ――ッ‼」

「ほらほら、呆っとしてると死にますよ?」

 

 瞬間、爆速を持って上条に接近する鈴野。

 鈴野が引っ掻くように上条に右手を向け、それを紙一重で躱す上条だったが、鈴野が体を捻り、足払いを上条の脇腹に放った。

 受け身も取れず真面に直撃した蹴りに、上条が吹き飛ばされる。

 

「ガハッ!? ゲホッ!? こ、のぉ……!」

「ふふふ、そろそろですね」

 

 再びパチンッ!、と指を鳴らし、ローブの人物に合図を送る木原病理。

 合図を受けたローブの人物は、鈴野に向けてカメラを向ける。

 

「……あ、れ?……と、うま?」

「えっ、鈴、野……?」

 

 突如、鈴野が上条の事を認識した。だがこれは、鈴野が精神力で洗脳を乗り越えたとか、そんな安い胸熱展開ではない。

 

「ふふふ、精神操作ってとっても便利ですねぇ。今の彼女相手に、貴方はどこまで戦えますか?上条当麻」

「は……?」

「あ、れ……?」

 

 すると、鈴野が上条に向かって飛び蹴りを放つ。突然の事に対処できず、上条は壁まで蹴り飛ばされた。

 

「ガハッ!?……どう、なって……いや、まさか……!」

「ふふっ、ええ。彼女は貴方を『上条当麻』と認識しながら、それでも手を出さずにはいられない。……つまり、殺意の代替です」

 

 それは、本来は木原病理に対する殺意を、上条当麻に対する殺意へと変換した、ということだ。

 先ほどまでは、相手を逆に認識することで、同士討ちをさせていた。

 しかし今回は、上条当麻を上条当麻と認識しながら、木原病理に対する殺意を、上条当麻に対する殺意へと上書きされている状態。その上、彼女の本来の上条当麻への思いを残したまま。

 これほど精密な精神操作ができるフードの人物の力も相当のものと言えるだろう。

 そして、彼女の上条への思いを知ってか知らずか、木原病理の行いは、確実に鈴野と上条を精神的に追い詰めていっていた。

 

「あ、あぁぁ……! 逃げ……逃げてとうまッ‼――死ね、クソ野郎がァァァ――ッッ‼」

「バカやろう――ッ‼ お前を置いて逃げるわけねえだろ!」

 

 鈴野がその右目から涙を流し、片方は狂気的な笑みを浮かべるという、まるで二重人格のような状態で、上条を攻撃する。

 その姿は、最早恐ろしいを通り越し、ただただ哀れだった。

 今の上条に出来るのは、その攻撃を避ける事だけ。

 

(くそっ!どうしたら……!?)

「……もう、いい」

「な――!?」

 

 突如、鈴野の動きがその場で停止する。いや、僅かに小刻みで震えているところを見ると、何とか意志で殺意を抑え込んでいるといったところか。

 

「私を……殺して」

「お前、何言って……!?」

「とうまを……殺したくない……お願い……!」

 

 すると、鈴野は唇を噛み、右手で左腕を握りしめる。そこにどれだけの力が加えられているか、上条には想像もつかなかった。

 

「バカやろう……! なんで俺なんかの為にそこまで……!」

 

 上条からすれば、それは不思議で仕方がない事だった。

 まだ二日程度しか一緒にいない相手の為に、どうしてそこまで頑張れるのか。目の前の会ったこともなかった誰かの為に頑張り、大事な存在を救えなかった上条だからこそ、その行動は理解できなかった。

 

「……とうまだから」

「えっ……?」

「とうまだけが……私を見てくれた。鈴野影を見てくれた」

 

 いつも彼女を見る人間は、彼女の事を『一方通行(アクセラレータ)の模造品』、『研究対象(モルモット)』と言った風にしか思ってなく、そこに鈴野影の存在はなかった。

 誰でもよかったのだ。彼らからすれば、同じ能力を持つ人物であれば、鈴野である必要はなかった。偶々その役割を、鈴野が担っていただけ。

 だからこそ、鈴野の事を価値ある存在として見る者は、彼女の前には現れなかった。

 ……上条当麻を除いて。

 

「能力のこと以外で……私と話をしてくれた。あの研究所にいた友達も、みんな自分の能力や私の能力の事ばかり話していた」

「鈴野……」

「でも、とうまは……コーヒー牛乳の話をしてくれた。一緒に銭湯に入りに行こうとしてくれた……初めてだった、誰かと話すのに、能力の話題がなかったのは」

 

 涙で顔をくしゃくしゃに濡らしながら、それでも不愛想ながら精一杯微笑んで、上条を安心させるように言う。

 

「私を……殺して(すくって)

「す……、ずの……」

 

 すると、それを見ていた木原病理が言った。

 

「もう飽きました。いい加減、さっさと諦めてくれません?上条当麻」

 

 それを聞いた、上条の決意が固まる。

 

「……木原病理……お前は絶対許さねえ。……必ず倒す――ッ‼」

「それも諦めてもらいますけどね」

 

 烈火の如き視線で木原病理を射抜く上条だが、本人はまるで堪えた様子を見せない。

 そんな木原病理を無視し、上条は鈴野に向き直る。

 

「……ごめん……結局、救えなかった」

「いいんだよ……ありがとう、とうま。……さよなら」

「ああ。……さよなら」

 

 瞬間、鈴野が耐えきれなくなったのか、限界まで伸ばしたゴムが一気に縮むように、勢いよくかっ飛び上条に突撃する。

 そのスピードに、反応が遅れた上条は躱すこともできない……否、()()()()()()()()()()()()

 

「あああああああああああ―――ッッッ!!!」

「――ッ‼」

 

 凄まじい咆哮とともに、鈴野は()()()()()()()()()()()()

 血を吹き出す上条の右腕。空中には彼の右手。

 瞬間、

 

「  、  。」

 

 ドラゴンが出てきた。

 しかし、いつもと違う、黒いドラゴン……()()()()。それは今までとは正反対。倒すため、傷付けるための力ではない。

 救うため、()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「……さよなら、(エイ)

 

 最後に一言、彼女の名前を呼ぶ上条。それに対し、彼女は薄く微笑み返した。

 瞬間、上条の腕から出現した()()()()()()()()()()()()が、彼女に食らいついた。

 

「は……?」

 

 その様子を、木原病理はポカンと口を開けた状態で見ていた。

 何から何まで予想外という顔だ。上条は今まで黒いドラゴンしか出してこなかったのに、ここにきて全く新しいドラゴンを出現させたこと。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 最後に、千切れたはずの上条の右手に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が生えていること。

 なにからなにまで、木原病理の知り得ないものばかりだった。

 

「……言っただろ。お前は絶対に許さないってな」

「くっ……!」

 

 木原病理はフードの人物を見るが、彼女は我関せずとその場をじっと見守っている。どうやら、木原病理を助けるつもりはないようだ。

 それもそうだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()。ならば、これ以上木原病理と関わる理由はない。

 

「もう終わりだ。ここが、テメェの幻想の、引き際だよ」

「……はぁ。どうやら、諦めるしかないようですね。……あ、最後に一つ」

「?」

「どうして……貴方との戦いの舞台を、この場所に選んだと思います?」

 

 そんなことが分かるはずもない。そう思い、上条は気にせず木原病理のもとへ歩いていく。

 しかし、彼女は衝撃の事実を口にした。

 

「実は、()()()()()()()()()()()。だからこそ、この場は最後の戦いに相応しいと思ったんですよ」

「…………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 呼吸が、思考が、心臓が……、間違いなく一瞬停止した。

 生きている?ここで自殺した彼女が?

 

「……いや、あり得ねぇ。はったりをかませすぎだ」

 

 当然、上条はそう結論付ける。それを認めたくない……認めてはいけないと、本能が警報を鳴らしていたからだ。

 しかし、それすらも諦めさせようと、木原病理は言葉を紡ぐ。

 

「おや、妙なことを言いますね。()()()()()()()()()()()()()()()

「……えっ?」

 

 上条は木原病理の言葉を理解するのに、5年はかかるかと思った。

 あっている?いつ?どこで?

 ……いや、

 

「ま、さか……」

 

 上条は、フードの人物へと視線を向ける。

 

 蜜蟻愛愉。

 その能力は『心理穿孔(メンタルスティンガー)』と呼ばれる()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()

 そういえば、あのフードの人物は、カメラのようなものを持っていて、それを鈴野に向けていたことを思い出す上条。

 あり得ない。そんなことはあるはずがない。心ではそう思っても、頭が、理性が……それを認識しようとしていて、それを否定したくて、上条はフードの人物を見る。

 すると、フードの人物は観念したのか、その頭に掛けてあるフードを取っ払う。

 

「……久しぶりね、上条クン」

「み、つあり……?」

 

 フードの下から出てきたのは、綿菓子を思わせるような長いフワッとしたチョコレート色の髪の毛……間違いなく、上条当麻が知る友人、蜜蟻愛愉だった。

 

「なんで……お前は、死んだはず……それに、どうして木原に……」

「……、」

 

 蜜蟻は何も答えない。

 すると、木原病理は狂ったように高笑いを上げる。

 

「あっはははははは――ッッ!!さて、これでこの物語は終わり。私も諦めて、潔く退場しましょうか」

 

 木原病理は一人勝手に、ダムの底へと飛び込む。最後まで、愉悦に満ちた表情で。

 暫くの間、蜜蟻と上条の間に沈黙が流れる。

 だが、上条がその沈黙を破った。

 

「……裏切ったのか……俺を……」

「……、」

「……なんとか言えよ。……頼むから、何とか言ってくれよ……なあッ‼」

 

 蜜蟻は俯いたまま、何も答えない。

 その態度に焦れた上条は、付き合ってられないとばかりに寝転がる鈴野を病院に連れて行こうとする。

 ……すると、

 

「……羨ましかった」

 

 突如、蜜蟻が言葉を紡いだ。その言葉を聞き、上条は振り返ることなく立ち止まる。

 

「妬ましかった。ずるいと思ったッ! 私の時は間に合わなかった、助けてくれなかったのにッッ‼……なのに、どうしてその子の時は、間に合うの……?」

 

 ゆっくりと、己の心中を吐露する蜜蟻。上条はそれをただ黙って聞く。

 

「何がいけなかったの?私とその子の違いは何?能力?年齢?……ねえ、どうしてッ‼」

 

 今度は、蜜蟻が感情的に叫んだ。

 しかし、上条は一度も振り返ることなく、自嘲気味に告げる。

 

「……結局、悪いのは全部俺だったってことか」

「……、」

「じゃあな。……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そういって上条は走り去る。

 後には、己のヒーローにすら見捨てられた哀れな蟻が、独りぼっちで闇を彷徨っていた。

 

 

 




なんかどんどん話が壮大になってるんだが……。
これ原作と帳尻合わせられるかな?バイオハッカー編見てないし、変なところあったら指摘ください。
あと、実は今回の偽典ですが、実は旧約1巻を元にストーリーを考えています。
戦闘シーンだけ大まかに説明すると

ステイル戦:DA
神裂戦:垣根帝督
インデックス戦:鈴野影

こんな感じです。蜜蟻の能力が思った以上に凄そうなのは……幻想御手でも使ったことにして。もしくは病理おばちゃんが鬱条を虐めるために調整したか。
木原病理がどうなったのか次回。蜜蟻の今後も次回。鈴野がどうなるのかも次回。鬱条がどうなるのかも次回。
つまりすべては次回!お楽しみに!
……楽しめる要素無くないか?

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