【悲報】転生したらツンツン頭で知らない部屋にいたんだけど   作:現実殺し

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1へとつながる物語

 日付は変わり、7月19日、午前5時。

 

「それで……鈴野は……?」

 

 上条が目の前のカエル顔の医者に恐る恐る尋ねる。

 大学病院の診察室で、小太りのカエル顔の医者は、上条に向き直っていった。

 

「ふむ。取りあえず、自分で見てきてもらうのが早いと思うよ」

 

 ただし、と。

 

「その前に、手っ取り早くレッスンワンだ」

 

 そして、カエル顔の医者から話を聞いた上条は、鈴野がいるという病室へ向かった。

 ドアを二回ほどノックした後、扉をゆっくりと開き、中へと入る。

 

「あ……」

 

 そして、見つけた。

 白い髪、白い肌で頭に包帯を巻いている少女を……鈴野影を。上条の存在に気づいた彼女は、そっちを振り向く。

 何と声をかけるべきか、上条が迷っていると、鈴野の方から口を開き言った。

 

 

()()()()()()()()()()()?」

 

 

 そんな、残酷な一言を。

 しかしその様子は、悪戯などではなく、本当に何も知らないという顔だった。

 

「!……、」

 

 上条はそこでカエル顔の医者に言われたことを思い出す。

 

『彼女のそれは、記憶喪失というより、記憶破壊だね? 彼女はここ数日の思い出を「忘れた」のではなく物理的に脳細胞ごと「破壊」されているね?あれじゃまず思い出すことはないと思うよ。にしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 鈴野は不思議そうな瞳でジッと上条を見つめている。そんな彼女の視線に耐え切れなくなったのか、上条は下を向いた。

 彼女は記憶を失った。

 ……しかし、それは何故か?

 

 簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 では、何故そんなことをしたのか?無論、彼女を救うためだ。上条が最後に繰り出したドラゴンには、人の記憶を奪う力がある。

 そもそも、彼女に施されていた精神操作は、上条当麻と木原病理を主軸においていた。二人の存在が、鈴野を狂わせるのだ。

 ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その理屈のもと、上条は鈴野を……彼女と共に過ごした(おもいで)を殺した。

 だから、上条にはないのだ、

 

「そ、うだな。……ごめん、間違えたみたいだ」

 

 鈴野影と、もう一度やり直す資格など。

 一度でも彼女に牙を剥いた。その時点で、少なくとも上条からすれば、それは彼女への裏切りだ。……彼女といる資格など、最早上条にはない。

 それでもなお、上条は鈴野を救いたいと思った。これでよかった。不幸を呼び込む上条当麻と一緒にいるよりも、鈴野は救われる。

 勝手にそう結論付けた偽善使い(フォックスワード)は、力なく笑った後病室を出ていく。

 

「……、」

 

 その小さな後姿を、鈴野はジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あらぁ?」

「ちっ、もう目覚めやがったか」

 

 トラックの荷台のような場所で、木原病理は目覚めた。

 パジャマ姿の彼女は、毛布のようなものを全身に纏っている。小刻みに震えていることから、体温が低下しているのは確定だ。

 

「助けてくれたんですね数多さん」

「けっ、上の命令じゃなきゃ、さっさと見捨ててたぜ」

 

 その男、()()()()は、心底不愉快そうな鼻を鳴らしていった。

 どうやら、湖畔に沈んだ木原病理を引き上げたのは彼のようだ。

 

「それで、結局テメェは何がしたかったんだ」

「はて?何の事でしょうか?」

「惚けんな。あのガキはアレイスターのプランに必要だったんじゃねーのかよ?」

「ああ。そういう……端的に言えば、もう必要ないようです」

 

 木原数多の言いたいことを理解した木原病理は、ポンっと手を叩き、彼の質問に答える。

 

「元々、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なるほどな。……で?お得意の諦めたってやつか?」

「ええ。それにどうやら、あの上条当麻は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからこそ、今回の計画を実行した。

 上条当麻が死の淵まで追い詰められ、生きる希望を失うように。

 

「それで、あのガキは死ぬのか?」

「ええ。99.9%の確率で。守るものを失い、生きる希望(ふくしゅうのあいて)も失った彼は、長くはもちません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ったく、悪趣味な野郎だ。そのために自殺までするのかよ」

「ふふ、諦めてください。そうでもしないと、彼は生き残ってしまいそうなので。それに、貴方が助けてくれたようですので」

 

 そう言って、木原は嗤う。

 結局、黒幕は生き残った。……ただそれだけの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかのビルで、『スクール』のリーダー、垣根帝督は地平線を見据えて黄昏ている。

 それを後ろから黙って見つめる心理定規と誉望。構成員はもう一人いるが、まだ来てはいない。

 

「結局、あのガキ(鈴野影)の所在は掴めないまま、か」

「……すみません、垣根さん」

「気にするな」

 

 それは、普段の彼からすれば珍しい言葉だった。

 故に、誉望も心理定規も目を丸くして驚く。

 

「今回はどうやら、俺達『スクール』も木原に利用されてたようだしな」

「……やっぱり、自分の責任っス」

「気にするなと言った。……それより、他に当てはあるのか?」

「す、すみません。一応、暗闇の五月計画の生き残りはまだいるという情報は掴んだんですが……正確なことはまだ何も……」

 

 そうか、とそれだけ言い、垣根はまた黙る。

 

「(……ど、どうしたんですか今日の垣根さん!? 心理定規(メジャーハート)さん何か分かります!?)」

「(私に聞かないでよ。……まあ、あの彼に親近感でも沸いたんじゃない?)」

 

 ひそひそと小声で話す二人。

 

(……上条当麻、か)

 

 そんな彼らを気にも留めず、垣根は一人思考に耽る。

 

(……結局、テメェも学園都市に奪われた側の人間だったってことか。それも、恐らくはこの街で一番……)

 

 すると、垣根は振り返り、そのまま部屋のドアへと向かっていく。

 

「あら、何処へ行くの?」

「仮眠だ」

 

 そういって、部屋を出た垣根が一人思う。

 

(だが、奪われたのはテメェだけじゃねぇ。……必ず手に入れる、統括理事長との直接交渉権を)

 

 そう、一人静かに決意を新たにする垣根。

 彼の未元物質(ダークマター)は、学園都市の闇にどこまで通用するのか。

 それはまだ、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……いない、よな』

 

 第二十一学区の湖畔、昨日の決戦の跡地に来た上条。

 

『……未練がましい。図々しい。もう二度と会うことはないなんて言いながら、それでも会いたいと思っちまう。……蜜蟻、あんなこと言っちまったが、嬉しかったんだぜ?……お前が生きててくれて』

 

 居るはずがない。あんな言葉を投げかけられて、蜜蟻がまだいるかもしれないなんていうのは、いくら何でも希望を見過ぎだ。

 そんな幻想が叶うはずなく、あるのはどうしようもない現実だけだ。そんな現実を殺すことも、上条当麻には出来ない。

 

『ああ、でも……これで終わりだ。……死に場所を探すよ』

 

 そんな不穏な一言とともに、上条は歩みを進める。

 そんな様子を、

 

「ふむ。これで終わりか」

 

『窓のないビル』で、ビーカーの容器のようなもの中に、逆さに浮く「人間」。

 男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える「人間」 が、満足げに呟く。

 

「そもそも、幻想殺し(イマジンブレイカー)()()()()()()()()()()()()()、この学園都市に、彼に合わせた機能はいらなかったか。少しは期待したのだがね」

 

 だが、問題ない。

 そう結論付け、「計画(プラン)」を先に進めようとした「人間」だったが、

 

「……むっ……これは……幻想殺し(イマジンブレイカー)()()()?一体何が……もしや」

 

 すると、学園都市中に張り巡らされている滞空回線(アンダーライン)を使い、ある一点を見つめる「人間」。

 そこには――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首つり……自殺のセオリーか」

 

 天井から縄をかけた上条が、感慨深げに呟く。

 

「……勝手にいなくなってごめん、父さん、母さん、乙姫ちゃん。……小萌先生、一度くらい真面目に授業聞いて見たかったです。……御坂、お前とは結局、一度も勝負しなかったな。……でも、本当は怖かったんだ。俺の力がお前を傷付けるのが……それでお前が離れていくのが。……土御門、青髪ピアス、吹寄、お前らはいつも俺に構ってくれたな。……正直、嬉しかったよ。……俺の友達。……蜜蟻、もう一度、ちゃんと話がしたかった。……鈴野、あの医者が、お前を守ってくれるってさ。なんか妙に頼もしかったよ。……あぁ、あんまり愚痴ると、未練が残っちまうな。……さようなら」

 

 そういって、上条は首を縄に掛けようとした……その瞬間、一瞬、()()()()()()()。すると、ガタっ、と。まるで電池が切れたっロボットのように倒れる上条。

 そして()()()()()()()()()()()()()後、上条は頭を押さえて起き上がった。

 

「う、う~ん……え、何処ここ?……あっれぇ~?俺、異世界では平均値でって言ったよね?……冗談はやめて、マジでどこだここ?」

 

 上条……否、それは上条と呼ぶには、余りにも瞳が輝いていた。

 それこそ、()()()()()()()()()()()

 

「目が覚めたら知らない部屋とか嘘だろ……ん?転生者専用脳内掲示板の説明書?」

 

 床に、いつの間にあったのか、冊子のようなものが落ちていた。

 それを拾い上げ、読み進めていく上条。

 

「へ~、転生って意外と便利なんだな~……ん?なんか頭がツンツンしてるぞ?」

 

 思わず頭を掻いた上条は、その違和感に首を傾げる。

 そして、洗面所らしき場所で鏡を見つけ、顔を確認するが、

 

「……なんでさ……いやなんでだよ! 顔変わり過ぎだろ! え、転生ってこんなんなの!? 容姿まで変わっちゃうタイプなの!?」

 

 気持ち悪い叫びをあげる上条。

 彼はしばらくの間頭を抱えるが、

 

「よし、今こそ掲示板だ! スレタイは……」

 

 悩んだ上条が、ポンっと、手を叩き、名案だとばかりに口にする。

 

「転生したらツンツン頭で知らない部屋にいたんだけど……こんなところだな」

 

 これは、文字通り……1へとつながるプロローグだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。元気そうで何よりだよ」

 

 病室で、カエル顔の医者は、鈴野影に向かってそういう。

 

「……ねえ」

「なんだい?」

「私……会いたい人がいるの」

「誰だい?必要なら僕が連れてくるが」

「分からない」

 

 困ったような表情で、鈴野はそう言う。

 

「……そうか。その人物は、君が失った記憶の中にいる人物か」

「多分……そう」

「けど、ならどうして会いたいと思ったんだい?君は記憶を「忘れ」ているんじゃない。「破壊」されている。パソコンで言うなら、ハードディスクを焼き切ったようなものだ」

 

 カエル顔の医者の質問に、鈴野は首を傾げる。

 無論、医者とて残酷な質問をしている自覚はある。

 だが、何となく思った。この少女は、自分が並び立てるつまらない理屈など、一吹きで吹き飛ばしてくれる。そんな気がした。

 

「会いたい、と思うということは、どこかでその存在を覚えていて、「思い出」が残っているということだね。なら……君の何処に、その「思い出」は記憶されていたんだい?」

 

 だから、医者は質問を続ける。

 

「……それは簡単――」

 

 その医者の思いに応えるように、白い少女は……なんて事のないように、あっさりと答える。

 

「――心に、だと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、幻想を殺す少年の物語ではない / だが、それでも諦めなかった。

 

 これは、悲劇を塗り替えるヒーローの物語ではない / 例えハッピーエンドには程遠くても、その少年は全力で運命に抗った。

 

 これは、傷つき倒れる少女が、救われる物語ではない / それでも、その少女の心に、思いは残った。

 

 それは、絶望の少年からすれば、最良の結果だった。少年には、これ以上のものは作れなかった。

 だから、バトンタッチだ。少年の遺志を継ぎ、新たなヒーローが立ち上がる時だ。

 だが、それは居場所を奪うのではない。受け継ぎ、抗うために。

 ここから始まるのは、竜王の顎(ドラゴンストライク)ではなく、幻想殺し(イマジンブレイカー)の物語だ。

 

 




という訳で、ついに過去編完結!
いやー長かった!……多分、次回からは掲示板に戻ると思います。ようやく掲示板で書ける。過去編もう少し後でもよかったかな?
まあ、やってしまったものは仕方ない。では、少しだけ蛇足を。

前回上条が出した白いドラゴンは、基本型ドラゴンです。
鈴野の能力は無事です。アウレオルス=イザードは魔術を使えなくなっていましたが、超能力に対する言及がないので、取りあえず科学の場合は無事という解釈になっています。
一応オリ設定になりますね。だって公式で言及されてないもん。まあ、もしなんか公式設定がでたら上条の思いがなんか作用して能力までは失われなかったことにしてください。

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