【悲報】転生したらツンツン頭で知らない部屋にいたんだけど   作:現実殺し

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キャラ崩壊&掲示板でない注意報!


二人の少女たちの想い

「……上条さん」

 

 ベッドの上で死んだかのように眠る上条当麻のもとで、五和がぼそりと話しかける。

 聞こえないのは分かっている。

 これは、上条に聞かせるための言葉ではない。彼女自身の、決意を明確にするための物だ。

 

「……今度こそ、私が貴方を守ります。絶対に……だから、必ず目を覚ましてください」

 

 暫くの間、五和は上条の傍を離れなかった。

 ジッと上条の寝顔を見つめ……、

 

「……ふふっ、後方のアックア……覚悟していてください。上条さんをこんな目に遭わせたんです。簡単な報復で終わると思わないでください」

 

 なんか怖いことを言っていた。

 心なしか、彼女の周囲にドス黒いオーラのようなものが出ていて、顔が歪な笑みを浮かべている。それはまるで、これからどんな料理を作ろうか悩む女性のようだった(?)。

 この時、アックアは一瞬謎の悪寒に襲われていた。

 

「……………い、つ……わ………」

「!? はい! 貴方の五和です‼」

 

 それは違うぞ!

 そうツッコミを入れる存在は、残念ながらこの場にはいなかった。

 上条の顔を覗き込む五和だが、目は開いておらず、起き上がる様子もない。

 徐々にメンヘラが加速する五和は、先ほどの上条の呟きが只の寝言であることに気づく。

 

「……夢でも私の事を考えてくれているということでしょうか? ふふっ、もう、上条さんったら~!」

 

 こんな状況であるにも拘らず、五和の頬がふにゃりと緩む。

 少しだけ、彼女のイカレ具合が緩和された時、

 

「が……ん………、ば、れ……よ……」

「! ……、えぇ、勿論です。貴方をこんな目に遭わせたアックアは、グチャグチャグチャグチャのグチャに捻りつぶして、全身の骨をバラバラにして、四肢を一つずつ捥いで、生まれてきたことを後悔させるくらいじゃないと、私の気が収まりませんからね!」

 

 上条の寝言で、おかしな方向にやる気を出した五和。

 すると、病室の扉が突如開く。誰かが入室してきたようだ。

 

「おーい、五和。そろそろ……ひぃっ!?」

 

 入ってきたのは建宮だ。

 アックアとの戦いに備えて下準備を行うため、五和に声を掛けに来たのだろう。

 決戦の時までまだ時間はあるが、その間悠長に待てるほど、天草式も温厚ではない。一刻でも早く、上条の仇を取りたいのだ。

 ゆっくりと、五和は建宮のほうを向き、ため息をついて言った。

 

「……建宮さん。……分かりました。すぐに向かいます」

「お、おう……べ、別にまだ時間はあるし、もう少しゆっくりしても――」

「何言ってるんですか? すぐにでもどこぞのクソ聖人をブチブチにしないといけないんです。時間は限られてるんですよ? 急がないと」

「は、はい……」

 

 五和の有無を言わせない圧に、返答するしかできない建宮。

 

「……では、行ってきます上条さん。吉報、待っていてください」

 

 部屋を出る直前、一瞬上条の方を振り向いて、そう言う五和。

 その時の彼女の顔は、先ほどまでの事が嘘であったかのように、穏やかだった。

 

 

 

 

―――――――――

 

――――――

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 後方のアックアは、ただ一人、己の手元にある懐中時計を眺めていた。

 その周囲はクレーターや焼け焦げた後など、明らかに戦闘が行われていたと思わしき箇所がいくつかあった。

 

「さて、交渉期限まであと15時間……結果は出たのか?」

 

 アックアが突如、誰かに尋ねるように言う。

 すると、彼の周囲を囲むように、およそ50人弱の人間……魔術師が、それぞれ武器を持って戦意を露わにしていた。

 その中でも一際強い戦意を持つものが一人、いた。

 

「見つけました。後方のアックア」

「……ローマ正教20億人を敵に回した状況が、右腕一本で脱せられると言っているのだ。むしろ安い買い物だと思うのであるが?」

 

 その言葉に、ピクリと反応を示す五和。

 手に持った槍を強く握り、ギリッと音が鳴るほど歯を強く噛みしめて呟く。

 

「貴方は……その右手が、どれだけたくさんの人を救ってきたのか、何も理解していないのですね……!」

「その結果が、今の状況を引き起こしているのではないか? あの男がやってきた事の積み重ねが、今の状況を生み出しているのであると、私は思うが?」

「間違っていたんですか?」

 

 間髪を容れずに言葉を返す五和に、アックアが押し黙る。

 上条は常に問題の渦中にいた。だが、本人が望んだわけではない。問題の方からやってきて、それを彼が解決していただけに過ぎない。

 要はテストと同じだ。問題があるから、解き、答えを出す。違うのは、上条に送られる問題、その答えのすべてに模範解答が存在せず、採点者の判断に任せられるということだけ。

 

「上条さんは私たちの問題に自分から首を突っ込んだことはありません。彼の周りで勝手に起きて、本来魔術師(私たち)が解決しないといけないことを、彼が仕方なく解決しただけです。魔術師でない彼が魔術師の問題を、100点満点の答えで解決できるはずがない……なのに、貴方はすべての責任が彼にあると決めつけて、一方的に叩きのめした。……絶対に許されない」

「交渉は決裂というわけか」

「当然です。そもそも、端から交渉の余地なんてありません」

 

 呆れたようなため息を吐き、再びアックアは警告を促す。

 

「私は聖人である。そして神の右席の力も有している。それを正しく理解した上で、なお戦うと言うのであれば、私は証明するのである。勝負とは善悪ではなく、強弱によって決定するものだということを。せめて私の切り札の一つくらい――」

 

 アックアの言葉は最後まで続かなかった。

 ドカァァァァァンッ!、という音とともに、彼の周囲を煙が包み込む。

 その手前には、煙の方向へ槍を向ける五和がいた。

 

「聞いてもいないことをベラベラと、鬱陶しいです」

 

 アックアの話を最後まで聞くこともせず、意気揚々と先制攻撃を仕掛けた五和。

 余りの容赦のなさに、仲間であるはずの天草式の面々は引いていた。

 

「人の話は最後まで聞くものではないかね?」

 

 爆風の中から、無傷のアックアが姿を現した。

 今の一撃は、並の魔術師ならやられていて、普通の聖人でも掠り傷程度は負わせられるレベルのモノだった。

 だが、アックアはそれをまともに受けて無傷。その事実に、眺めていた天草式の面々は気を引き締め直す。

 

「結構です。貴方の話など、これっぽっちの価値もない。とっととくたばれクソ野郎」

 

 五和は相変わらずだった。

 それどころか、さらに闘志を燃やしている。

 

「ふむ。その言動を、現実的な努力として見せてほしいものである」

 

 瞬間、爆速でアックアに接近する五和。

 五和が強烈な突きを放ち、アックアを串刺しにしようとすると、

 

「!」

 

 いつの間にか、アックアの姿は消えていた。

 そして、五和は直感的に後ろを振り向き、槍を使って防御を取る。

 次の瞬間、凄まじい重量が槍越しに掛けられた。アックアの一撃を受け止めたことによる負荷だ。

 

「くっ!」

「ほう。かなりの準備をしてきたようであるな」

 

 本来なら、アックアの一撃を、聖人でもない只の魔術師が受け止めるなど不可能。

 武器の方が耐えられないし、仮に耐えられたとしても、五和の筋力で支えられるものではない。

 なので当然、彼女の力にも秘密はある。

 

「この槍には樹脂を1500ほど重ねてコートしてあります。表現する象徴は樹木の年輪。隠れた術式の正体は植物の持つ繁殖力……」

「この短時間でよく備えたものである。だが……それよりも驚くべきは私の速度に遅れながらもついてきたこと。……なるほど、互いの運動能力を増強しあっているというわけか。まるで、聖人との戦いを知っているかのようである」

 

 知っているに決まっている。

 共に死線を潜り抜けてきたのだ。もしかしたら、お荷物だったのかもしれない。邪魔だったかもしれない。

 それでも、彼らは必死に努力した。そう思わせないように、本当に荷物になどならないように。

 天草式が、一斉にアックアに飛び掛かる。

 

「それでも遅いのである」

 

 その一斉攻撃を軽く躱し、逆にカウンターを行うアックア。

 

「だとしても、必ず勝ちます――ッ!」

 

 五和が叫びとともに、再び槍を振るった。

 

 

 

 

―――

 

――――――

 

―――――――――

 

 

「……あーちくしょー! システムの不具合だか何だか知らないけど、無酸素警報で足止めくらってるし、挙句にゲートの動作不良で地上に上がれないってもーー!」

 

 誰に向けての状況説明を行いながら、第三階層の道を歩く御坂。

 彼女がここに居るのは、当然銭湯に入りに来たのだ。そこで行われてるキャンペーンにゲコ太が絡んでいると知った彼女は、すぐさま飛びついたのだ。

 すると、道の脇の草むらから、ガサガサと音がした。

 御坂が疑問に思い、その方向を見ると、

 

「はぁ……はぁ……!」

「えっ……? ちょ、アンタ、なにやって……」

 

 ツンツン頭の少年、上条当麻がそこにいた。

 まさかこんなところで出くわすと思っていなかった御坂は一瞬テンパりかけるが、上条の様子がおかしいことに気づく。

 いつもは学ランで身を包む彼の服装は、薄緑色の病服となっており、体の至る所に包帯を巻いている。

 その姿は痛々しく、目も焦点があっていなかった。どう考えても普通の状態ではない。

 

「なっ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

「? ……あ、御坂……、か?」

 

 最早認識も曖昧になっているのか、上条が疑問形で御坂に答える。

 

「行かねぇ…と……!」

 

 今にも倒れそうな体を無理やり動かし、どこかへ行こうとする上条。

 一歩を踏み出した時、ふらついて足元が縺れて転びそうになる。そんな彼を、御坂が肩を抱えて支えた。

 

「ちょっ! 馬鹿‼ あんたその格好どうしたのよ!? まさか、どっかの病院から抜け出して……」

「行かねぇと……行かねぇと……」

 

 壊れたラジオのように同じことを繰り返す上条に、御坂は言いようのない不安を覚えた。

 まるで誰かに急かされるように、どこかへ向かおうとする上条の姿が、とても歪で、怖かった。

 行かせてはならない。今の上条を行かせたら、取り返しのつかないことになる。

 そんな根拠の無い確信とともに、御坂は彼の左腕を無理やり引っ張って、自分に意識を向けさせていった。

 

「……どこに行くの?」

「……えっ?」

「……私が……ううん、それ以前の話よ。何で何も言わないの? 怖いとか、不安だとか……どうして……そんなになってまで突っ走ってるのよアンタは……」

 

 かつては、困っている人がいるなら、誰であろうと助ける。

 相手がどれだけ強大であろうと、右手一本で立ち向かう……そんな彼を、強く意識していた。

 だが、今の上条に、そんな思いは欠片も感じていなかった。

 機械の様に誰かを助けるために動く上条の姿は、今まで感じていた頼もしさなど欠片もなく、力強かった右手は、とても弱々しかった。

 

「アンタじゃなくてもいいじゃない……そんだけやってれば十分でしょ? ……今までは、アンタにたくさん助けられた。だから、今度は私が助ける。教えて、何処に行くの?」

「……ダメだ。これは、俺の問題なんだ。俺が解決しないと――」

「関係ないわよ!」

 

 感極まって叫んだ御坂に、上条が動揺して押し黙る。

 

「アンタの問題だから首を突っ込むな? アンタが今まで、そう言われて黙ってきた? そんな訳ないでしょ。自分の問題と関係なくても、逃げたって……無視したって構わなくても、アンタは勝手に首を突っ込んで、勝手に全部解決してきた。だったら、私がおんなじことやったって文句は言わせない。アンタが正しいと思ったことやってるように、私も私が正しいと思ったことをする……それで、アンタがこれ以上傷つかないようにして見せる。これ以上……戦わなくてもいいようにする……だから教えなさい! アンタが私の代わりに第一位(アクセラレータ)を倒してくれたみたいに……今度は私が戦う! 私が安心させてみせる!」

 

 御坂の想いを、上条はただ黙って聞いていた。

 彼女は気づかなかったが、その時の上条の瞳には、少しだけ、かつての光が蘇っていた。

 その右手は、少しだけ頼もしそうだった。

 

「ありがとな」

「……と、とにかく行くわよ! アンタは口で言っても聞かないんだから、ちゃんと病院に戻るまで見逃したりは――」

「でも、ごめん」

 

 ピシリッ、と。御坂が石造のように固まった。

 あれだけ言っても拒絶された。その事実を、脳が拒んで居るのだ。

 

「……どう、して……」

「別に、お前に助けてほしくないとか、そういうんじゃない。寧ろ嬉しいよ。結構、楽になったし」

 

 その言葉に、そっと安堵して息を吐く御坂。

 だが、なら何故拒絶されるのか。

 

「別に助けを求めるために体張ってる訳じゃない。お前だってそうだっただろ? ……でも、まあ……やっぱり一人っきりなのは寂しいよ。……だからさ」

 

 上条は基本的に一人だ。

 友達がいないとか、そう言う訳ではない。彼の帰る家には、誰もいない。同居人もペットも。そこには誰も。

 病院もそうだ。見舞いに来る人がいても、それは自分が入院をした後。その前から待っていてくれるわけじゃない。

 心配をかけているのかもしれない。でも、心配してくれる人がいると思うだけで、より一層、足を動かせる。死んではならないという思いで、立ち上がれる。

 

「待っててくれ。……そしたら、必ず戻ってくる。……約束する」

 

 普段の彼が見せないような穏やかな表情で、御坂に微笑みかける上条。

 そのまま彼は、仲間たちが戦っているであろう戦場へと歩みを進めていく。

 御坂はただ、そんな上条の後姿を、ジッと眺めていることしかできなかった。

 

(私は……間違ったことは言っていない)

 

 御坂の考えていることは正しい。

 上条は今すぐにでも病院に戻り、体を休めなくてはいけない状態だ。

 彼女が言っていた通り、彼女自身が戦場へ赴く選択肢もある。

 だが、それらを選ぶことは、御坂には出来なかった。

 

(アイツがそうしたいなら……そうさせてあげたい。なのに、全然納得できない――ッ‼)

 

 気づかぬうちに、自身の胸に手を当てて悩む。

 今すぐにでも、上条を助けるために足を動かしたいという衝動に駆られる。

 ……どうして?

 

(なんで? アイツがやりたいことくらい、勝手にやらせてやれば……)

 

 あ……と、何かに思い当たったように呟く御坂。

 きっと……心配だった。友人としててではない。()()()()()()()()上条が。

 自分の目の届かない場所でいなくなってしまうのが怖くて、それが嫌だから、止めたくて……でもできない。そのもどかしさが、胸を締め付けてくる。

 

「……そっか。……私は……いつの間にか……」

 

 初めて会った時は、ただのお節介な性格からくる心配だった。

 いつしかその思いは消え、今では……。

 

「……行ってらっしゃい」

 

 決して知ることのなかった想い。

 この日、この時、この瞬間において、御坂美琴は、己の本当の気持ちに気づいた。

 

 




原作読んでないから変なところあったらすまん。
あとやっぱり恋愛って難しいお//

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