【悲報】転生したらツンツン頭で知らない部屋にいたんだけど   作:現実殺し

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お久しぶりです皆さま。もうじき受験勉強だというのに何をやっているんだろうと思いつつ、ロシア編に向けてまずは残りを片づけようと思い。
なので今回と次回は掲示板無しです。にしても、掲示板は書き始めたころは楽なのに、後に続くほど辛くなるから不思議


最弱

 逃げた。

 脇目もふらず、恥も外聞もなく、一方通行(アクセラレータ)は人混みの中を走っていた。

 腕の中には心配そうに自分を見つめ、なるべく彼の邪魔にならないように大人しくしている打ち止め(ラストオーダー)

 彼は逃げているのだ。学園都市最強の超能力者(レベル5)が、第一位である一方通行が。

 一人の少女を相手に、逃げ惑うことしかできずにいた。

 

「ハァ、ハァ……ッ!」

 

 人が多い分、隠れやすい。だが同時に、動きにくい。

 隠れ蓑にはする癖に、いざ自分を庇って盾になられるのは嫌がる……そんな中途半端な甘さがいまだに残っているのに、一方通行は自分でも驚いていた。

 直後に。

 背後から、バチィッ! という弾ける音がした。

 まずい、と思った一方通行は咄嗟に電極のスイッチをオンにする。

 その瞬間に発言する『ベクトル操作』の恩恵により、彼は地面を抉るような踏み込みで跳躍。遥か頭上の高速道路の壁に立つ。

 跳んだ余波で周囲の人間が吹き飛ばされたのだろうが、これから自分に降りかかる災害の巻き添えになるよりはマシだろうと彼は思った。

 瞬間に。

 二億ボルトもの雷撃が、一方通行を穿つように降り注いだ。

 一方通行は即座に右手をかざし、雷撃のベクトルを操作。流れを変換し、周囲に拡散させる。単純な『反射』とは違った精密な操作は、この極限状態では精神をすり減らす一因にしかならない。

 なのに、一方通行は『反射』を封じた。

 仕方のない事だった。何故なら、今彼が相対する敵は、今まで出会ったどんな存在より恐ろしかった。

 そう、自分の『反射』を物理だけで攻略した木原数多よりも、未元物質(ダークマター)というこの世に存在しない物質を使った変則的な攻撃を仕掛ける垣根帝督よりも。

 ましてや、最強であるはずの自分を、反撃の余地すら与えず、一方的に叩きのめしたあのツンツン頭の男よりも。

 単純な力関係とはわけが違う。あの襲撃者は、一方通行を支える柱を、何かの拍子に、砂の城のように簡単に崩してしまいそうだった。

 

「いつまで逃げるつもり?」

 

 ギギギ、とさびれたロボットのような動きで、一方通行が首を背後に回す。

 少女がいた。白いピッタリとした戦闘スーツに身を包む、顔を覆う仮面のようなゴーグルを装着している。

 しかし。

 その隙間から洩れる茶色の髪色、耳や肌の白さ……それはまるで、自分の抱えている少女と同じものであるような気がした。

 いや、襲撃者の言葉を鵜呑みにするなら……。

 

「あり得ないよ……!」

 

 震える声でそう言ったのは、一方通行ではなく、打ち止めだった。

 

「どうして……第三次製造計画(サードシーズン)なんておかしい。仮にそんなものがあっても、どうしてアナタは私の命令を受け付けないの⁉」

 

 その問いかけは、一方通行としては複雑なものだった。

 まず前提として、相手が御坂美琴のクローン、つまり『妹達(シスターズ)』である場合、一方通行はあらゆる反撃手段を失ってしまう。

 彼は自分にルールを課しているのだ。かつて一万以上の体細胞クローンを殺した張本人であるが、だからこそ、今後は一切傷付けず、守り続けると。

 今までは何とかなった。騙し騙しにやり過ごしてきた。木原数多が襲撃した時も、垣根帝督の時も……一人でどうにかできたかと言われれば、特に木原数多の時は違うと断言できる。

 自信を持つのは違うかもしれないが、あの時は一人ではどうしようもなかったと確信している。御坂美琴がいて、黄泉川愛穂がいて、芳川桔梗がいて、警備員(アンチスキル)がいて。

 沢山の人間が手を貸してくれた。罪深き自分に、手を差し伸べてくれた。だからこそ彼は、このクソッたれな悪意の塊とも、『正しいことの白』として戦えた。

 けど、今は違う。相手は自分が守るべき相手だ。誰にだって傷付けさせるわけにはいかないし、自分の手で壊すわけにもいかない。

 尤も、打ち止めの命令を受け付けない妹達(シスターズ)がいるなら、の話だが。

 基本的に下位個体である彼女たちは、上位個体である打ち止めの指令には逆らえない。今回の襲撃にどんな意味があるのかは分からないが、そんないつ寝返るかも分からない存在を、果たして襲撃者として放つだろうか? つまり、そういうこと。もし仮に、相手が一方通行の守るべきものでなかった場合、形勢は一気に逆転する。

 打ち止めの問いかけには、そう言った意味もあるのだろう。彼女なりに、一方通行の助けとなればと思っての行動だったのだろう。

 しかし。

 

「ミサカの体内には、『シート』や『セレクター』が取り付けられている。最終信号(ラストオーダー)側からの停止信号も、統括理事会からの許可コードが出ない限り自動的に拒絶するの。で? 満足いかないなら、これでどう?」

 

 そう言うと。

 彼女は自身の顔を覆っていた仮面を剥がす。

 やめろ、見るな……そう思っても、一方通行は視線を逸らすことも出来ない。

 息を吞む音が聞こえた。それは一方通行の物か、それとも打ち止めの物なのか。

 仮面の下には、丁度打ち止めが高校生ぐらいに成長したらそうなりそうな顔があった。

 

「何でだ……」

 

 低い声があった。

 

「何の為に……造ったんだ。何の為に……何の為に……ッ!」

 

 第三次製造計画(サードシーズン)

 それがあるということは、当然彼女以外にも造られているはずだ。いや、まだできてなくて、これから造るという可能性もある。

 分からない。理解できない。何の為に……統括理事会は何の為にそこまでする。コストも倫理もすっ飛ばし、悪意を敷き詰められるのだ?

 

「知らないよ。興味ないし。でも、強いて言うなら……アンタが思い通りに行かないことに業を煮やしたってだけじゃないの?」

「―――――」

 

 無茶苦茶だった。

 人の人生がそう簡単に思い通りに行くはずなんてないだろうに。それで自分の想定通りに行かなかったら子供の癇癪のように非人道的な事を繰り返すのか?

 何処まで腐っているんだ、この街は……?

 

「じゃあね」

 

 まるで、門限を守る為に帰宅する子供のような気軽さで番外個体(ミサカワースト)は告げる。

 

「死んで」

 

 死刑宣告。

 それと同時に、彼女の右指の先から、磁力を纏った釘が放たれた。

 直線状に放たれるそれを、一方通行は能力を切って受けた。

 右肩が貫かれ、体が空中に投げ出される。その状態で歯を食いしばり、首元の電極に左手を伸ばす。

 能力を取り戻す代わりに空中に放り出された打ち止めを回収し、打ち抜かれた傷口の血液の流れを操作して出血を抑える。

 即座に空気の流れを掴み、風を纏って彼は飛行した。

 まずい。

 非常にまずい事態だ。このままでは敵の思う壺。とにかく、一度態勢を立て直さなければ。

 そう思い、とあるビルの屋上に足を付けた時。

 背後から異様な気配を感じた。

 一方通行は振り向きざまに足元のアスファルトを踏みつけ、抉る。そこから生まれた瓦礫を蹴りつけ、背後の気配へと打ち付ける……。

 が。

『ベクトル操作』で音速を越えた岩石は、まるで燃えた紙のような粉々になった。

 一方通行の前には、バケモノが立っていた。

 

「なンだ……オマエは……」

 

 金色の長髪。光り輝く肉体に、肢体まで身を包む白の装束。

 

「ふむ。まだその段階か。アレイスターが焦るわけだ。まだ殆ど進んでいない。」

 

 人の形をしたナニカが、人の言葉を話すのに、これほど違和感を覚える日が来るとは思わなかった。

 ナニカは呆れたような物言いとは裏腹に、非常に興味深げに言う。

 

「だが。それ故に私の興味を惹いてしまったな。私に辿り着く者はそうそういないというのに。存外、何かを為すものというのは、ヒーローではなく、今の君のような、どこにでもいる少年なのかもしれんな」

「何だって聞いてンだ……ッ!」

「私を的確に表現する言葉か? ならばそれは一つだ。かつて、クロウリーという変わり者の魔術師に、必要な知識を必要な分だけ授けた者―――『エイワス』と」

 

 エイワス、と。

 そう名乗る存在を前に、一方通行はただ一言返した。

 

番外個体(ミサカワースト)の増援か……? 何処までもふざけてやがるな」

「本気で言っているのか?」

 

 エイワスは明確に首を振って否定する。

 その動作は確かに意味がある者であるはずなのに、エイワスの真意は測り知れない。

 判断材料がない以上、エイワスが番外個体の増援でないとして話を進めるべきか。

 

「しかし、随分と私に気を取られているようだな」

「……何?」

「手元が不注意だぞ」

 

 弾かれるように、一方通行は抱える打ち止めを凝視した。

 呼吸は荒い。頬は赤く、体温も高い。しかし、その苦しみ方は、一般の風邪とは一線を画す何かがあった。

 それは、一方通行(アクセラレータ)が力を振るうには十分すぎる理由だった。

 

「上等だ……ブチ殺スッ‼」

 

 たった一言言い放ち、一方通行は爆ぜるように突進した。

 打ち止めは風の波に乗せ安全な場所に離し、自身は『ベクトル操作』とともにありったけの力で拳を握る。

 尤も、その一撃はフェイクだ。本命はその五本の指による体内組織の破壊。それだけで、エイワスは風船のように割れて死ぬだろう。

 ……その攻撃が、まともに通れば……いや。

 

「がッ⁉」

 

 まともに通ったところで、効かないかもしれない。

 彼我の距離が一メートルを過ぎた瞬間、彼の身体に重い衝撃が放たれた。

 一方通行はそれを、まるで大きな槍で腹を刺し貫かれたかと思った。

 実際、彼の中腹にはXの形に刻まれた傷跡が浮かび上がっていた。出血は無意識のベクトル操作で抑えられているが、まるで魂を直接攻撃するかのような一撃に、一方通行は悶えるしかない。

 

「しまった。これはこちらの落ち度だ。アレイスターめ、sn講bozl用ウイルスに何か細工をしたな。打ち止め(ラストオーダー)を経由して私のbeuo顕dnnに自己防衛bseou能gbuを埋め込んだか。いやはやすまない。自殺防衛装置のようなものをnbspg加npisrらしい。私をsbgp殺napedvければ勝手に動くnspidh翼gprwsをどうにかしてくれ」

 

 いよいよ言葉がおかしくなってきたエイワス。

 しかし、一方通行は聞いていなかった。彼の目に映っているのは、その背に生える、青ざめた輝きのプラチナの翼……そして。

 今なお倒れこみ、苦しみ続けている打ち止めだけだった

 それを見たエイワスは怪訝そうな声を上げる。

 

「む? ……もしや、期待しているのか? 自分の代わりに、私を打ち倒してくれるヒーローのような存在を」

「――っ」

 

 ギリッ、と歯を食いしばる音が響く。

 図星を突かれた一方通行が悔し気に呻き、痛む腹を抑えてゆっくりと立ち上がる。

 

「幸運が常に続くと思わないことだ。その状況に慣れてしまっては、自分でどうする事も出来なくなるぞ? 少なくとも、アレイスターや幻想殺し(イマジンブレイカー)はその辺り上手に遣り繰りしているな」

「くっ……そ、がァァあああああああああああああああああああああああッッッ‼」

 

 咆哮。

 同時に、風のベクトルを操作し、エイワスに対し砲撃のように放つ。戦槌となった暴風の塊は、ハンマーのようにエイワスを殴りつける……が。

 エイワスの翼は、ただ広がるだけ。

 それだけで風を掻き消す。

 異次元。常識を超越した何かだ。既存の法則など通用しない。

 どうすればいい。考えろ……どうすれば打ち止めを救え、目の前の怪物をぶちのめし、番外個体との戦いに……。

 

(あ)

 

 思い出してしまった。

 そうだ、仮にこの戦いを乗り切れたとしても、次は番外個体(ミサカワースト)との戦いが迫っている。

 終わりはない。

 一方通行の戦いに、終幕はない。

 

「おや、終わりかね?」

「……、」

「?」

 

 絶望が全身を駆け巡った。

 瞳の色が、体内から噴き出す血の色よりも禍々しい赤色に変化する。一歩踏み出すと、床が貫かれるようなへこみを見せる。

 

 

「abeoughabaeougbao殺wobnoweuferya……ッ‼」

 

 

 ドバッ‼ と一方通行の背中が弾けた。

 漆黒の翼というのは薄く、かと言って白い翼と言われれば濃い。

 いわば、()()()()

 善でもなく、悪でもない。どっちつかずの半端者の力。

 しかしこの時、この瞬間……怪物は、真に怪物として目覚めた。

 

「汝の欲する所を為せ。それが汝の法とならん、か。にしてもこの変化……私との接触の影響か?」

 

 轟音が炸裂する。

 灰と青、二つの翼が衝突した衝撃波だった。

 その嵐のようなぶつかり合いは、僅か二秒で決着がついた。

 たった一撃。たったの一撃だ。

 それで、一方通行の翼は粉々に砕け散り、余った威力はその白い身体を弾き飛ばした。

 敵わない。最強の能力者が、学園都市第一位が、手も足も出なかった。

 

「こんなものか。これではヒューズ=カザキリにすら対応できまい。アレイスターめ、『今回も』焦っているのか? ……まあいい」

「クソッ、たれ……っ」

「まだ意識があるのか。だがやめておけ。君に私を倒す手段は思いつかない。君は私について、何も知らないのだから」

「ぐ、……ッ!」

 

 事実だった。

 一方通行にとってエイワスは、突如現れて自分たちの邪魔をした怪物という認識でしかない。

 しかし、流石にそれは不憫だと思ったのか。

 エイワスは、奇妙なことを言い出した。

 

「ヒューズ=カザキリ。後で検索してみるといいが、それが私の言わば工場の製造ラインとも言うべきものだ。AIM拡散力場の塊、人工的な天使とも呼べる。私もそれに連なるものと言う訳だ」

「……だったら、何だってンだ……⁉」

「まあ確かに、どうでもいい蛇足だったな。今重要なのは、打ち止めについてだ。その子を助けたいだろう?」

「――ッ!」

 

 一方通行の目の色が変わる。

 もう彼は限界だった。何も分からないまま手を伸ばしてくる悪意に怯えるのも、その悪意に自分の大事なものが晒されるのも。

 そして、それらから大事なものを守ることが出来ない己の無力も。

 最強? 馬鹿を言え、()()だ。

 何を気取っていたのか、自分如きに何かを守れるはずなんてないのに。今までだって、自分の力で何かを守れたことなんて殆どない。

 木原数多もそうだった。自分一人では、助けられた気がしないと今なら分かる。

 垣根帝督は別だ。アイツの狙いは端から自分であり、それ以外が危険に晒されることは少なかった。あれは自分の身を守っただけに過ぎない。

 序列でしか上に立てない。勝てない。それが今の、一方通行(アクセラレータ)だった。

 だから、使える物は何でも使う。

 

「その子は難しい。アレイスターのプラン次第だが、遅かれ早かれ破滅は免れない。あの医者を頼るのもやめると言い……が、オリジナルスクリプトとやらは持ち去った方がいい。あれがないと、()()()()……いや、()()について関りの薄い君では詰んでしまう」

 

 傲慢な言葉にも、一方通行は一言一句逃さずに聞き耳を立てる。

 そして、そんなことしかできない己への無力に脳細胞が焼き切れるかのような怒りを覚える。

 

「ロシアへ行け。正確にはそこから独立したエリザリーナ独立国同盟か。そこは今、惑星規模の戦乱の中心点へと変貌しつつある。ありとあらゆる文明の知識や技術が、軍事と兵器に鍛えられて集結することだろう。……君が視た事もないような、『全くの別の法則』もね。ああ、後……先ほども述べたが、禁書目録という言葉を覚えておくといい。アレ自体はそこにはないが、それにかかわる重要な品がある」

 

 エイワスは自分の言葉だけ並べると、蜃気楼のように消えていった。

 後にはボロボロの一方通行と消耗した打ち止めだけが取り残されている。

 動こうと思った。

 今すぐにロシアへ向けて出発しようとした。

 だが、それを阻むように、その少女は姿を現した。

 

 

「ようやく見つけたよ、一方通行(アクセラレータ)。さあ、続きを……って、何でそんなボロボロなわけ? ま、ミサカ的にはどうでもいいけど」

 

 

 




いやー酷い(白目)
なんで一方通行さんはこんなに人生ハードモードなんでしょうかねえ? えっ、どっかの誰かがRTAしてるから帳尻合わせしないといけないから?
なるほど、つまり悪いのはイッチか(違う)。
実は最近ジョジョに嵌っており、新約の新キャラで波紋使える子を導入しようかと考えてたりします。
えっ、スタンド? 見えないのにどうしろと?
さて、次回はフレンダネキ視点。けど多分そこまで長くはないから、一方通行とイッチ条を入れてロシア編に向けての序章を終える予定です

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