死神英雄譚 作:ちゃむこ
1話 黒いファミリア
それは、世界に唯一のモンスターがわき出る『未知なる穴』。
数多の階層に分かれ、その広く深過ぎる『穴』の全容を掴んだものは誰一人いない。
『
…それは
未知なる資源と、未知なる体験と、未知なる危険…
あらゆる可能性が眠る場所…
そして、その『未知』に挑む者達を人は〈冒険者〉と呼んだ。
【ダンジョン50階層】
ここは
だが、そんな安全階層は今完全な戦場になっていた。
オラリオに数多く存在するファミリアの中でも、屈指の実力を持つ『ロキ・ファミリア』。
もう何回もこなしているダンジョン遠征に出ていた彼らは、今までに見たこともない新種のモンスターに襲われていた。
特徴として、芋虫のような見た目をし、体内には一級武装ですら溶かしてしまう腐食液を吐き出していた。
しかも、その芋虫モンスターは単体でも厄介なのに、ダンジョンの道を埋め尽くせるぐらいの群れで襲ってきていた。
その光景はまさに〈
新種のモンスターに苦戦を強いられるも、さすがはロキ・ファミリア。
なんとか芋虫型を殲滅するのに成功した。
だが、異常事態はまだ終わっていなかった。
先ほど倒した芋虫の身体に、人間の女性のような上半身を模している人型の巨大モンスターが、突如49階層の地面から這い出てきたのだ。
30Mはあるその巨大に、芋虫型の特徴である腐食液、虫の羽のような形をした腕部、それだけでも厄介なのにも関わらず人型は広範囲に、爆発を発生させる粉ー爆粉を撒き散らす。
先ほどの芋虫型でも苦戦したのに、さらにその上位互換の新種のモンスター。
この状況に、ロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナは、撤退の命令を下した。
だが、そのような行動をする冒険者を逃すほどモンスター達は優しくない。
この新種の人型だってそうだ。
そこでフィンはある決断をする。
「アイズ、あのモンスターを討て。
撤退が完了するまでの時間稼ぎ。その役目をフィンはアイズに任せた。
他の幹部達がアイズを一人にさせたくないと猛抗議するがフィンの決断は変わらない。
フィンの真剣な目に幹部達も命令にしたがった。
アイズと人型モンスターの交戦が始まる。
敵の腕部の堅さは《
そして無数の触角からは腐食液、さらには爆粉による広範囲の爆発。
だがそのどれもを、アイズは長年培った冒険者の戦闘経験で突破していく。
激闘の中アイズは想った。
(つよくなりたい)
大事な人達を守れるように
二度と失くさないために
…悲願のために
そして…『彼』のように……
その瞬間、アイズの脳裏に一人の青年が浮かび上がる。
全身が黒に包まれ、そこに光が差しているかのようにキラキラと銀色に輝き綺麗な髪を持つ青年。
ずっと憧れていた人。ずっと背中を追いかけていた人。
いつか隣に立って一緒に戦い、そばにいたいと思った人。
アイズは戦いの中、鮮明に彼の姿が浮かんでいた。
いつもなにかと戦っている時、必ずと言っていいほど毎回彼の姿が浮かぶ。
彼の隣に立ちたい。そう思うだけで…
私はどこまでだって強くなる
「リル・ラファーガ」
アイズの風の最大出力での突撃。
刹那ーー100m以上離れた相手に対し、一瞬の躊躇もなく全力防御態勢。
この神がかった反応は、まさに
ーーだが
閃光は止められない
爆風と同時に、人型が倒されたことにより体液が飛び散った。
アイズが勝ったのだと、団員達の顔には歓喜の笑顔と、安心したような表情が生まれた。
…だが、その安心も一瞬で絶望へと変わった。
ズズンッ! ベキベキ ベキバキ
先ほどの人型が現れた時と同じような地響きと、木々をへし折りなぎ倒す音が聞こえた。
それも
全員が音の方へと目を向けと皆その光景に顔を青ざめた。
そこから出てきたのは先程アイズが倒した人型のモンスターが三体出てきていた。
「うそ…」
「あと…三体も」
団員の中には、その絶望に体の力を奪われて立つこともできなくなっていた。
だがアイズだけは違った。
先ほどの全力の戦闘で見た目は軽傷に見えるも、身体の中はもう戦闘を続けるのさえ厳しいぐらいボロボロだった。
だがそれでもアイズは立ち向かった。
(きっと『彼』なら…)
幾度も限界を超えてきた彼なら、この状況でも勝ってみせるだろう。
だったら自分も…
その想いでアイズはモンスターに立ち向かう。
人型の腕部が振り下ろされるも、アイズはそれを躱し距離を詰める。
だが、敵は一体じゃない。まるで連携をとっているかのようにアイズが躱した先に二体の人型が腐食液を吹き出していた。
(…避けれない!)
アイズは直撃を覚悟して、戦闘を続けられる可能性を残すため身構えた。
一級武装を溶かす腐食液の前ではその少しの抵抗も無意味。
腐食液がアイズにかかろうとしたその瞬間、ピキピキとと音がした。
そして急激に寒気を感じた。
なんだろうと思いゆっくり目を開けようとしたら今度は逆に暖かくなった。
アイズが目を開けたら目の前は真っ黒だった。
アイズは体の感触で今抱きしめられているというのを理解して、次第に視線を上げると先ほど思い浮かんだ人物に似ているキラキラと輝く銀色。
じっと見てると視線を感じたのか目があった。
赤と青、左右で色の違う瞳にアイズが映る。
「…お疲れ」
「…え、あ…」
「…どうかした?」
「…う、ウル…?」
「そうだよ」
アイズの反応にウルはクスクス笑いながら、ロキ・ファミリアがいるところまでアイズを抱えて行った。
アイズはその間、優しく抱擁されているということに恥ずかしくなって頭からプシュ〜と煙が出ていた。
「「アイズ(さん)!!」」
アイズが無事だったことにロキ・ファミリアのみんなは安心した。
皆がアイズに駆け寄っていく中、ロキ・ファミリアの幹部達はアイズを助けたウルに視線を映した。
「おい女男!なんでてめえがここにいやがる!?」
ベートはウルを見るなり突っかかるが、それをガレスが止める。
「…1ヶ月ぶりだねウル。まずはアイズを助けてくれてありがとう。お礼をしたいところなんだけどまずはあれらを対処しなきゃなんだけど」
フィンは視線を人型の方に移す。そして先ほどフィン達が51階層から戻るときに通った道からは、先ほど倒した数と同等の数の芋虫型が侵入していた。
それを感じ取ったロキ・ファミリアの幹部達は覚悟を決めたように戦闘態勢に入る。
皆が皆満足のいかない武装をしているロキ・ファミリアをウルはじっと見ていた。
「フィン達は武器がないのか?」
「あの新種は武器を溶かす腐食液を吹き出すモンスターでね。不壊属性の武器じゃないと一回の攻撃で武器をダメにしてしまうんだよ」
「それを知らずに攻撃してしまったからの、わしらは今武器はないんじゃ」
フィンは苦笑し、ガレスは手をぷらぷらと振っている。
「わかった。フィン達は何もしなくていい。ここは
「そう言えば君の仲間はどこにいるんだい?」
フィン達は先ほどから見えないウルの仲間を探すもどこにも見当たらない。
幹部達の行動にウルは首を傾げる。
「…何をしてる?みんななら
言った途端に、ウルの
するとそこから大小様々な黒い柱が十本出てきた。
それが剥がれていくと中にいたのは、黒いマントを羽織っている10人。
その背中には鴉を囲む三本の大鎌が描かれていた。
そのエンブレムは、現在のオラリオで最強と謳われるファミリアの証。
人数は中位派閥よりも、もしかしたら少ないその数は、たったの10人。
だがその誰もが卓越した才能と実力を持っている。
まさに少数精鋭のファミリア。
その名も…
「あとは俺たちハデス・ファミリアが受け持とう」