死神英雄譚   作:ちゃむこ

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11話 弱肉強食

「よっしゃあ!ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!」

 

乾っ杯ー!!

 

豊穣の女主人に入って、大量にメニューを頼んだロキ・ファミリアは、ロキの音頭を終えすぐに騒がしくなっていった。

 

「団長つぎます、どうぞ」

「ありがとう、ティオネ。でもさっきから、僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけど、酔いつぶした後、僕をどうするつもりだい?」

「なんもありませんよ?どうぞ、もう一杯!」

「ほんと、ぶれねぇなこの女…」

「うおーっ、ガレスー⁉︎うちと飲み比べで勝負やー!」

「ふんっ、いいじゃろう。返り討ちにしてやるわい」

「ちなみに勝った方は、“リヴェリアのおっぱいを自由にできる権利”付きやァッ‼︎」

「じっ、自分もやるっす‼︎」

「俺もおおお‼︎」

「オレもだ‼︎」

「私も!」

「ひっく。あ、じゃあ、僕も」

「団長ーっ⁉︎」

「リ、リヴェリア様…」

「言わせておけ…」

 

「相変わらず騒がしい連中だね…」

「主神が主神だからな」

 

さらにヒートアップする宴に、クランは苦い表情を浮かべ、ウルは特に気にすることなくワインを飲む。

 

「そう言えば、お二人はよくベルクさんと三人で来てくれてますが、毎回クランさんとベルクさんはたくさんお酒を飲まれるのに、ウルさんってワインを2、3回おかわりするだけですよね?お酒弱いんですか?」

 

「普通だと思う」

 

「あはは!シルは良くそんな細かいところに気付くね。ウルはホームで飲む時以外は基本抑えてるんだよ。()()()()()だからね、ウルは」

 

()()()()()という言葉をクランが言った瞬間、ピクピクと耳を動かしたシル。近くで料理を運んでいるリューもこっそりと聞く耳を立てている。

 

「その()()()()()というのは一体どんな感じに大変なんですか!?

クランさん詳しく!」

 

「それは…ここでは秘密にしておくよ。もし機会があればそん時に自分で酔わせてみなよ、きっと楽しいから!ね、ウル?」

 

「楽しいかはわからないが、まあ今度なシル」

 

「はい!いつでもお待ちしてます!」

 

元気よく返事したシルは、一旦、先程案内したベルの元へ向かった。慣れない場所で1人だったからか、あまり食事が進んでなく、心配で見に行ったんだろうと察したクランは、シルは中々周りを見ているなと思っていた。

一方ロキ・ファミリアの方はというと、アイズが酒を勧められていた。

 

「アイズさん、お酒は飲めないんでしたっけ?」

「アイズにお酒を飲ませると面倒なんだよ、ねー?」

「え?どういうことですか?」

「下戸っていうか、悪酔いなんて目じゃないっていうか…ロキが殺されかけたていうか……ウルを襲ったっていうかぁ」

「ティオナお願い、その話は…」

「あははっ!アイズ、顔赤〜い!」

 

その会話を聞いて思い出すウルとクラン。

ウルからすると、ただアイズが何度も体に触れたり抱きついてきたりするだけとあまり気にしていなかった。

ただクランからすると、ウルも酔った時は、案外似たような感じだけどなと思っていた。

 

アイズ達の会話はシルにも聞こえていたのか、向かいのカウンター席から黒いオーラを出し笑顔でウルを見ているシルがいた。

ウルはその視線に気付いたが、黒いオーラまでは見えなかったのか、微笑みながらシルに向かって軽く手を振るウル。

それを見たクランは、(流石のシルもこれじゃ許さないだろ…)と、そっと視線をシルに向けた。

 

(いやデレデレなのかよ…)

 

先ほどまでの黒いオーラはどこへやら、ぽわぽわと暖かいオーラに包まれ、顔の筋肉が緩んでいるんだろう、顔を手で隠すシル。

 

(もうどうでもいいや)

食事を再開いしたクラン。

一方、さらに馬鹿騒ぎするロキ・ファミリア。

店はより一層騒がしくなっていた。

 

「そうだアイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

酔いが回ったのか顔を赤くしているベートは、ふらふらになりながらも大声で話す。

 

「あれだって、帰る途中で逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ⁉︎そんでほれ、あん時いたトマト野郎の!」

「ミノタウロスって、17階層で返り討ちにしたら逃げたやつ?」

「それそれ!奇跡みてえにどんどん上層に上っていきやがってよ。オレ達が泡食って追いかけていったやつ!」

 

その話に反応したのは三人。ロキ・ファミリアの掟として、その場にいたが手を出さなかったウルとクラン、そしてもう一人は…

 

「それでよ、いたんだよ。いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者(ガキ)が!」

 

その出来事により恐怖を植え付けられたベル。ベルの体が微かに跳ねたのをウルとクランは見逃さなかった。

 

「あれには腹抱えて笑っちまっまぜ。兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまってやんの‼︎」

「ふむぅ?それでその冒険者どうしたん?助かったん?」

「アイズが間一髪でミノを細切れにしてやったんだけどよぉ、そいつ…あのくっせー牛の血を全身に浴びて…真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

 

机を叩き大爆笑するベート。アイズは俯いていてだんまりしていた。

そのベートの様子を見ていたウルとクラン。ウルは食事を続けていたが、クランはバレない程度にベートに殺気を放とうとすると、ウルがそれをやめさせた。

 

「あれは向こうのファミリアの話だ。いくらクランがベートが苦手でも、他所のファミリアの雑談に首を突っ込まなくていい。自分たちで終わらせるべきだ」

 

「…ごめん」

 

クランはもう気にしまいと、お酒をぐいっと飲み干しおかわりをした。

尚も話してるベートの声にイライラはするものの、ウルの指示に従い無視する。

 

「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ…ぶくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

「………くっ」

「「アハハハハッ!」」

「そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせるアイズたんマジ萌えー‼︎」

「ふっふふ… ご…ごめんなさいアイズっ。流石に我慢できない…!」

 

その場は笑い声に包まれ、誰もが遠慮なく笑い声を上げていた。

ベートの話が聞こえていたのか、他の冒険者もクスクスと笑っている。

 

「……」

「ああぁんほら、そんな怖い目しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」

 

アイズがだんまりしていることに気付いたティオナは、なんとかアイズを励ましていた。

アイズのテンションを下げた張本人のベートの話はまだ終わらない。

 

「しかしまぁ、久々にあんな情けねぇヤツを目にしちまって胸糞悪くなったな。野郎のくせに泣くわ泣くわ」

 

「いい加減、そのうるさい口を閉じろ、ベート」

 

バカにする様に話すベートに痺れを切らしたリヴェリアがベートを止める。

そしてその話を笑っていた他の団員にも非難の声を上げる

 

「ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利はない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツを擁護して何になるってんだ?ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

「これやめえ、ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

彼らの主神であるロキが止めるが、ベートの口は止まることはなかった。

 

「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を」

「…あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

 

アイズの言う通りだ。

ベルは1ヶ月前に冒険者になって、レベル1の新米冒険者。そんな者がレベル2のミノタウロスと対峙したら恐怖に陥るのは当然だった。

 

「けっ…じゃあ質問を変えるぜ?あのガキとオレ、ツガイにするならどっちがいい?」

「…ベート、君何言ってるかわかってる?」

 

ベートの発言に軽く驚くフィン。誰がどう見ても今のベートは酔っ払って悪絡みしている。

そんなベートは、フィンの問いかけを一蹴して、アイズに問う。

 

「ほらアイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちにめちゃくちゃにされてぇんだ?」

 

アイズの隣に座るレフィーヤは、顔を赤くしてあわあわとしていた。

そしてちゃんとその会話も聞こえていたウル達。

ウルはよく異性から言われるツガイの意味をいまいちわかっていなく、ベルのところから戻って来ていたシルに聞くも、顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと呟いていたため聞き取れなかった。

一方クランは、アイズがウルを想っていることは察しているので、分かりきっている結末に、心の中で笑っていた。

 

「私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

「無様だな」

「黙れババァッ!…じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してる抜かされたら受け入れるってのか?」

 

アイズの言葉に、わかってたとは言え、いざその言葉を聞くと吹きそうになったクラン。

 

さらに続くベートの質問に言葉を詰まらせたアイズ。

アイズにはそんな余裕がなかった。

アイズは常に強さを欲していた。どんなに強くなろうと、限界を越えようと、さらに上の高みを目指していた。

その事は、長年一緒にいるウルもわかっていた。

 

 

「そんな筈ねぇよなぁ。お前よりも弱い雑魚、気持ちが空回りしてる軟弱野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ。

他ならないお前がそれを認めねぇ」

 

ベートはさらに続ける。完全に酒が回ったベートは、さらにその嫌な性格を発揮し、踏み込んではいけない域に愚かにも入ってしまう。

 

「…あいつ…お前が心を許す()()()()()だってそうだ」

 

ベートの出した名前に、誰よりも早くクランがピクッと反応した。

 

「今はあんな【オラリオ最強】って言われてるが、15年前にあいつは負けたんだ。全てを失い仲間も主神も帰る家すら守れない…敗北者の雑魚だ!」

 

ウルはそっと目を閉じ15年前の出来事を思い出していた。

 

 

 

当時、自分が所属していた、オラリオで最強と謳われていた二つの派閥の一つ、名を【ゼウス・ファミリア】。

そしてヘラ・ファミリアと協力して行った三大冒険者依頼のこと。

 

「団長、みん、な…どうして…どうして…俺…を」

「お前、は…まだ…子供…だ…俺たちの…分まで…想…い、を…託す…ぞ

生…きろ……ウ………ル………」

「あ、あぁ…ああああああぁぁぁぁぁアアアアア‼︎」」

 

 

 

 

今でも鮮明に覚えてる記憶。どんどん体の奥底から黒いモノが溢れ出てくる感覚に襲われるウル。我慢するように拳をギュッと握り、溢れ出てくる黒いモノを必死に押さえ込む。

その様子をクランとシルは心配そうに見つめる。

 

クラン含め、ハデス・ファミリア全員、ウルの過去をハデスから聞かされていた。

彼の今までの人生がどれほど辛く、残酷だったかは話を聞いた時、容易に想像出来た。

ハデス・ファミリアの団員で、初期団員のベルクとティエリアを除いた他の団員は、過去にウルに助けられてファミリアに入った者たちだった。

もちろんここにいるクランもそうだった。

自分に希望を、道標を、生きる意味を与えてくれたウルのことを、クランは主神のハデスよりも敬愛し憧憬し尊敬していた。

そんな自分にとって大切な人を、敗北者と、雑魚だと馬鹿にされたら誰もが怒るだろう。

 

実際、クランは限界だった。

 

あと一言でもベートが口を開き、その耳障りな声を出したら、自分の理性を止められるのか分からない状態にまでなっていた。

 

()()じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 

()()】、その言葉を聞いた瞬間、クランの中で何かが切れる音がした。

自分の憧れを…誰よりも孤高で強く、だが誰よりも優しい、クランにとってどんな英雄譚に出てくるよりも英雄だと思った人物。

それを【()()】呼ばわりされたことに、クランの中でドロドロとした感情が湧き上がる。

 

 

【剣姫】と釣り合うとかはどうでも良い…

どこの誰かをバカにするのもどうでも良い…

雑魚は雑魚。この世界は弱肉強食、強者が弱者を見下すのは強者の特権、そんなのわかってる。

あいつは酒に酔ってるだけ、普段なら思ってても言えないだろう。

だけど…

 

俺の英雄を見下す奴は、どんな奴だろうと、どんな状況だろうと…

 

 

殺す

 

 

 

金髪の少年は瞬時にナイフを取り、標的へと投げつけた。

 

ベートの前に座っていたアイズはわずかに気付いた。ベートの頭上が一瞬、何かが反射して光ったことを。

刹那、ベートの顔面はもの凄い音を立てながら床へ叩きつけられていた。




お気付きかも知れませんが、クラン君はウル君大好き人間です。
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