死神英雄譚   作:ちゃむこ

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12話 万全と挑発

ベートが床に叩きつけられたと同時に、1人の少年が店から飛び出していったが、一同はそのことよりも現在の状況に意識を持ってかれていた。

ベートの頭が机を壊しながら床に叩きつけられたことにより、その勢いで料理が落ち、皿が割れる音が店内に響いていた。

 

ベートの頭を叩きつけたのは金髪の美少年。もう片方の手には片手ナイフを持っていた。

 

そこでアイズは気づいた。頭上で光った正体はあのナイフだと。

同時にアイズは驚愕していた。ナイフが飛んできてからの金髪の少年・クランの動きが()()()()()()()()ことに。

 

「さっきからうるせぇんだよ…誰が雑魚だ…敗北者だ…いい加減うぜぇんだよ駄犬。どこのどいつだろうがウルを笑った奴はたとえ神だろうと壊す、俺はそう決めてるんだ。だから…その腐った脳みそ諸共壊してやるから、有り難く逝けよ」

 

「…あぁ?上等じゃねえか人形野郎…レベル4が強がんなよなぁ!」

 

今にもクランとベートが衝突しようとしていた。フィンたちや豊穣の女主人で働いている従業員含めこの場にいる全員がまずいと焦り始めた。

豊穣の女主人の従業員の中には元冒険者、暗殺者などの手練れが数名いるため、大抵の騒ぎは鎮圧できるが、今回ばかりは彼女らには荷が重すぎた。

方やロキ・ファミリアの第一級級冒険者【凶狼(ヴァナルガンド)】、そしてもう片方に関しては、ハデス・ファミリア1の戦闘狂であり、相手がモンスターでも人でも、普通の人間ならしないような惨虐的な闘い方をすると言われる【狂人形(バーサークドール)】なのだ。

 

そんな2人の戦いを止めることなど、彼女らには荷が重すぎた。

この店の主人ならできそうだが、その人物は意外にも、特に干渉することもなく料理を作り続けている。

 

「ミア母さん、これ修理代と迷惑料。最小限にはするから」

ウルはたくさんのヴァリスが入った袋をテーブルに乗せた。

 

2人の喧嘩が始まりそうになり、フィン達や従業員含め、なんとか止めるために動こうとしたその瞬間、その場にいた誰もが死を感じた。

 

やめろ

 

たった一言、少し殺気を込めてウルが呟く。

それだけで空間はまるで絶対零度のように凍え、恐怖のあまり全員呼吸ができなくなった。店にいた数名の冒険者は泡を吐きながら倒れていくが、そんな事を気にする余裕が自分たちにはなかった。

それもそうだ、ロキ・ファミリアの幹部組ですら、この殺気で一瞬だが、恐怖で身体が痺れ動けなかったのだから。

 

だが、クランだけはその殺気に耐えていた。クランの頬からツゥーと汗が垂れるも顔は未だベートに対して怒りの表情を浮かべていた。

 

「クラン、怒ってくれるのは嬉しいがここは店の中だ。外で殺り合うなら文句は言わない。

…ただもし中で殺り合うなら、申し訳ないが俺は2人を止めないといけない。

…その意味が分かるよな?」

 

「…わかったよ。それじゃ外で殺るね」

 

クランは外の地面目掛けてナイフを投げた。

 

「おい雑魚、てめぇさっきからなに巫山戯たこといっt」

 

今度はベートの顔面をもう一度鷲掴みすると、2人は一瞬で姿を消した。

と思ったら、先程外に投げたナイフの場所に瞬間移動していた。

フィン達ロキ・ファミリアは、その出来事に驚きつつもすぐに外へと出ていった。

 

「「ウルさん!」」

 

シルとリューがウルを呼び止める。先ほどまでとてつもない殺気を出していたウルだったが、2人の心配そうな顔に思わずクスッと笑った。

 

「店に迷惑をかけてすまない。今度なにか…あ、今度うちのホームでいつものパーティーをするんだが良かったら来てくれ。

…ミア母さん、あなたもどうだ?今回のお詫びってわけじゃないが、その日一日店を貸し切る。それで休みでもして、みんなでホームに来てくれ。

ハデスもきっと喜ぶ」

 

ウルはシルとリューの頭を撫でながら、ウルの前へと移動したミアに相談する。ウルの提案にアーニャとクロエ、ルノアはおぉ〜!と目を輝かせていた。

一方でシルとリューは、撫でられている事に頭がいっぱいなのか頭から煙が出て話を聞いてないようだった。

自分の店の従業員であり、可愛い娘達でもあるシル達の表情を見て、はぁ…と頭を抑え溜息を吐くミア。

 

「前回も一度断ったら、あの神がしつこく説得してきたからね。

前みたいなのはごめんだから仕方ない…それで手を打ってやるから早く店の前の勝負を終わらせな。どうせあの2人だ、止めたところで聞きやしないだろ、ならさっさと勝敗つけな!

…あんたらは、いつまでデレデレしてんだいバカ共!さっさと仕事に戻んな!」

 

ミアは、シルとリューの頭にゲンコツを落とし、無理矢理に覚醒させた。

2人は突如襲った痛みに、若干涙が出るもミアの怒りの前に、すぐに仕事へと取り掛かる。

 

「それではウルさん!私楽しみにしてますから!」

 

「私も楽しみにしています。あなたのことですからなにもないと思いますが、お気をつけて」

 

シルは薄らと頬を染めながら小さく手を振り、リューは丁寧にお辞儀する。

ウルも2人のマネとして、一度お辞儀をしてから慣れない感じで軽く手を振り、

人だかりができてる外へと向かった。

 

「状況は?」

 

「あ、ウル…」

 

「あ!ウル、ごめんねベートが変なこと言って。ウルだってイライラしただろうに…でも大丈夫?クランはレベル4とは思えないぐらい強いのは知ってるけど、ベートも強いよ?今は()()()()()()けどそれでも…」

 

ティオナが言った()()()()()()()と言うのは、狼人なら誰もが持っている能力で、月の光を浴びると獣化してアビリティに補正がかかる能力。ダンジョンでは発揮されないスキルだが、今は外な為に、その能力が発動できる状態ではあるが、幸か不幸か現在空は大量の雲に覆われていて月は出ていなかった。

 

「お前は優しいなティオナ。他派閥のクランを心配してくれて、ありがとう。

アイズもあんな事を酔っていたとはいえ、みんなの前で言われたのは嫌だったろ。クランが終わった後、俺も少し話すから一緒に言っておく。

店を飛び出したあの子のことも、俺たちが対処するからもう落ち込むな。わかったか?」

 

「ウル…うん、ありがと」

 

「ん、どういたしまして」

 

ウルはアイズの頭をぽんぽんと撫でながらも、距離を空けて向かい合っているクランとベートを見る。

 

「でも本当に大丈夫かなー。ティオネはどっちが勝つと思う?」

 

「普通ならベートでしょうけど、相手はクランよ?ウルも含めハデス・ファミリアに常識はないしね。あんたが言ったみたいに、月が出てなければいい勝負するでしょ。でしょ、ウル?」

 

「確かにそうかも知れないが、怒ってる時のクランは、万全な相手を徹底的に潰す。なら分かるだろ、あいつがこれからすることは」

 

「「なに(なによ)それ」」

 

「…すぐわかるさ」

 

ウルの言葉にアイズとヒリュテ姉妹は頭に?を浮かべながらも、今にも始まりそうな二人に視線を移す。

どちらが先に動くか、いつ始まっても見逃さないように、囲む人々は集中していると、クランが真っ直ぐベートを見て口を開いた。

 

「今は月が出てない」

「だからなんだよ」

「俺はキレてる。お前を殺したいほどに。だけど、殺しちゃうと後々戦争になるかr…いやでも、このことみんなに知られたらどっちみち戦争になるんじゃ…ま、いいや…とにかく殺すのはダメだから、お前が1番嫌なことをしようと思う」

「人形のお前が俺を殺す?はっ、相変わらず口は一丁前だなぁ格下が!」

「その格下に万全の自分が負けたら、一体どうなるんだろうなぁ犬!

…と言うことで、ウルお願いしていいかな?」

 

クランはウルに視線を向けると、顔の前で手を合わせお願いした。

自分のために怒ってくれているとわかっているため、断りづらいウルは渋々うなづく。

 

「…アイズ、その剣借りてもいい?」

 

アイズは、今日ゴブニュ・ファミリアで愛刀の整備をしてもらってる間に渡された代剣をウルに渡した。

ウルは剣を受け取りスッと抜くと、刀身を見る。

 

「良い剣だな。…すまないが少し離れてくれると助かる」

「?わかった」

「ウル?何するのー?」

「ちょっ…あんたまさか」

 

ティオネはウルが何をしようとしているのか察したらしく、冷や汗をかく。

そしてそれを近くで見ていたフィン達も、ウルが何をしようとしているのかわかったらしい。

 

「彼は本当に…」

「ああ…」

「相変わらず…」

「「「化け物だね(だな)(じゃな)」」」

 

ウルは空に向かって、視認できないスピードで剣を振るった。物凄い風が吹きあられ殆どの者が一瞬目を瞑った。

そしてすぐに風が止み、目を開けると、その場は()()()()()()()()()()()。全員はまさかと思いバッと空を見上げた。

 

「う、嘘…そんな…」

「こんなの…ありえないっすよ…」

 

レフィーヤとラウルは、ただ目の前の光景が信じられなかった。

それもそうだろう。都市最強とはいえ、魔法も使わず、ただ思いっきり剣を振っただけで()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「ありがと、ウル!…俺がやった訳じゃないけど、ほら、月が出たよ」

 

「…そこまでして俺に力を出させてぇか…あとで無様に泣き喚いても遅えぞ…

いいぜ…お前の望み通り…」

 

月が出たことにより、ベートの体がやや一回り大きくなり、髪の毛や尻尾の毛が逆立ち凶暴的になっていく。

そして上昇したステイタスを使い、思いっきり脚に力込め、地面を蹴った

 

ぶっ殺してやるよクソ人形ガァァァァ!

 

獲物を狩るように、もの凄いスピードでクランとの距離を詰めるベート。

もはやその場にいる第一級冒険者ぐらいにしかベートの姿は捉えキレていない。

そんな速さで向かってくるベートの姿を、じっと見ていたクランはニヤァと、不気味な笑みを浮かべた。

 

「たっぷりと遊んでやるよ…【凶狼(ワンちゃん)】」

 

スッと両手を前に出し、クランは呟く。

 

「《轟け(チャージ)》」

 

 




タイトルってどう書けば良いのかわかりません…笑
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