死神英雄譚 作:ちゃむこ
今回で、クラン君ファンが出てきたら嬉しいなって思います笑
それではどうぞ!
「…ウソ…でしょ?」
「そんな…」
この場にいた誰もが、目の前の状況に追いつけないでいた。
冒険者にとって『レベル=強さ』と言うのは誰もがわかっていた。
例えば、同レベルでステイタスも同じだった者が2人いたとしよう。その片方のステイタスを昇華し、すぐに2人を戦わせたら、ステイタスを昇華させた者が容易に勝つだろ。それぐらいレベルと強さは比例している。
そのため冒険者は基本、自分より上のレベルの者たちとは争わない。
その理由は至極簡単だ。勝てないからである。誰も負ける戦いをわざわざする奴はいないだろう。
今回の騒動の中心であるクランとベートは、レベル4とレベル5。そしてどちらも接近戦を得意とするため、ステイタスの上がり方もほぼ一緒だろう。
これまでの説明をまとめると、間違いなく勝つのはレベルが1つ上のベートだと誰もが思うだろう。現に2人の戦いが始まるまでは、その場にいた誰もがそう思っていた。
だが、
「あはっ…あははははははは!」
ロキ・ファミリアの団員や野次馬たちに囲まれた即席の
その身体には傷どころか汚れひとつなく、それどころか身体は淡く光り、バチバチと雷を纏っていた。
その少年は、
「おいおい、どうした【
「く、そっ…テメェ…」
クランはニタァと不気味な笑顔を貼り付けたまま、現在椅子がわりにしているベートを見下す。
完全にクランが勝っていた。レベル4がレベル5を圧倒していた。
(本当に一瞬だった…)
アイズは目の前で起きたことを整理する。
(ベートさんがもの凄いスピードで向かっていって、同時にクランさんが何か呟いた。その瞬間クランさんが消えて、いつの間にかベートさんのふところ入って1発。そのあと、多分
それにしてもあの雷、雷を纏ってる様な姿にこの魔力…まるで
アイズはクランと纏っている雷をじっと見る。流石にロキ・ファミリアの幹部組と、魔法使いであるレフィーヤは、そのクランの異常な魔力に気付き、説明を求める様にウルに視線を移す。
レフィーヤ達はともかく、ロキ・ファミリアの初期メンバーであるフィン、リヴェリア、ガレスは気付いていた。
アイズの魔法とクランの魔法、その発動の仕方や魔力の質まで似ていることに。その事も踏まえて、説明してほしいと言う意味で視線を移していたのだが、基本他派閥とは、魔法やスキルなどは一緒に行動しない限りは秘密なため、ウルは首を横に振った。
「この事をこの場で、俺から言えることは一つだけ、
ウルの言葉にフィン達は眼を見開き、バッとクランへと視線を戻す。
クランとベートの戦いは終わっていなかった。
ステイタスが強化されたベートの攻撃は、一撃一撃がクランにとっては致命傷になるほどの威力。その力に自慢の速さまで加わった連撃を、クランは涼しげな顔で紙一重に避けていく。
「なんで当たんねえ!たかがレベル4の雑魚が、どうやったら今の俺の攻撃を躱せれんだよ!」
「雑魚雑魚うるせえんだよ犬っころ」
ベートがクランの顔目掛けて拳を振るうと、逆に、まるで電光石火の様に早い一撃をベートの腹に食らわすクラン。
「がはぁっ…」
「誰が雑魚だ、誰が弱者だ!誰が敗北者だ‼︎ウルは誰よりも強く、優しく、偉大な人だ。お前みたいなやつが馬鹿にしていい相手じゃ…ねえんだよ!」
クランの1発が入ると、そこから立場は逆転し、今度はクランがベートに連撃を叩き込む。1発1発が重く、そして速いその連撃はほとんどの者が目で追いきれないでいた。
「他の誰を馬鹿にしようが、僕にとってはどうでもいい。だが、ウルだけはダメだ。僕にとってウルは、誰よりも尊敬する大英雄だ。
お前は僕の英雄を貶した。その罪は重い、本来なら死をもって償えと言いたいけど、それはあまり君には罰にならない。だから君にとって死よりも屈辱な事をしようって決めたよ!」
クランはどこから取り出したのか、5本のハイポーションをベートに見せた。
「今から僕は君で遊ぶ。死ぬ前に回復させてあげるから安心してよ!レベル5だから大丈夫だと思うけど…すぐに壊れないで…ね?」
バチッと電気が弾けるとクランは姿を消す。
刹那、ベートの右足が本来曲がらない方向へと曲がった
「がぁぁぁぁあああぁ!」
「今のは大腿骨。次に膝蓋骨に関節。…痛い?でもこんな痛み慣れてるよね。さぁ、どんどん行こう!足だけを責めるのは可哀想だから、ハイ上腕骨、次に前腕の骨2本、尺骨と橈骨。手先は細かいから全部一緒に踏み砕くね?」
「がぁぁぁあ!クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが!」
普段から過激な言葉で自分たちを見下していた、自分たちの幹部であり絶対的な存在であったベート。そんなベートがボロボロにされている姿にロキ・ファミリアの団員は顔色が真っ青になる者、食べたものを吐き出す者など様々だった。
だがクランはそんな事も気にせず、どんどん続けた。
「肩甲骨に鎖骨、肋骨、あっもう片方の手足もやってくね?
………あはっあははは!凄いね!さすが全然壊れないね!でも、もうそろそろやばいだろうから、はい、これ1本目ね」
クランは無理矢理ベートにハイポーションを飲ませ、骨折を治癒させた。
痛みに耐えながらも、意識を飛ばさずクランを睨むベートの姿に、クランは眼をキラキラと輝かせ不気味な笑みを深くさせた。
そしてまた骨を折ろうと足をあげるクラン。
いくらベートが悪いと言っても流石にこれはやりすぎと判断したのか、ロキは神威を使ってでも無理矢理止めようと動こうとした瞬間、それよりも早く動いた者達がいた。
「いくらベートが悪いからと言っても…」
「流石にこれはやりすぎじゃ」
「これ以上は我々も見過ごせん」
フィン、ガレス、リヴェリアがクランを掴む。
レベル6の3人に抑えられているクランは、ニコニコと笑顔を崩さず、口を開いた
「あれ〜?これは僕と彼の喧嘩だと思ってたんだけど、それは僕の勘違いかな
?ハァ……無様だなベート・ローガ。口では雑魚だなんだと弱者を見下し、強者と疑わないお前が、ロキ・ファミリア最大レベルの3人に守られるなんて。
確かお前は前にも、どっかの酒場でその場にいた冒険者に言っていたな、確か『雑魚は雑魚らしく泣き喚いて逃げ恥を晒せ、雑魚が調子に乗って死ぬほど見苦しいものはないからな』だっけ?
良いね、その言葉。少し借りてお前にこの言葉を送るよ、“雑魚は雑魚らしく、泣き喚いて逃げ恥を晒せ。レベルでしか強さを語れない敗北者が”」
爽やかな表情とは裏腹に、吐き捨てる様に言ったクラン。その言葉に先ほどまで地獄の様な経験をしたベートは、ピクリと反応して、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がった。
「オ…レは…雑魚じゃ、ねえ…俺は
俺は強くなった!俺は【
周りから見たらベートはクランの方を向いて叫んでいた。だが、ベートの目はクランを見ていなかった。ベートの前にいるのは幼き頃の自分。全てを失い、強くなることを決意した時のベート・ローガの姿だった。
「なにが【猛者】だ、なにが【鬼人】だ、なにが【死神】だ!俺はお前らを蹴落とし、ぜってぇ越えてお前らを見下してやる!俺は誰にも守られねぇ!守られる雑魚には!弱者に成り下がらねぇ!だからさっさと俺に…ぶっ殺されやがれぇぇぇ!!」
「お前がウルに噛み付くなら、俺がその牙を全部引っこ抜いてやるよ!ベートォォォォ!」
2人は同時に動き拳を振るった。不意の動きに止めに入ったフィン達は反応が遅れでしまった。お互いに力が込められた拳は、お互い当たれば、大怪我は免れない威力。誰もがまずいと思ったその時、2人を囲む様に空中に現れた無数の金色に輝く波紋。そして、その波紋から伸びる鎖はがっちりと2人の身体の自由を奪っていた。
2人の動きを止めたこの鎖、一体誰がやったのかとざわつく団員たち。だが自然と答えが出た。ロキ・ファミリアの誰かならその場にいた者はすぐ気付くだろう。と言うことはロキ・ファミリアの団員以外となるとこの場にはクランともう1人。
レベル5とそれを圧倒する冒険者を、簡単に抑えられる強者。
都市最強であり、絶対的存在【死神】のウル、彼しかいなかった。みんながウルに視線を移すと、ウルの近くにいたアイズ達は、ウルの色違いの両眼が光っていることに気付いた。
「2人とも、そこまでにしとけ。さっきのフィン達の言った通り、クランは少しやりすぎだ。一歩間違えれば戦争になってもおかしくなかったぞ、でもクランが俺の分も怒ってくれたから、俺はクランに助けられた、ありがと」
ウルはクランを拘束していた鎖を消し、クランを自由にした。
「でもウル、こいつは君を!俺の…僕の英雄を馬鹿にしたんだよ?
…君は、ずっと暗殺者で孤独だった僕を、暗闇から救い出してくれた。今まで抱きしめられたこととかなくて、血の温もりしか知らなかった僕を、初めて抱きしめてくれた!
他にも僕は、君に色々なものを貰った。自分で作った料理は意外と美味しいとか、ただの口喧嘩が楽しいとか、ハデスやベルクやティエリア、ネロ達もまぁ案外嫌いじゃないし……特に君の隣にいれば!ただそれだけで心が満たされてたんだ…」
クランは自身の頬を濡らしながらも、ゆっくりとウルに近づき、ぎゅっとウルに抱きつく。ウルとの身長差は40C近くあるため、クランの体はすっぽりと埋まっていた。
「…僕は君に沢山貰ったんだ。お返ししたくてもどんどん君から貰ってばかり。僕は君になにも返せない、だから…だからせめて、君の邪魔になる奴は僕が消して、少しでも力になりたかった…
でも僕は…エルカ程じゃないけど、すぐに怒っちゃうから…君の迷惑にならない様にって気をつけてたのに…今こうして君に迷惑をかけちゃって…
言いたいこと全然まとまんなくてごめん…
でもね、これだけは知ってて欲しいんだけど…僕は…
…僕は
ぎゅっとウルの服を掴み、綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらも、真っ直ぐウルの目を見るクラン。
ウルはクランと初めて会った時の事を思い出していた。
暗殺者として自分を殺しに来た金髪の子供。ナイフを構えるその姿は、ウルからはどこか寂しそうに見えた。
暗殺者らしからぬ、無策な特攻を仕掛けてきた当時のクランを、普通なら簡単に避けれるそれを、わざと受けて抱きしめたこと。
『なんで…』
『君が、どこか寂しそうに見えた。抱きしめて欲しいって訴えてた』
『そんなわけ……そんなわげ…ねえだろ…俺はお前を殺しにきたんだ…
それなのになんで…なんで…涙がどまんないんだよ…
なんなんだよごれ…
なんでただ抱きしめられてるだけなのに…こんなにあったかいんだよ…』
『君はまだ子ども、泣きたい時は泣いて良い。わがままを言っていい、抱きしめてほしいなら、いつでも俺が抱きしめてあげる。俺も俺の仲間のみんなも、きっと君を1人にしない。だからもう我慢しなくていい』
『う…ぅ…うあぁぁぁああああ‼︎』
(あれから3年、大きくなったな)
ウルは、優しくクランを撫でながら、ハンカチでクランの涙を拭いていく。
しばらくして、涙が止まったクラン。
普段泣かないクランは、みんなの前で泣いた事で恥ずかしくなったのか、顔をウルの服に埋めて静止している。
少し可哀想に思えてきたウルは、一刻も早くクランをこの場から離脱させるために、クランにあるお願いをした。
「クラン、今からダンジョンに行ってもらえない?」
「…なんで」
「クランがベートを叩きつけたときに、ちょうど店を出て行った白い髪の男の子わかる?」
「……わかるけど。もしかしてそいつを追えって事?」
「そう。その子多分ヘスティアの眷属で、死なせたくない。話しかけなくて良いから死にそうになったら助けてあげて。あとで俺も向かう」
「……わかった」
「フフッ。ありがとクラン」
「…別に…君のお願いだから聞くだけだよ」
クランはスッとウルから離れダンジョンの方へ数歩進むもUターンしてベートの元へ行った。
「…なんだよクソ人形が」
「今回はこれで終わらせるけど、忘れるなよ、君は全力を出して僕に負けたんだ。レベルが下の僕にね。今度ウルを雑魚だなんだと馬鹿にしてみろ、次は完全に殺してやる…例えウルに止められてもね」
「…なにが言いてえんだ」
「今はそんな態度でも、心の内では悔しくて苦しくて堪らないだろ。君はレベル4の僕に負けた、その事実をちゃんと受け止めて、また1から
「ハッ泣き虫野郎がよく言uグハッ!「何かいったかな?駄犬」…クソが!」
「お前こそクソだ馬鹿犬!」
クランはベートに向かって思いっきりベーッ!っとやるとダンジョンへと向かっていった。
一方でウルは、未だ拘束されているベートの前へ移動する。
「今度はてめえかよ」
「俺がベートに言うことはそんな多くない。さっきお前が言った通り、俺はずっと負けてる。どんなに強くなったと思っていても、失ってしまう。
…お前の言った通り、俺は弱い」
「…は?なに言ってやがる!さっきはああ言ったが、都市最強のお前のどこが弱えんだよ、レベル9が一体なにに負けんだよ!バカにするのも大概にしやがれ!」
「孤独」
「…あ?」
「どんなに強くなっても孤独には勝てない。一度人の優しさを、楽しさを、温かさを、愛を、光を知ってしまったら、俺はもう知る前には戻れない。手放したくないと思うよ」
ウルは自分の胸に手を当て、ゆっくりと諭すように言った。
「どんなに努力してレベルを上げ強くなって、色んな痛みに慣れたとしても、孤独の寂しさは全く慣れない。人間は本当の意味で一人では生きていけない。どんなモンスターに勝とうが、どんな絶望的な状況も打破できる力を持ってようが、人は孤独には勝てないんだよ」
ウルは少し悲しそうに、まるで消えてしまうかのようにベートに微笑む。
同時にベートを拘束していた鎖も金色の粒子へと変わり消えていく。
「お前が優しいのは知ってる。なぜお前が自分より弱い人にきつく言うのかも大体想像はつく。でもお前の知らないところで、お前は周りに助けられてるって事を自覚しろ。
…あと、俺のことは、もうどうでも良いがアイズには謝っとけ。いくら酔ってたからって女の子に言って良い事じゃない。後日アイズに聞いた時、謝罪してなかったら…な?」
「…チッ、わかったようるせぇな」
ベートはめんどくさそうにしながら、スタスタと店の方へ歩いて行く。…が、急に糸が切れたようにその場に倒れる。横にはいつの間にか移動したウル、その手には縄を持っていた。
「なに当たり前のように店に戻ろうとしてる。お前は今日はもうダメだ、夢の中で反省しなさい」
スパパッとベートを縄で縛り、担いでフィン達のもとへ持っていくウル。ベートを落としてから持っていくまでの流れが、一瞬すぎてその場にいた殆どの者達は理解できていなかった。
「本当にすまない。君にはまたお礼と謝罪をしなければいけない事が増えてしまったね」
「今回はこっちもやりすぎた節がある。今回のは気にしなくて良い」
申し訳なさそうにするフィンに、ウルは気にするなと手を向けた。
「久しぶりやなウル。元気そうで何よりや」
そんな二人の間に割った入ったのは、赤い髪にやや露出の高い格好をしたパッと見女性に見えない女神、ロキ・ファミリアの主神ロキだった。
「ああ。ロキも元気そうだな」
「うちはいつでも元気やで!あ、まずはダンジョンでのことフィン達から聞いたで、うちからも礼を言うわ。ありがとな、うちの大事な子たちを助けてくれて」
ロキは珍しく真面目に頭を下げて礼を言う。最近礼を言われるのが増えたなと少し困るウルだった。
「目の前にいたから助けただけだ。今回のことも特に気にしていない」
「そう言ってもらえるとうちらとしてもありがたい「ただ」…ん?」
「…いや、ベートに酒はほどほどにと伝えてくれ」
「…わかった、しっかり伝えとくわ。また後日礼と謝罪させてや」
「ああ」
ウルはクラン達の方へ向かおうとすると、妙に視線を感じ振り向くと、シュンッとした顔をしているアイズがいた。
「あの…ごめん」
「なんで謝ってるんだ?」
「私たちが起こしたトラブルなのに、ウル達に迷惑かけちゃって…」
「フフッ、そういうことか。別にアイズが気にすることじゃない。だけどもし、ずっと負い目を感じるのなら、俺たちの分まで楽しんでくれると助かる。そして次会った時その楽しかった話を聞かせてくれ、そうしたら俺は今日の事を良い思い出として上書きできる。だからたくさん楽しめ、いいな?」
「…そんな事で、良いの?」
「それで充分だから言ってるんだよ。わかったか?」
「うん、いつもありがとう」
「フッ、はいよ」
ぽんぽんと軽くアイズの頭を撫でたウルは、ティオネ達やフィン達にも軽く別れを言うと、ダンジョンへと向かっていった。
ウルの姿が見えなくなり、ロキ達はベートを逆さにつるしてから店へと戻っていった。
後日、今回の件でもう一波乱ある事をこの時のロキ達はまだ知らなかった。