死神英雄譚 作:ちゃむこ
【黄昏の館】
それはオラリオで屈指の実力を持ち、三大派閥でもあるロキ・ファミリアのホームである。幹部組は第一級冒険者であり、その数は7人と他派閥と比べてもかなり多い。それに、何よりの特徴は幹部組以外にもかなりの実力を持つ者が多数存在し、その団員数と統率力はオラリオ一と言える。
そんな彼らは自分たちのホームの門を、交代制で主に若者たちに見張りを任せている。
だが見張りを付けているからと言って、オラリオで名を轟かせているロキ・ファミリアのホームを襲う者などいるわけがなく、殆どの仕事は精々人払いぐらいだろう。
ただ今夜はそんな簡単な仕事ではなかった。
「止まれ。ここはロキ・ファミリアのホームだ。この時間から人が来るとは聞いていない、すぐに帰れ」
門番が前からまっすぐやってきた7名の集団に、去るよう伝える。
だがいくら言ってもその者たちは動かさぶりを見せず、じっと大きな城のような建物、黄昏の館を見ていた。
そんな彼らに痺れを切らしたのか門番はさらに強く言い聞かせる
「聞いているのか
門番の言葉に真ん中に立つ黒髪赤目の神が、まるで相手を射殺すかのような鋭い視線を門番に向けた
「どうやら貴様は我らが誰か分からないらしいな。遠い田舎から来た新人か、はたまたまただの馬鹿か…相変わらずあの道化は子の数は増やすが、躾というのが出来てないらしいな」
「…き、貴様!我々を馬鹿にする気か!」
「する気ではなくしているのだ。そんな事も一々他人に聞かなくてはいけないのか愚か者が。…貴様と話すのはつまらん、早く我の道を阻む門を開け、貴様は消え失せろ。今ならそれだけで先程までの無礼を許してやる」
「先ほどから舐めた事を!ここはオラリオ
「…さっさと開けろ、次はないぞ」
「貴様ぁぁぁ!」
門番は集団に武器を構えて突撃した。流石はロキ・ファミリアなだけはあり、その速さはそこらの冒険者よりも研ぎ澄まされていた。
だが悲しいかな、目の前の相手にその程度の速さは、残念ながら移動というカテゴリには入らない。ただずっと止まっているようにしか見えない。
「邪魔だゾ」
7人の中で一番小さい影が、突撃してきた門番の腹に鋭い蹴りを食らわせた。
レベル差的に殺してしまいそうなその蹴りは上手く力を調節したのか、門番の意識を刈り取るだけに収まった。
「うわぁ…これってもしかしてネロガチギレなやつじゃない?」
「もしかしなくてもガチギレだろう、あのネロが自分の身体で攻撃したんだぞ」
「ネロちゃんは1回怒ると、止められるのはウル君ぐらいだからね〜。これはエメ、ちょっとティオナちゃん達が心配だよ〜」
エルカ、フェルナ、エメは普段見ないネロのガチギレに若干の冷や汗を出していた。エメはともかく、ロキ・ファミリアの団員達に強者の印象を与えているエルカとフェルナですら、この状態のネロにはあまり近づきたくない様子。
それもそうだ、おそらくハデス・ファミリアで最も怒らせてはならないのは、種族で一番力のない小人であるこのネロなのだから。
ネロとハデスは倒れている門番を無視して先に進む。それに続いてエルカ達も進んでいき、その姿をベルクとティエリアは、はぁーと大きな溜息を吐きながら、ベルクは倒れている門番を敷地の方で寝かせてから後についていった。
ロキ・ファミリアside
こちらでは夕食の時間だったのか皆が揃って食卓を囲っていた。
勿論フィン達幹部組も仲良く食事をしていた。
「ほんとすごかったよねウルとクラン。クランはレベルが上のベートに勝っちゃうし、ウルなんて剣を一振りで雲を割っちゃったし!」
「確かにあれには驚かされたわね…さすがレベル9、あの殺気も悔しいけど全然動けなかったわ」
「私なんか意識失いかけましたからね…アイズさんはどうでした?」
「私も全然…あんなに怒ったウルは初めて」
仲良し4人組はあの酒場の件が忘れられないのか、その話題しか話していなかった。そんな会話にフィンやリヴェリアやガレス、ロキも混ざっていた。
ベートはクランにやられた事が未だに引っかかっているのか、イライラしている様子だった。
みんないつものように楽しく会話をしていた。いつもの幸せな日常を過ごすロキ・ファミリア。だがその日常は一瞬にして消え、楽しいその空間に闇が訪れる。
コツ…コツ…と不気味に響く足音に、ロキ・ファミリア一同は廊下に通ずるドアに視線を移していた。
「なんやこの音?」
ロキが眉間に皺を寄せてドアを睨む。そしてロキやリヴェリア、アイズ達は五感に自信があるフィンに視線を移す。
「フィン、この音は」
「足音は一つだけど気配は7人。だけど人物の特定ができない程度に抑えてる…相当な手だれだ」
フィンの推理に幹部組は、少し動揺するも流石は第一級冒険者か、すぐにドアの近くへと移動し戦闘態勢に入る。そしてそれと同時にドアが吹っ飛び煙が舞う中、気配の正体は食堂へと入っていく
段々と煙が晴れていき、侵入してきた者の姿が見えていく
「…ほう?どうやら食事中だったようだなロキ」
「な、ハデス!?何やってるんや自分!?」
「ティエリア!?なぜお前がいる!?」
「ベルクにネロ、エルカやフェルナやエメまで!?え!なんで!?」
侵入者の正体がハデス・ファミリアだと気付いたロキ達は、驚きのあまり固まっていた。なぜここにハデス・ファミリアがいるんだとみんな疑問になっていた。
「なに、少しばかり
「…邪魔するなら帰ってや〜って言いたいところなんやけど…そんな雰囲気じゃなさそうやな」
ロキは鋭い眼差しでハデスを見る。普段のおちゃらけているロキとは全く別神の雰囲気を纏っていた。だがハデスはそんなロキの視線を受けても、特に気にする事なくロキ・ファミリアの幹部組合わせた全員に視線を配り、目を瞑った。
「ああ、我としても残念ではあるんだがな。今回ばかりは少し無理だったようだ」
「…なんのことや」
こちらも普段の明るい感じとは違う、重く押しつぶすようなハデスの声にロキ含めこの場にいる全員が警戒体制を取っていた。
ハデスの後ろにいるベルク達にも警戒する幹部組。
だがフィンやリヴェリア、ガレスはすぐに気付いた。
ネロやエルカ達はともかく、ベルクとティエリアに関しては普段と変わらない気配だと言うことに。
その事に一先ず安心した3人だったが、すぐにその余裕はハデスの一言によって崩れてしまうこととなる。
「まさか貴様らを、
ゆっくりと開かれた血の色のように赤い双眼は、万物を凍らせる絶対零度の様に冷酷な眼でロキ達を見た。
その眼に無意識に生存本能が出たのか、フィン達は咄嗟にハデス達へと向かっていった。
ただ…その中でもリヴェリアだけは動けなかった。
冷静さでは団長であるフィンの方が上だろうに、何故か今回はフィンは向かって行き、リヴェリアは止まっている。それは何故か、答えは簡単、
ある1人の力を。その規格外さを。恐ろしさを。
こういう面倒ごとに、普段のめんどくさがりな性格からして絶対に来ないであろう人物がいる時点で、リヴェリアの心臓は破裂するのではないかと言わんばかりにバクバクとなっていた
その人物はハデス・ファミリアの団長ではなく、仲のいい従兄弟でもなく。ましてやエルカ達でもない。
オラリオに5人しかいない、
その人物は、自分たちに襲いかかってくるフィン達を、まるでゴミを見るように睨みながら小さく呟いた
「…捉えて」
その瞬間、リヴェリア達の足元が影に呑まれた。
リヴェリアは一瞬だが視線だけを下に移すとそこには、まるで生き物の目の様な赤い光が怪しく光った。