死神英雄譚   作:ちゃむこ

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少し日常編挟みます!


19話 死神の日常①

長期遠征から帰ってきてから色々とあったハデス・ファミリア。

そんな彼らの日常の過ごし方は様々だ。

 

ギルドに提出する報告書の作成をする団長と副団長

 

昨晩のロキ・ファミリアとのいざこざを思い出しては、ムカムカしながらお気に入りのクマのぬいぐるみを抱いてふて寝する少女。

 

ハデス・ファミリア本拠地自慢のバルコニーで、優雅にティータイムを満喫する大人びた少女は、その隣で獣人娘3人組と騒がしくも楽しそうにトランプで遊ぶ炎少女(ばかおんな)をアホを見るような目で見下ろしていた。

 

一方で、遠征帰りだと言うのに暇つぶしでダンジョン中層まで潜っているのはハデス・ファミリアのクレイジーボーイ。

 

そんなまとまりがないオラリオ最強のファミリア一同。

それじゃあ、オラリオ最強の男は何をしているのかと言うと…

 

 

「最後はアミッドの所か。…にしても、やはり予定していた価格よりも大分多くお金を貰ってしまったな。

ファミリア全体としては嬉しいが、ここまでの額だと個人的に申し訳ない気持ちがあるんだが…」

 

朝早くからウルは遠征で入手したアイテムの換金、そして元々引き受けていた冒険者依頼(クエスト)の注文品を渡して回っていた。

 

換金はギルドでもできるが、貰える額はあくまで安全と信頼の最低価格になってしまう。

そのため、高値で買い取ってもらいたい冒険者は買い叩かれる危険性を承知で承認や商業系[ファミリア]との交渉(カケ)に出る

 

そしてそれはハデス・ファミリアとて例外ではなく、彼らも遠征帰りでの換金時は、色々なファミリアを回り交渉をしてはかなりの金を取ってきている。

 

まぁギルドで最低価格を貰っても、彼らが持ってくるアイテムはどれも最上級の品質なため、同じ最低価格でも他の冒険者とは自然と貰える金額に差が生まれる。結果として彼らハデス・ファミリアの財産は、いくら使っても使っても、減るどころか増えてく一方だったりする。

 

 

そんな大富豪ファミリアの中で、一番貰ってくる金額が多いのがウルなため、ほぼ換金は彼の仕事になってきている。

なぜウルが一番多いのか、もしかして凄い巧みな交渉術でも持っているのか、誰もがそう考えるだろう。だが答えは至極簡単であった。

 

ウルが換金をしに商業系ファミリアに入るだけ。たったそれだけ。

交渉相手が誰だろうとウルが行けば、勝手に買い取り価格が通常よりも0が一つ二つ多くなっている。

だからウルは今までまともな交渉をした経験が限りなく少ない。

 

だが、今回最後に向かう所は[ディアンケヒト・ファミリア]。

そこの団員で治療師をしているアミッドという女性は、ウルの数少ない交渉経験を積ませてくれる有難い相手だったりする。

 

ギィ…と目的地のドアを開き中に入るウル。

 

「いらっしゃいませ、ウル様。お久しぶりです」

 

中に入ったウルに声を掛けたのは、店のカウンター奥にいる小柄な女性だった。ウルと同じ白銀の長髪が特徴的で、若干無表情であるがとても大人しそうな美少女。

そんな穢れを知らなそうな彼女こそ、ディアンケヒト・ファミリアの団員【戦場の聖女(デア・セイント)】アミッド・テアサナーレだ。

 

「ああ、アミッド久しぶり。元気そうで良かったよ」

 

「ウル様も遠征を無事に終えられたようで良かったです。

貴方は昔から平気で無茶をする方ですから、こう見えて私は心配してるんですよ」

 

アミッドは両手でウルの顔を優しく包み、じっとその眼を見ていた。

ウルとの身長差は50C近くあるため、アミッドは少し高いカウンター側からさらに背伸びをする

 

「アミッドの作る万能薬(エリクサー)があるから、俺は怪我を恐れずモンスターと戦える。

…いや、俺だけじゃないか。アミッドのおかげで、みんな全力で戦えてる。

だからありがとうアミッド」

 

それと心配させてすまないな、とウルは左手でアミッドの手を握り、右手で少し申し訳なさそうにアミッドの頭を撫でながら言った。

 

「…ウル様はいつもずるいです。誰にでも優しくて、その人が一番欲しい言葉を簡単に言い当てちゃうんですから。

ネロ様達やロキ・ファミリアの皆さんが虜になるのも仕方ないですね。

正直に言うと、私よりも強い皆さんが少し羨ましいです」

 

アミッドは俯きそっと呟く。

ウルはアミッドが言った羨ましいと言った意味が分からず、ん?っと頭上に大量の?を浮かばせる。

そんなウルの表情を見たアミッドはクスッと笑った。

 

「ハデス・ファミリアの皆さんはともかく、アイズ様やティオナ様は誰もが実力を認める冒険者です。あれほどの力があれば彼女たちはウル様の隣に並んでモンスターと戦えます。それが羨ましいんです。

それに比べ私は傷は癒せど、ウル様の隣に並んで戦う事は出来ません。

貴方の背中を守る事は出来ません。

もしかしたら私の魔法は必要無いかもしれない。

なにより貴方の支えになれない事が、私は一番悔しいんです」

 

 

ポツポツと悲しい表情を浮かべながら言う彼女からは、普段の落ち着いた大人の様な雰囲気は感じられなかった。

まるで小さな少女の様に脆く、今すぐにでも簡単に壊れそうな彼女を見たウルは、少し早歩きでカウンターを回ってアミッドの前に行くと、膝をついてアミッドの眼を真っ直ぐと見る

 

「アミッドは自分が思ってるよりも全然強い」

 

「そんな事「ある。俺はそう確信してる」…なぜそう思うんですか」

 

「どんなに実力があっても、傷を負わされれば誰だって死ぬ。

どんなに力がない人でもやり様にやっては相手を殺す、命を奪うって事は簡単に出来る。

だけど命を救う事は簡単じゃない」

 

「命を救う事…」

 

「ああ。どんな冒険者でも必ず限界は来る。ごく僅かな傷でも数が増えればそれは致命傷へと変わるし、もしかしたら腕や足をやられて動けなくなるかもしれない。毒とかの状態異常にかかりながら戦闘を続けたら殆どの冒険者は毒が回って死ぬ。

だがアミッドがいればこの様な原因で死ぬ者はいなくなる」

 

優しく微笑見ながらアミッドを見るウル。

 

「いくら魔法が強力でも手傷を負った仲間を癒す事はできない。

そうして仲間を失い続ければ、残された者は今は生きていてものちに心は殺される。

何も前線に立ち戦うことだけが強さじゃない。

仲間の命を救い、心を救い、どんな状態でも自分が死なせないと言ってやれば、それだけで俺たちは立ち向かう勇気が湧く。

いくらでも力が出る。だからアミッド、お前は強いよ

もっと自分に誇りを持って良い」

 

ウルの言葉にポロポロと涙を流すアミッド。

それを見たウルはそっとアミッドの頬に手を添えて、親指の腹で優しく涙を拭き取る。

まるで壊れ物を扱うかの様に、優しく丁寧に触れる大きくも綺麗なウルの手をアミッドは気持ちよさそうに、そして愛おしそうに眼を細めて感じる。

 

「…それに俺は、支えて欲しいって理由でみんなといるわけじゃない。

俺がみんなといたいから、みんなのいる場所が心地良いから、勝手に俺がみんなの元へ行ってるだけだよ。

だからアミッドやアイズたちが俺をなんとかして支えなきゃとかは考えなくて良い。

みんなが幸せそうな笑顔を見せてくれれば、それが俺の1番の支えになるから。

だからもう泣くな。な?」

 

「…本当に貴方は、とても、ずるい人です。

そうやってすぐに人の心を救って、みんな貴方に夢中になる…

ここまでくると、最早一種の呪詛ですよ、これは」

 

「…?俺は呪詛は使えないぞ?」

 

「そう言う意外に抜けてる所も、貴方の魅力の一つなんですよ」

 

アミッドは涙で眼を赤くしながらも、いつもの無表情ではなく可愛らしく微笑みながらぎゅっとウルを抱きしめた。

それから数分間、二人は抱き合ったままだった。

 

 

 

「…コホンッ。それで今日はどんな物をお持ちに?

先日色々ありまして、ハデス・ファミリアの皆様が満足していただける金額を出せるか少々不安なんですが…」

 

アミッドは先程の光景を思い出し少し恥ずかしくなるも、なんとか仕事モードに切り替えようと顔と頭を切り替える。

 

 

「カドモスの皮膜、砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の紅鱗とかなんだけど、ここに来るまでに色んなファミリアを回ってて、なんでかいつもと同じで予定以上の額が貰えたから、あまり金額の事は気にするな。

と言うか近々エリクサーが欲しいから、次来る時に3本ほど譲って貰えると助かる」

 

「…私は全然構いませんが、それだけでよろしいんですか?

正直に申しますと、カドモスの皮膜だけでも品質が上々で1000万は堅いです。

それにこの砲竜の紅鱗の品質も稀に見ない上質です。

こちらも1000万は確実です。

合わせて2000万は超えるこちらを、ウチのエリクサー3本ではこちらにしか得がありません。

なのでいつ受け取りに来るかは分かりませんが、最低でも10以上はお渡しします。それでも宜しければこちらで受け取らせて貰いますが」

 

「それじゃあそれで頼む。ありがとうアミッド」

 

「お礼はむしろこちらの方です、ありがとうございます」

 

お互い丁寧に頭を下げながら礼を言い合う

ウルは店にある時計を見て、まだ他に寄るところがある事を思い出した

 

「…すまないアミッド。

久しぶりだからもう少しゆっくりしたかったが、この後まだ行くところがあってもう行かないといけない」

 

「わかりました。少し寂しいですが、遠征が終わったばかりでしばらくはゆっくりでしょうから、また暇な時いつでも来て下さい。

いつでもおもてなし出来るよう、良い茶葉を用意しておきます」

 

「フッ。…ああ、アミッドの入れる茶はどれも美味いから、楽しみにしておく。その時はこちらも良い菓子折りを持っていくよ。

それじゃまた近いうちに」

 

「はい。お待ちしています」

 

ウルは店を出て行き、アミッドはウルの姿が見えなくなるまで小さく手を振る。

 

(…早く来ないかな)

 

たった数秒前に別れたばかりなのに、すぐ会いたくなった気持ちに恥ずかしくなったアミッドは顔をカァーっと赤くしながら、約束のエリクサーを作るため調合室へと急足で向かった。

 

 

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