死神英雄譚   作:ちゃむこ

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3話 いつのまに

「ネロもベルクも流石だ。………それにしても少し遅い?」

 

ウルは自分の家族が倒した人型を見て、自分もいつ戦いが始まってもいい様に気を抜かないでいた。…がいつまで経ってもティエリアの結界が消える気配がなく、若干だが焦れったくなっていた。

 

「それにしても芋虫と人型の新種…魔石は確保した方が良いのか…。

この大きさなら魔石もでかいはず…今回は見送るかな。…あ」

 

と、色々考えてるうちにティエリアの結界が解除された。人型は心なしか少し苛立っている様に見える。すると人型は自分の前にウルがいることに気付き、大量の爆粉と腐食液をウル目掛けて吹き出す。

 

「…れ…え」

 

小さくウルが何か呟いた。すると腐食液と爆粉は、ウルに直撃することなく何かに防がれる様にウルの周りだけに被害を出した。

人型は直感で爆粉と腐食液が効かないことを理解したのか、自分の腕部でウルを叩き潰そうと振るった。

 

「灰に帰せ…」

 

なにかの詠唱なのか、ウルが唱えた瞬間膨大な魔力が周囲を覆う。

それを感じたのかロキ・ファミリアは驚愕を、ハデス・ファミリアは当然と言う様な誇らしげな表情を浮かべる。

 

「…リベリオン」

 

魔法の名前を唱える。その瞬間、人型が黒い炎に包まれた。振り下ろされた腕部はウルに当たる前に灰になる。人型が倒された時になる爆発と腐食液もろとも黒炎に包まれる。

ウルは今もなお焼かれる人型を背に、みんなが待っている方へ歩く。

すると、前から誰か走ってくることに気付く。

綺麗な金色の髪をなびかせながら一生懸命に走る少女。

 

「アイズか、どうした?そんなに慌てて」

 

ウルの元に来たのは【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだった。

全力で走ったのだろうアイズは、はぁ…はぁ…と肩で呼吸していた。

 

「…わから、ない。気付いたら走ってた」

 

アイズはなぜ自分が思いっきり走ったのかわからなかった。ただあの人型を抑える結界が消えた瞬間、妙にウルのそばに行きたかった。ウルが勝つことなんてわかってたのに無性にそばにいたくなっていた。

 

「そういう直感で動くところは昔から変わらないな」

 

ウルは昔の良くも悪くも真っ直ぐな、子供の頃のアイズを思い出していた。

一方でアイズはなにを言われてるのかわからないのか首を傾げている。その頭には?マークが浮かんでいる様に見える。

その姿も昔から変わらないなと思ったウルは、アイズの頭を優しく撫でる。

その突然の行為が恥ずかしかったのか、アイズは頬をほんのり赤らめる。

 

「…あと、無理をしてそれを隠すところも」

 

ウルはアイズの頭から手を離し、エリクサーを彼女に渡した。

ウルの手が頭から離れた時、あっ…と少し名残惜しそうな声が出たアイズだったが、今度はウルがくれたものにえっ…と声を出した。

ウルが渡したエリクサー(万能薬)はどんな傷でもあっという間に治す効果を持つ。しかもこれを作ったのは医療系ファミリアでは有名なディアンケヒト・ファミリア。その額は1本50万ヴァリスはくだらないほどの価値。

それをウルは躊躇せずにアイズに渡した。

 

「ウル、これ…なんで…」

 

「大方(エアリアル)で無理でもしたんだろ、体の内側がボロボロで立ってるのもやっとなはずだから、これからはあまり無理はしないように」

 

アイズはそのウルの指摘に驚いていた。確かにアイズは人型との戦闘で、全力の風を発動して身体が悲鳴を上げていた。でも誰にもバレずにいたのに、ウルは少し見ただけで見破った。そのことに驚きつつも少し嬉しかった。

 

「そんな驚いてる顔してるけど、当たり前だからな。昔からアイズに戦い方を教えていたのは誰だと思ってる」

 

ウルの言った通り、まだロキ・ファミリアに入って日が浅いアイズに戦い方を教えたのはウルだった。元々ウルのことは小さい頃から知っていた。ウル自身幼い頃から冒険者をやっていて、わずか1ヶ月でレベル2に。その記録は、つい最近までウルと同じファミリアの者が破るまで誰も塗り替えることの出来なかった偉業。そんな偉業を成したウルを知らぬ者などいなかった。

そんな2人の出会いはアイズが一人でダンジョンに行き、死にかけた時に助けてくれたのがウルだったのだが、この話はまた今度に。

そんなわけでアイズの異変はウルにとっては、わかるのだ。

 

「でも私…」

 

「フッ…わかってるよ。本当はすぐ使って欲しいけど、アイズが遠慮するのはわかってるから…ほら、おいで」

 

ウルはアイズの前に背中を向けてしゃがむ。ようはおんぶだ。

昔からウルに模擬戦をしてもらった後は、動けなくなってウルにおぶってもらっていた。だが、それはあくまで子供の頃の話。レベルも上がってどんどん成長していってからは完敗はしても、動けなくなるまではいかなくなった。

今やアイズも16歳になりおんぶしてもらっていた頃とは違う。

じっとウルの背中を見つめるアイズ。

懐かしい背中。おんぶしてもらってた時、いつも温かく心地よかった。

そんなことを思い出していたアイズ。

 

(迷惑じゃないかな……でも…)

 

どうしようかとオドオドしていると、待っていたウルが口を開く。

 

「大丈夫ならいk「乗る」…はいよ」

 

言いながら体勢を戻そうとした途端に、凄い早さで乗ることに決めたアイズに笑いそうになりながらも再びしゃがむ。

少し申し訳なさそうにゆっくり体重を預けていくアイズ。一方ウルは「素直でよろしい」とアイズに向けて言うと、しっかりアイズをおんぶする。

 

(髪きれい…ウルの匂い落ち着く…それにあったかい……でも久しぶりだからかな?胸がドキドキする…)

 

 

 

まだ子どもだったのが16歳になり、世間からは【剣姫】と呼ばれるようになっても、やはりまだ子どもなんだなと背負いながら思うウル。

するとふと思い出したのか口を開く。

 

「あの新種の人型を1人で倒したんだろ、仲間のためにボロボロになるまで。

…また強くなったなアイズ」

 

「…うん、ありがとう、ウル。でも私は、もっと強くなりたい。ウルみたいに」

 

「お前ならできるよ。アイズはもっと強くなれる。アイズがしたければ、地上に出た後いくらでもまた手合わせしてやる」

 

「…!ほんと?」

 

「フフッ…いいよ。したい時うちのホームでも俺に直接でも来ていいから」

 

「うん…ありがとう」

 

そんな感じに話しながらしばらく歩いていくと、先ほどファミリアのみんながいたところが見えて来た。みんな急にいなくなったアイズがいたからか手を振って呼んでいるが、そのアイズがウルにおんぶされていることに気付きプチパニックが起きていた。

アイズは実力もさながらその美しい容姿もあって尊敬やらなんやらの人気がある。そんな子が男におぶられていたらその男に突っかかりたくもなるが、相手はオラリオ最強ファミリアの団員。

しかもそのレベルは、ファミリアどころかオラリオでもトップのレベル9。

実質オラリオでこの男に勝てる者などいない。だから文句があっても言えないでいた。そんな最強の男に歯向かえる者などいるのか

 

「ちょっと!なんであんたが【剣姫】をおぶってるのよ!」

「私も詳しく聞かせて欲しいな」

「ネロもその話聞きたいゾ?ちゃんと納得させるほどの理由があるのか楽しみだゾウル?」

「みんなが聞くならエメちゃんも聞く聞く!」

「なんでウルさんがアイズさんをおんぶしているんですか!?」

 

いた

 

それも五人。だが4人ほどは同じファミリアだからこそ、気にせず突っ込めるのだろうが、一部おかしな人物がいた。

ロキ・ファミリアのレベル3、【千の妖精(サウザンドエルフ)レフィーヤ・ウィリディスだった。

 

「おー!第二級冒険者がウルに噛みついてる!身の程知らずなのかな?」

 

「こら、ナイフをしまえクラン。ロキ・ファミリアを相手にしたらいくらお前でも死ぬぞ」

 

「あはは!僕はただ身の程をわきまえてほしいだけだよ?それに半端な第一級冒険者じゃすぐ壊れちゃう(・・・・・・・)し」

 

「あぁ?なにレベル4がいきがってんだ?」

 

クランの挑発的な言葉に反応したのはロキ・ファミリア所属の狼人でレベル5【凶狼(ヴァナルガンド)】のベート・ローガだ。

 

「いきがるもなにも事実だよ?も〜冗談はそのツンデレだけにしてよ〜レベル4がレベル5ごときに勝てないと本気で思ってるのかな。

そんなわけないと思うなら……本当に殺る(・・・・・)?」

 

クランは親指で中指を鳴らし、戦闘態勢に入る。体からはバチバチと静電気が走る。

 

「はっ!あとで後悔して泣き喚くなよなぁ!」

 

今にも衝突しそうな二人の雰囲気にロキ・ファミリアの幹部以外の面々はオドオドしていた。同じハイエルフで仲のいいティエリアとリヴェリアはハァ…と呆れていた。

 

「双方、そこまでにしてもらおうか」

 

二人を止めたのはロキ・ファミリア団長フィン・ディムナだった。

隣にいたのは同じ団長という立場のベルクだった。先ほどまで何か話していたようで、終わって止めに来たようだ

 

「やめろクラン。殺り足りないならこれから楽しめばいい。ネロ、エルカ、フェルナ、エメお前たちも、今更そんなので怒るな。お前らが頼んだらいつでもしてくれるだろうよウルは」

 

ベルクはウルに視線を移す。ウルはこちらを見た意味がわからなかったのか、首を傾げながらも「俺にできることなら構わないよ」と伝える。

その言葉に女性陣は目を光らせる者や、人間の何倍も聴こえる自慢の耳をフル活用した者、耳は耳でも別の、種族特有の長い耳をぴくぴくと微かに動かす者もいた。もっともその人物は自覚はないが。

 

「それと俺たちに依頼だ」

 

「はぁ?ちょっと誰よこのタイミングで依頼って!」

「…これだからバカは嫌いなんだ。少し考えればわかることを、炎を使いすぎて思考回路も燃やしたか?」

「上等じゃない!どっちが上かハッキリさせy「いい加減にしろお前たち!」…だってティエリア、フェルナが!」

 

また騒がしくなる光景にベルクはため息を吐き、その辛さを知るフィンは自身と重なり苦笑していた。

 

「早速依頼を言うぞ、依頼主はロキ・ファミリア、内容は簡単だ」

 

今までアイズを下ろすタイミングを失っていたウルだったが、依頼内容を聞くためにアイズを下ろした。アイズは居心地よかったのか名残惜しそうにしていた。

 

「それでベルク内容は?」

 

「そんなに真剣にならなくても気楽なやつだ。内容は護衛。新種との交戦で物資が少し足りないらしいから、俺たちのものを分けながら無事ロキ・ファミリアを地上に送ることだ。報酬は500万ヴァリスと、今度ロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』でご馳走すると」

 

「一緒に帰るのか?」

 

「俺たちは5階層までだ。ハデスに伝えた帰還日まで、順調にいけば1日余るからな」

 

ハデス・ファミリアの遠征は、他のファミリアの遠征よりも長く行われる。その長さはおよそ1ヶ月間。普通なら物資が持たないのを、ハデス・ファミリアはオリジナルの魔道具で可能にしている。

そしてハデス・ファミリアの遠征時のルールとして、行く前に決めた日にちゃんと帰還するというものがある。表向きの理由は、1番に子どもに会いたいからというハデスの可愛いわがままとなっているが、単に遠征中ハデスもどこかフラフラしていて、それを隠すためというのが本音だ。

ちなみにハデスはバレていないと思っているがみんなちゃんと知っている。

それでもルールを守るのは、みんなが一応どこかでハデスに恩を感じているからか。

 

「なるほど、了解した」

 

ウルはその依頼内容に納得した。いくら幹部組が第一級冒険者でも武器がなければ無事帰れるかはわからない。それにイレギュラーだってあるかもしれないと考えると不安が強い。武器があるアイズ一人では対処できないだろうこともわかった。

と考えるてるウルの服をくいっと引っ張るアイズ

 

「一緒にいられるの?」

 

「団長が依頼を受けたなら完遂するだけだ。だからもうしばらくよろしくな」

 

「!…うん!」

 

アイズは一緒にいられると知って、感情が読みにくい無表情が崩れ、微かに口角が上がる。そんなアイズの頭を撫でるウル。

いつの間にかふんわかしてる二人の世界。

後日、その光景を恨めしそうにそして羨ましそうにしていた女性陣から、色々とおねだりされる事をウルはまだ知らなかった。

 

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