死神英雄譚 作:ちゃむこ
ありがとうございます!
そして評価も平均8.1ととても高評価で驚きました!
本当にありがとうございます!
…本当にありがとうございます!笑
数日18階層で休んだのち、ハデス、ロキ・ファミリアは部隊を二つに分けて進んでいた。
ウルのグループは、ハデス組が[ウル、ネロ、エルカ、クラン]の4人。
ロキ・ファミリアの主戦力は、[リヴェリア、アイズ、ヒュリテ姉妹、ベート、レフィーヤ]
「ねーこれ僕たちいる?殺る事なくて退屈〜」
「ベルクが引き受けたからには、一応やっとかないとダメよ。ほんとあんた…ちょっとぐらい我慢できないの?」
「目の前にモンスターいるのに戦えない。これほどもどかしいことはないね」
現在、ハデス・ファミリアの面々は護衛の依頼を受けているが、モンスターが襲撃しても手を出さことはなく、そのモンスターとの戦闘はロキ・ファミリアが行っていた。
ロキ・ファミリアにはある規則があった。
それは、中層では下の団員に経験を積ませるために、アイズ達第一級冒険者も手を出さず見守る。ラウルに指揮をとらせて他の団員がモンスターを倒す。
流石ロキ・ファミリア、連携は中々様になっているとウルは素直に感心する。
「…でもこうしてると、クランほどじゃなくても少し退屈だゾ」
「ちょっとネロ、あんたの口からそんな戦闘狂みたいなセリフ聞きたくなかったんですけど?」
「我慢にも限界があるんだゾ。神ほどじゃなくても、今の状況は少し娯楽に飢えるのだ」
「まぁでも、よく考えると不完全燃焼ではあるわね。これならまだハデスに振り回される方がマシだわ」
「あー今回だけは、エルカの考え僕もわかるかも」
ハァー…と3人が深いため息をつく。その頃ウルは、泉の件以降から1度も会話どころか目も合わせないレフィーヤの事を何処か具合が悪いのではないかと心配していた。
その事をリヴェリアに言うと、リヴェリアはクスクスと笑っていた。
「流石と言うべきか…お前は一向にそういうのが苦手だな」
「?…なにが言いたいのかよく分からないけど、大丈夫なのか?もし体調が悪いのなら、もう少しペースを落としてもいいと思うが」
「ハッ!天下の【死神】様がいちいち雑魚を心配してんじゃねよ。
お前のそういうところが気にくわねぇんだ」
ウルの発言に苛立ち文句を言うベート。かなりの実力主義者で、ファミリア内でも大体の者たちから恐れられたりしている。
なぜベートが苛立っているかというと、ウルはオラリオ最強のレベル9。絶対的な存在であるウルが、弱者を心配し気にしているのが気に食わないようだ。
「俺は知ってるよベート。お前は口が悪く誤解されやすいが、実は誰よりも他人を心配する奴だって事を」
ウルは全身を包むマントから右手をスッと出し、力強くサムズアップする。
その表情は真顔だったが、目からは「わかっているから安心しろ」と言っているように見える。
そんなウルにベートが吠えるも、横からティオナとティオネが「うるっさい!」とベートを殴り飛ばしていた。
「ベートのことは気にするな。それにレフィーヤは特に体調が悪いわけではない。いたって元気だから安心してくれ」
「…そうか。リヴェリアがそう言うならそうなんだろう。リヴェリアはみんなの事をよく見ているからか、いつも自然とリヴェリアの言葉は信用し納得してしまう」
「そ、そうか?ま、まぁ私も伊達に『ママ』などとよばれてないからな!」
リヴェリアの初めて見る姿に団員達が驚いていると、ウル達の進行方向からゾロゾロとモンスターが現れる。
「進行方向!…ミノタウロスの大群です!」
牛頭のモンスター・ミノタウロス。推定レベル2であるミノタウロスの犠牲になった冒険者は決して少なくない。
「リヴェリア、これだけいるし私たちもやっちゃっていい?」
「構わん。ラウル、後学のためお前が指揮を執れ。ハデス・ファミリアはすまないが待機で頼む」
「ハァー…わかったよ」
「こればかりは仕方ないわね」
「わかったゾ」
「了解」
最初からそうなるだろうと思っていたウル達は、やっぱりかと言う感じで特に期待はしていなかった。
獲物がなく一方的な撲滅を始めようとしたヒュリテ姉妹とベートは、ボキボキと骨を鳴らし腕をグルングルン回しながらジリジリとミノタウロスの群れへと近づく。
第一級冒険者の3人からでる強者のオーラを感じ、命の危険を察知したミノタウロス達は恐怖で涙を流しながら一斉に逃げ始めた。
モンスターのいきなりの逃亡にティオナ達が唖然としていると、その緊急事態にリヴェリアはすぐに指示を飛ばす。
「追えお前たち‼︎パニック状態のモンスターが何をするかわからんぞ!」
その言葉にアイズ達は一斉にミノタウロスを追いかける。
「ちょっとあれ!!ミノタウロスたち上層への階段上ってない!?」
「ウソだろ!?上は低レベルの
ミノタウロスの大群はパニックのあまり上層へと続く階段を上っていた。
上層は主にレベル1や冒険者になりたての者が戦闘を慣れるためなどにいる階層。そんなところにレベル2のミノタウロスが現れたら確実に冒険者の命はない。そのことがわかっているからアイズ達は全速でミノタウロス達を追いかける。
「…リヴェリア緊急事態だ。俺たちもやるぞ」
「すまない!頼む!各階層に1人残ってくれるだけでいい!
各階層にハデス・ファミリアが順に残る!お前たちは全速力で先頭で逃げるミノタウロスたちを追え!」
「「「「了解!!」」」」
「17〜10階層をネロ、次に1階層ずつクラン、エルカ、俺の順で残れ。緊急事態だ、各階層隅まで回り、念のため遭遇したモンスターは始末していい。パニックで他所の冒険者に死なれなきゃいい」
「やったー!この際なんでも殺せれば良かったからラッキー!」
「間違えて冒険者まで殺すんじゃないわよ!?」
「クランなら有り得なくはないゾ…」
「…モンスター限定だ」
ウルの指示通りに動く3人。ネロは影から7人の兵を出し、ウルの指示通りに各階層に向かわせる。
「ちっ!どこまで逃げる気だ雑魚が!」
「5階層に逃げてきたのは6体で、今5体倒したから…あと1体いないよ!?」
「ベート!あんたの鼻で場所わからないの!?」
「うっせえ!わかってんだよ!…匂いだ!来いアイズ‼︎」
ベートが残るミノタウロスの匂いを嗅ぎつけ、アイズを連れて向かう。
目の前でミノタウロスに襲われているのはまだ動きが素人の新人冒険者。
ミノタウロスに壁際まで追い込まれ、その拳を振り下ろそうとしていた。
(このままじゃ間に合わない!)
どうすると瞬時にあらゆる手を考えるアイズ。しかしどの考えも間に合う気がしないでいた。このままじゃあの冒険者を見殺しにしてしまう、と焦るアイズに声が聞こえる。
「跳べアイズ」
落ち着く声の指示に従いその場に跳ぶアイズ。すると自分の足に一瞬だが足場の感覚があった。その瞬間アイズは察した。昔一回だけ思いつき、ウルにやってもらった、他人が聞いたら100%正気が疑われる戦法。
それは至極単純で、レベル9のウルの蹴りにアイズが乗りスピードを上乗せするというもの。昔からレベルの差は変わってないが、付き合いは長くお互い信頼を寄せているため失敗はないだろう。
アイズの体にあまり負担をかけない様、絶妙な力加減で蹴り、アイズもタイミング良くウルの脚を蹴り、スピードを乗せミノタウロスの元へ向かう。
一瞬でミノタウロスの方へ距離を詰めると、【剣姫】の二つ名に相応しい剣さばきで、一瞬でミノタウロスをバラバラにした。
ウルはアイズの元へは行かず、どうしようかと考える。
しばらく考えていると、ベートの笑い声がしたが特に気にすることもないと無視すると、後方からヒュリテ姉妹と合流したリヴェリア達が来た。後方にネロ達を見つけ、見える範囲で怪我がないか一応確認をする。
「まさか5階層まで来ていたとはな…下の階層は被害者はいなかったがどうだ?」
「5階層にも被害者はいない。少し緊急事態はあったが、無事依頼は達成したな」
「それは良かった。…ああ、ありがとう、ご苦労様だ。お礼は後日渡そう。そんなに日にちは伸びないはずだ」
「わかった。俺たちはここでベルク達を待つ。また後日会おう」
「ああ、また後日」
ウルとリヴェリアは握手をし、リヴェリアは上へ行く準備を団員に指示する。
ウルはネロ達の元へ行こうとすると、クイッと引っ張られていることに気付き振り向くと俯いているアイズがいた。
「あの…ウル」
「ん?」
ウルは俯いているアイズの顔を覗く。自然と顔の距離が近くなることでアイズはすぐに顔を真っ赤にするが、さすが鈍感のウルは一向に喋らないアイズを心配そうに見ている。
「あ、あのね…」
「フッ、ゆっくりでいい。ちゃんと聞いてるから深呼吸して落ち着いてな」
地面に膝をつきアイズの手を取るウル。俯いているアイズの視界には、威圧感を与えない様にか、しゃがみ込み優しく微笑むウルの姿。
その優しさに、さらに鼓動が早くなり体に熱がおびるのがわかる。
だが、ウルの言われた通り、深呼吸をしてなんとか気持ちを整えるアイズ。
「いつ…会える?」
「……ああ、そう言うことか。何かすごい重大なことかと思った」
あははと笑ったあと、安心したと言わんばかりに優しい顔になったウルは、アイズの目をそっと見る。
「明日の昼ごろ俺たちは地上に着く。遠征から帰って次の日ハデス・ファミリアは入手したアイテムとかを換金しに行く。俺は補充と交渉が担当だから10時ぐらいには広場にいると思う」
「…?」
「アイズが会いたい時に来たらいい。他所のファミリアだからといって敵じゃない。昔から言ってるけど遠慮とかもしなくていい。わかった?」
「!…うん!」
(((((アイズさんが笑顔になってる!!!///)))))
普段表情の変化があまりないアイズだったが、今は満面の笑顔で返事をしていた。ロキ・ファミリアの団員達は、初めて見るアイズの笑顔に悶絶していた。
ウルは立ち上がりアイズの頭を軽く撫でていると、また誰かに引っ張られ視線を移すとそこにいたのはティオナだった。
「ティオナか、どうした?」
「あたしも行っていいのかなー…なんて」
あははは、と照れくさそうに頬を掻くティオナ。どうやら自分たちはどうなのか心配しての発言だろうと察したウル。そしてよく見るとずっと顔を合わせないレフィーヤも片耳をぴくぴくと動かし、話を聞いている様だった。
なぜレフィーヤが?と考えるウルだったが、早くティオナの問いに答えた方がいいと思い、考えは一旦置くことにした。
「ティオナがそうなるのは珍しいな。ああ、もちろん構わないよ。1人で来るでもアイズやティオネ、レフィーヤの4人組で来るのもどちらでも構わない。
お前達が来るとハデスも喜ぶし俺も楽しいからね。遠慮はするな、な?」
「!…うんうん!ありがとウル〜!わかったよ!ウルにもハデス様にも会いに行くよ!みんなも連れて!めちゃくちゃ行くよ!」
「あはは、分かった。その際はこっちもできる限り持て成すよ」
ピョンピョン飛び跳ねるティオナの頭も撫でる。
傍から見たから両手に花の状態のウル。大半の冒険者は、この状況に陥ったら幸せのあまり昇天するだろうが、そこらへんの感覚がおかしいウルは至って平然としていた。
「テメェいつまで…」
気持ちよさそうに撫でられるアイズとティオナ。
そこへものすごいスピードで走り迫る者がいた。
「アイズの頭を撫でてんだあぁぁぁ!」
その正体はウルの顔面目掛けて飛び蹴りをするベートだった。自慢の蹴りでウルを蹴り飛ばそうとしていたのだ。
ウルはロキ・ファミリア一の瞬足の持ち主。そのベートのトップスピードは第一級冒険者でなければ目で追うことも難しい。
その勢いをつけた蹴りはほとんどのモンスターを一撃で仕留める威力を持つ。
そんな恐ろしい飛び蹴りが、今ウルにの頭に当たる瞬間、ウルは2人の顔を見るためにしゃがみ込んだ。
「オラアアアァァァァァァァァァァァァ…ァァァ…ドガァァン
「それじゃまた後日な」
「「うん!」」
「…ベート、なんの遊びかわからないが、早くしないとリヴェリア達に置いてかれるぞ」
「避けんなクソ!舐めやがって…いいか!俺はぜってえお前を越えるからな!」
蹴りを避けられたベートは無様にダンジョンの壁に激突していたが、なんとか復帰してウルに悪態をつきながらもリヴェリア達と一緒に登っていった。
ウルはなぜベートの機嫌が悪かったのかわからなかったが、ベートの最後の言葉は嬉しかったと思っていた。
「…あの狼ってあんなにダサいキャラだったかしら?」
「ウル君が天然の力を引き出してるからそう見えるんだゾ」
「僕今回は少しベートが可哀想だと思ったな」
「「確かに…」」
「まぁあくまで今回だけだけどね」
それからしばらくして、ウル達はフィン&ベルク達と合流し、フィン達を見送った。