ヒロインなんてキャラじゃない   作:海崎実紀

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しゅごキャラ誕生!

 制服を着た子供たちが賑やかに通り過ぎていく朝。大通りを逸れた道には1人の小学生を壁に追い詰める高校生くらいに見える2人の少年がいた。

 

「おいお前。昨日小遣い入っただろう?」

 

「オレたち欲しいゲームがあんだ」

 

「ああああのっっっあのっっ」

 

 にやにやとした趣味の悪い笑みを浮かべて子供に問い掛ける大人げない少年達。慌てる子供。

 

 彼らの背中に私は思い切って声を掛けた。

 

「ちょっと」

 

「「んあ?」」

 

 

 

 振り向いた少年達を不機嫌そうに睨めつける。

 

「通れないんだけど?」

 

「あ?なんだこの女?」

 

 少年の1人が不愉快そうに声を上げる横でもう1人は何かに気付いたように焦った表情を作った。

 

「こいつもしかして!」

 

 それに声を上げた少年も何か思い至ったのか、2人して顔を真っ青にする。対して詰め寄られていた小学生は目を輝かせた。

 

「あ、あなたは!我が聖夜(せいよ)小きってのクール&スパイシー小学生、日奈森あむさん!!」

 

 私はその呼び名に対して眉をしかめる。クール&スパイシーってなんだよ。

 

 

 

 

「「日奈森あむ?!」」

 

「たった1人で、さくら小サッカー部を潰しちゃったって噂の!」

 

「関東の小学校は全部顔パス、全校長が逆らえないって噂の!」

 

「「すすすすいませんでしたぁぁぁぁ!!!うわぁぁあ」」

 

 言うが早いか少年達は一目散に逃げていく。全くもって迷惑な奴らだ。

 

 

 

「っていうか、そんな噂どこから…」

 

「ああありがとうございました!よかったらさサインを!」

 

 目を輝かせて色紙を差し出してくる男の子に対し、私は先程と同様に顔を顰めた。

 

「馬鹿じゃないの?」

 

 私は小さく溜め息を吐いて続ける。

 

「通行の邪魔なのは君も同じだからね?次から気をつけなよ」

 

「カッコイイ〜!!!」

 

 横を通り過ぎれて行けば、後ろで男の子がそんなことを言った。何処が格好いいのかいまいちよく分からない。というか年上っぽい人に話し掛けるの、めちゃくちゃ勇気いるんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

“こどもはみんな”

 

“こころのなかにたまごをもっている”

 

“こころのたまご”

 

“目には見えない”

 

“なりたい自分”

 

 

 

 

 

 

 

 _____というのが今朝のこと。チャイムが鳴った教室では既に噂話が飛び交っていた。

 

 

「ねえねえ、知ってる?カツアゲ撃退事件!」

 

「うん、聞いた聞いた!やっぱり日奈森さんってすごいよね!」

 

「普通の子となんかキャラが違うっていうか。うかつに近寄れないカンジ?」

 

「制服の着崩しもカッコイイし!」

 

 今日の端でこちらを見ながら噂をするクラスメイトの女の子達に内心で辟易する。

 

 

 

「お母さんは有名雑誌のライターで!」

 

「お父さんは超一流カメラマン!」

 

「「何もかも超クール!!!」」

 

「きっとカレシは年上で、超セレブで」

 

「アイドルとか?」

 

「はたまたフランス人とか!」

 

 また勝手な噂をしているようだ。想像力豊かなのは結構だが、私を標的にしないでいただきたい。

 

(本当はそういうキャラじゃないんだけどねぇ)

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、テレビを見ていた時だ。

 

「あなたの後ろに守護霊がいます!」

 

 流行りの自称霊感占い師、冴木のぶ子の番組だ。急にどアップで映されたその顔に驚いた。

 

「人間は誰でも守護霊に守られているのですよ?」

 

「そんなおとぎ話じゃあるまいし」

 

「あら?霊感占いの冴木のぶ子先生は本物よ!ママの雑誌でもミセスに大好評♪」

 

 ママがその雑誌を見せてくる。

 

「そんなことより、見て見て!パパの力作!」

 

 パパが妹の写真を見せながら会話に入ってくる。

 

「まあ!さすがパパ!」

 

 

 

 イチャイチャしだす両親に付き合ってられないと思い、食事に戻る。

 

(有名雑誌のライターに超一流カメラマンねぇ?)

 

 ママは主婦向け雑誌のライターだし、パパは野鳥カメラマンであって、どこも有名雑誌のライターや超一流カメラマンに見える要素はない。普通の一般家庭だ。

 

 まあ、私立の小学校に通わせてもらってる時点でそれなりに裕福ではあるのだろうが。

 

 

 

「こわい、おねぇちゃん!おばけ!いやぁ!」

 

 泣きながら抱きついてきた、まだ幼い妹の亜実に分かりやすいようにゆっくり話す。

 

「あれは人間だよ、亜実」

 

「おばけぇ!」

 

「いいえ、お化けではありません」

 

 そこにタイミングよくテレビの声が聞こえる。

 

「守護霊はあなたの味方です。いつもあなたの後ろから、あなたの本当の姿を見守っています」

 

 見計らったかのように続けられる言葉に段々と気味が悪くなってくる。いくら何でもタイミングがよすぎる。

 

「馬鹿らしい」

 

 鳥肌が立ちそうになるのを頭を振って誤魔化す。

 

 

 

「バカにしてる人は死にます」

 

 

 いや、死んでたまるか。守護霊の話を馬鹿にしただけで死ぬ世界線があったら困るだろう。

 

 それにしても本当にこの番組は何なんだろう。心臓に悪い。私が言われているような気さえしてくる。

 

「あなたに言っているのですよ」

 

「え"っ」

 

 余りにも心を見透かしたような口振りに脱帽する。いくら何でもトークが上手すぎる。そんな心を読むように言われたら、いくら疑り深い人でもこの占い師を信じてしまうかもしれない。

 

 

「どうしたの、あむちゃん?」

 

 反射的に立ち上がってしまった私をママが心配そうに見つめる。

 

「馬鹿じゃないの。守護霊なんて見たことも聞いたこともないし、私はそんなの信じてないから」

 

(まあ、居たら面白そうだとは思うけどさ)

 

 何事もなかったように座って続きを食べる私に、親バカな2人がよく分からない方向で喜んでいる。何処が格好いいのだろう。ただの強がりなのに。

 

「ごちそうさま」

 

 

 

 

 足早に部屋に上がった私はそのままベッドに突っ込む。

 

「さっきの何あれ!ちょっとタイミングよすぎじゃない?そういうオカルトっぽいの苦手なんだけど!気味悪い〜」

 

 一通り早口で捲し立てると我に返った私は仰向けに寝転がった。

 

「今日も外キャラ疲れたなぁ。気を張ってんの向いてないんだよ〜」

 

 外キャラ。外向けのキャラ。私のキャラは一人歩きしている。清々しいくらいに独立してくれてる。本当の私は違う。素直になれないだけなのだ。

 

 

 

 転校初日。

 

 女性の担任教師が私をクラスメイトに紹介する。

 

「皆さん。本日転校してきた、日奈森あむさんです」

 

(うわぁ、緊張する!何言えばいいの?!)

 

「日奈森さん?」

 

「…まあ、よろしく」

 

 久々の転校で私は気が動転していた。故に担任に声を掛けられて焦った私は、何を間違えたのかクラスメイトに素っ気ない対応をしてしまった。

 

 

 

 それが私の外キャラが定着した大きな原因だろう。口下手なのをクールと誤解され、ひねくれたことしか言えないのを格好いいと間違われ、ママの服の趣味(ゴスパンクと甘ロリ)がそれに拍車をかけたようだ。

 

(私だって一度くらいピンクのフリフリとか着てみたいんだけどな。本当に一度でいいんだけど)

 

「あ〜あ、可愛くて素直な子になりたいなぁ」

 

 

 

 ところで、私こと日奈森あむは転生者である。だからこそ、この世界が子供の頃に流行った『しゅごキャラ』という物語だと分かる。とは言っても昔のことなので内容なんて殆ど覚えてない。

 

 

 

 それにしてもまさか日奈森亜夢なんてキラキラネーム過ぎる。キラキラネームの子供達には失礼だが、私は将来生きていける気がしない。優しい両親だけど、そこは恨む。

 

 ごほん。話を戻す。前世の私がどうやって亡くなったのかは憶えていない。思い出したいとも思わない。ただ生前に、夢を諦めて普通の会社に就職して日常的にストレスを溜めていたのは覚えている。夢は声優だった。周りに反対されて諦めてしまったけれど。

 

 

 それはそれとして、私はちゃんと原作を動かせるのだろうか。それが問題である。前世の記憶があるからか、私はあむちゃん程子供の心を持っていない。物語の要である“しゅごキャラ”が生まれてくるかすら分からない。けれど、原作と同じ点もある。それは私が口下手でひねくれたことしか言えないこと。正確に言うとひねくれているのは口ではなく、性根なのだが。

 

 

 

(とにかく、原作はどうにかして進めなきゃ。ハッピーエンドに行き着かない物語なんてナンセンスだよね。やだやだ、ヒロインって柄じゃないって)

 

 ベランダから月を眺めて何度目かになる溜め息を吐く。

 

「此処の月も綺麗だなぁ」

 

(守護霊がもし本当に存在するなら、力を貸してください。どうか私に勇気をください。物語のヒロインに生まれ変わるための勇気を)

 

 

 

 

 

 

 

 ええ、確かに昨夜はそう願いましたとも。それで本当にたまごが生まれるとは誰も思わないでしょうよ。

 

ちゃんと3つ。欠けることなく生まれてきてくれてよかった。

 

 だがしかし。

 

「いきなり生まれられると心の準備が出来ないんだけど」

 

 たまごに触れてみると温かかった。

 

(生きてるみたいだなぁ)

 

 

 

 

 家に置いておくのもどうかと思い、学校へ一緒に持ってきてしまったが、どうすれば生まれるのかが全く分からない。ようやく物語のスタートラインに立てたくらいだろうか。

 

 考え事をしながら歩いていると後ろから黄色い声が聞こえてきた。どうやら今日は登校時間が被ったようだ。聖夜学園小ガーディアンと。他校で言う生徒会の役割を果たすガーディアンは原作のメインキャラの集まり、つまり物語の中心だったはずだ。今までは関わりなんてなかったけども。

 

 

「日奈森さんは転校してきたばかりだからよく知らないよね?」

 

「え?」

 

「ガーディアンというのは生徒による生徒のためのちょっと特別な生徒会!」

 

 不意に話し掛けられて驚いたが、転校生である私に詳しく説明してくれるらしい。うろ覚え程度の知識しかないのでとても助かる。

 

「個人情報の漏えいやキツすぎる校則、あらゆるお悩みから生徒を守る!」

 

「まさに守護者!」

 

 まとめると、K(キングス)チェアの辺里唯世(ほとりただせ)Q(クイーンズ)チェアは藤咲(ふじさき)なでしこ。J(ジャックス)チェアに相馬空海(そうまくうかい)A(エース)チェアは結木(ゆいき)ややで、ガーディアンは放課後にロイヤルガーデンという占有スペースでお茶会ができ、更にはロイヤルケープというガーディアンだけが着られるケープがあるらしい。制服の上にケープは暑いんじゃないだろうか。

 

「「ロイヤルすぎ〜〜〜!!!!」」

 

 大はしゃぎである。若いっていいなぁというおばさんのようなことを内心で考えながら私は全然違うことを口走った。

 

「ガーディアンなんて群れてて子供っぽいだけじゃない」

 

「「さすが日奈森さん!クール&スパイシー!!」」

 

 いやだから、どの辺がなんだ。こんな捻くれ者を嫌わないで、あまつさえそんなキラキラした目で見てくれるなんて…原作の力ってすごい。言うな。そういう所がひねくれてるって分かってるから。

 

 

「唯世様〜!」

 

「すてき〜!」

 

「髪きれい〜!」

 

「まさに聖夜小の王子様〜!!」

 

 日本に金髪って、あれかな。ハーフなのかな。確かに綺麗な髪だけども。私もピンク髪って人のこと言えないけれども。

 

(でも本当に王子様みたい。まだ子供だから可愛さの方が目立つけど、綺麗な子。羨ましいなぁ)

 

 

「自分から話し掛けるのなんて絶対無理だけどね」

 

 ぽつりと零した呟きに反応するようにカバンから何かが動く音がする。もしやと思って開くと案の定、こころのたまごが動いている。

 

「えっ?!ここでは不味いって、どうしよう…」

 

 何とかたまごをカバンに押し込めると、周囲が不思議そうに首を傾げている。急いでその場を離れようとした時。

 

「あの」

 

 不覚にも王子に肩を掴まれてしまった。

 

「えと、キミ、もしかして…」

 

「はい?」

 

 視線が集まってるのに気付いて慌てて王子の手を振り払った。

 

「気安く触らないでくれる?」

 

「あ、ごめん」

 

「「おお〜っ!」」

 

 ツンとそっぽを向けば何故かあがる歓声に呆れながら、やってしまったことを反省する。用がなきゃ話し掛けないって分かってはいるのだけど、衆目を集めるのはやめていただきたい。驚いたじゃないか。

 

(やってしまった。声を掛けてくれた子に対する態度じゃなかったよね、これもまさか主人公補正なのか。いや、そんなわけないよ。自分のせいだ)

 

 

 

 

「ただ今より秋のガーディアン総会を始めます」

 

 現在は体育館に全校生徒が集まって生徒総会が行われている。司会進行はもちろん、Kチェアの王子こと辺里唯世だ。Kなのだから、本来は王子ではなく王様と呼ばれるべきではないのだろうか。

 

(それにしても、至近距離で見た王子は本当に整った顔だったなぁ)

 

 しいて言えば、ガーネットなのが惜しい。私は金髪には黄緑か水色の眼の方が好きだ。個人的な話だが、さっぱりした色合いが好みなのだ。

 

(だけど、嫌われてるだろうなぁ。第一印象、最悪過ぎるよ。自業自得なんだけどさ)

 

 

「では、意見のある人は手をあげてください」

 

 殆ど聞いていなかったが、総会は順調に進行されているようである。

 

(さっきはごめんなさいって、本当は憧れているって素直に言える子になれたらどんなにいいだろう)

 

『だったら変えちゃえ!』

 

(え?)

 

 俯いていると不意に声が聞こえた。頭の中に響いてきたような不思議な感覚。

 

『素直じゃない子は素直な良い子にキャラチェンジ!』

 

 同じ声が聞こえたかと思うと漫画の効果音のような軽い音がして、気付けば私はその場に立って発言していた。

 

 

「はい!さっきはごめんなさい!あなたが好きです、王子様!」

 

 しんと静まった体育館。大勢の視線に我に返る。

 

「え"?」

 

 まさか、これがあのキャラチェンジというやつか。懐かしい。だけどそれどころじゃない。

 

「…今は総会中です。議題に関係ない話は慎んでください」

 

 平坦な声音で王子は言った。子供相手にそんな言い方しなくてもと思うが、当事者は私で、彼も子供だ。閑話休題にしておこう。

 

「それと」

 

 王子は無情にも続きを告げた。

 

「ボクには好きな人がいます。ごめんなさい」

 

(これは引き篭もり案件だって。急募、解決策だよ)

 

 一瞬、現実逃避に走るがそんな場合ではないと思い直す。外身はこれでも小学五年生だからさすがにキツい。豆腐メンタルがぼろぼろである。

 

(居心地が悪過ぎる。これは逃げるが勝ちだよねぇ)

 

「失礼しました!」

 

 手短に謝罪を告げると私は走り出した。前世でも今世でもこんな醜態は初めてだ。全力疾走で体育館を出るとそのまま校門を抜ける。

 

 

 

 無我夢中で走っていると穴に落ちた。

 

(穴に落ちた?!)

 

 どうやら気付かぬうちに工事現場に入り込んでしまったらしい。そしてそのまま気付かずに穴に落ちたと。

 

(10月3日は…休工日?!誰もいないじゃん。詰んだ)

 

 穴はそこそこ大きくて壁をよじ登っていくのも難しそうだ。八方塞がりになってしまった。

 

「嘘でしょ…」

 

『あむちゃん!』

 

 頭に響いてきた声がまた聞こえた。何となくカバンを見下ろすと、たまごが勝手に動いて這い出てきた。かと思えば私の目線の高さまで浮かび上がった。しかも発光しているときた。孵化するのかもしれない。

 

 放心して呆然と眺めているとたまごにヒビが入る。綺麗に真ん中に。

 

(まさにファンタジー…)

 

 ポンッという小気味よい音と共に、全身ピンクの妖精、いや“しゅごキャラ”が出てくる。

 

「も〜、何やってるのあむちゃん!」

 

 若い子は元気でいいね。私はついてけないから、いきなり怒られても困る。取り敢えず混乱状態を治すきのみが欲しいよね。

 

「飛ぶよ!」

 

「…飛び方分からないけんだけど?」

 

 私がようやくそう言えば、ピンクのしゅごキャラ(確かランという名前だった気がする。うろ覚えだから間違ってたらごめん)が明るく言う。

 

「飛べない子は飛んじゃえる子にキャラチェンジ!」

 

「嘘でしょ?!」

 

 これまた効果音が聞こえるとランの掛け声と共に体が飛翔した。勢いよく飛んでいく体に私は戸惑う。というか初めてだからか制御ができない。よくよく見ると手と足にそれぞれ羽根のようなアイテムが付いている。これが空を飛べるようにしてくれているのだろう。

 

「これデザインは何とかならないんだっけ?」

 

「第一声がそれ?!」

 

 何とか体を安定させようと頑張ってみるが、これがなかなか難しい。体を固定させる物がないから、体幹でなんとかしなきゃいけない。

 

 ようやく、工事現場の骨組みの上に降り立って息を吐く。遊園地の絶叫マシンより断然怖かった。足場があるって安心する。ものすごい高さの為、足元は見れないが景色はいい。

 

 

 

「それで一体何をしたの?君は何なの?」

 

 何となく分かっているが、やはり建前というのは必要だろうと一応聞いてみた。

 

「あたしはラン。あむちゃんのしゅごキャラ!」

 

「しゅごキャラ?」

 

「そう!あむちゃんのなりたい自分」

 

「嘘だ」

 

「嘘じゃないよ!」

 

 ただの茶番なのだが、一度否定しておこう。私のなりたい自分がピンクの塊なんて、少し、いやかなり嫌だったりする。まあ、それはあくまで前世の私の感覚であって、主人公のあむちゃんにランが生まれることは確定なんだけれど。ランが生まれる前から知っていましたとも。ええ。

 

 もしかしたら、()()しゅごキャラが生まれてくるかもとか期待なんてしてないし。生まれてきたら物語が成り立たないし。

 

「あむちゃん、お祈りしたでしょ?違うキャラに変わりたいって。そんな気持ちからあたし生まれちゃった!」

 

 ウインク付きのご丁寧な説明まで貰ってしまった。これはやられたフリをするやつだろうか。あ、ウインクキラーはご存知ないですか。

 

「信じて!そうすれば、あむちゃんはなりたい自分にな・れ・るぅ!」

 

 温度差すごいんだけれど、これが私のなりたい自分なんだろうか。ちょっと信じたくない。

 

 

 なんて考えていれば、段々と何かが近付いてくる音がする。黒い塊が鉄骨の上に止まったかと思えば、すっと立ち上がった。それは猫耳と尻尾を生やした青年だった。

 

 月詠(つきよみ)イクト。確か敵サイドにいる複雑な過去を持った憎めないキャラ。生で見ると、なるほど。コスプレしているようにしか見えない。ぴくぴく動く猫耳が非常に可愛らしい。

 

「お前キャラ持ちか」

 

「フッ」

 

 囁くような声でドヤ顔で言うものだから思わず笑いそうになってしまって口を抑える。イクトは気にせず近付いてくる。細い鉄骨の上でよくそんなに軽々動けるものだと関心してしまう。

 

「…なに?」

 

 匂いを嗅ぐようにスンスンと鼻を動かす。

 

(なにそれ、めっちゃ可愛いじゃんか)

 

 つい真顔で凝視してしまう。

 

「まだ他にもたまごを持っているようだな」

 

「それも2つだにゃ」

 

「よくお分かりで」

 

 イクトの後ろからひょっこりと小さな黒ネコが現れた。きっとその子がイクトのしゅごキャラなのだろう。同じ耳と尻尾を持っている。私と同じ金眼だ。可愛い。

 

「どちら様?」

 

「あむちゃん気をつけて、この人たまごを狙って…きやっ」

 

 ランの言葉を遮って、イクトがデコピンで追い払ってしまう。それを目で追う私にイクトは話し掛けてくる。

 

「あっ」

 

「お前、あむって言うのか」

 

「違いますけど」

 

「は?」

 

 反射的に否定すると不可思議なものを見る目をされる。と思えば、後ろから覆いかぶさられた。

 

 

(〜〜〜これだから美形は!!!!)

 

「見ぃっけ」

 

 たまごを手にしたイクトがにやりと笑う。

 

「返せたまご泥棒!」

 

 たまごに軽く口付けるとイクトは言った。

 

「どうやらもうじき生まれそうだ」

 

「ハンプティ・ロックも手に入ったし、今日は大漁だにゃ。イクト〜帰ろうぜ」

 

「ああ」

 

 イクトが手に持つ2つのたまごはあむちゃんの(わたしの)こころのたまご。なりたい自分。

 

「そのまま帰すわけないでしょうが。()()たまごを返しなさい!」

 

 ヒロインなんて全ッ然キャラじゃないけど、私がヒロイン(あむちゃん)なんだ。ランもミキもスゥも、みんな私のしゅごキャラだから。

 

「あむちゃん!」

 

 足場が怖いとかはもう気にならなかった。とにかく返してもらわなきゃって必死だった。私がたまごに手を伸ばすと、驚いたのかイクトが手を開いた。落ちていくたまごを拾おうと思って私は空中に身を投げた。

 

「あむちゃん!!」

 

「落ちた」

 

 

 

 また死んでしまうのだろうか。望んでないとはいえ、せっかく物語の主人公になれたのに。勿体ないなぁ。もう終わりなのかぁ。

 

「あむちゃん!飛ぶよ!もう1回キャラチェンジ!」

 

 ランの声にハッとして目を開いた。

 

「信じて!あむちゃんの可能性、なりたい自分!」

 

「なりたい自分…」

 

 別に空を飛びたいと願った覚えはないよね。だけど、今こそ必要だよね。主人公になるための____。

 

「勇気を」

 

 そう呟けば小さな黒ネコが持っていたロックがピンク色に光ながらこちらに引き寄せられたように飛んでくる。

 

「にゃ、にゃんだ〜?!」

 

 眩いばかりの光に包まれた私はロックを掴んだ。すると一瞬で姿が変わった。ランの身を包んでいるチア服と瓜二つな格好。正直すごい恥ずかしい。こんなに肌を見せて。だけど、体は羽根のように軽かった。

 

(まだ子供でよかったけど間違いなく黒歴史確定だね)

 

 

 

 そのまま上空へと浮き上がってみる。

 

「やったね、あむちゃん!いきなりキャラなり!」

 

「キャラなり?」

 

「キャラなりはしゅごキャラのチカラを120%引きだすの!」

 

「へえ、それはすごい。この格好はちょっと嫌だけどさ」

 

「ええ!似合ってるのに!」

 

「そりゃどうも。でも、私の可能性なら似合わないはずないんだよねぇ」

 

 チアガールの格好は恥ずかしいけれど、空を飛ぶっていう貴重な体験に比べたらまだ我慢ができる。それにキャラチェンジの時よりも自在に動き回れるのが何より楽しい。

 

「到着っと」

 

 途中で落ちるなんてヘマをすることなく綺麗に着地を決めた。さながら天使が舞い降りたように、なんてね。冗談だけど。

 

「あむちゃんすごい!」

 

「まあね。人間は機械を使わないと空を飛ぶことはできない。だけど、ランとならそれもできる気がしたんだ」

 

 普通に考えたら空を飛ぶことなんて出来ないけれど、空が飛べたらいいなとは思える。なんて言ったってあむちゃんはヒロインだからね。不可能を可能にするのが物語の主人公だから。

 

「それにそっちの方がずっと、面白そうじゃん?」

 

「あむちゃん!」

 

 きっと原作のあむちゃんは普通の女の子だから、こんな風に考えたりはしないんだろう。いきなりこんなことになったら誰だって初めはすごく戸惑う。人生2週目の私だからこその考え方だ。ファンタジーな世界の主人公に生まれたなら、それを楽しまなきゃ勿体ない。

 

 

 

「日奈森さん!」

 

 いつの間に近くに来ていたのか、キャラなりを解いた私に王子が駆け寄ってくる。

 

「またお前かよ、お子様キング」

 

 イクトが挑発するように王子に声を掛ける。王子はイクトから私を守るように立った。

 

「生まれたてのたまごを狙うのはルール違反だ。それに、ハンプティ・ロックに手を出していたとは、月詠イクト!」

 

(なんでフルネームで呼んだの?紹介コーナー?)

 

「あんなところに置いとくほうが悪いにゃ〜」

 

「お前たちにエンブリオは渡さないぞ!」

 

 イクトは余裕そうに王子を眺めているが、対して王子はイクトをかなり敵視しているように見受ける。原作うろ覚えなせいで2人の関係性がよく分からないが、浅くない因縁を持っているんだろう。そんな雰囲気だ。

 

「フッ」

 

 スっとイクトが手を振ると猫の手の幻影のようなモノが出てくる。王子もキャラチェンジをしたのか、小さな王冠を頭にのせて、同じ王冠デザインの杖を構える。

 

「ホーリークラウン!」

 

 イクトの生み出した幻影と王子の創り出す光が衝突する。煙が晴れるとイクトの姿は消えていた。

 

「お得意のねこだましさ。逃げられたな」

 

「尻尾を巻いて?」

 

「うん?」

 

「何でもない」

 

 ついつい茶々を入れてしまうのは私の悪い癖だ。心の中でだけにしておこう。

 

 キャラチェンジを解いた王子が、振り向いてハンカチを頬にあてて問い掛けてくれる。

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

 これを素でやっているんだとしたら人を誑し込む才能があるけど大丈夫そうかな、王子様。喜怒哀楽通り越して呆れるんだけど。

 

「だ、大丈夫」

 

 

 

 私が微妙な表情をしていると別の方向から助け舟がきた。

 

「辺里くん」

 

 2人して声の方に振り向けば、艶やかな黒髪を一纏めにした美少女がそこに立っていた。Qチェアの藤咲なでしこだ。名前の通り、大和撫子という言葉が似合う落ち着いた雰囲気を纏っている。

 

「ガーディアン総会に戻らないと。みんな待ってるわ」

 

 この美少女が本当はねぇ。あれだなんてねぇ。これだけは何年経っても忘れない。当時もものすごい驚いた記憶がある。

 

「キミはもう今日は帰ったほうがいい。それじゃ」

 

「え、これは?」

 

 私は首から下げたロックを指して問う。

 

「今はキミが持っていて、日奈森あむさん」

 

(もしかして恋愛ルートはここで恋に落ちちゃう感じ?私は精神年齢的にアウトだけど)

 

 去って行く2人を見送ると影を薄くしていたランが話し掛けてくる。

 

「よかったね、あむちゃん!」

 

「うーん、微妙かも。って、君のせいでフラレてるんだけど?」

 

「気にしない!気にしな〜い!まだまだチャンスはじゅ〜ぶんっ!」

 

「そこはさすがに気にして欲しいなぁ。タイミング悪過ぎだよ?しかも“好き”じゃなくて“憧れ”だし。絶対、あらぬ誤解を生んだでしょうが」

 

 私は小言を垂れると、さっさとランを置いていく。

 

「あむちゃん〜!待ってよ〜!!」

 

(この声、阿澄佳奈さんなんだよなぁ)

 

 

 後ろにランの声を聞きながら、私が歩みを止めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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