ヒロインなんてキャラじゃない   作:海崎実紀

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こころのたまご!

こどもはみんな

 

こころのなかにたまごをもっている

 

こころのたまご

 

目には見えない

 

なりたい自分

 

 

 

 

 

 

 

 

 今思い出してみても夢みたいだと思う。私があむちゃんとしてたまごを生んで、そのたまごから生まれたランとキャラなりして。

 

「夢なんかじゃなーい!」

 

 不意にランが出てきて驚いた。だいぶ心臓がバクバクしている。私に恨みでもあるのだろうか、この子は。

 

「すごかったよねえ!キャラなり!ギューンって飛んでジャーンってなって、もう最高!ね、あむちゃん!」

 

「うん、空を飛ぶのは楽しかったかな。その前に一悶着あったけど」

 

 そう言いながら私はランの頬っぺたを掴んで軽く引っ張る。

 

「痛いよ〜!あむちゃん!ランも反省してるから!」

 

「ああやって堂々と物を言える子にはなりたいけど、恥をかくのは二度とごめんだからね」

 

「それは何度も聞いたってば〜」

 

 私から生まれたしゅごキャラにしては落ち着きがないように見えるランは、きっと子供らしくない私の反動だと思う。妹がいるっていうのもあるけど、私は昔から両親や周りに迷惑をかけないように自分を抑えていた。興味があることも何となく見ないふりをして。

 

 だからきっと、潜在意識の中でランみたいな無邪気で純粋な子になりたがったんだと思う。そうじゃなかったら、生まれてくるのは同じランでも中身がちょっと違っただろうし。私の中身が結構さっぱりしているせいか、ランも原作よりほんの少しさっぱりしているような気がする。原作はうろ覚えだけれど。

 

 

 

 

 教室の前まで来たはいいものの、昨日の今日でさすがに入りづらい。けれど、このまま扉の前に立っていたって仕方がないので、意を決して中に入る。

 

 教室中の視線が私に集まっているのが分かる。目を合わせられない。

 

(やっぱり噂はしているよね。普通に考えて、総会中に告白はないでしょ。私だったらドン引きモノだね)

 

「日奈森さん」

 

 席に座ると早速とばかりに人が寄ってくる。

 

「昨日すごかったねえ! 」

 

「はい?」

 

 キラキラした目に私は動揺する。

 

(まさかのそっちパターンですか)

 

「あんなふうに告白できるなんてさすが〜!」

 

「「うんうん!」」

 

「日奈森さんも王子様のこと好きだったなんて、親近感湧いちゃった〜!」

 

(恋愛感情はないけどね)

 

「クールなキャラかと思ってたけど、あんな日奈森さんも全然ありだね」

 

(クールなキャラではないけどね。…私ってもしかしてツッコミキャラだったの)

 

 噂の一人歩きほど、怖いものはないとやっぱり私はそう思う。そして、この世界の住人は割と肯定的な人間が多いらしい。とても良いと思う。ストレスフリーな社会バンザイ。

 

 

 

「失礼します」

 

 そう言って教室に入ってきたのは、昨日見掛けた美少女。藤咲なでしこだった。クラス中が彼女に見惚れている。

 

「うわぁ!ガーディアンQチェアの藤咲なでしこ様!」

 

「すてき〜!ロイヤルケープがなんてお似合い」

 

「でもどうして星組に?」

 

 なでしこは丁度、私の前で足を止めた。

 

「日奈森あむさんね?」

 

「そうだけど…?」

 

「今日の放課後、ロイヤルガーデンでお待ちしているわ」

 

 そう言ってなでしこは私に、蝋封印の押された手紙を渡してきた。これがガーディアンのお茶会への招待状なのだろう。

 

「ロイヤルガーデン…」

 

「それと辺里くんから伝言よ。“たまごのこと教えてあげる”って」

 

「え」

 

「それじゃあ放課後に」

 

 なでしこは私に耳打ちして颯爽と去って行った。靡く黒髪が美しい。ガーディアンには正直な話、余り入りたくはないが、なでしことは親しくなりたいと思う。多分、王子よりもずっと。なでしこの秘密にはもちろん驚いたけれど、初期のしゅごキャラでの推しはなでしこだった私からすれば、お近付きにならない理由はない。

 

 

「すごいよ、日奈森さん。ロイヤルガーデンのお茶会に招待されたんだ!」

 

「お茶会…」

 

「そうだよ、それ招待状だよ」

 

 小学生のお茶会の招待状に蜜蝋って、やっぱりお金持ちは住む世界が違う。今の私も同じ場所にいるんだけど、こればかりはギャップを感じる。

 

 

 

 

 

(ロイヤルガーデンのお茶会。行ってみたいような、行きたくないような。原作始まってるから、きっと忙しくなるんだろうなぁ)

 

 体育の授業中、体育座りで高跳びの順番待ちをしている間にそんなことを考えていた。

 

(まあ、なでしこに会えるならいっか)

 

「ねえねえ、お茶会ってなあに?」

 

 急にランの声がして私は焦る。

 

「ラン!出てきちゃダメだって!」

 

 私は小声でランに呼び掛ける。だけどランは気にせず、なんなら他の生徒の前で浮かび上がって準備運動を始めてしまう。慌てる私だが、しばらくしてクラスメイトが何もリアクションをしないことに気付く。

 

「ほら大丈夫でしょう?普通の人にはしゅごキャラは見えないの」

 

「そういうのは先に言いなさいな」

 

 

 

 と、近くで何かから落ちたようなドサッという音と声が聞こえる。クラスメイトも気になったようで同じ方向を見ている。

 

「三年生は鉄棒か」

 

「私も苦手なんだよねぇ」

 

(私も余り得意じゃないなぁ。逆上がりなら頑張れば出来ないことはないけどさ)

 

 体育教師が失敗した男の子に声を掛けたかと思えば、見本を見せてくれる生徒がいないか尋ねている。誰も名乗り出ない。三年生は誰も逆上がり出来ないのだろうか。小学生くらいだと誰かしら運動が得意な子が率先して手を挙げるものだと思うが。少なくとも私の子供の頃はそうだった気がする。

 

「おーい、五年生はどうだ?」

 

 今度はこっちに振ってきた。嫌な予感がする。

 

「ねえ、日奈森さんは?」

 

(やっぱりきた。最早フリだったよねぇ)

 

「そうそう。日奈森さん何でも得意そうだもん」

 

 幻想を打ち砕くようで悪いが、何でも出来る人間なんていない。だから人に勝手に期待を抱くのも、極力やめていただきたい。

 

「行っちゃえあむちゃん」

 

 

 不穏な声が聞こえたかと思えば、お決まりの効果音が聞こえて体が勝手に動き出す。

 

「はーい!いっきまーす!」

 

(その頭の軽そうな元気っ子は誰だよ。私だよ。ちくしょう)

 

 ダッシュで鉄棒に向かっていったかと思うと掴んだ瞬間、すごい勢いで回り出す。最後に空中で何回か回転して綺麗な着地を決める。誰がどう見てもやり過ぎである。

 

(三半規管が〜)

 

「い、いやぁ、逆上がりの見本を…」

 

 私も切実に同意しますよ、先生。確かにすごいけど、これじゃ全く見本にならない。

 

「すーはー」

 

 大きく息を吸って体を落ち着かせる。

 

「すみません、ちょっと調子に乗りました。今からちゃんと見本をやるから、よく見ててね」

 

 本当は直ぐにでも座り込みたい。休みたい。けれど、自分でやるって言ったからにはきちんとお手本を見せないと。幸い、前世でも今世でも運動は得意ではないが、苦手意識もない。

 

「あむちゃん!」

 

(ランは後で覚えておいてね?)

 

「よっと」

 

「「おお〜!!!」」

 

 何とか逆上がりは成功した。逆上がり程度でその歓声は恥ずかしいからやめてほしい。切実に。

 

 

 

 

「ラン〜???」

 

「うわぁ!すっごい怒ってる!」

 

「当たり前でしょ!あれじゃ見本にならないし!三半規管やられるし!」

 

 人目を避ける為、トイレの個室でランを説教している。

 

「みんな喜んでくれたからいいじゃん〜」

 

「私は喜んでないんだけど?人のキャラを勝手に変えるのはやめてって言ったよね?」

 

 いつもより数倍低いトーンの声にキツくつり上がった目元。本気で怒っているからか悪役みたいな顔だ。

 

「あむちゃん…」

 

「本当に…次はないからね」

 

「あむちゃん!」

 

 そろそろ言い過ぎかと思って怒りの矛先を収めると、途端に元気になるランに苦笑いをする。

 

「…あれ?今誰かいたような?」

 

 視線を感じたような、気の所為のような。

 

 

「取り敢えず、しばらくは大人しくカバンに入ってて」

 

 そう言って私はカバンの口をランに向ける。

 

「大変、あむちゃん!たまごが1つ足りないよ!」

 

「え?」

 

 覗いてみると確かに青いたまごがなくなっている。何処かで落としてしまったのだろうか。同じことを思ったのか、ランも声を上げる。

 

「どこかで落としちゃったのかも!探さなきゃ!」

 

「でも次の授業、もうすぐ始まるよ」

 

「放課後探そう!」

 

 放課後という言葉に、今朝の教室でのやり取りを思い出して呟く。

 

「…放課後はお茶会」

 

「あむちゃん…」

 

 悲しそうな表情のランに胸が痛む。

 

「なんてね。お茶会ならまた今度行けばいいじゃん。ランも他のたまごも、私の願いから生まれたんでしょ?なら、私が見つけなきゃ筋が通らないよねぇ」

 

「あむちゃん!」

 

 それにしても、本当に落としてしまったのだろうか。もしたまごの状態でも意思があるとしたら、私は何か気に触る発言でもしてしまったのか。

 

(喜んでないってところ?)

 

 なりたい自分になりたくないという風に受け取られてしまった可能性はある。私は別に、時と場所と状況の話をしたかっただけなのだが、誤解ということか。

 

 

 

 

「ほとばしる美のカーニバル!それが芸術、アート!」

 

 図工室での人物模写の授業。クラスメイトの山吹沙綾は本日も絶好調らしい。今時、ステレオタイプの令嬢なんて珍しい。私は天然記念物だと思って眺めている。

 

「日奈森さん。(わたくし)、山吹沙綾の美貌を実物通り美しく描いてくださらないと許しませんわ」

 

 絵を描くのは好きだ。体を動かすよりもずっと。周りに迷惑を掛けずに1人で出来る遊びだから、昔はよく絵を描いていた。上手いかどうかは別として。

 

 私は自分の絵と沙綾を見比べる。

 

(うん、これは見せられるものじゃあないね)

 

「どうかしました?」

 

「いや、何でもないから気にしないで」

 

(描くのは好きだけど、才能は無いんだよねぇ)

 

『だったら変えれば?』

 

 ランの時と同じように何処からか声が聞こえてくる。この声は間違いなくミキだろう。

 

『上手く描けない子は何でも描ける子にキャラチェンジ!』

 

 いつもの効果音がして、途端に腕がすごい速さで動き出す。目にも止まらぬ速さで描き上がった絵はとても私が描いたとは思えないほどのクオリティだった。

 

「こ、これが(わたくし)?」

 

「「おお〜!!」」

 

(いや、私だけど私じゃないっていうか。複雑だ)

 

「ランがやったの?」

 

「ち、違うよ!あたしができるのは運動だけだもん!」

 

 空を飛ぶことが運動のカテゴリに入るのか甚だ疑問である。けれど、ランではないのならやはり…。

 

 不意に窓の外に視線を移すと案の定、ミキがスケッチをしながら浮かんでいた。

 

「見つけたぁ!」

 

「すみません、御手洗行ってきます!」

 

 言うが早いか私は教室を飛び出した。先程、ミキがいた方へ向かって校舎を走る。

 

 

 

「あむちゃんあの子!」

 

 ランの視線の先にはミキがいる。

 

「分かってる。2人目のしゅごキャラだよね」

 

 捕まえようと試みるも尽く避けられてしまう。

 

「はぁはぁはぁ」

 

「どーして逃げるの?あなたもあむちゃんのしゅごキャラなのに」

 

 ランの声に振り返ったミキは寂しそうな顔をしている。

 

「ボクはミキ。あむちゃんのなりたい自分。でもまだふわふわしてて曖昧なんだ。あむちゃんが信じてくれないとすぐに消えてしまう」

 

 私はまた迷っていたのかもしれない。あむちゃんのしゅごキャラは私のしゅごキャラなのに。また他人事のように考えていた。確かに原作と同じかもしれない。でもこの子達は私が願って、その願いから生まれた子達なんだ。なら、私の言葉で私の想いを伝えなきゃ。

 

「信じてるよ。まだ私には、私のなりたい自分がはっきりとは分からない。でもだからこそ、何にでもなれるって信じてる」

 

「あむちゃん!」

 

「喜んでないって言ったのはどうして?」

 

「時と場合と状況の話だよ。ランはいつもタイミングが悪いし、加減しないでしょ?キャラチェンジ自体は楽しいから嫌いじゃないよ。新しい自分を見つけられるしね」

 

「あむちゃん。ボク、勘違いしてたみたいだね」

 

「それじゃ、早く戻るよ。私がトイレ長いみたいじゃん?」

 

「うん!」

 

 イタズラっぽく笑えば、ミキも笑顔を返してくれた。やっぱり、みんな笑っている方が素敵だ。

 

(信じてるよ。主人公の潜在能力は誰よりすごいって)

 

 

 

「フッフフフ。聖夜学園、楽しそうなところだ」

 

 

(今、闇堕ち系のまじーの声が聞こえたような…?)

 

 

 

 

 

 ようやく放課後になり、招待状を手に私はロイヤルガーデンへやって来ていた。部活動に励む声が遠くから聞こえてくる。

 

「いよいよお茶会だね、あむちゃん!」

 

「そうだね」

 

 それにしても、生徒会に与えられるにしては随分と豪華な場所だ。それだけガーディアンの学園内での地位が高いということだろう。ロイヤルガーデンと呼ばれるが、植物園という解釈でよいのか。

 

「失礼しますよー?」

 

 中も期待を裏切らぬ、なかなかの物だ。

 

「やあ、日奈森さん。ようこそ、ロイヤルガーデンへ」

 

 立ち並ぶガーディアンの面々の傍にはそれぞれのしゅごキャラだと思われるちびキャラ達が浮かんでいる。

 

 

 

 ガーディアンの4人とテーブルを囲んで座る。対面には王子が座りそのすぐ横に空海、右隣がややで左隣がなでしこだった。なでしこ手ずから入れてくれたお茶に、なでしこが焼いてくれたスコーンまである。なお、これは決して百合ではない。

 

「それじゃあ、まずは自己紹介から。ガーディアンのKチェア、辺里唯世。キミと同じ五年生。それと、ボクのしゅごキャラのキセキ」

 

 王子のすぐ横に浮かんだしゅごキャラがマントを払う。紫色の髪に小さな王冠をのせた、青い眼のしゅごキャラ。

 

「Qチェアの藤咲なでしこ。同じく五年生。この子はテマリ」

 

 なでしこの隣に佇むのは薄桃色の着物が似合う桜の髪飾りのしゅごキャラ。

 

「Aチェアの結木やや!四年生!かわいいものだいすっき!こっちはペペちゃん、よろしくっちゅ!」

 

 ややが紹介したのはややによく似た赤ん坊の姿のしゅごキャラ。

 

「Jチェアの相馬空海。六年。サッカー部のキャプテンも兼任してる。こいつはダイチ」

 

 空海の傍には緑の髪にヘアバンドをした、活発そうなしゅごキャラ。

 

 

「私も自己紹介した方がいい感じ?」

 

 そう問えば、なでしこがにこやかに否定する。

 

「大丈夫よ、あなたのことは何でも知ってるわ。日奈森あむさん」

 

「本当は人見知りなんでしょ?かーわいい!」

 

「あとは怖い話が苦手なんだってな」

 

「なんでそんな事知ってるの?」

 

 学校でその手の話をした覚えはない。ガーディアンは探偵でも雇っているんだろうか。というか、私のそんな情報なんて1円の価値もない。

 

「生徒の個人情報を管理するのがガーディアンの役目ですから」

 

「「うんうん」」

 

「プライバシーという概念は何処へ?」

 

「ふふっ」

 

 なでしこちゃん、あのね笑って誤魔化さないで。少し恐いです。

 

「そしてあなたのしゅごキャラ。ラン、ミキ」

 

 なでしこに名前を呼ばれた2人は照れくさそうに視線を逸らす。先程生まれたばかりのミキの名前まで知っているとは、どういう情報網なのか気になるところだ。

 

 

「それで、しゅごキャラって一体何なの?」

 

 おしゃべりもいいが、とっとと本題に入らせてもらおうと、私は彼らに問い掛けた。

 

「これを」

 

「…絵本?」

 

 手渡された絵本は少しばかり古ぼけて色褪せている。“こころのたまご”、そう書かれたタイトルの下に、微妙な表情を浮かべたたまごの絵が描かれている。

 

 

“こどもはみんな こころのなかにたまごをもっている

目には見えない こころのたまご

大人になると 消えてしまう”

 

 その先はページが破られていて読めない。

 

 

「その絵本はね、ガーディアンの設立者、初代Kが描いたものなんだよ。こころのたまご。なにかに似てると思わない?」

 

 王子は優しく尋ねる。

 

 私は私の願いから生まれたたまごを思い浮かべた。

 

「そう!みんなが持ってるこころのたまご。でも、たま〜にヘンテコなたまごがあって、中からもう1人の自分が出てくることがあるの」

 

「それがしゅごキャラってわけさ」

 

「…もう1人の自分」

 

 ガーディアンの言葉を私は感慨深げに受け取る。ランやミキ。そしてこれから生まれてくるスゥやダイヤは本当にもう1人の私なのだろうか。姿形こそ原作と同じなだけで違うところがあるのだろうか。

 

 

「ボクたちガーディアンはしゅごキャラを持っているキャラ持ちの者が代々メンバーを受け継いでいる。だから、日奈森あむさん。キミもガーディアンに入ってほしい」

 

 王子が私の目を見て言った。

 

(王子と同じガーディアンに…)

 

「こころのたまご。普段は子供たちのこころのなかで眠っている。でも、時々たまごの持ち主が悩みを抱えて自分のこころにバツを付けてしまうことがあるんだ。そうなると、こころのたまごはバツたまに変化してしまう」

 

(それがバツたま。可能性の否定。未来に希望が持てないというやつかな?若いのに大変だねぇ)

 

「そういう時、お前のキャラなりがきっと役に立つ!うん」

 

「キャラなりできるメンバーはこの中にもいないのよ」

 

「ややも見た〜い!キャラなりぃ!」

 

 ガーディアンのメンバーが畳み掛けるように話す。

 

「あれは偶然だし、どうやってなったのか自分でも分からないのだけど?」

 

 そう言って王子を見遣れば、柔らかな微笑みで返される。

 

「ガーディアンになってもらえないかな?」

 

 フィルターが掛かってないのに輝いて見えるのは一体何なのだろう。これがロイヤルなのか。日本人ならば庶民だろうが。

 

 

 

「私は…」

 

「「私は?」」

 

「遠慮するよ」

 

「「「・・・・」」」

 

 

 その場に沈黙がおちる。真っ先に回復したのはややだった。

 

「な、なんで〜?!ガーディアンになれば、色んな特権てんこ盛りなのに!!」

 

 心底驚いたと言うように騒ぐややに私は告げる。

 

「そのメルヘンチックなケープとか、私のキャラじゃないし」

 

「…ケープって」

 

「…それだけ?」

 

 私の返答に空海となでしこが呆けたように呟く。

 

「大事なことだって。(一応)クールなキャラだから、そんな(イタイ)ケープは着れないし、どう見ても私のファッションに合わないじゃん?」

 

 それが何故か空海のツボにハマったらしい。

 

「はっはっはっは!なんだこいつ、おもしれぇ〜!合格!」

 

「入らないよ?」

 

 今度は王子が子犬のような目で見てくる。

 

「…どうしても、ダメ?」

 

 これだから美形は(2回目)。捨てられた子犬か。目が大きいしまつ毛長いし羨ましいな。無自覚でこれをやっているなら相当タチが悪い。普通の女の子なら即落ち確定だ。だが、騙されないぞ。私は出来る子だからな。直視はキツいが。

 

 スっと目を伏せると私は答える。

 

「用件が済んだなら、私は帰るよ。じゃあね」

 

 私はそのまま、ロイヤルガーデンを後にした。しまった、なでしこの手作りお菓子を堪能し忘れた。

 

 

 

 

 

 

 学園の敷地内のベンチに座った私にランが問い掛けてくる。

 

「本当によかったの断っちゃって」

 

「いいんだよ。せっかくクラスに馴染み始めたのに、ガーディアンに入ったら余計浮いちゃうじゃん?私は普通がいいの。普通が1番だよ」

 

 本音を言えば、ガーディアン入りを断ったのは別の理由だ。単純に怖かったんだ。本物の登場人物達の中に異物(自分)が混ざるのが。彼らが欲しいのは私じゃない。キャラなりなんて、物語の終盤では皆が出来てたじゃないか。

 

 後になって、なんだ本当はその程度なのかって見限られるのが怖い。いつか私が主人公(あむちゃん)じゃないって見透かされそうで。考え過ぎかも知れないけれど。

 

 

 

「王子に近付けるチャンスだったのに」

 

 ミキの言葉に、私は深みにハマりそうだった思考を切り替える。

 

「王子はそんなんじゃないよ、ただの憧れ。遠くから眺めてるくらいが丁度いいの。…ってしまった。これ返すの忘れた」

 

 私は不意にハンプティロックを返すのを忘れたことを思い出した。

 

 ポケットから取り出して見ていると、すぐ近くで短い悲鳴と聞き覚えのありすぎる落下音が聞こえた。目線を上げると校庭の端で1人で鉄棒の練習する少年の姿が見える。

 

 それは体育の時の少年だった。逆上がりの練習をしているらしい。何度も同じ動作を繰り返している。

 

「…あの子」

 

「がんばり屋さんだね」

 

「はぁ〜…、あ!日奈森先輩!」

 

 ふと顔を上げた少年と目が合った。そのまま無視するのも忍びないので、仕方なく少年の方へ歩いていく。

 

 

 

「は、恥ずかしいところを見られてしまいました。すいません、日奈森先輩」

 

 うんうん、練習してる所を人に見られたら恥ずかしいよねぇ。でも謝らなくていいんだ、少年よ。

 

「はぁ、こんなボクじゃクール&スパイシーな日奈森先輩のファンになる資格、ないですよね…」

 

 ファンになるのに資格は要らないんじゃないかなぁ。あと、私のファンはご遠慮願いたい。

 

「だってボクってば運動神経ゼロ、ドジでおまけに歳の割にジジくさいってよく言われちゃうし」

 

 思わぬブーメランを食らったよ。私も運動神経は別によくないし、鶏並の記憶力だし、極めつけは精神年齢ババアだよ。やめて、私のライフはもうゼロよ。

 

 

 少し強い風が私達の頬を撫でる。

 

「ボクの夢なんかどうせ叶わないんだろうなぁ」

 

 段々と胸がザワついてくる。

 

「どんな夢なの?」

 

「ボク、学園のトップの成績になりたいんです。ゆくゆくはIT社長か、カリスマプログラマーにもなりたい。けど…」

 

 嫌な予感がする。

 

「けど?」

 

 

「なれないに決まってる」

 

 

 少年がそう零した途端、ソレは現れた。少年の感情に呼応するように真っ黒に染まったたまご。嫌な感じのする光を放って、空に浮かび上がったのはバツ印の付いたたまご。

 

「あれって」

 

「もしかして」

 

 紛れもなくバツたまだ。画面越しでなら勿論見たことはあるが、直接みるのは初めてだ。負のオーラを纏っている。

 

 宿主である座り込んでいた少年を見れば、フラフラと立ち上がる所だった。その表情に生気はなく、人形のようだ。

 

「ボクなんてダメダメなんです」

 

 少年が虚ろに語り出す。

 

「日奈森先輩だって情けないと思ってる」

 

 え、何それ怖い。私はそんな感情を抱く程、貴方と親しくないんですけれど。愛が重いとはこういう事か。愛ですらない気もするが。

 

「そんなこと思ってない」

 

「思ってるんです!!!」

 

 私が否定すれば、少年はいきなり怒鳴る。なんだいなんだい、大人しいメガネっ子だと思ってたけど結構アクティブじゃないか。

 

 少年の言葉と共にバツたまの力なのか、強風が吹く。風起こしが使えるとは全くなんてロマンチックな。

 

「うっ」

 

(風強っ。砂埃が)

 

「『夢なんかムリ。ムリ。ムリ。ムリ…』」

 

 マインドコントロールでも受けたかのように同じ言葉を繰り返す少年に、そろそろ現実逃避もしていられなくなってきた。

 

「はぁ」

 

 私は溜め息を吐いて切り替えると、少年に届くように言葉を紡ぐ。

 

 

「何が無理だよ。自分で自分を信じてやらなきゃ勿体ないじゃん。私達はさ、何にだって成れるんだよ 。何もしないで諦めるとかひよってんなよ、少年!」

 

 私の声に応えるかのようにハンプティロックが光を放つ。

 

「私のこころ、解錠(アンロック)

 

 ぼんやりと、アニメでのここの演出が某カードハンティングアニメの封印解除(レリーズ)に何処と無く似ていると思った。

 

 そして淡い光に包まれる。魔法少女(?)の変身シーンは謎の光が大活躍する。

 

 

 

「『キャラなり、アミュレット・ハート』」

 

 ランの声と私の声が重なる。不思議と昨日よりもスッキリとした気分だ。シンクロ率が上がったのかもしれない。いい調子だ。

 

「また変身してしまった」

 

 またつまらぬ物を…のノリである。黒歴史がまた増えてしまった。それにしても、こんなにお腹出してたらお腹を冷やしそうなものだ。

 

『ムーリー!ムーリ、ムーリ!』

 

 空高く浮かび上がったバツたまは再度風起こしを放つ。ちくしょう、あいつはひこうタイプだ。楽しそうに謳いやがってからに。

 

 ドスい紫色の筋に見える風が行く手を阻む。幸いにも鎌鼬のような殺傷能力はない。

 

『あむちゃん、大丈夫。行けるよ!』

 

「行けるってどうするつもり?」

 

『感じない?どんどんパワーが湧き上がってくる!』

 

 ハンプティロックを通して、パワーが湧き上がってくるのが分かる。果てさて何のパワーだろうか。聖属性エネルギー?

 

 だけど、私のやるべき事が手に取るように分かる。私は両手でハートを形作る構えをとった。

 

 

「ネガティブハートにロックオン!」

 

 そこからプラスのエネルギーの波動が放たれる。

 

「オープンハート!!!」

 

 バツたまはその光に浄化されていく。

 

 またしても何処ぞのアニメに似ている。オープンマイハートとか。ピンクフォルテウェーブ的な。殆どの技名ダサいんだよなあれ。

 

『ム〜リ〜!』

 

 そのうちにたまごは完全に浄化され、天使の羽根の模様の描かれた真っ白なたまごに戻った。

 

 

「すっごい、あむちゃん!」

 

 いつの間にか変身も解けていた。

 

「うわ、メルヘン。手から光線出たんだけど、まじやばいって」

 

 動揺のあまり思わず早口になる。自分がやる側になるとこんなにむず痒いとは。これを毎回やるのか。だいぶメンタルにくる。イタイって本当にイタイって。

 

「でも、カッコよかった」

 

「えっ、ああ、うん」

 

 ミキの真っ直ぐな賛辞に私はたじろぐ。子供の琴線は分かりません。しゅごキャラは子供なのか。

 

 

 こころのたまごはそのまま持ち主の少年の中に戻っていった。

 

「おやぁ、ボクは一体…?あ、日奈森先輩!」

 

 不思議そうな顔の少年に私は言う。

 

「言っとくけどね、私だって君と変わらないんだよ?」

 

 むしろ酷い。主に精神年齢が。

 

「え?」

 

「だから…私だって口下手だし臆病だし勉強出来ないし自分に自信ないし。君と同じ。だからこそ君が駄目だなんて1ミリも思ってないって言ってるの」

 

 ついつい、声に力が込もってしまう。自分の気持ちを相手に伝えるのって苦手だ。

 

「…日奈森先輩!感動です感激です!先輩のスパイシーパワー、確かに受け取りましたぁ!!」

 

「え"」

 

 スパイシーパワーってなんや。

 

「うぉ〜!何か胸がわくわく温かくなってきました!なってみせます。学園トップでIT社長なカリスマプログラマーに!いーや、それよりなにより、日奈森先輩の1番であり続けた〜い!!」

 

 いきなりヒートアップし出した少年についていけない。若干の狂気すら感じる少年に私は思考をシャットアウトした。と言うか初めから1番じゃないし。

 

 

 

 

「おーい!日奈森!」

 

 呼ばれた方を振り向けば、なんとガーディアンの面々が勢揃いしている。いつからそこにいたのだろうか。

 

「もしかして、見てたの?」

 

 私の疑問に満面の笑みで答えるガーディアン。

 

「ばっちり!」

 

「いーなー!キャラなり!」

 

「日奈森さん、キミはやっぱり…」

 

 続きを聞きたくない私は必死に誤魔化そうとする。

 

「ち、違うよ。人違いだよ、見間違いじゃない?し、失礼しました!」

 

 何事も逃げるが勝ちである。私は逃亡をはかった。

 

 

 

 

「まったね〜!!!」

 

 そんなあむの背に向けて、ややは大きく手を振る。

 

「想定外の新顔、か」

 

 空海の呟きに合わせて、唯世がなでしこに話を振る。

 

「どうする?藤咲さん」

 

 唯世と向き合ったなでしこはにこやかに答える。

 

「もちろん。こんなことで引き下がるガーディアンではなくてよ」

 

 ウインクまで様になっている。さすがなでしこ様だ。そして、決定権を握るのはKチェアではないのか。

 

 

 

 

 

 

 夜。私の部屋ではランが上機嫌にはしゃいでいた。

 

「あ〜今日も楽しかった!あむちゃんとキャラなりするのって最高の気分〜!!ねぇ〜?」

 

「いやぁ、別に?」

 

 本当はこれ以上、黒歴史は勘弁願いたい。そんな私にミキが言う。

 

「かわいくない」

 

「失礼な」

 

「あまのじゃく!」

 

「へそ曲がり」

 

「べぇー」

 

 可愛いかよ。

 

「あむちゃん、こっちこっち〜!あははは!」

 

「ちょっとミキ!」

 

「あむちゃん、こっちぃ!」

 

「ランまで?!も〜!」

 

 

 

 口下手で臆病で自信がなくて天邪鬼で。だけど、それも悪くないのかもしれない。だって、どんな私も私でしょう?

 

 ヒロインなんてキャラじゃないけど、この日常も悪くないかもしれない。

 

 

 

 

 






書いたやつ半分くらい全部消えたりしてたのでだいぶ更新遅くなりました。あとバイトが忙しい。

ハーメルンでは初めての執筆なんですけど、さっそく感想来てて驚きました。占ツクとかなろうとかより優しい場所だと思いましたね。

小説の内容に関しては、その時のテンションで結構文章変わっちゃうんですが、ご愛嬌ということでお願いします。
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