最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
雑木林が延々と続く森の中、俺と祖父は目的地を目指して歩いていた。森は進んでいくに連れ、どんどん足場が悪くなっていく。
「ムゲンよ。お前ももう十六歳だ。モンスターの一匹くらい、一人で狩れるようにならんとな」
「うん。俺、頑張るよ」
祖父は白い髭をさすりながらズンズンと森の奥深くへと進んでいく。今日が初めての実戦の日である。
この俺、ムゲン=アベイルは異世界転生者である――といっても死んだ直後から元の世界の記憶があった訳ではない。
八歳の頃、冒険者を生業としていた両親が亡くなった。その直後に俺は元の世界での記憶を取り戻した。
両親が亡くなってからは祖父のナハラ=アベイルと共に山にある家で二人暮らしをしている。
「着いたぞ。ムゲン」
早足で歩いていた祖父が足を止める。俺の視界の先には手の平サイズほどのハチが巣を守るように飛び回っている。
「あれがハニービーと呼ばれるモンスターだ。さして凶暴なモンスターではないが、油断しないことだ」
「了解」
俺はゆっくりと大きな巣に近づいた。初めての実戦というだけあって中々緊張する。
すると、俺の姿に気づいたハチ達が『カチカチ』と音を立てながら近づけきた。
この音は蜂が敵に対して威嚇をしている音だ。
「いくぞ……ファイボール!」
基本魔法であるファイボールを一匹のハチに放つ。火の玉をモロに喰らったハチが黒焦げになる。
すると、巣の中から続々とハチが出てきた。迫り来る数々のハチをファイアボールで迎え撃つ。
「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール!」
倒しても倒しても湧き出てくるハチ達。流石に魔法を出し続けるのは厳しくなってきた。
「ムゲンよ! 一度距離を取って魔力を回復しろ!」
祖父の指示に従い、ハチの軍勢から距離をとった。懐からポーションを取り出し、飲んで魔力を回復する。
「ムゲン。中位魔法を使え」
中位魔法か……神経を研ぎ澄ませ、複数の敵を殲滅するのに適した魔法を繰り出すべく、手を前にかざす。
「エクスプロード」
呪文を唱えると前方に大きな爆発が起こる。爆音が鳴り響き、耳が『キーン』と響いた。
ボトボトとハチの死骸が次々と地面に落ちていった。
「これで完了……と」
煙が消えると、目の前に一匹のハチが俺の顔に迫ってきた。
「油断大敵だな」
祖父が俺の前に移動し、ハチを剣で真っ二つに切り裂いた。
「じいさんが手を出さなくても何とかなったさ」
ウソである。実を言うと心臓がバクバクと激しく振動していた。
一瞬、元の世界でのことがフラッシュバックした。
「そうか。ムゲンよ。巣を持ち帰るぞ。手伝ってくれ」
「分かった」
祖父と二人で巨大な巣を家まで運ぶ。巣の中にはたくさんのハチミツが入っているらしい。
一時間掛けてようやく家まで巣を運び切ることができた。
「ふー、疲れた」
額から流れる汗を手で拭う。モンスターを討伐した上に、大きな巣を家まで運ぶ。かなりの重労働と言ってもいいだろう。
「ムゲン。お前は家で休んでいろ。今夜はご馳走を作ってやろう」
「ありがとう、じいさん」
家の中に入り、シャワーを浴びてそのまま自分のベッドにダイブした。
「モンスターと戦うって……思ったより大変だな」
日頃から祖父には稽古を付けてもらっているが、命懸けの戦いとなると訳が違う。
今回の戦いで感じたが、俺は冒険者には向いていない。おそらく俺は両親や祖父のような立派な冒険者にはなれっこないだろう。
元の世界の記憶を取り戻した俺だからこそそう思える。
明日から街にある魔法学校に通うことになるが、卒業後は冒険者ではなく、魔道具開発者にでもなろうと考えている。
俺はしばらくの間、眠りに耽った。
「ムゲンよ。料理が出来たぞ」
部屋の扉越しから祖父が伝えてきた。祖父の声で目を覚ました俺は俺はリビングへと向かう。
リビングに入ると、テーブルに並べられているケーキ、ローストチキン、そして蜂の子といった料理が目に入った。
「どうだ? 中々豪華な料理だろう」
「そ、そうだね……」
豪華な料理には違いないが蜂の子――中々グロテスクな見た目である。そして、懐かしい。
テーブルの手前に置いてある椅子に座り、料理を食べることにした。料理はどれもこれも美味しい。勿論、蜂の子も。
ケーキはハチミツの味がする。
「すごく美味しいよ、じいさん」
「そうだろう。魔力を込めて作ったからな」
この世界において、料理は魔法で作ることができる。
しかし、それができるのはごく一部の人間だけだ。祖父はそのごく一部の人間に該当する。
「いよいよ明日だな」
「そうだね」
明日は魔法学校の入学試験である。今日の為に祖父から魔法について指導を受けた。
「ま、お前なら合格できるだろう。これから半年間しっかり頑張れよ」
「うん、頑張るよ」
食事を終えた後、自分の部屋に戻り明日の準備を進める。
魔法学校に入学するに当たって、寮で暮らすことになる為、たくさん物を持っていく必要がある。
試験結果は試験終了後、すぐに発表されるとのことで、合格した場合は明日にでも寮での暮らしが始まる。
簡単な荷造りを進めていると、扉から『コンコン』とノック音がした。
「ムゲンよ。入ってもいいか?」
「ああ、いいよ」
ジャージ姿の祖父が部屋に入ってきた。手には黒いローブを持っている。
「お前にこれをやる」
祖父がローブを渡してきた。かなり年季が入っている。
「これは?」
「昔、ワシが使っていたものだ。ワシからの餞別だ……そして」
祖父が俺の額に手をかざす。何やら不思議な感覚が起こる。体内の魔力が湧き出るような感覚。
頭の中には男性二人が大きなハチと対峙している記憶が浮かんできた。
祖父は振り返ると「それじゃ、おやすみ」と告げ、部屋から出て行こうとした。
何だ今の記憶は。何故だがとても悲しくなってきた。今すぐこの場で泣き出したいとすら思った。
「じいさん、今何をしたんだ?」
「お前にワシの魔法を授けてやった。今はまだ使えん……だが、来たるべき時が来たら使えるようになるだろう」
祖父はそう言い残すと部屋から出て行った。祖父の言葉が少し気になったが、明
日に備えて寝ることにした。
次の日の朝。朝食を食べた後、祖父の転移魔法で魔法学校のある街へと向かった。
「それじゃ、ムゲン。試験頑張れよ!」
「うん!」
祖父と別れ、魔法学校へと向かうことにした。街の中心部ではたくさんの人で賑わっているのを見かけた。
「街に来るのも久々だな」
魔法街『バキア』――この街ではありとあらゆる種族が集い、経済、軍事に魔法が普遍的に扱われている。
ふと見上げると、丘の上にそびえ立つ白く高いお城が目に入った。
その城は『バキア城』と呼ばれるお城で、そこでは凄腕の魔法使いや騎士が在中している。
冒険者として名を上げれば王国軍の一員として働けるらしいが、冒険者を目指さない俺には縁の無い話だ。
「ようやく着いた……」
俺は試験会場である『バキア魔法学校』の校門の前で立ち止まった。ゾロゾロと他の入学希望者が校門を通り抜けていく。
古めかしい木造建ての校舎はこじんまりとしているが、どこか伝統を感じさせるような威厳がある。
受付を済ませ、筆記試験会場である講義室へと入る。筆記試験では魔法に関する問題やこの街に関する問題が出題される。
「では、試験開始!」
試験監督が筆記試験の開始を告げる。俺は筆を持ち、問題を解き始める。出題される内容は基本的なものばかりでとても簡単であった。
筆記試験は合格にはそれほど関与せず、重要なのは次に行われる実技試験である。
スラスラと問題を解いていき、最後の設問を迎える。
Q. 魔法を使って叶えたい夢や目標はありますか?
随分と変わった問題だなと思った。何と記入すべきだろうか。
明確にやりたいことなんて特に決まっていない。しょうがない。とりあえず、『この街の発展に貢献したい』とでも記入しとくか。
実技試験の会場であるグランドでは実技試験監督と思われる桃色の髪をした二十代前半くらいの女性が待っていた。
手には木の杖を持っており、黒を基調としたドレスを着用している。
女性の実技試験監督は「お前らー早くここに集合しろー」とハスキーな声で叫び、俺達を誘導した。
「よし、全員いるな。それじゃ、実技試験について説明する」
試験監督の手前には白線が引かれており、白線の二十メートル先には弓道で使われるような的が置かれている。
これは見て、実技試験がどんな内容なのかは大体察しが付いた。
「順番にこの線の前に立ち、基本魔法であるウォーターボールやファイアボールなどをあの的に向かって放て。射撃回数は三回までだ。どんな魔法を使うかは各自の判断に任せる。それじゃ、実技試験開始!」
入学希望者は次々と的を狙って基本魔法を放っていく。傾向として、三回とも同じ基本魔法を放つ者が多い。
そんな中、気になる者を目にした。
その者は長い赤毛をした少女で、他の者とは一線を画す研ぎ澄まされた魔力を感じる。
歳は俺と同じくらいだろうか。
少女は慣れた手つきで魔法を放つ。
「ファイアボール、エレキボール、アイスボール」
火、雷、氷の玉を連続で放った。杖から放たれた魔法は一寸の狂いもなく全て的の中心に命中した。
試験監督は感心したような少女を見つめる。
「ほう……お前、中々やるな。シャーリア=アルフレッドだったか。お前は合格になるだろう。入学楽しみにしてるぞ」
「光栄です」
この時点でもう合格の知らせを告げるとは驚きだ。だが、あれくらいなら俺でもできる。
しばらくすると俺の番がやってきた。試験監督が俺に杖を差し出す。
「すみません。杖を使わないで魔法を使ってもいいですか?」
「ああ、別に構わんぞ」
基本的に杖を使う方が安定した魔法を繰り出せると言われているが、いつもは杖を使っていないためこの方がやりやすいと感じるのである。
「ファイアボール、ウォーターボール、ストーンボール」
基本魔法を三連続で放つ。全て的の中心に命中させた。基本魔法を極めることが魔法上達の近道というのが祖父の教えである。
こと基本魔法に関しては、俺は祖父からかなり鍛えられた。
「ほう……ムゲン=アベイル。お前、中々見所があるな」
「それは買い被りすぎですよ」
軽くお辞儀し、試験監督から離れた。
そうだ。俺には両親や祖父ほどの才能はない。自分なりに努力はしてみたが、上位魔法を覚えることはできなかった。
今の時点では他の入学希望者よりかは魔法が使えるだろうが、いずれ才能の限界を実感する時が来るだろう。
まぁとにかく、これで合格は確実だろう。
「貴殿、かなりの手練れであると存じる」
突然、横から蒼い髪をしたポニーテールの少女に話しかけられた。
「えっと、その……」
なまじ祖父以外の人物と話す機会があまりない為、思わず言葉を詰まらせる。
「おっと、申し遅れた。小生の名前はヤヨイ=テンマという。以後、お見知りおきを」
少女は深々と頭を下げてきた。何なんだこの変わった話し方をする少女は……
「あ、あぁ……どうも」
俺はヤヨイという少女に軽く会釈した。ヤヨイの服装は絹でできた白い和服のような着物であった。そして、彼女の腰には刀が携わられている。
「貴殿、名は確かムゲン=アベイルであったか? 先ほどの魔法、実に見事であった。出来れば貴殿と少し話がしたく……」
「おい! ヤヨイ=テンマ。次はお前の番だぞ」
試験監督がヤヨイの名前を呼んだ。ヤヨイは「南無三!」と叫び、慌てて白線の前に立つ。
「試験監督殿、一つお尋ねしたいことが」
「なんだ?」
「あの的に当てさえすれば、魔法の種類は問わないのだろうか? その、基本魔法というものでなくてもよかろうか」
「ああ、魔法なら何でもOKだ。基本魔法で無くても構わん」
「御意。では……」
ヤヨイが帯刀している刀を抜く。まさか刀を使った遠距離魔法でも使うのか?
「そんな魔法見たことないぞ……」
思わずそんな独り言が口から出ていた。俺が知っているのは刀を強化させたり、刀に炎や雷などの属性を纏わせたりするものなどだ。
俺だけではなく、他の入学希望者も彼女に注目している。
「ハァ!」
ヤヨイの叫び声が耳に響く。的はなんと上下真っ二つに切り裂かれていた。
「す、すごい……」
試験用に使われているあの的には防御魔法が掛けられており、生半可な魔法では傷つけることができるものではないはずである。
「試験監督殿。面目ない。あの的を斬ってしまった」
「こいつは驚いたな。まー、お前は合格になるだろうから終わりで良いぞ」
「承知いたした」
「お前ら、ここで待っててくれ。ちょっくら新しい的を持ってくる」
試験監督はグランドから離れた。実技試験を済ませたヤヨイが再び俺の元に近づいてきた。
「ムゲン殿。どうやら小生、合格になるらしい」
「そうみたいだな。おめでとう。それにしても変わった魔法だね」
「さっきのは父上から教わった魔法剣術の一つ。しかし、ムゲン殿の魔法もあっぱれであった。ムゲン殿は誰かから指導を?」
「ああ。祖父から。元冒険者なんだ。うちの祖父は」
「そうであったか。小生も冒険者を志している。ムゲン殿もであろう?」
「いや、俺は……」
「なーに、二人で楽しそうに話しているの?」
急に赤毛の少女が会話に割って入ってきた。この少女は……
「初めまして! 私はシャーリア=アルフレッド。二人ともよろしくね!」
さっき俺と同じく、的の中心に魔法を三回連続で当てた少女だ。
「こちらこそよろしく申す。小生はヤヨイ=テンマ。東の国『ジャポニ』からやってきた」
ジャポニか。祖父から少し話を聞いたことがある。
ジャポニでは『侍』が国の警護に当たっており、魔法と剣術を緒りまぜた独自の剣術を扱うと言っていた。
ジャポニは俺が元いた世界である日本と似ているが、文明レベルはおそらく江戸時代くらいだろう。
「そうなんだ! 私は生まれも育ちもこの街だよ。ムゲンくんは?」
「俺は小さい頃からオアバ山に住んでいた」
「へー、オアバ山に。あそこ、モンスター多いでしょ?」
シャーリアの言う通り、オアバ山はたくさんのモンスターが生息している。
このバキアの街から三十キロ以上離れているが、祖父の転移魔法でによって瞬で到着する為、移動には不自由しない。
「まぁ。けど祖父と住んでいたからそんなに危ない目に遭ったことはないよ」
「そうなんだ。ムゲンくんのおじいさん、冒険者なの?」
「ああ。元だけどな」
「小生、是非ともムゲン殿の祖父と一度お手合わせしてみたいと存じる」
「いや……ヤヨイ。じいさ……祖父はもう冒険者を引退してるんだ。戦うのはよしてくれ」
「そうか。では、小生お二人と戦ってみたい」
こいつ……戦闘狂なのだろうか。
「ヤヨイちゃん。いい? 私達が戦うのは人じゃないわ。モンスターよ」
戦うのは人ではなくモンスターか。もっとも俺の場合は卒業試験以外でモンスターと戦うことはないだろう。
「ふむ……確かにシャーリアの言う通りであるな。だが小生は……」
すると、試験監督が『パン』と手を叩いた。俺達は試験監督の方に視線を移す。
「お前らー、早く次の試験場所へ映れ。次の試験会場は保健室だ」
試験監督が次の試験会場への移動を促す。
「二人とも行きましょうか」
「ああ」「うむ」