最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
店の中に足を踏み入れたが、店内は薄暗く、他のお客さんどころか店員らしき人も見当たらない。
「誰もいないのか?」
とりあえず、販売品を見てみることにした。
古そうな壺や皿などが置いてあり、到底魔道具作りに立ちそうもないが、店内をよく見渡すと、魔道具作りに使えそうな鉱物も置いてある。
販売品を眺めているとカウンターの奥から『タタタタッ』という足音が聞こえてきた。
「すみませーん! って、あたー!」
「だ、大丈夫ですか?」
店内でコケてしまった人に手を差し出すと、その人は俺の手を掴み、ゆっくりと立ち上がる。
長い緑色の髪の二十歳前後の女性は床に落ちた眼鏡を掛けなおす。
「いててて……ありがとうございます」
女性は起き上がると背中を摩った。抜けてそうな女性の印象を見て、恐らくは店員の
一人なのだろうと予想した。
彼女の身長は低いが一方で別のものがかなり大きい。何がとは言わないが。
「店長のモリア=チノハと言います。来店していたのにすみませんでした」
この人が店長なのか。モリアさんという女性は心底申し訳なさそうに深々と頭を下げてきた。
「いえ……あの、ちょっとお聞きしたいんですが、こちらの鉱石って何という名前なんですか?」
近くにある白い石を手に持ち、名前を訊く。
「あー、えっとこちらの鉱石はですね……ランカン石と言いまして、マグマが冷えて固まったものなんですよ!」
モリアさんが早口で鉱石の説明を始める。
「なるほど……これで魔道具を作れたりしますか?」
「はい、できますよ。このランカン石には微量ですが、魔力が秘められています。これで爆弾を作ることができますよ。上手くいけば上位魔法に匹敵する威力の爆弾を。すごいでしょう?」
「そうなんですか。いいですね、それ。他の鉱石についても教えてもらってもいいですか?」
「勿論です!」
俺はモリアさんから鉱物について、色々と教えてもらった。モリアさんは鉱物に関して、かなりの知識を有していた。
「モリアさん、ものすごく鉱物にお詳しいですね」
「いえいえ、そんな。大したことありませんよ。お客様は魔道具を作るのお好きなんですか?」
「そうですね。最近、自分でも作り始めました」
「そうなんですか。まだ、かなりお若いですよね。学生さんですか?」
「はい。この近くの学校に通っています」
「この近くの学校……もしかして、バキア魔法学校の生徒さんですか?」
「はい。そうです」
「私、あそこの学校の卒業生なんですよ!」
モリアさんはバキア魔法学校の卒業生であることを告げる。
見た目的にオリモカ先生と同じくらいの歳に見えるが、もしかしたら同期かもしれないな。
「そうなんですか。奇遇ですね。オリモカ先生って知ってますか?」
「オリモカ先生ですか? はい、知っていますよ。私も先生から教わったんですよ!」
「……そ、そうですか」
どうやらオリモカ先生はモリアさんと同期ではなく、モリアさんが生徒の時から教師をしていたらしい。
一体幾つなんだろうか、あの人。
「お客様は卒業したら魔道具を作るようなお仕事に就く予定ですか?」
すると、モリアさんは俺の手を力強く握りしめてきた。
「応援しています! もしも良かったらうちで働きませんか? うちでは魔道具の販売も行なっているんですよ!」
すごいぐいぐい来るなこの人……だが、悪い話では無いかもしれない。
見た限りあまりお客さんも少なそうだし、忙しくはなさそうである。
その分、あまり給料の方は期待できないかもしれないが。
「は! すみません。私ったら……」
「いえ、その……考えておきます」
「本当ですか!? ありがとうございます。あの…もしよかったらお名前を聞いておいてもよろしいですか?」
「はい。ムゲン=アベイルと言います」
「アベイル……もしかして、ナハラ=アベイルさんのお孫さんですか?」
「はい、そうです」
「まさかナハラさんのご家族と会えるだなんて感激です! 私、ナハラさんんに憧れて母魔法学校に入学したんです」
「それじゃ、以前は冒険者を?」
正直なところ、モリアさんがそこまでのアギを秘めているようには思えなかった。おそらく、アギの量は俺よりも少ないだろう。
「いえ……在学中に才能がないと自覚して諦めました。自分に何が出来るだろうって考えた時にこんなお店を開きたいなって思って始めたんです」
なるほど、この人もある意味俺と同じか。
「そうなんですか。素敵なお店だと思います」
「ありがとうござます! さっき、説明した鉱物。ムゲンさんに差し上げます」
「そんな! 悪いですよ」
「いいんです。この鉱物、買ってくれる人もいないですし」
「それじゃ、お言葉に甘えて……あ、そうだ。このお店に刀って置いてありますか?」
本来であれば武器屋で購入するつもりであったが、ここに置いてあるのなら購入しようと考えた。
「ありますよ。ちょっと待っててください」
モリアさんは刀を取りに店の奥へと向かった。モリアさんはすぐに戻ってきたが、彼女が手に持っているのはやけに年季の入った刀である。
「これがこのお店に置いてある唯一の刀です。どうぞ、手に取ってみてください」
俺は店長から刀を受け取った。その刀はずっしりとした重量感があり、どことなく禍々しい雰囲気を醸し出している。
「なんていう、かその……不思議な感じがする刀ですね」
試しに鞘から刀を抜こうとした。
「あ、気をつけてください!」
「え?」
「この刀はですね、鞘を抜いた人を呪うという言い伝えがあるんですよ」
モリアさんからとんでもない話を聞かされ、思わず刀を床に落としてしまった。落とした衝撃で床から『ドン』という鈍い音が鳴る。
「な、なんてものを渡すんですか! やばい、触っちゃった……」
幾ら何でも呪いの刀を勧めるなんてあんまりだろう。アンビリーバボーである。
「いや、その……聞いて欲しいんです。まず、この刀は『ムラマサ』と言いまして」
「む、ムラマサ!?」
俺でも聞いたことのある刀であった。確か、妖刀の一種だったはずだ。
「もしかして、知ってるんですか?」
「詳しくは知りませんが、確か妖刀ですよね?」
「その通りです。この刀はジャポニで造られた刀で『絶殺の剣』とも呼ばれていました。言い伝えでは、この刀はどんなものも斬り殺せると言われています。それこそ、不死の生物をも切り殺せると」
「不死の生物……ですか?」
漫画や小説などの創作物でよく見るが、ここが魔法の世界とは言え、いくらなんでも不死など実在するのだろうか。
この世界において、俺は魔法や生き物に関する本をいくつか読んでみたが、不死の生物に関する記述を目にすることはなかった。
「あくまでも言い伝え……ですけどね。人魚って知ってます?」
人魚って確かあれだな。最後、泡になって消えてしまうという話だったはずだ。
「魚類と人間のハーフみたいな生き物ですよね?」
「その通りです。人魚はジャポニに棲息すると言われている伝説の生き物です。不死の肉体を宿しており、その肉を喰らった生き物もまた不死の力を身に宿すと言われています」
それは知らなかった。人魚って不死なのか。もっとも、俺のいた世界の人魚の言い伝えとは微妙に違うのかもしれないが。
「それじゃ、このムラマサは人魚や人魚の喰らった生き物も殺すことができる刀……という訳なんですね?」
「そうです。あくまで言い伝えなんですが。鞘を抜いたものは刀の代償として寿命を減らすと言われています」
「寿命を減らす……具体的にはいくら減るんですか?」
「それは私にも分かりません。ある者は一度鞘を抜いだ直後に命を落とし、またある者は幾度となく鞘を抜き続けても長寿を全うしたと言われています。もしかしたら呪いなんてないのかもしれません。どうです? 興味があれば使ってみますか?」
考えるまでもない。確かに言い伝えに過ぎないのかもしれないが使う気にはなれなかった。言ってみれば事故物件かも知れない部屋に自ら進んで住むようなものだろう。
「悪いですが……俺には使うことができません。呪いが単なる言い伝えかもしれないといっても、やっぱり不気味ですよ」
「そう……ですよね。すみません。物騒なものを勧めてしまって。ただ、この刀も誰かに使って欲しいんじゃないかと思いまして。私、そういうのがなんとなく分かるんです」
「そ、そうなんですか」
半信半疑で答えるとモリアさんはやや不満そうに眉をひそめた。
「その目……信じてませんね?」
「いいえ! そういう訳じゃ……」
すると、お店の扉が開いた。誰かが入ってきたようである。
「おや……これはムゲン殿でないか?」
お店に入ってきたのはヤヨイであった。
「ヤヨイ、どうしてここに?」
「ぶらりとこの辺りを彷徨っていたら偶然このお店を見つけ入った次第である。雰囲気のいいお店であると思ったであるぞ。ムゲン殿は?」
「俺もまぁ同じ理由だ」
ヤヨイは顎を摩りながら店長が手に持っているムラマサを見つめた。
すると、ヤヨイはプルプルと身体を震わせた。
「店長殿、その刀はもしや……」
「ヤヨイ、その刀を見たことがあるのか? ムラマサっていう妖刀らしいんだが……」
「ムラマサ……」
刀の名前を聞くと、ヤヨイは目を大きく見開き、ポツリと刀の名前を呟く。
「勿論であるぞ。小生、ジャポニからやってきたのでな。店長殿。ぜひともその刀を売って欲しい」
なんと、ヤヨイはムラマサを購入したいと言い出した。
「ヤヨイ、正気か? そいつは寿命を吸い取る呪いの刀って言われてるんだぞ」
俺が助言すると、ヤヨイは顔を上げ、鋭い眼光を向けた。
「ムラマサは呪いの刀などではない! この刀は職人が端正込めて打った素晴らしき一振りであるぞ!」
ヤヨイの熱弁に思わずたじろいだ。
やはり、呪いというのはデマなのか? 少なくともヤヨイは呪いを全くもって信じていないようだ。
「そ、そうか……詳しく知らないのに適当なことを言ってすまなかった」
「……いや、小生も少し熱くなってしまった。すまなかったである」
「ヤヨイさん。こちらのムラマサはお代はいりません」
モリアさんはヤヨイにムラマサを差し出した。ヤヨイはそれをゆっくりと受け取り、刀の重さを確かめる。
「店長殿、よいのか?」
「はい! この刀は誰かに使われたがっています。ヤヨイさんが受け取ってくれるなら嬉しい限りです!」
「かたじけない。では、ありがたく頂戴いたす」
こうしてヤヨイはムラマサを入手した。俺の方も好物を譲り受け、お店を後にすることにした。
「ムゲンさん。ヤヨイさん。またいらしてくださいね!」
「はい」「うむ」
俺とヤヨイは並んで裏通りを歩き始めた。ヤヨイは歩きながら真剣な表情でムラマサを見つめている。
「なぁ、ヤヨイ。人魚の話って知ってるか?」
さっき、モリアさんから聞いた人魚の話についてヤヨイに尋ねる。
「……うむ。その肉を喰らわば不死の力が宿るという生き物であるな」
「モリアさんが言ってったんだ。人魚はジャポニ棲息してるって。実際にジャポニにいるのか?」
「まさか。ただの言い伝えであろう」
「そっか。そうだよな」
やはり、不老不死というのは言い伝えだったようだ。もしも、本当にいるというのなら実際にこの目で見てみたいものでる。
そろそろ集合時間が差し迫っていた為、集合場所へと向かうことにした。